死者
5Gだとか4Gだとか地デジ化だとか、そういう事が言われる前のテレビの事を覚えているだろうか。
深夜になって全ての番組が終わったあとの、白と黒の斑点が乱れた映像は、今はもう映らないそうだ。
なんでもあれは人間が作ったものじゃない、天然の電波をテレビが拾った結果だそうだ。
今のテレビは優秀になったから、人工の電波しか捕まえないらしい。
「目が冷めましたか。」
ここの景色はそれに似ている。一つ違う所が有るとすれば、どこまで行っても景色の正体に近づけなさそうという事ぐらいだ。
「どうですか?気分は。」
何やら話しかけられているが、私は今感傷に浸っているのだ。待って欲しい。
「…。」
ここが死後の世界か。部下たちはうまくやっただろうか。娘は大丈夫だろうか、、、。
この私があんなにあっけなく死ぬとは、相手も思って居なかっただろう。それか、私の偽物だと思っているに違いない。きっと、いもしない私の影におびえていることだろう。
なんとも清々しい気分だ。私は最後まで私らしくあったのだ。そして死して尚、敵の中では私らしくあるのだ。すばらしい。
「もうよろしいですか?」
「あぁ、なんだね?」
もう少しぐらいゆっくりさせてくれても良いではないか。此奴はかなりのせっかちと見える。
「貴方は死にました。そしてまた輪廻の輪に加わる時でもあります。」
私は別に仏教徒では無いのだが、輪廻の輪には加わる事になるのか。
しかし随分と精巧じゃないか。
「そして次の生には、なんでも一つだけ、そう、物質であればなんでも一つだけ持っていく事ができます。」
「やけに強調するじゃないか。」
少し頭がクリアになってきた。とたんに色々な事を勘ぐってしまう。
三つの仮説がある。
一つは私は死んでいて、此奴の話は全て本当であり、嘘偽りは無い。
二つ目は私は死ぬ直前で、走馬灯を見ている。そしてそれがある程度突飛なのだ。
三つ目は私は死んでおらず、敵の催眠やら何やらで、全てはまやかしである。
「例えばどんな物が持っていけるんだ?」
二つ目の仮説は消しても良さそうだ。私は目の前にいる此奴ほどきれいな人物を、想像で生み出せるとは思えない。
「そうですね、、、家族の形見を持っていった人もいればきれいな絵画を持っていった人もいます。変わった所では目一杯の黄金とかですかね。」
三つ目は保留だ、こちらに何か質問をする素振りが無いため、なんとも言えない。
「その黄金を持っていったやつがどうなったか聴いても?」
「まぁ、その、、、楽しくは無さそうですよ。」
「だろうな。」
ではまぁ一つ目の線で考えるとしよう。
「家族の形見、、、か。」
「それになさいますか?」
「いや、、」
今更自分がこうも業突く張りなのだとは思い直したくは無かった。何か持っていけるとなった途端にそれならばもっと、と思ってしまったのだ。
「はぁ、、。」
何が良いだろうか。家族の形見と言っても色々ある。それに、私ならば黄金を持っていっても使いこなせない事も無い自信もある。私は悩みに悩み、いつもの癖で左手で顎の髭をなぞろうとしてふと気がついた。
「決まりましたか?」
「例えばお前を持って行く事はできるのか?」
「っ!!」
きっと、考えてはならない。言語としてしまえば気づかれてしまう。
「っ。まぁ、できなくは無いですね。しかし、その場合は、私の肉体のみ、に、なりますね。」
疑問は確信に変わり、疑う余地はなくなる。
「それになさいます、か?」
「いや、、、家族の形見にするよ。」
此奴はホッとした表情を浮かべる。しかしそれは甘い。
私の仮説は間違って居なかった。それはたしかにそのとおりだった。
私は死んでいて、此奴の話は全て本当であり、嘘偽りは無い。
「形見とは具体的にどのようなものですか?」
たた、話していない事実が有るだけだった。
「私の肉体を持っていく。」
瞬間、此奴の顔が醜く歪む。
「畜生!!!あとちょっとだったてぇのに!!」
みるみるうちに姿が代わり、あっという間に化け物の様になってしまった。
「契約は契約だ。俺様はそれを遂行する。てめぇの面はもうみたかぁないね。速く行きな。」
私の魂は私の肉体が帰って来たことを大いに喜んだ。
すると、あっという間に私はその場から吹き飛ばされた。
高速で移動している事はわかるが、どこに向かっているのかはわからない。
最後に一つだけ、疑問が残った。私の魂をつかって、あ奴は何をするつもりだったのだろうか。
叙述トリックが使いたい




