地獄の沙汰
地獄の沙汰も金次第とはよく言ったものだ。ただし生前の金は使えない。それもそのはず、私も名のしれた実業家だっただけに山程の金は持っていたが、何分三途の川を渡る時は身ぐるみを剥がされる物で、1円ももってこれなかった。そのくせに切り捨ててきた社員や友人を見殺しにしたとして罪だけはしっかりと償わせられるのだから理不尽である。金は使えは無くなるが、針山に刺されても釜茹でにされても罪はなかなか償えないのだから尚の事理不尽である。
話をもどして地獄の金の話だが、持ち込めないとなるとどうするのかと言うと、勿論現地で稼ぐのである。丁度私が茹でられている釜の下の方から、なにやら話声が聞こえてくる。
「あっしに任せていただけりゃあこの釜、燃料をそのままに温度を倍にしてみせやしょう。どうです赤鬼の旦那。作り物のケンキチといやぁ有名だったんですぜ。」
「しかしだな、今十分に苦しみを与えているのにそこへ又温度を上げるというのはどうも気が引ける。」
生前に培った技術を使って金を稼ぐ声だ。しかし面白いのは鬼が気が引けるなどと生ぬるい事を言っていることだ。お陰で私の周りだけ少し熱湯がぬるくなった気さえする。
「わかった!旦那も欲張りだなぁ分かりましたよ全く。ではこうしましょう。燃料を半分に、今のままの温度に致しやす。ね。これならばどうです。文句無いでしょう。」
「うぅむ。それなら任せてみよう。」
それはさっきと同じような物では無いのか。言い方を変えただけではないか。金を受け取ったケンキチは何処かへ行ってしまった。
一週間ほどしてから釜の大きさが半分になった。私達亡者はぎゅうぎゅうに釜に詰められることにはならなかった。もう一つ新しい釜が用意されたからだ。ケンキチはその釜での釜茹で第一号となった。鬼を騙したかららしい。




