7.魔の森へ
次話で一区切りです
もう少しお付き合いただければ幸いです。。
朝、目を覚ますとオールイルは椅子に座って何かを考えるような顔をしている。
「あ、おはようございます」
ジェイドが起きたのに気づき、声をかける。
「おはよう」
着替えて、朝食を取り、て授業の準備を済ませ教室へと向かう。今日は座学なので、教室に着くと椅子にかけてメルリアの到着を待つ。
「おはようございます!みんな揃ってますね〜」
「二人しかいないけどな」
「ジェイド君も調子が良さそうで何よりです!というわけで今日は魔物侵攻について学んでいきましょう」
なにがというわけなのか分からないがメルリアは話を進める。
「魔物侵攻は二七年前に起きた大規模な厄災です。これに合わせて邪龍ヴェルムンドラの侵攻によって人族と魔族はは滅亡の危機に晒されました。そしてその事態を打開するために人族と魔族全ての国は一時協定を結び、各国から精鋭部隊と最強戦力を集め軍を結成しました。その名を聖十字軍と言います。聖十字軍は各国の最高戦力四人と選りすぐりの戦士で構成されていました。その四人の名前は、レイナちゃんにお願いしようかな」
「【勇者】ガルド様、【魔王】ガルダン様、【魔帝】マジュロト様、【全治】メルリア様で、彼らはその功績を称えられ、【四英雄】と言われています」
大仰な二つ名がついているが、それよりジェイドが驚いたのは自分の知っている人物が二人もいるということだ。
「ガルドとメルリアってそんな強いのか……」
今更ながら驚愕する。
「アグラニル様、ご存知なかったのですか?」
オールイルが信じられないといった目でこちらを見てくる。
「いやいや知ってたよ。ただリアクションしといた方がメルリアも喜ぶかなって」
彼女に記憶を失っていることを悟られてはいけないので、苦しい言い訳をする。メルリアに援護をもらおうと目配せをする。
「全くジェイド君はお茶目なんですから」
「お茶目とは関係ない気が……」
「じゃあ話の続きをしますよ」
苦しながらも話を戻す。
その後も魔物侵攻の詳しい話を聞きつつ、時間は流れて行った。
◆◆◆
歴史の授業が終わってお昼になったので、ジェイドはオールイルと一緒に庭園の椅子に腰掛け昼ごはんを食べていた。今日の昼はメルリアが作ってくれたサンドイッチだ。色々な具が入っていてどれも美味しい。作った本人であるメルリアはというと「午後から用事があって、もう行かなきゃいけません」
「大変だな」
「そうですね。それと、お願いがありまして……」
「なんだ?」
「城下町にある【レッドボーン】という薬草屋に注文した薬草を取りに行ってもらえませんか?」
「そんなことか。任せてよ」
「場所はどうでしょう、レイナちゃんは分かりますか?」
「はい。何度か行ったことはあるので」
「なら大丈夫ですね!そのお礼といってはなんですが」
そう言ってメルリアが手を開くと手のひらにバケットが乗っていた。
「今日私が作ったサンドイッチです。お礼にならないかもですが、二人で食べてください。では」
ジェイドにバケットを渡すと、メルリアは直ぐにどこかへ行ってしまった。
ーーと言うわけで今に至る。
「美味しいな」
「美味しいですね」
お互いに話すこともなく黙々とサンドイッチを口に運ぶ。昨日から少し話しずらい雰囲気が残ったままで、ジェイドは何か話題はないかと探しつつサンドイッチを口に運んでいる状態だった。
「メルリアってすごいよな。【英雄】の一人だし料理も上手だし」
「そうですね。しかも、可愛らしいですし」
「本当にな」
相槌が空を彷徨い、風が草木を揺らす音だけになる。
「アグラニル様は、メルリア様のような方が好きなんですか?」
「!?」
オールイルの唐突な問いかけに思わず口のサンドイッチが出そうになった。
「い、いやメルリアの事は好きは好きだけど決して恋愛的な意味ではなくて」
オールイルのような女の子がタイプだ、という勇気はジェイドにはなかった。
「そうですか」
そう言うと、オールイルはサンドイッチに手を伸ばし、食べ始める。本当にただ気になっただけのようで、深い意味はなかったらしい。
改めてオールイルを見るとさらさらとした銀髪に、蒼い瞳、どこか物憂げな表情は儚さを想起させる。サンドイッチを食べる姿はとても様になっていて、見惚れてしまう美しさだった。
「私の顔に何かついてます?」
「い、いやなんにも!」
ジェイドはついつい見とれてしまい、そんな彼をオールイルはは不思議そうな表情で見る。
「変なアグラニル様」
そう言って彼女は少し微笑んだ。その顔にまた見惚れてしまう自分が情けなかった。
◆◆◆
「ここが【レッドボーン】です」
昼ごはんを食べ終わった後、ジェイドとオールイルは【レッドボーン】の前に立っていた。
「じゃあ、入るぞ」
店に入ると、薬草が多く置いてあった。
