1.1人のプロローグ
「結婚してあげてもいいわ」
王子が嬉しそうに立ち上がる。
ーー私ってばおとぎ話のお姫様みたい!
そんな事を思ったのにーー
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私ソフィアはボークラーク家の次女として産まれた。長い赤みがかった髪は、我ながら可憐だと思う。
幼少期に何故か王子に気に入られたお陰で出会いもなかった。
女王様の『ソフィアが乗り気でないのに一方的に決めてしまうのは』という声で婚約を強制される事はなかったけれど、王子が好いている相手に声を掛ける猛者などこの国には存在しなかった。
半ば諦めた気持ちで義務の様になったデートを重ねていたけれど、ある時期からウィリアムの振舞いがスマートになった。
『急にどうして?』と疑問を抱く気持ちも無かったけれど、『やっと好きになれるかも!』と舞い上がってちゃんと見えていなかった。
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「あなたウィリアム様じゃないでしょう」
「だってちっとも気が利かない!」
違うよ、って言って欲しかった。騙すなら最後まで騙し切って欲しかった。
カマをかけたつもりだったのに予想外の反応にこちらが動揺する。
よくよく問いただすと、影武者に私を『振り向かせて欲しい』とお願いしていたらしい。
ーーやっと好きになれたと思ったのにこんな仕打ちってないわよ!
だいたい影武者って何?
バレないのも意味がわからないし
なんなの、王室もグルってこと?私嵌められたの?
ぐるぐるする、吐きそうだ。
黙り込む私に、目の前の自称本物のウィリアム様が狼狽えている。
だんだん腹が立って来て言い放つ。
「この婚約無かったことにしましょう」