転生係も暇じゃない!
「良いですかマーアリ、あなたを転生係に任命します」
「謹んで拝命します」
ここは天界の天使学校。私マーアリは人気のない転生係任命されました。
そもそも転生係とは何かといえば、天寿を全うできなかった人。神の気まぐれで転生する人。神の手違いで死んでしまった人。これらの人を転生させるのが仕事です。要は神のやらかしたことに対する後始末ですね。面倒極まりない、ん”ん"とても光栄な仕事です。
それに任命をした神様は私が仕えている神様なので、文句のつけようがありません。天界でも優秀で優しい神様と有名なので、考えてのことだと思うんですよね。
似たような仕事で召喚係も存在します。仕事内容は、召喚によって異世界から呼ばれた人間にチートと呼ばれる力を授けることです。
「でもなぜ私が転生係に。三位だから?三位だからなんですかね」
世界を救うために召喚された人を相手にするのと、様々な理由で転生する人を相手にするのでは人気が変わってくるのです。
もちろん人気があるのは召喚係です。私も召喚係を目指して学業に励んできましたが、まさか転生係になるとは。
これでも成績は三位と高かったのですけどね。せめてほかの仕事になれれば……。とはいえ神の決定を覆すことはできませんし。
もしかして優秀じゃないと転生係は務まらないとか?神様が私の能力を見定めたうえで転生係にしたとしたら、これは期待にこたえられるようにしないとだめですね。明日から頑張りましょう。
「ここが職場ですか。まぁなんにも無いですね」
初日、転生係マニュアルを片手に職場に行きます。この真っ白な空間が職場です。とりあえずマニュアル通りに進めましょう。
ステップ1
まずは空間を作りましょう。転生者が安心できる空間を作るといいでしょう。
転生者が安心できる空間でですか。安心できる空間といわれても転生者によって変わりますし。
テーブルと椅子があればいいでしょう。神力を使ってテーブルとイス。あとはお茶と茶菓子を出しておきます。お茶と茶菓子は私物です。
んー、なんか味気ないですね。壁と天井が無いからでしょうかね。イメージしやすいのは私の部屋くらいですし。
「こんなものですか」
壁と天井を作れば今度は色々物がなくて違和感を感じ初めて。気がつけば私の部屋とほとんど変わらない場所が出来ていました。
「少し神力使いすぎましたかね」
ちなみにこの神力、魔力とはまた別ですが似たようなものという認識です。魔力は別で持っていますよ勿論。
「さて後で買い足さないと行けませんね。紅茶と茶菓子。主に食べるのは私ですが、稀に召喚に巻き込まれた人も来るそうですからね」
ステップ2
空間を作れたら転生者を招いて仕事を開始しましょう。
「は?これだけですか。次のページには、何も書いてないですね」
マニュアルとはいったい何なんでしょうね。
召喚係のマニュアルを読んだ事ありますが、事細かに書いてありましたよあれ。それに比べて紙1枚で済むのに冊子にする必要性はあるのでしょうか。このマニュアル。
マニュアルにはステップ2以上の記載がなく、後は白紙のページがあるばかりでなんの役にも立ちません。ああ、日記帳くらいにはなるかもしれませんね。
とりあえず仕事しないと怒られますね。転生者を呼ぶにはゲート開けばいいのですね。この手順は召喚係と変わりません。変わる点でいえば生きているのか死んでいるのか。それくらいなものですよ。
しかしこれで私が転生係になった理由もわかりましたね。こんなマニュアルですぐに仕事ができるのは、優秀でなければできませんよ。
「ゲート……接続完了。ロック解除……オープン」
ゲートを開けると転生者の魂とその魂の情報が頭の中に入ってきます。
この情報、空間を構築する前に知るべきでありませんかね。まあ、魂が目覚めるまで時間ありますから、その間に空間くらい整えられますよ。私なら。
まあ今回はその必要は無いみたいですけどね。人間それも上位世界として有名な地球の日本人のようですから。それにしても、日本人という人種は大変ですね。上位世界の中でも特に、召還や転生の対象となることが群を抜いて多いんですから。おおよそ7割は日本人なのだそうです。まあそんな雑学はいいとしてそろそろ目覚めますね。
「ここは……」
「おはようございます」
「え?あっ、おはようございます」
「突然ですがあなたはお亡くなりになりました」
