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亡国の王子の人生譚  作者: ayataka
11/13

11.約束

久しぶりの更新です。ご拝読ありがとうございます。

 その日は朝からレイナの様子が少しおかしかった。どこかよそよそしいというか、素っ気ないとも違う、距離を置いている様子だ。

 鉄は熱いうちに打て、という言葉があるように、早速今日レイナを星降り祭に誘おうと思っていたのだが……いまの彼女の様子から、ジェイドは夜になっても彼女を星降り祭に誘うことが出来ていなかった。

 今日はメルリアが置いていったボードゲームの一つ、チェスをやっているが、いつもは勝敗にこだわる彼女が今日は心在らずといった様子だ。

「チェックメイトだな」

「あ、負けた」

 負けたというのに、レイナはほぼ無反応だった。こんなにも心ここに在らずといった様子だと、一緒にいて気まずい。

ーーなにかこの状況を打開する方法は無いか。レイナの心をこっちに持ってこれてかつ悩み?を聞き出す方法。

 少し考えて、ジェイドは閃いた。

「今日は弱いな」

「そんなことないよ」

「いーや、弱い。なんか集中も出来てないし」

「いや、そんなことない」

 少しムキになっている。

「そこでだ。次のチェスに一つルールを足さないか」

「ルール?」

「ああ、簡単だ。負けた方が勝った方の言うことを一つ聞く」

「なんでも言うことを?」

 チェス盤を挟んで対面に座った彼女は、少し身を乗り出して聞いてくる。

ーー思った以上に食い付きがいいな。

 意外な食いつきに少し驚きつつも、話を続ける。

「ああ、その方が盛り上がるだろ?」

「いいよ、やろう」

 レイナは即答だった。

「あ、ちなみにHなお願いはなし」

「それ私が言うセリフ!」

「ありでもいいぞ」

「なし!!」

 レイナが顔を真っ赤にしながら言う。かわいい。

ーー俺のプランはこうだ。俺がこの勝負に勝ったらレイナの悩みの理由を聞く。普通に聞けよと思うかとしれないが、女心が全く分からない俺にはこんなやり方しか思いつかない。さらに、真剣勝負になることで、彼女もチェスに意識を割かなければならなくなる。彼女の心ここに在らずといった微妙な空気を改善することができるのだ。

