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亡国の王子の人生譚  作者: ayataka
6/13

6.街へ

ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます。

もう少し、お付き合いいただければと思います。

 鳥の鳴き声で目が覚める。俺の隣にはオールイル……ではなくて、ロセオの盤があった。

「おはようございます」

 ソファーには、オールイルが腰掛けていた。

「おはよう……いい天気だな」

 パジャマ姿の彼女は妙に色っぽく、恥ずかしさのあまり思わず目を逸らしてしまう。

「そうですね。では着替えるので、外に出るか、後ろを向いて貰ってもいいですか?」

「ごめん、すぐに外に出るよ」

 そう言うと外に出ると、意識がはっきりとしてきた。

ーー昨日は彼女とロセオをやっていたが、三試合目、ついに負けてしまった。

「俺の負けか」

 奮闘したのだが、彼女の成長速度は凄まじかった。一度負けた敗因は絶対に繰り返さないからだ。

「ありがとうございました」

 平静を装いつつも、小さくガッツポーズをしたのを俺は見逃さなかった。かわいい。

「どうしよう。早速、護衛の任務は終わりか」

 悔しいが、言ったことは覆さないのは、二日間の付き合いだが、分かっている。真面目なオールイルのことだ。

 だが、彼女から出た言葉は彼の予想を超えたものだった。

「いや、まだ一回勝っただけですよ」

「え、そういうこと?」

「そういうことです」

 彼女の目指すのは、完全勝利らしい。驚いたと同時に笑ってしまった。それと少しの安堵感。

「じゃあ、次行きますよ」

 そこからは、五分の戦いが続いた。勝ったり負けたり、実力は拮抗している。日にちを跨いで更に時間が経った頃、どちらでもなく、ここまでということになったのだった。

「着替え終わりましたよ」

 ドア越しに声が聞こえたので、部屋に戻る。そこからは、一緒にご飯を食べて、訓練をこなす、風呂に浸かりながらオールイルの歌を聞いて、ロゼオをする。いつも通りの日常だった。


◆◆◆


 オールイルが護衛を続けると言ってから、一週間が経った。以前より、本当に少しずつだが、話すようになり、すべてが順調に思えたが……。

 その日の夜、オールイルはいつもより元気がなかった。なぜ気付いたかと言うと、訓練が終わって彼女と合流した時に、明らかに辛い表情をしていたからだ。

「どうした?元気なさそうだけど」

一瞬聞こうか迷ったが、彼女が辛そうな顔をしているのだ。放置するわけには行かない。

「いえ、なんでも」

 意を決して聞いてみたが、彼女の口から出た言葉は誤魔化しだった。

「そうか」

そう言われては、何も聞くことは出来ない。それ以上追及することは出来ず、そう返すしかなかった。

 夜ご飯を食べて、風呂に入ったが、彼女の歌は聞こえなかった。

 風呂を出た後も、彼女の様子は少し変だった。いつもだったら「やりますか」といってロセオを始めるのに、今日はソファーに座って思い詰めた顔をしている。

 一度なんでもないと言われた手前、また聞くのもしつこいと思われそうで、声をかけられない。

 それ以降、おやすみしか言葉を交わさずに寝た。


◆◆◆


 オールイルは何かに思い悩んでいる。訓練の後に辛そうな顔をしていたあの日から三日が経ったが、彼女は依然として元気が無くなっている。何かに思い詰めたように、考えている。朝、ジェイドは一つの決意をしていた。オールイルと別れて訓練が始まる前に、メルリアに話しかける。

「メルリア、相談があるんだけど」

「はい、レイナちゃんのことですか?」 

その通りだった。

「なんで分かるんだ」 

「火を見るより明らかです」

さすがメルリアだ。

「うん、そうなんだ。最近、ずっとオールイルが元気がなくて、ずっと何かに悩んでる。力になれればいいんだけど、彼女には「何も無いです」って言われて聞くこともできない。俺はどうすればいい?」 

