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12の祀り~前編~

作者: 蒼月凍牙

大きな鳥居があり、その後ろには山がそびえ、大きな階段がある。

その上には池があり、それをまたぐ橋の先に神社はある。

賽銭を投げ入れ、祈る。

そこには若い青年が立っている。

少し寂しげで悲しげな彼は、いつもここには来てはいけないと言っていた。


それでも私は毎日通った。

賽銭を入れた後、彼と少しだけ話す時間が好きだったから。

ある日、祈った後に足下に少し薄汚れた円形のものが落ちているのに気づき、拾い上げた。

青年は、それをすぐに手放すように言った。

でも手遅れだった、その円形のもの――鏡を覗いた途端、辺りの風景が変わってしまった


古びて、いまにも崩れそうな神社の中に私はいた。

あわてて外に出た、辺りは一面古びた家屋、所々壊れた橋、苔の浸食がすすむ鳥居に囲まれていた。

これがここの本当の姿だった。

青年が背後に立ち、悲しそうに笑んだ。

遙か昔にここは呪われてしまったのだと。


彼は言った。

この呪いを解こうとして、この地に取り込まれてしまったのだと。

私はどうしたら助けられるかと聞いた。

無理だ。と彼は答えた。そして

早くここから去るんだと瞳を閉じてうなだれた。

私は


私は、それから、どうしたんだろう?


彼は、その言葉を待っていたと言った

急にわき腹に熱が灯って、私は倒れ込んだ。

彼に、刺されたと気づいたのは自分の血で頬が濡れてからだった。


これで儀式を行うことが出来る。


そう言って彼が去っていくのを、血と黒に沈んでいった私は感じて意識を失った。


目が覚めたとき、私は立っていた。


そこは賽銭箱の前


それも、御神体のある側だ。顔をあげた先には池にかかる橋がみえる。

美しい光景だった。すべてはここを訪れた日に戻っていた。


全部夢だったのかと思った。でも違う、私が着ているのは巫女服だ。

今度は私が呪いに囚われたのだと、その時理解した。


そしてあの彼は自由になった。


それから幾日が過ぎただろうか。

動けるのはこの山頂内、鳥居の前までだ。

ぼうっと橋の上で池をみつめた。


変わらぬ巫女姿の自分がいる。

あの彼もこうして過ごしていたのだろうか。


誰かが代わりに訪れ、助けることは出来ないかと言われるのを待ち。


不思議と憎む気持ちは無かった。

私の望みは叶っていた、助けることはできたのだから。

そう思った時だ、何かたくさんの足音が近づいてくる事に気づいた。


私は橋の中央に立ち、それを待った。


参道から鳥居を越え、二人の子供が最初に鳥居を越えた。

和服姿の二人、手には貢ぎ物のようなものを掲げている。


その後ろに続いた二人に驚いた。

あの彼だ。隣には顔を隠した花嫁の姿。

二人とも仰々しい和服姿で静かに歩いてくる。


その後ろにもそれを祝う者逹なのか、人々が並び続いて入ってくる。

私は橋から後ずさるように離れ、その横手に立った。

一同は静かに目の前を通り過ぎ、お堂の中へと入っていく。

あの彼は前を見据え、こちらに視線を返すことはなく、そのまま通り過ぎていった。


いったい何が起きているのだろうか。


お堂の中に人が揃うと、何かの詠のような物が聞こえてくる。

これから結婚式が執り行われるのか?と思った。


だが、それとも様子が違うようだ。


私は自然とある場所に足を向けた。

そこには花壇があちらこちらにあり、多種多様の花が咲いていた。


その一つを手折って持ち上げた、白い花だ。

そしてそれを大事に胸元に持ち、お堂へと向かった。


人々が道をあけ、主役であろう二人までの道を作る。

私はその道をゆっくりと歩いていく。


彼はそこでやっと私を見た。


そして彼の元にたどり着き、私は花を渡した。


12織の祀りの始まりだよ。と彼は言った。


その瞬間に辺りの景色が溶けて消えた。


私はまた黒い世界にいた。

眠ったのだろうか。

何も感じない。

彼の言った事の意味は?

なにもかも判らなかった。

だけど、一つの祀りが始まり、そして一つ目の祀り終わったのだと感じた。



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