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小さき者共の宴  作者: 帽子男/Hatt
4/7

マクスウェルの悪魔

有名なパラドックスの一つに、マクスウェルの悪魔という物がある。簡単に説明できる自信はないが、要約して言うならば――

 「ここにお湯の入ったビーカーがあるだろう?」

 「…ありますね。」

私はビーカーを手に取り、小さな穴の空いた板を間仕切りにするようにビーカーに入れた。

 「このお湯の温度は50℃だ。そういう事にしてくれ。」

 「…わかりました。」

私はビーカーに魔法を掛けて、少し浮かせる。

 「この小さな穴を使って、より暑い水を右へ、より冷たい水を左へ移動させたとする。」

 「…」

ビーカーはふわふわと漂いながら、助手の目の前まで移動する。

 「この作業を続けると、右の水は沸騰して、左の水は凍るはずだね?」

 「…博士。」

助手はビーカーを取って机に置いた。

 「ところがそうは成らない。左の水が凍っても、右の水は決して、、、」

 「博士!!!!」

助手は私の両肩を鷲掴みにしてくる。

 「おいおいレディーに乱暴す…」

 「今!!何が!!必要ですか!!!」

 「人類を救う事だ。」

 「そうでしょう!!マスクウェルだか何だか知りませんが!人類を救う方法を探す方が先でしょう!!」

 「マクスウェルだ。それと、方法はもう思いついてある。あとは実行するだけだ。」

助手の表情が驚きに変わり、安心、困惑となっていく。

 「だったらどうしてすぐに実行しないんですか?」

 「今やろうとしてた所だ。」

 「そんな子供みたいな、、」

 「私はまだピチピチの女子高生だ。」

 「それはそうですが、、いや、そんなことより!!」

助手はせっかちだ。せっかちはモテない。とても助かる。

 「話を最後まで聞け。そして質問だ。」

私は咳払いをして、助手の方を見る。少し笑う。

 「50℃のお湯を選り分けて、温度で極端に二分した。冷たい方は凍った。暑い方は沸騰しない。つまり、エネルギーがどこかに行ってしまったことになる。熱力学的に、エネルギーが消える事はありえない。どこに行ったと思う?」

助手は少し真剣な表情をして考える。

 「移動した時に…いやそれは摩擦熱で…」

ブツブツとなにか言い始めた。しばらくして何かに思い当たったのか、はっと顔を上げた。

 「記憶…」

 「素晴らしい!!流石は私の助手!」

私は拍手をする。音は静かな研究室の壁に吸い込まれて行く。

 「そうだ。これが『悪魔』の由来だ。観測者の、つまり悪魔の記憶として、エネルギーがあるわけだ。情報がエネルギーであることの証明だね。」

 「しかし、それとこれと何の関係が…。」

 「関係大ありさ。」

助手はまだわかっていない様子だ。

 「いったいどういう関係があるんですか?!ただでさえ恐ろしいあの『穴』は!今も急速に大きくなっているんですよ!!あんな恐ろしいもの!どうやって消すんですか!幸いまだ人は巻き込まれていませんが、それが良かったのか悪かったのかは僕にもわかりませんよ!だって、発電所も特異点も全部あの中ですよ!破壊兵器を使おうにもそんな電気は無いし、大魔術を使おうにも魔力が無いんですよ!!僕らに!!もう!!逃げ場は無いんですよ…。」

助手は一通り叫んだあと、その場にへたり込んでしまった。

 「博士に怒鳴っても仕方ないのに…すいません…。」

私はまた少し笑う。

 「解決する方法も無ければ、それを実行するエネルギーも無いんですよ。………エネルギー?」

 「そうだ。エネルギーはある。そして使い方は私が知っている。」

私はもっと大きく笑う。

 「そもそもあの『穴』は科学と魔術の結晶だ。このどちらが欠けても成り立たない。つまり、あれを起こさせないためには、どちらかかが発展しなければいい。」

 「待ってください。起こさないため?元にもう起きてるじゃ無いですか。いまから予防してどうするんです?」

私は屈んで、助手と目をあわせる。

 「次の未来でも、会えるといいな。」

 「え?」

私はホワイトボードを裏返す。そこにはびっしりと魔法陣を書き込んである。

 「全人類の魔術の知識をエネルギーに時間を巻き戻す。もちろん全人類ってのは過去から現在までの全人類だ。さすがにエネルギーの前借りはできないから、未来の分は使えないがな。」

 「そんな!時間を巻き戻す?!むちゃくちゃだ!できるわけがない!!」

魔法陣に力を込める。淡く光り風を生む。

 「できるさ。私は天才女子高生魔術博士だからな。」

 「いやだ!もうあなたと会えないかもしれないじゃないか!!」

大魔術が発動した。世界がゆっくりになり、逆行の準備を始める。

 「あえるさ。私の助手だからな。」

助手は涙目になっている。

 「時間はそうだな…2021年の8月22日にしよう。」

助手の誕生日だ。








時は戻る。

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