「いらっしゃい。何をお探しだ?」
カウンターの方をみると、声の主はジェイド達と同じくらいの青年だった。
「メルリアが注文した薬草を代わりに取りに来た」
すると、明らかに青年の目の色が変わった。
「あんたら、メルリア様の知り合いか?」
「まあ、そうだが……」
「お願いがある!君たちにしか頼めないんだ」
「唐突だな。オールイル、どうする?」
「とりあえず話を聞いてみましょう」
「助かる!いま、月光草が市場に出回ってないのは知ってるか?」
「いや、知らないが……」
「君たちにそれを取ってきて欲しいんだ。メルリア様の注文した薬草も月光草だ。君たちに取っても悪い話じゃないだろう?」
「ええと、月光草っていう薬草を取りに行って欲しいってことは分かった。でも別に俺たちが取りに行かなくても君が行けばいいんじゃないか?」
「月光草が取れる魔の森はいま、封鎖されています」
横から口を挟んだのはオールイルだった。
「そうだ。魔の森はいま一般人は入れない状況なんだ。だからこそ、メルリア様の知り合いである君たちなら何とかなるかと思ったんだ。それに片方の女の子は騎士学校の生徒だろう?」
「違います」
ぴしゃりと言い放ったのはオールイルだった。決して大きな声ではないが、強い否定が感じられる。
「それでも、君たちに頼みたい」
青年はなおも食いさがる。
「待ってくれ、確かに手伝いたい気持ちは山々だけど、なんでそんなに月光草が欲しいんだ?」
「……友達が病気なんだ」
「心臓の病ですか……」
オールイルがポツリと呟く。
「どういうこと?」
全く話についていけない。
「月光草の効果は様々ですが、その代表的な効果は食べることで魔力を体内に吸収できることです。少し話は変わりますが、中には心臓に欠陥を持って産まれてくる子がいます。魔力漏洩症と言われる心臓の病気です。私たちが生きるためのエネルギーである魔力は心臓から作られます。そのエネルギーの何割かが体外に漏れ出てしまう病気のことです」
「それって……」
「ええ、生きるためのエネルギーが体外に漏れ出てしまうため、放置していればエネルギーが足りなくなり死にます。それを防ぐためには体外から魔力を取り入れなければ行けません」
「そのための月光草ってことか」
話が繋がった。青年の友達は魔力漏洩症を患っていて、そのために月光草が必要だが、いまは月光草が市場に出回ってないため、代わりに取ってきてくれというわけだ。
「そうなんだ。あんたたちはメルリア様の知り合いなんだろ。なら魔の森も通してくれるはずだろ?頼む!」
そう言って青年は頭を下げてきた。今あったばかりの者に頼むことからも相当切羽詰まっているのが分かる。
「行こう」「行きましょう」
お互いに答えは決まっていた。
「ありがとう!」
◆◆◆
二人で歩いていると、魔の森に着いた。森は外部からの侵入を防ぐためか、左右に鉄格子で封鎖されている。入口には二人の兵士が見張りに立っている。
「あいつらは通してくれるかな」
「多分、通してくれないでしょうね。現在、魔の森はガルド王によって封鎖されています。一般人の立ち入りは不可能でしょう。相当な地位に着いた人物でないと」
「そこで、俺の肩書きの出番ってわけか」
あまり王子という肩書きは好きではないが、活用しない手はない。ジェイドは堂々と二人の兵士の前に進み出ると
「アグラニル・ジェイドだ。王の命により、こちらを調査しにきた」
「ジ、ジェイド様!それにレイナ様も。どうしてこんなところに」
明らかに二人の兵士の様子が変わる。オールイルを見た時には驚き、ジェイドに対して怯えのような感情を含んでいるように感じた。
「ガルド王から命を受けてな、そこを通してもらえるか」
「左様ですか。しかし、ガルド王からは誰もこの森に入れるなと言われておりまして……」
兵士が恐る恐る言葉を切り出す。
「時間がないんだ。俺が誰か分かっているのか?逆らうと言うならそれでもいいが」
「わ、分かりました。お通りください」
少し圧をかけるだけで、思いのほかあっさりと折れた。もっと手こずると思っていたので、内心ほっとする。
「バックルさん、ご迷惑かけてしまってすいません。アグラニル様の用事がお済みになったらすぐにでも戻ります」
オールイルが申し訳なさそうに謝る。
「いえ、レイナ様も入れらるのですか。お気をつけください。今の森は以前とは明らかに雰囲気が違います。何かこう不安をかき立てられるような怪しさがあり、何かが潜んでいるのかと」
「では行くが、この命は内密にとのことだ。他の者に口外するんじゃないぞ」
念の為、彼らに釘を指しておく。
「かしこまりました」
口止めは終わった。
「じゃあ行くかオールイル」
「はい」
心配と恐怖がない混ぜになった二人の兵士を置いて、ジェイドとアグラニルは魔の森に足を踏み入れた。
ご拝読、、ありがとうございました。