「どうすればいいのかは難しいですが、レイナちゃんの力になる方法は簡単です。力になりたいってことを伝えればいいんです」

 メルリアの答えは単純明快だった。

「けど、どうやって?」

「それはですね。悩みを聞こうとするんじゃなくて、悩みに対して寄り添うってことです。後は自分で考えてください。自分なりに考えて出た結果が、貴方の正解です」

難しいことを言う。けど、何となく言いたいことは伝わった。ジェイド自身も経験はある。やることは多分これだ。

「ありがとう。分かった気がするよ」

「聡いですね。コツは相手の立場に立って考える、ですよ」

「うん。肝に銘じておくよ」

「それじゃあ善は急げということで、今日の訓練は置いといて、ジェイド君は自分が出した答えを、しっかりとレイナちゃんに実践する。その後は二人で街に出かける約束を取り付けるのが課題です」

「いきなりすぎないか!」

それはいわゆるデートというのではないか。

「いやいや、ずっと城にいてもレイナちゃんも気が滅入ってしまいますよ。そういう時は外に遊びに行くのが一番です。美味しいご飯でも食べに行っちゃってください」

「いや、でも……」

「はいはい、善は急げという事で、レイナちゃんの所に行きましょう」

「え、待って早くない?」

「強いては事を仕損じると言いますから」

「それ逆の意味だよ!」

「細かいことは気にしない気にしない。それと、これも渡しておきます」

そう言って渡されたのは、ペンダントだった。

「これって、別人に認識させるペンダントだよな」

「そうですね。簡単な隠蔽魔法が刻まれています。街に行くなら、必要でしょう。使ってください」

「ありがとう」

「いえいえ、じゃあ行きますよ」

そう言うメルリアに連れられて、庭に行くと、ベンチにオールイルは座っていた。本を持っているが読書をしているのではなく、何か考えている様子だ。

「レイナちゃん〜。今日の訓練は終わったんで、彼、お返しします。では私は用事があるのでお先に失礼しますね」

そう言うと、オールイルに何も言わせる間もなく、どっかに行ってしまった。

 取り残されたジェイドと、オールイルの二人きりになる。

「隣、いいか」

「いいですよ」

「ありがとう」

 言葉少なげに、椅子に腰かける。

「いい天気だな」

「そうですね」

……沈黙。彼女は心ここに在らずといった感じだった。

「あのさ、少し、伝えたいことがあるんだが、いいか?」

「!?な、なんですか」

 オールイルは唐突に声を掛けられて驚いたのか、声が若干裏返る。

少し息を吸って整えて、話し始める。

「俺はさ、力になれればと思ってる。例えば一人で考えると難しい事も、二人で考えれば名案も浮かぶと思うし、辛いことも吐き出すとスッキリすることもあると思うんだ。別に言いたくなかったら言わなくてもいいんだ。ただ、俺に力になれることがあれば言ってくれ。全力で手伝うよ」

言い終わった後に、少し恥ずかしくなる。何を言っているか分からなくなっているかもしれない。

 しばしの沈黙の後、口を開いたのは、オールイルだった。

「ありがとう……ございます。それとすいません。アグラニル様に心配掛けてしまって」

「いやいや!俺の方こそごめんな。オールイルが悩んでいるのが分かってたのに」

「ううん、私こそ。…………アグラニル様は、優しいですね」

ふっと、彼女はこちらをみて優しく微笑んだ。その表情を見て、ジェイドの心臓の鼓動は高鳴った。

「そんなことないと思うぞ。ロセオでわざと負けたりしないし」

「ふふっ、ありがとうございます」

  再び微笑む彼女に、また見とれてしまう。

「う、うん」

「けど、これは私の問題ですから」

「そっか」

そう言うと同時に、もう一つの目的があったのを思い出した。メルリアから言われた、オールイルを遊びに誘うということだ。考えると、急に恥ずかしくなる。なんて言ったって女の子を遊びに誘った経験など皆無だから。記憶喪失の前はあったかもしれないが、その真相は闇の中だ。

 しばらく、沈黙が続く。と言ってもメルリアは手に持った本を開いて読書に耽っている。その姿は絵になりそうな光景だと思い、また見とれてしまう。

 幸いにも、オールイルはこちらに意識を向けていない。そのおかげか、ゆっくり落ち着いて作戦を練ることが出来る。

ーーさて、どうやって誘うべきか。

誘うとしたら、今がチャンスだろう。この後の訓練は無く、彼女も予定はない……はずだ。そうなると問題はどう口実を作るか。メルリアは気分転換という理由を付けろと言った。色々考えた結果、ストレートに誘うことにする。

