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亡国の王子の人生譚  作者: ayataka
9/13

9.この気持ちは

この話で一区切りです。まだストックもありますので、推敲して投稿させていただきます。

 目が覚めると、知らない天井だった。お腹に少し重量を感じる。上半身を起こすと、赤い髪が布団に倒れ込んでいる。

「……メルリア?」

おそるおそる呼びかけてみると、ぴくりと頭が動いて持ち上がった。少し眠たげな蒼と紅との瞳と目が合った。瞬間その目が大きく見開かれる。

「ジェイドくん、おはようございます!」

メルリアから元気な声が放たれた。

「おはよう。色々聞きたいことがあるんだけど」

「それより前に言うことはないですか?勝手に魔の森に入って、死にそうになって!どれだけ心配したと思ってるんですか!」

「心配させて本当にごめん」

「謝ってすむ問題だと思うんですか!」

頭をはたかれた。

「なんで言わせた!?」

「いやなんか妙に物分り良く謝られたから癪でした」

「ええ……」

すごく理不尽な気がした。

「てか悪魔憑きは!?オールイルは!?月光草は?」

「悪魔憑きは討伐されてレイナちゃんは元気ピンピンです。月光草は無事に届けましたよ」

「解答はや」

「聞かれると思ってましたから」

こちらの考えはお見通しだったようだ。

「ジェイド君も目を覚ましたことですし、ガルドを呼んできますね。覚悟しといてください」

ーー会いたくねえ……

魔の森に入るために勝手に名前を使ってこの有様だ。怒られることは目に見えている。自分がまいた種とはいえ、気が重いことに変わりはない。

 ドキドキしながら待っていると、勢いよくドアが開いてガルドとその後にメルリアが続いて入ってきた。

「……久しいな」

「そうだね」

 静かなのが逆に怖い。

「……傷は大丈夫か」

「うん」

「それはよかった。話はレイナから聞いた」

そう言って頭にポンと手を乗せて

「勇敢だったぞ。だが二度とやるな」

そう褒められた。

「え、えっと……」

まさか褒められると思っていなかったので動揺してしまう。

「お前の親として、お前が誇らしい」

そう言ってくしゃくしゃと頭を撫でられる。されるがままになるが、ストレートに褒められると逆に恥ずかしい。

「あ、ありがとう」

「と、父としての話はこれまでだ。ここからは王として話させてもらうぞ。今回の件、何かおかしなことは無かったか」

「……?特にないけど」

考えたが、特に変なことは無かった。

「そうか。それともう一つ。オールイル・レイナの処遇についてだが」

「今回の件はオールイルは関係ない。俺が勝手にやったことだ!」

「分かっている」

真剣なジェイドの様子にガルドはふっと笑う。

「今回の件は、ジェイド、お前の独断の行動だ。そしてその結果、お前は勇敢にも我が国の驚異となる悪魔憑きをレイナと共に討伐した。どうだ、中々いいシナリオではないか?なあメルリア」

