邂逅
関数のグラフのXの変域がどうとかこうとか・・・。やばい、ぜんぜん頭にはいってこない。やはり7時間授業を受けた後でさらに3時間の塾通いは無理があるんじゃないだろうか。もっともそうなっている原因は自分にあるわけで、もう少しまともな成績を維持していれば、この疲労を3分の1程度まで下げれるように思うのだが、なかなか厳しいものがある。現にこうして授業の内容は睡魔にほとんどシャットダウンされ、ぎりぎりでまぶたが睡魔に負けまいとがんばっている最中だ。ああ、やばい。意識が・・・。なんてことを考えていると周りのやつらが立ち始めた。どうやら授業は終わったようだ。
助かった。
どうにかしなきゃだめだよな、この現状・・・。俺はバッグにノート類とふでばこを流し込むとコートを羽織って歩き出した。教室をでるともう暖房の効力もなくなるようで、冷たい空気が肌をさす。うう、寒い。季節はもうすっかり秋から冬へとたすきをわたしてしまったようだ。塾をでると風もあってより一層寒く感じた。「は〜。」息が白い。空はもう真っ暗でところどころに星の光が小さく見えた。時間はもう10時すぎ、当然のことだ。
いつもと同じこと。何もかわることなどない。しかたがないだろう?現実なんてそんなものだ。駅に向かう足もいつもと同じで重たいしな。くつの地面を擦る音とすれ違う車のライトがやけに目につく。俺は走り出した。駅はそんなに遠くないし、体をあっためるにはちょうどいいだろう。ほら、もう見えてきた。特徴ある赤い時計台。あれが駅の目印だ。ひとごみをかきわける。こういうときは逆にいってる人が多く感じるよな。そのときだった。駅へと続く階段の隅のほう、ちいさな光るものが目にとまった。手にとるとそれはよくあるトレーディングカードなんかと同じ様なサイズの板だった。金属のようなものでつるつるしていて、駅のライトを白く反射していた。俺は考えた。小さいころはよく親父に、ものは拾うな。って怒られたっけな。俺はそれをコートのポケットにいれた。いいだろう、このくらい。たまには何か収穫があっても。1枚の金属板への俺の小さな好奇心がそういっていた。
日曜というものは本当にいい。その週がどんなに忙しくてもちゃんと俺を休ませてくれる。そんなわけで今日は特に予定もなく、のんびりと過ごせたのだ。午前中をゆっくり家で過ごして、午後は友人と近くの本屋にでも行って・・・みたいな、なんともまあ、といった感じに休日を満喫して今に至る。
「ありがとうございました〜。またおこしくださいませ〜!」
店員さんの、はつらつとしたあいさつを聞いて、俺たちは本屋をあとにした。腕にはまっているデジタル時計は5:30を示している。駅に行って家まで10分ってとこかな・・・。明日も学校だし、早めにきりあげよう。俺たちは街に向かう。日はもうだいぶ傾いていて薄暗くなっている。
「じゃあな、上野。明日は遅刻すんなよ。」
「おう、ってなんだよそりゃ。じゃあなっ。」
そんな感じで上野と別れて俺は駅にあしを進めた。
あれ、上野に貸した本返してもらったけ・・・そのときだった。いきなり突風がきた。
「うわっ」
風は木の葉を巻き上げながら通り過ぎていった。閑散としている路地がより一層すさんで見えた。俺は再び歩き始めた・・・ ゴスッ痛っ!ふいに俺は額をぶつけて後退した。
「つあっなにが!」
何に当たったのかを確認しようとして、俺は疑問に思った。歩いていたのは歩道の真ん中辺り。なにもそこに妨げとなるものはないし、第一俺は前を向いていた。俺はゆっくりと手を前にだした。バシッ!手が弾かれた。これは、壁?目の前を塞いでいる見えないもの。 ! 俺ははっとした。もっとはやく気づくべきだった。なんと言えばいいのだろう?違和感?いつからだ?上野と別れてから・・・いや、もっと前か?何かがおかしい。いつのまにか周りがまるで夜中のように暗くシンとしていた。いや、というよりまったく音が聞こえないしとても駅前の様子とは思えない。
「なにがどうなって・・。」
「自分の心に聞いてみれば?」
俺はバッと振り返った。いきなり声をかけられたのだ。そこには一人の人影。コートのようなものを着ていて、フードをかぶっている。突如として現れたその人物に俺は明らかに警戒心を抱いてしまっていた。
嫌な予感しかしない。