「なあ、オールイル、今日って暇?」

「?今日は特になにもありません。というか護衛ですから」

本から目を離して答える。確かにその通りである。

「じゃあさ、今日オールイルさえ良かったら、街に行かないか。最近思い悩んでいたから、気分転換になればいいと思って」

言い終わったが、少し早口になってしまった。というより、何故こんなに緊張しているのだろう。

「……街ですか。少し厳しいが知れませんね」

少し考えたあと、彼女はそう口にした。

「そっか……」

「いや、嫌だというわけではなくてでずね。アグラニル様は仮にも王子であるので、街に出掛けたら目立ってしまうかと思いまして」

「じゃあ、目立たなければ行ってくれるってことか?」

「まあ、そういうことになりますが。実際問題……」

「実はこれがあるんだ」

そう言って、ジェイドはペンダントを取り出して見せる。

「これは……なんですか」

「隠蔽魔法が掛けられているペンダントだって、メルリアから貰ったんだけど。これがあれば街に行っても大丈夫なはず」

「そんなものが……試しに付けてもらってもいいですか?」

「ああ」

そう言ってネックレスを首にかけてみる。以前と同じく、何も変わった様子はない。

「どう?」

オールイルの方を見ながら言うと、彼女は驚いた顔をしていた。そしてそのまま、こちらに近づいてくる。彼女の顔は目の前まで近づいてじっと見つめられた。

「ちょっとオールイル……そんな近づかれると」

ゼロ距離にいる彼女からは何やらいい匂いがするし、整った顔がとても近くにあることで余計にドキドキさせられる。

「ああ、すいません」

こちらの気持ちに気づいていないのか、彼女はすっとジェイドのそばを離れた。

「全然大丈夫。それで、どう?このペンダントは」

まだ少しドキドキしているが、平静を装って聞いてみる。

「凄いですね。隠蔽魔法というか、一定の距離にいると、全く別人として認識してしまいます。実際は顔は変わっていないのに、顔が変わっていると思ってしまう感じでしょうか。近づくと元のアグラニル様に戻るのですが、ペンダントの効果を知っていないと、顔が変わったことに全く疑問に感じないようになっています。認識阻害の魔法もかかっているのかと」

驚きを隠せない、と言った様子で話す。

「そうなのか。じゃあこれを付けていれば街にも行けるんじゃないか」

「……そうですね。多分、大丈夫でしょう」

「じゃあ行こう!」

嬉しさについつい笑顔になってしまう。もちろんペンダントを外すのを忘れない。

「ええ、じゃあちょっと待っててください。準備をしてきます。一0分ほどしたら戻ってくるので」

「分かった。ここで待ってるよ」

「はい。ではまた後で」

そう言うと、オールイルは城内に消えていった。外行きの服でも聞いてくるのだろうか。ここ最近、オールイルといて気づいたのだが、彼女はあまり服などに興味はないと思われる。いちも来ているのは王国の訓練兵が着ている制服である。それは護衛という任務上仕方ないのかもしれないが。

「お待たせしました」

考えていると、声をかけられた。見上げると、先ほどとは打って変わ……らない姿。

「準備できた?」

「ええ、お金を持ってきました」

そういう事か。特に着替えると言ったわけではなかったらしい。

「じゃあ、行こっか」

「はい」

そう言ってお互いに歩き始める。城門をくぐる時、怪訝な顔をされたが、いつもの事だ。もんをくぐって門番が見えなくなったくらいにペンダントを首にかける。

「どう。ちゃんと機能してる」

「はい、ちゃんと別人に見えますよ」

「そうなんだ。そういえばさ、別人見たいって言うけれど、どんな感じなの?」

純粋な疑問だった。

「ええっとですね。言葉にするのが難しいですが……簡単に言うならば、そこら辺にいそうな人って感じです。私はどちらかって言うと……」

そこまで言うと、オールイルははっとした顔で口を閉じる。

「どちらと言うと?」

「い、いや……なんでもないです」

何が言いたかったのか気になったが、詮索するのも野暮なので聞かないでおこう。

「そういえばさ、オールイル」

「はい」

「オールイルはさ、俺のこと前から知ってたの?」

純粋な疑問だった。

「……はい。何度かお顔を拝見したことはあります」

何やら言葉を選んだ様子だった。その態度を見て確信する。オールイルは俺の過去の事を知っている。

「顔を見たことあるってだけじゃなくて、なんか噂とか、話とか聞いたことは」

「……いえ、そのような話は聞いたことがありませんし、話したこともありません」

 少し間があってオールイルは答えた。彼女は明らかに嘘をついている。きっと、護衛を務める前から噂を知っていたのだ。そしてそれは良くない噂だったのだろう。だから彼女は言葉を濁し、嘘をついている。それについて聞こうと思ったが「聞いたことがない」と言われている以上、詮索は出来ない。