「悪魔憑きの討伐をしたとなると、ジェイド君もレイナちゃんも素晴らしい功績ですね。王の名を騙り、魔の森に侵入した事も不問になるくらいは」

「というわけで、私からの話は以上だ」

「よかったですね。叱られずに済んで」

メルリアはニコニコと笑いながら言う。

「私とていつも怒りたいわけではないのだが」

まるでいつも叱っているようではないか、とガルドが不満げに言う。

「あ、そうだ。レイナちゃんが心配していましたよ。早く言ってあげたらどうですか?」

「そういうことは早く言ってくれよ!」

こうしては居られない。ベットから起き上がると少しよろけるが、立ち上がることはできた。

「一応、生死を彷徨う怪我だったから激しい運動はしちゃダメですよ」

「え、そうなのか!?分かった、気をつける」

そう言うとジェイドは、ドアに向かって歩き部屋を出ていった。パタンという音の後に足音が遠ざかっていった。

「メルリア、今回の件についてどう思う?」

ガルドが問いかけると

「明らかに人為的なものでしょうね。魔の森が封鎖されていたのに関わらず、悪魔憑きの契約相手となる人が侵入していたのですから」

「だろうな。今回の件、首謀者の目的はなんだと思う」

「……分かりません。悪魔憑きを誕生させたとして、魔の森は封鎖され人が出入り出来ないですし、どこにも被害は及ばないはず」

「ジェイドが記憶を戻した可能性は?」

「それもありません。彼の記憶部分は何者かによって破壊されています。 絶対に戻ることありません」

「ジェイドの落下事件と記憶破壊、暗殺未遂、そして今回の悪魔憑き。敵の目的は一体なんだ」

「分かりません。ですが一つだけ、これらは明らかに内部の犯行です」

「……裏切り者がいるか」

信じたくはないが、確定だろう。

「これから起きる第二次魔物侵攻に合わせて、敵は動くでしょうね」

「悩みの種が増えるな」

「そう言いつつも意外に大丈夫そうですね【英雄】ガルド」

「ヴェルムンドラと魔物侵攻が同時に来たときに比べたら、まだ余裕だ。騎士アルデ、それに【全治】メルリアもいるしな」

「その二つ名は恥ずかしいからやめてください」

「なに、意趣返しだ」


◆◆◆


ジェイドが自分の部屋に戻ると、オールイルが座っていた。こちらをみるなり立ち上がり、こちらに駆け寄ってきた。

「アグラニル様……よかった……ご無事で」

彼女は泣きそうな顔をしてこちらをみてくる。

「おう。オールイルこそ、大丈夫か?」

「私は大丈夫です」

「なら、よかった」

「よくありません!」

そう言うとオールイルはジェイドに寄りかかる。突然の重みに耐えられなくなった彼は後ろに倒れ尻もちをついた。その上にオールイルが膝を立てたまま前のめる。

「なんで、最後の最後であんなことをしたんですか!」

ジェイドの服の袖を掴む彼女の指に力が入る。

「なんでって……オールイルを死なせたく無かったから……」

「自分が死んだら元も子もないでしょう!」

「……確かに」

ぐうの音も出ない。

「けどよかった、オールイルが元気でいてくれて。俺も無事だったし」

「私がいいたいのはそういう事じゃなくて!」

感情のあまり敬語が外れたようだ。

「なんで、逃げなかったの?」

そう言って、彼女は至近距離でじっとジェイドを見つめる。風に揺られる銀髪は絹のように艶やかで、吸い込まれそうな碧眼が彼を捉えた。

「……君を置いて逃げるって選択肢がなかった」

「……なんですかその理由は」

「いや、君みたいに可愛い人を置いていけないし」

「なにそれ!理由になってない!」

彼女の色素の薄い顔にほんのりと赤みがさす。

「…………」

「なんですか?」

彼女の顔に見惚れていると、オールイルは不審そうな顔でこちらを見る。

ーー何か話さないと。

「ええっと、この体制はきついかな」

「……っ!」

自分の体勢に気づいたのか、彼女はパッと離れる。

「……すいません。出過ぎた真似を」

冷静そうに言うが、彼女の顔はまだ赤いままだった。

「いや全然。なんかオールイル、いつもと違って新鮮だった」

「忘れてください」

さらに彼女の顔は赤くなる。

「いつもそんな感じでいいのに」

意識せず、ポロッと言葉が出た。

「……どういう意味ですか」

その言葉を彼女は聞き逃さなかったらしい。

「いや、なんかオールイル、俺の前で気持ちとか抑えてたり遠慮してたように感じてたからさ、それくらい感情を出してくれた方が安心するかなーって」

「…………」

「いや、別に前が良くなかったわけじゃなくて!俺としてはさっきくらい気持ちを伝えてくれたら安心する気がする」

無言のオールイルにまくし立てる。話しているうちに自分でも意味が分からなくなってきた。

 部屋に沈黙が流れる。

ーーやばい、迷惑だったかな。

そう思い彼女をちらりと見るが、顔は伏せられていて表情は伺えない。

「……アグラニル様がそう言うなら」

ポツリと彼女はそういった。

「え、いいの?」

「言い出したのはそっちじゃないですか!」

「まあ、そうだけど。あ、敬語もいらない、同い年だし」

どさくさに紛れて敬語も無くさせる作戦だ。

「王子が言う台詞には思えませんね」

「呼び方もジェイドでいいし、様もいらないや」

どさくさに紛れて名前呼びにさせようとする。

「ジェイドでいいんですか?」

「敬語!」

「ごめん……ジェイドでいいの?」

「うん」

ジェイド、と彼女は小さくリピートする。

「うん、アグラニル様より、ジェイドの方が呼びやすい」

「それはよかった。ところでオールイル……」

「レイナでいいよ。ジェイド以外みんなレイナって呼んでるし」

「それは薄々分かってた。最初の頃めっちゃ他人行儀だったもんな」

「うっ……それはごめん」

「いやいいよ。てか俺の護衛をずっとやってて嫌じゃなかったか?」