「え?亡くなった……」
「はい、亡くなりました」
ここまで落ち着いているというのも珍しいですね。パニックになることもあるので、その対処の用意をしていたのですが。まあ、必要ないのであればそれに越したことはないですね。
ちなみに対処というのは感情にリミッターをかけることで平常心を保つやつです。
入ってきた情報によれば、神が現世に遊びに出ているところを助け死亡、と。この神様何をしに現世に現界したんでしょうか。天界にも娯楽はあるというのに、はた迷惑なものですね。一応神を救ったと言うことで色々優遇対象であると。
名前は助神雲明ですか。これ名前的になんか神を助ける運命でしたみたいに思えるんですけど。まさかね?まあ天使ごときが神にいちゃもんをつけれる訳ありませんけどね。
「思い出しました。確か犬を助けて僕は車に引かれて」
「そうです。そしてその犬は実は神様で、あなたは神を救って死んだとして転生する権利を得ました。ある程度の優遇もありますよ。良かったですね」
「犬が神様」
「あんな犬が神様なんですよ。世も末ですね」
そもそも犬の姿で限界するとか馬鹿なんですかね。ホント神様のことはよく分かりません。人間の方が娯楽を楽しめるでしょうに。そもそも場所が、秋葉原?まさかこの神様、犬の姿でスカートの中覗いてたりしませんよね。まさか神様がねぇ?覗きなんて。とりあえず神様に報告だけしときましょう。神のことは神に任せるのが一番ですので。
「えっと転生?」
「転生です。ライトノベルなどでよくあるアレですよ。ご存知ありませんか?」
「少し知ってます」
「であれば話しは早いですね。あなたの転生する世界は所謂ファンタジー世界です。魔法もドラゴンもいる世界で、ステータスもあります」
「ファンタジー世界、ステータス……」
転生する世界は助けた神の管理する世界ですか。しかしこの世界相当ライトノベルの影響を相当受けていますね。魔王に勇者に邪神にと色々詰め込みすぎでは。しかも勇者召喚をしようとしていますね。今すぐではありませんがこの人が転生して成人する頃には召喚しそうですね。
これでも天使ですので未来視が可能です。大雑把にですけどね。それにしてもこれは波乱が待っていそうですね。
「危険もありますが、場所によっては安全なところもあります。まずは生まれを決めましょう」
「生まれですか」
「はい、基本的には人族をおすすめしますが」
「えっと出来れば安全な種族がいいです」
「安全……安全ですか」
安全となると人族ですが、さてこの世界の種族的にはどうでしょうか。ふむ、ふむふむ。これは随分とカオスな世界ですね。悪魔に天使までいるとは。安全となると天使と人族のハーフが身体能力的に安全でしょうか。幸い堕天使が貴族と結婚するようですし。
「人と堕天使のハーフでいかがでしょうか。そう簡単には死にませんし。貴族の家ですので生後直ぐに死ぬこともありません」
「じゃあそれで」
この人、危ういですね。いえ、情報が少ないので私任せというのが最も最善ではありますが。少しぐらい疑問を持ってもいいでしょうに。まあ私が担当である以上、最も安全で最も過ごしやすい環境とステータスにしますけどね。
「ステータスはご自分で決めますか?私が決めても構いませんが」
「お願いします。あんまり詳しくないので」
「分かりました。ちなみに剣と魔法どちらを使いたいですか?」
「体を動かすのは得意じゃないので、魔法でお願いします」
「分かりました」
基礎性能はいいですね。さすが人間と天使のハーフ。魔法ということですからそうですね。全魔法適正、レベルアップ時ボーナス、成長速度増加(大)辺りでしょうか。
後は運は良い方がいいでしょうから、運も上げて。ああ、忘れていました記憶の継承もしなくては行けませんね。これしないと単なる輪廻転生と変わりません。じつはこれを忘れる転生者多いんですよね。
一見このスキルはチートにも見えますが、努力をしなくては強くなれないので、チートではないんですよね。チートと言うのは努力しなくても強いスキルのことを指すので。あともう少し優遇できますね、ここは私の加護でもつけておきましょう。
私の加護もないよりはマシでしょうから。ちなみに私の加護は縁結びの加護。運も高いですし、良縁に恵まれるでしょう。
「確認をしてください」
「こんなにいいんですか?」
