崩れる日常
初投稿です。よしなに。
「せんぱーい、おはようございまーす!」
俺、飯田啓斗が電車を降りて駅を出ると、そんな声が聞こえてきた。
「おう、おはよう」
俺は振り向きながら挨拶を返す。
声の主は雪田夏姫。
学校一の美少女と名高い後輩である。別に付き合っているわけではない。
なのになぜ俺がそんな美少女に絡まれているのか。
まったくもってわからない。
こいつはなぜか事あるごとに俺につきまとってくるのだ。
周囲に白い目で見られ(視線の先には俺がいる)ながら俺たちは並んで校門をくぐる。
夏姫と別れ教室に着くと、親友の川瀬環が声をかけてきた。
「おはよ啓斗。朝からラブラブだな」
「別にそんなんじゃねーって」
環と軽口を叩きながら俺は席に着く。
席についてすぐにもう一人の親友、吉田錬が彼女の永井蒼来と一緒に登校してきた。この2人は幼なじみである。話によると中2の頃から付き合っているらしい。ちなみに環にも工藤花音という彼女がいる。
2人は俺と環に挨拶をしてからそれぞれの席についた。
俺は所謂陰キャである。髪を長く伸ばし、目を完全に隠している。環と錬相手には気さくに話すが、それ以外の人とはあまり話さない。俺に注目する人は誰もいない。そうして俺は高校の3年間を平和に過ごすはずだった。
昼休み、俺が弁当を広げ、食べようとすると。
教室のドアがスパンッと威勢の良い音を立てて開いた。夏姫である。こいつが俺に付き纏うようになってから俺のモブ生活は終わった。代わりに始まったのが全校の男子(環と錬を除く)に睨まれる日々である。
俺の悩みを知らない夏姫は無邪気に言う。
「せんぱい!お昼一緒に食べましょう!」
仕方がないので環と錬も一緒に呼び寄せて4人で昼食を取る。クラスの男子からの視線が痛い。こんな状況になっても環と錬はいつも通りに振る舞ってくれる。本当に良い友を持ったと思う。昼食を食べ終えると、夏姫は自分の教室へ帰っていった。
午後の授業が終わると、俺はすぐに教室を出る。バイトがあるわけではない。かと言って家に帰るわけでもない。何をするかというと、事務所に行くのである。長髪のヅラを取り、金色に染まった髪を整えてから事務所のあるビルに入る。日本のトップアイドルグループ、「シンフォニー」のリーダーの甲斐爽太として。