ーーさて、どうやって聞き出すべきか。

記憶喪失という事をバレずに以前の自分を他人から聞こうと考えたが、そもそもの話、城内で話せる人物自体が数える程しかいない。となると、有力候補はオールイルだったのだが、上手く躱されてしまった以上、手詰まりといったところだ。

「百聞は一見にしかず。という言葉があります」

オールイルは唐突に話し始める。

「アグラニル様は、自身の噂を気になさっているようですが、あまり気にしすぎない方がいいと思います」

どうやら、ジェイドが噂を気にしているということを考え、アドバイスをしてくれたのだろう。

「ありがとう」

「いや、気にしないでください」

そんなことを言って一番噂を気にしているのは、私なのかも知れませんね……。

「ん?なんかいった」

「いえなんでも。それより、ご飯はどこで食べましょうか」

「あ、俺いいところ知ってるから、そこにしないか」

「いいですよ」

以前の記憶を頼りに、少し歩くとホッカ亭に着いた。やはりお昼どきという事で混んでいる。店員に案内されて席に腰かける。二人でメニュー表をみて、オールイルはオムライス、ジェイドはステーキを注文した。

「アグラニル様はよく来るのですか?」

「いや、俺もまだ二回目」

「そうなんですか。私はあまりこういう雰囲気のお店は来たことがなくて新鮮です」

「前食べたとき美味しかったから、オールイルも喜ぶかなって」

「ありがとうございます」

こう話していると、最初より態度が柔らかくなったことを実感する。こちらの話しかけに対しても、嫌悪なく返答してくれるようになった。まだ少し距離を感じる場面はあるが。

「いえいえ、普段は何を食べてるんだ?」

「基本は城の食堂で食べています。栄養バランスもいいですし」

「そうなのか」

改めて考えてみると、俺はオールイルの事を全然知らない。

「そういえば、メルリア様との訓練はどうですか」

「ああ、訓練か。毎日ひいひいいいながらやってるよ。成長はしてるんだけど、まだまだって感じかな」

実をいうと、いまだ魔法を放てていないのだが。魔力を球体にして放出することはできるようになったが、それを的に当たるまで飛ばすことは出来ていない。

「……そうですか。いいですねアグラニル様は、メルリア様に教えて貰えるなんて、この上なく貴重ですよ」

「メルリアってそんなに凄いのか」

「ええ、以前話していた。ヴェムンドラの変は覚えていますか」

「ああ、邪龍を討伐したってやつだよな」

「ええ、そうです。討伐をした四人はその功績を持って英雄そのものを冠されました。それについてはご存知ですか?」

「いや、全く知らないな。その中の一人がメルリアってことは何となくわかるけど」

「この世界の記録に残っている限り、世界が滅びかけたのは、ヴェムンドラの変が起きた時だけです。そして、邪龍ヴェムンドラより強い魔物はいまだ存在していません。言い換えれば、その四人はこの世界で最強ということです。世界を滅ぼしかけた魔物を倒した。それは、言い換えれば」