「うーん。最初は嫌だったけど。今は嫌じゃない。ジェイドとロセオするのも楽しいし」

「レイナ負けると不機嫌になるから怖かったよ」

「だって悔しいし」

そう言ってレイナは口を尖らす。その仕草も彼女がやると様になっていた。

「というわけでだ。これからも末永くよろしく頼む」

「末永く……何その言い回し」

口に右手を当ててレイナはクスッと笑う。

「ジェイド、こちらこそよろしくね」

そう言ってレイナは微かに微笑みジェイドを見た。その笑顔をみてジェイドの胸は高鳴り、否応なしにも自分の気持ちを自覚させられる。

ーーレイナの事を好きだということに。


◆◆◆


 夜、いつもの如く床で寝ようとすると

「怪我人が下で寝ちゃダメ。ベッドで寝なよ。私が下で寝るからさ」

そう言って止められた。

「いや、怪我も治ってるし大丈夫」

「そもそもここはジェイドの部屋なんだし、今まで私がずっとベッド使ってたからたまには床で寝るよ」

「いやいや、女性を下で寝させて俺だけベッドで寝るのは罪悪感が……」

お互い一歩も譲らないやり取りが続く。途中から譲り合いというより意地の張り合いになっていた。

「いやいや俺は」

「いや、私が」

状況が動いたのは、ジェイドやけくそ気味に放った一言だった。

「もう二人ともベッドでいいんじゃないか!」

言った後でしまったと思うがもう遅い。おそるおそるレイナの方を伺うと、少し顔を赤くしながら

「ジェイドがいいなら……いいよ」

「俺もレイナがいいなら……」

かくして、二人で寝ることとなったのだった。

「では、レイナさん失礼します」

「……うん。分かってると思うけど変な事したら叩き斬るから」

「護衛なのに?」

「ばかっ!」

「ちょっとしたジョークだよ」

レイナは軽くジェイドを叩く。冗談をいいつつもジェイドの心臓はバックバクだった。

「じゃあ、電気消すね」

「ああ」

 辺りが闇に覆われる。窓から射し込む月の光が僅かな光源となっている。そんな中ジェイドとレイナはお互いに背中を向けて寝ていた。夜だからこそ、何も音がしない。辺りは静寂に包まれている。

ーー寝れねええええええ!

 心臓の鼓動は収まるどころか、むしろ増している。好きな人が目の前で寝ているのだ。眠れるわけがない。何とか心を落ち着かせようと羊を数えてみたり、魔法のイメージトレーニングをしてみる。どのくらいの時間が経ったか分からないが、ようやく心が少し落ち着いてきた。

ーーよし、ようやく寝れそうだ。

そう思い、心を無にしようとすると。

「起きてる?」

「!?」

「……寝てるか」

咄嗟に声を掛けられて返答できなかっただけなのだが、どうやら寝ていると勘違いされたらしい。今更時間差で言う訳にも行かず黙っていると

「ありがとう」

誰ともなく、レイナはポツリと呟いた。

「ジェイドは、なんでそんなに強いの。私よりずっと。私は、強くなれない私が嫌い」

そんなことない。とジェイドは心の中で叫ぶ。

ーーだってレイナは悪魔憑きを相手に耐え続けたじゃないか。

「ジェイドは、私より弱いのに諦めなかった。私は強くなれなかっただけで全てを諦めたのに。けど私ももう諦めない私が君を守るから、もう無茶はしないでね」

そう言うと、背中に柔らかい感触が当たった。同時に背中に彼女の吐息が当たる。

 突然のことにジェイドの頭はフリーズする。何が起きているのか分からないが、とりあえずいま起きている事がバレたらやばいと言うことは分かっていた。動くことも出来ないまま、永遠とも思える時間。どのくらいが経っただろうか、背中から柔らかい感触が離れると

「おやすみ」

そう言って静寂が訪れた。

ーー寝れねえええ!

それから悶々としていたが、一時間後には静かに規則正しい寝息を立てる二人の姿があった。


◆◆◆


 寝ようと思ったが、寝れない。どのくらいの時間が経ったのか分からない。レイナは先ほどから言おうとも思って、やっぱりやめてを繰り返していた。

「起きてる?」

 やっとのことで言葉を絞り出すが、返事はない。

「……寝てるか」

当たり前だ。消灯してからかなりの時間が経っている。

ーー逆になにを言ってもいいのではないか。そう思った彼女は今のうちにと自分の正直な思いを告げることにした。

「ありがとう」

「ジェイドは強いね。私よりもずっと。私は、強くなれない私が嫌い」

全てを投げ出したあの時から、自分の時間は止まったままだった。だけど彼をみて私はーー

「ジェイドは、私より弱いのに諦めなかった。私は強くなれなかっただけで全てを諦めたのに。けど、私ももう諦めない。私が君を守るから、だから、無茶はしないでね」

私の言いたかったこと、伝えたかったことが言えた。それと同時に、彼女は自らの想いに気づく。

ーーそっか、私、ジェイドの事を好きになっちゃったんだ。

諦めかけた時に、自分を守ろうと立ち向かった彼の姿を思い浮かべると、胸が熱くなる。自分を守ろうとしてくれた男の子を好きにならない女の子なんていない。と思う。

ジェイドは寝ていて、今なら気付かれない。レイナは彼に近づくと彼の背中に体を寄せた。彼が起きてしまわないかのドキドキと肌を寄せる恥ずかしさのドキドキがないまぜになって顔が熱くなる。しばらく体を寄せるとドキドキは収まってきて、彼の安心感からか眠くなってきた。このまま彼をギュッとして寝てしまいたいが、朝起きた時に恥ずかしくて死ぬ自信がある。名残惜しいが、彼から離れると

「おやすみ」

聞こえていないだろうが、おやすみの挨拶をしてレイナは眠りについた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

まだまだ話は続きます。

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