プロローグ ラビットデリバリー
「お荷物をお届けに来ました!ラビットデリバリーです!」
物々しく重く響く周りの音、あたりでは煙と鉄の混じったような香りのなか、元気な声が響いた。
直後、ズガァンッと60m先の隣の瓦礫が砲弾によって吹き飛んだ。
体に直接ビリビリと響く衝撃、
散発的な銃声と時折響く爆発音、
しかし彼女は涼しげな顔で、更に受け取り手続きを進める。
「えっと、ライヌの缶入りアメが1つと枕カバーが3つ、あと事務用品のセットが9点とそれと……おっと」
突如、隣の建物の一部が倒壊を始めたような轟音。
ガラガラガラと音を立てながら、8階建てのホテルは崩れ落ちていく。
流石にびっくりしたのか、少しだけ外の様子を確認した彼女は、一呼吸おいてまた受け取り確認を続けた。
「あとは筆記用具のセットが3つと爪切りが1つ、以上でお間違い無いですか?」
「……大丈夫だ、揃っている。」
では、判子をお願いしますね!と元気よく伝える彼女と、判子を押す受取人。
「では!こちらはこれにて帰還させていただきますね!次にまた会えたらよろしくおねがいします!」
「ああ、いつもありがとうな、うさぎさん。」
「いえ、お仕事ですので!」
彼女は元気にその場を離れ、自分の商売道具である箒の上に乗った。
箒、というのはあくまで見た目からくる名前のようなもので、決して掃除のためのものではない。
ゴテゴテとつけられたメカメカしさのあるパーツたち、まるで小型の航空機のジェットエンジンがそのまま3つもくっつけられたような……だいぶ遠目から見たら箒のように見えるそれを、スケートボードにでも乗るような姿で上に乗り、足元のエンジンに点火しつつ、彼女は各種スタートアップを始める。
「ナビゲータ起動、各部チェック!燃料よし!フレアユニット残量よし!荷物の重量分の重力バラスト変更よし!」
それと同時に、彼女の周りに蜃気楼めいたゆらぎが生まれていく。
まるで彼女の周りになにか空気の膜でもできたかのような空間が生まれる。
「慣性制御魔法よし!出力コントロール魔法よし!酸素保護魔法と生命維持アシスタント用魔力もよし!あとは……迷彩と消音と……」
ぎゅるる、と音が鳴った。
それは彼女のお腹の音だ。
(お腹すいたな……今日は基地の日替わり定食、なんだろうな……)
などと考えていると、システム、魔法制御、共にオールグリーン、発進スタンバイ、と機械音が告げた。
「行くよ!野うさぎちゃん3号!!!」
と彼女が言うと同時に音があるのならば間違いなくズバシュンッという音が聞こえるような動きで、その鉄の塊の箒に乗った彼女は音速の世界へと飛び立っていく。
なおも加速は続きあっという間に音を置き去りにしていった。
まっすぐにかっ飛んでいく姿は彼女の使用している迷彩装備で見ることができないのだが、もし見えたのならば、それは流星のように見えただろう。
そうして先程までの戦場を遥か彼方の後方にしつつ、彼女、ミーツァ・ウィンドラインは自分の基地へと帰っていったのだ。
この物語は、
中途半端に機械と魔法の合体したような世界観の中で、
やたらメカメカしい箒型飛行メカに乗った登場人物たちが、
わりかしちいさなお届け物を、
爆速で配達する快速宅急便として、
活躍していく物語である。