「大丈夫です。あなたの努力次第では、全く意味をなさない可能性もありますから。その代わりあなたの努力する限りは、そう簡単に死なないでしょうね」
「努力次第……」
「はい、努力次第です。あとは転生するだけですが。何かありますか?」
「ありませんありがとうございました」
「いえ、これも仕事ですので。では新たなる人生、お楽しみください」
「本当にありがとうございました」
そう言って助神雲明という魂は消えていきました。
「あそこまで終始礼儀正しいとは思いませんでしたね。そうですね、これは私からの餞別です」
生まれる彼にちょっとしたプレゼントを。天使と人のハーフであれば扱えるはずですからね。干渉のし過ぎは行けませんが、これくらいなら干渉にはならないでしょう。あの世界の物が彼の元にたまたまやってくるだけですから。
「今日休みででしたか。じゃあ二度寝しましょう……」
それからの業務は彼ほど礼儀正しい魂が現れることはなく。その代わり荒っぽい魂もなかったのですが。まあ淡々と仕事をこなしていきました。そして迎えた休日。
天使にも休日はあります。ブラック企業じゃありませんからね。とは言ってもすることといえば、私物の紅茶と茶菓子を買うくらいで暇を持て余していました。
「そう言えば例の彼はどうなりましたかね」
例の彼とは。私が最初に担当して加護を授けた彼です。暇ですし少し覗いて見ましょうか。
仮想体を作り出し世界へと接続します。
スっと意識が沈み直ぐに浮上すれば、そこは彼のいる世界です。
ちなみにこの仮想体は、目立たぬように平民を元に作り出しました。とはいえそのように見えるだけで、同じ天使から見れば私は天使の姿で見えるでしょう。
あくまでこれはそう見せているだけですので。
「さてここは予定では彼の生まれた貴族の領地ですが」
世界へと接続し現在位置を確認します。間違いはないみたいですね。ついでに現在の世界情勢と彼は何をしているかも調べましょうか。
ふむ、魔王の誕生の兆しあり。勇者召喚は既に行われていますね。現在は学園にて修行中と。
少し早いですが、私の未来視では多少ズレてしまいますね。彼の成人まで一年ほどあるようですから誤差は一年ですね。
さて彼は、同じく学園にいるのですか。勇者との接触はないようですね。そうなると学園のある町へ行くのが良さそうですね。
「座標指定……ルォルテット街の路地裏。周辺一帯のサーチ………完了。隠蔽術式……完了。転移開始」
周辺の空間が歪み、次の瞬間には入り組んだ路地裏に私は立っていました。
周囲に生物の気配無し。隠蔽も問題ありませんね。それでは彼をそれとなく探してみるとしましょうか。
路地裏を抜け大通へと進んでいきます。彼の通う学園を中心としたこの街では、学生の姿をあちこちで見かけます。
何より今日は学園が休みのようですしね、遊びに出る生徒も多いのでしょう。
「彼と会う前に、この街を観光するとしましょう」
仮想体による現界に関して、規制がある訳ではありませんが。世界に大きな影響を与えることは禁止されています。何より天界でもできることは多いですから。私は基本的に現界をしません。今回は特別です。私だって暇では無いので。
大通に出れば直ぐにいい匂いが風に乗って私の元まで来ました。周りにあるお店からではありませんね。これは広場の方でしょうか。
匂いにつられるまま、広場に立ち入ります。広場では吟遊詩人が歌を歌い、大道芸人が芸を見せ、そのまわりには屋台が立ち並んでいました。
お祭りでもないというのにすごい賑わいですね。立ち並ぶ屋台の中から興味のある屋台に立ち寄ります。
「すみません一つ下さい」
「あいよ、銅貨二枚だ」
「銅貨二枚です」
この世界ではまず見かけないものだと思われますが、これも勇者召喚の影響でしょうか。
私の手に持っているものは彼のいた世界でクレープと呼ばれていたものです。おそらく勇者が伝えたのでしょう。彼がこのようなことをするとは思えませんし。
中央の噴水を眺めながらベンチに腰かけ調べ物をします。もちろんクレープは食べつつ。
「たまにはこういうものもいいですね。さて……やはりですか」
この世界過去にも勇者召喚がされ、その都度知識がもたらされていたようですね。このクレープはどうやら今代の勇者が広めたもののようですね。男のようですが、甘いものを多く広めているようですが。
ふむ、どうやら近くにいる女の子へあげるためのようですね。具体的な知識はなく、断片的な知識を料理人が試行錯誤をして作り上げているようですね。