「四人の力を持ってすれば、この世界を滅ぼすことが出来るってことか」

世界とか大きいことは分からないが、そんな俺でも、メルリアがめちゃくちゃ強いということは分かった。

「お待たせしました。オムライスとステーキでございます」

話している間に注文が届いた。目の前に置かれたステーキから香るソースの香ばしい匂いと肉がジュージューと焼ける音がより食欲を誘う。

「わ、美味しそう」

オールイルも目の前に置かれたオムライスを見て感嘆の声をあげている。

「「いただきます」」

両手を合わせ、早速カットされたステーキを口に頬張る。

「「美味しい」」

声を上げたのはほぼ同時だった。お互いに顔を見合せて笑う。そのまま食べ続けていると、視線を感じたので、目の前を向くとオールイルがこちらのステーキを見ていた。

「食うか?」

「いやいや、わざわざ貰うのも申し訳ないです」

そう首をふるふると振るが、明らかに食べたそうな顔をしている。

「はい」

そう言って、カットステーキの鉄板ををオールイルの方に寄せる。

「じゃあ、いただきます」

興味には勝てなかったのか、フォークでステーキを刺して口に運ぶ。

「わあ、美味しい」

口を手で塞ぎながら、驚いた顔をする。

「美味しいよな」

彼女が喜んでくれて何よりだ。

「ありがとうございます。私のオムライスも食べますか?」

「いや、いいよ」

欲しい気持ちはあったが、気恥ずかしいのでやめておく。自分ながら子供らしいと思うが。

「そうですか」

無理に進める訳には行かないと、納得したらしい。再びオムライスを食べ始めた。


◆◆◆


「美味しかったな」

「ええ、美味しかったです」

食べ終わって店を出ると、時刻は一時くらいだった。

「まだ時間もあるし、適当にそこら辺の店でも回ろっか。オールイルは、どこか見たいところはあるか?」

「いや、特には」

「そっか」

これを機に彼女の趣味などが知れると思ったが、失敗に終わった。

二人で街を歩く。街は活気に溢れていて、値引き交渉をする客や、店へ呼び込みを行う声などで活気が感じられる。と言っても、昼ごはんを食べたばかりなので屋台の食べ物を食べる気分でもなく、特に見たいものがあるかといったらないので、本当に歩くだけだった。

 歩きながら、隣のオールイルの様子を伺う。興味がある店には視線が行くはずだ。彼女を注意深く観察していると、明らかに他の店よりも注視している店があった。

その方向を見ると、武器屋アスカルという看板と、ショーケースに剣や槍などが飾られている店だった。

「ここに入ろっか。俺、武器とか見るのが好きなんだよ」

通り過ぎる前に、そう提案する。

「え、でも」

「ん?武器は嫌いか?」

「い、いや……そういうわけでは……」

「じゃあ見ようよ」

多少強引に店に入る。店に入ると、中は様々な武器が飾られていた。

「いらっしゃい……ってレイナじゃないか」

店に入ると、店主はオールイルをみるなり声をかける。

「……お久しぶりです」

そんな店主に対してオールイルは少しトーンダウンした声で挨拶する。

「まあ、色々取り揃えてるからな。ゆっくり見てってくれや」

 店主もそんな彼女の様子を気づかうようにそう言うと裏へと消えていった。

ジェイドは知り合いなのか?と聞きたい気持ちにかられたが、明らかに踏み込んで欲しくない話のような気がしてやめた。

「あー……出るか?」

「……いえ。少しだけみたいです」

「そっか、じゃあ出たくなったら教えてくれ」

彼女が明らかに興味を持っている様子だったので、入ったはいいが、失敗した。何かがあったのかは分からないが彼女はあまり嬉しそうな様子ではない。

 ちらりと横目でオールイルを見ると、感情の読めない表情をしながら、武器を見ている。

 居心地の悪い思いをしていると、不意にドアが空いて四人の青年たちが店に入ってきた。

「お邪魔しまー……ん?」

元気よく言い放った青い髪の青年がオールイルを見て目をぱちくりさせている。

「……レイナ?」

「……久しぶり」

そう言うオールイルの顔はちっとも嬉しそうではなく、心底バツが悪そうな顔をしていた。

「久しぶり……だな。元気にしてたか」

青い髪の後ろにいる赤髪の青年もぎこちなく声をかける。

「……うん」

「そっか、よかった」

四人組の先頭にいる青髪の青年は少しほっとしたような表情をうかべた。

「じゃあ私、用事あるから」

そう言うと、店から出ていってしまった。

「あ、じゃあ俺も失礼します」

そう言って店を出ると、オールイルはジェイドに向かって背を向けて立っていた。

「……ごめん。入りたくなかったのに無理矢理入らせて」

「……いえ。アグラニル様はなにも悪くありません。悪いのは……」

そこまで言いかけてオールイルは口をつぐむ。そこから沈黙が続いた。

「帰ろっか」

「はい」

帰り道は当然冗談も言える雰囲気でもなく、無言のまま帰路に着いた。

ご拝読、ありがとうございました。

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