「じゃあ、やるか」

「うん、負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くんだよね」

「ああ、一つだぞ」

 そこまで言って、ジェイドはハッとする。

ーーもしかして一つじゃなくて二つにしておけば星降り祭も誘えたのでは……。

 痛恨のミスだった。しかし今さらゴネるのも恥ずかしい。

ーーまあ、悩みを聞いてそれを解決した後に改めて誘えばいいか。

「……分かった。じゃあ私が勝ったらとってもワガママなお願いをするから」

「えっ、どんなお願いすんの」

「秘密」

 そういう彼女の表情に一瞬だけ申し訳なさが浮かんだが、すぐに真剣な表情に切り替わる。

ーー本気の顔だ。

 とりあえず、負ける訳にはいかないことだけは分かった。

 チェス盤に駒を配置して、先行後攻を決める。

「俺が先行か、行くぞ」

 かくして、負けられない戦いが始まったーー。



◆◆◆


「負けました」

 結果、勝ったのはレイナだった。

「じゃあ、一つだけお願いを聞いてもらおうかな」

「はい、なんなりと。あ、命だけは勘弁」

「君は私をなんだと思ってるのよ!」

「かわいい女の子」

「ばかっ!」

 レイナはそう言って顔を真っ赤にして怒る。負けて悔しかったが、彼女を動揺させたので少しスカッとした。

「じゃあ、お願いなんだけど……。先にジェイドには謝っておくね。ごめん」

 怖いんだが、と茶化そうとしてレイナの方を見たが、彼女の表情を見て言葉を呑み込んだ。そう言う彼女は辛そうな顔をしている。

「……分かった」

「ありがと。それでね、私のお願いって言うのは……」

 ジェイドはどんなお願いが来るのかと身構えたが……。

「私と、星降り祭に行ってください」

「え?はい」

 それは驚くほど、普通のお願いだった。

「え?」

オウム返しのように、レイナは疑問で返す。

「え?私でいいの?」

「うん。俺もレイナを誘おうと思ってた。先を越されたけど」

「え、でもメルリア様と行く予定じゃ……」

「いや、そんな予定はないけど」

「だって、昨日メルリア様と星降り祭行くって、部屋のドアの前でメルリア様、楽しみにしてるって言ってたから……」

「あれは別にメルリアは関係なくて……レイナを誘うって話をしてたんだ」

ーー昨日の夜、ドア越しに声が聞こえてたのか。

「え、じゃあ。全部私の勘違い……」

 レイナの顔が過去一に赤くなった。頭から湯気が出そうな程に。彼女はそのまま両手で顔を覆って下を向く。

「おい、レイナ」

「恥ずかしいからこっち見ないで!」

「はい」

 どうにもならなそうなので、彼女に背を向けて壁の方を見ることにする。

 五分ほど経つと

「ごめん、お待たせしました」

「いえいえ」

 そう言ってレイナの方に向き直ると、まだ顔は少し赤かった。だが、それを言うとまた振り出しに戻りそうなのでやめておく。

「星降り祭、一緒に回ってくれるよね」

レイナは不安そうな顔をしておずおずとこちらを見る。

「俺でよければ」

「えへへ、よかった」

そう言ってレイナは笑う。その嬉しさと安堵がない混ぜになった彼女の笑顔に目を奪われる。

「それじゃあ、時間も時間だし寝よっか」

 レイナは満足気な表情を浮かべ、そのままスっと立ち上がる。下に布団を敷くのかと思いきや

「えいっ」

 ベッドに横を向きながら倒れ込んだ。

「おい、今日はさすがにベッドは俺だろ。三日連続はずるいぞ」

「ん?じゃあジェイドもベッドで寝ていいよ」

「もってなんだもって」

「そのままの意味だよ」

「いや、二人で同じベッドで寝るのはさすがにマズイというかなんというか……」

「恥ずかしいんだー」

「いや、別に恥ずかしくないですけど」

「じゃあいいじゃん」

「分かった、一緒に寝るか」

 もう言い返すのも面倒くさくなった。あちらが乗り気なら乗ってやろうじゃないか。


◆◆◆


 そうは言ってみたものの、いざ二人でベッドで寝るとなると心臓がバクバクだった。ジェイドとレイナは横向きでお互いに背中を向けて布団を被っている。電気は消え、窓から射し込む月の光だけが二人をぼんやりと照らしていた。

 お互いに威勢がよかったのはベッドに入る前までで、いざ入ってみると照れと恥ずかしさで無言の時間が続く。そんな中、先に口を開いたのはレイナだった。

「そういえばさ、ジェイドは今日のチェス、何をお願いするつもりだったの?」

「俺は、今日レイナが元気の無かった理由を聞こうと思ってた。いま言ったら意味が無いかもしれないけどさ」

「私今日、元気なさそうだった?」

「うん、なんか悩んでるみたいだった。いまはちょっと落ち着いてるように見えるけど」

「そっか。心配かけてごめん」

「…………俺でよければ聞くぞ」

「ありがと。でも、解決したから大丈夫だよ」

「そうか……悩みがあったらいつでも聞くからな」

「優しいね、ジェイドは。そう、いつも」

「レイナだから」

 ついポロリと言葉が出た。慌ててなにか言おうとするが言葉が出てこない。しかし予想に反して、レイナは何も言ってこない。

 再び、沈黙が続く。三十分ほどたった頃だろうか、不意にレイナが口を開く。

「ジェイド……」

 消え入りそうな声、なにか答えようかと思ったがそれも野暮だと思える、黙ってレイナの方を向いた。

 目が合った。こちらを見る彼女の顔は暗さでよく分からないが、少し赤いようにみえる。

「なんか、緊張するな」

「うん」

 ずっとレイナを見つめるのも気恥ずかしくなって言葉をひねり出す。口を出たのは、ありきたりな言葉だった。対する彼女も短い返答のみ。

「ジェイドはさ、メルリア様のことどう思ってるの」

 唐突にレイナから質問をされる。

「どうって、尊敬する先生だが」

ーー勉強や戦闘だけじゃなく、恋の先生でもあるけどな。

「好きなの?」

「なにを……」

  からかってるのかと思い、レイナの顔を見たが彼女はふざけた表情ではなく、むしろ不安を抱いた顔をしていた。

「好きだけど、恋愛的な意味じゃない」

俺が好きなのはレイナだ、という勇気は彼にはなかった。

「ふーん、そうなんだ」

「なんだよ」

「ううん、なんでも」

 先ほどとは打って変わって、彼女は少し安心した表情を浮かべている。

「そういうレイナはどうなんだ?好きな人はいるのか」

「いるよ」

「どんな人なんだ」

 もしかしたら自分かもしれないという期待を込めて聞く。

「誰よりも優しくて、強い人」

「そうか……」

 強い人という言葉を聞いて、ジェイドは落胆する。明らかに自分ではない。

「けど、私なんて見向きもされないよ」

「そんなことない」

「そんなことあるよ、だって私には何も無いもの」

 そう言い捨てたレイナはどこか諦めきった顔をしていた。彼女が初めてみせた弱さにジェイドは驚く。

そんなことない、そう言うだけなら簡単だ。だけど、それだけでは足りない、そんな気がした。

「レイナは俺を守ってくれるし、いつも笑顔でかわいい」

「えっ……」

「一緒にいて楽しいし、からかった時の表情も好きだ。俺はレイナがいるから毎日が楽しい」

「ジ、ジェイド……いきなりなに言い出すの」

「そんな君は、何も無くなんかない」

 話してるうちに訳が分からなくなってきて、上手く言葉がまとまらなかった。

「…………ばか。意味分かんない」

 レイナは両手で顔を隠している。白い手の隙間から見える顔は赤い。そういう自分も顔が熱かった。

「大丈夫、俺もだ」

「余計にばか……でも、ありがと」

「ああ」

「寝る前に、一つだけわがまま言うね」

「なんだ?」

「手、出して」

「こうか?」

横向きになっている中、ベッドと体に挟まれている右手をレイナの方に伸ばす。

 彼女はその手に右手を伸ばすと、ジェイドの手を握る。ジェイドの手に柔らかい感触。

「おやすみ」

 それだけ言って、レイナは目を閉じた。

 ジェイドはドキドキが収まらぬまま、レイナを見つめる。手を繋いだ彼女の真意は分からない。ジェイドも寝ようと思うが、レイナが隣で無防備に寝ているという事実にドキドキしてしまい、眠れない。

ーー無理だな。

 寝ることを大人しく諦めたジェイドは、今までのこと、これからのことを考えることにした。

 星降り祭で、レイナに気持ちを伝える。それまでに自分がしなければならないこと。それは、自身の過去を知ることだ。ずっと目を背けていたが、向き合う時が来た。そうしないと、レイナの隣にいる資格はない。

ーー明日、メルリアに聞きにいこう。

 そう決意し、ジェイドはレイナと繋いだ手に温もりと安心を感じつつ目を閉じた。

ストックが残っているので第一章完結まで書き切りたいです。応援よろしくお願いいたします。

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