あいまいな知識だったために、試行錯誤が繰り返されより良いものを作ろうとしていると。いい影響も与えているようですね。
性格言動ともに召喚以前よりも傲慢に、つまりは勇者だとわっしょいされて浮かれているようですね。そこまで酷くはないみたいですが、周囲に女の子を侍らせていると。正直お近付きになりたくありませんね。そういう人間は苦手なので。そうなると召喚係にならなくてよかったかもしれませんね。ありがとうございます、神様。
それに比べて彼は誠実なようですね。領地や家族のために努力をし、良縁にも恵まれているようです。
たゆまぬ努力によりその才能も順調に育っているようですね。
その力も周囲に見せびらかすのではなく、謙虚にしかし必要な時は惜しみなく使っている。彼は真面目に努力を重ねているようですね。何より何より。
「この気配は、勇者?」
クレープを堪能しつつどう彼に会いに行くか考えている矢先、異質な気配感じました。神気というものですね。それを感じとり周囲をサーチすると勇者がいました。
まだ距離はありますが触らぬ神になんとやら。勇者に関われば世界に影響を及ぼす可能性がありますから、隠蔽をさらにし重ねた上でこの場を去ります。
しかし広場を離れましたが、依然として勇者の気配は近くにあります。それどころか段々近く、それも私を追っているような動きです。隠蔽に隠蔽を重ねたのですが、これは私を認識している?
本来であればありえないことですが、勇者である以上なんらかのスキル。つまりはチートによって私を認識している可能性が高いです。それも私を天使と認識して。
大方私に声をかけようとしているんでしょうか。仮にも天使なので、見た目に関してはそれなりですし。自惚れではありませんよ、天界は美男美女しかいませんから。でも勇者に見られていないはずなのですがね。勇者の情報にアクセスしましょうか。あーんー。なるほど、千里眼にマップですか。マップの能力で私を見つけて、千里眼で私の姿を見て追ってきていると。
面倒ですからここから離れた上で彼の近くに転移しましょう。居場所は既に調べてありますし。
十分に離れた上で転移をします。さすがに転移してしまえば追ってこれないでしょうから。あとは私の存在の書き換えも行いましょう。マップには別人として表示されるように。
「座標指定……完了。周辺環境サーチ……完了」
歩きつつ準備を進めます。その間にも勇者は私との距離を詰めつつあります。急ぎましょう。
「隠蔽……完了。転移開始」
建物の影に入った瞬間転移をします。痕跡をたどれないよう隠蔽もしましたし。大丈夫なはずです。
転移したのは書店、それも魔法関係を専門の書店の近くです。彼は魔導書を探しているようですね。
「感心感心、そのまま己を高めてください」
店に入れば気づかれる可能性もあるので、外から彼を眺めます。透視なんて朝飯前なので、壁があっても見えないということはありません。
どうやら難しい魔導書を買うようですね、努力の成果ということでしょうか。
そうやって眺めていると彼はキョロキョロと当たりを見回し、そして何故か目が合ったような気がしました。
中から外はほとんど見えないはずですが、明らかに私の居場所をめざして歩いてきます。
彼は天使とのハーフですし。私の加護それにプレゼントもありますから、気がついても不思議ではありませんね。
「あなたは、あの時の」
「その先は言わないでください」
「すみません。えっと、ありがとうございました」
「急にお礼ですか?私は何もしていませんが」
「あなたのおかけでこうして学園に通えています。それにこれのおかげで家族を守れました」
そう言って彼が見せてきたのは指輪。私が餞別としてプレゼントとした物。一見指輪ですが魔力によって様々な物へと姿を変える、彼の武器でもあります。ステータス効果はなく単なる変形する指輪ですが、役に立っているなら良かったですね。
「それはプレゼントですよ。誠実なあなたへのささやかな贈り物です。それにあなた以外には扱えないので、他人からはゴミ同然ですよ」
「それでも、ありがとうございました」
「あなたという人は変わりませんね」
記憶を継承したのですから、当たり前ではありますが。育った環境では変わってしまいますからね。
彼に誘われるままに近くの軽食屋に立ち寄ります。お礼がしたいのだそうです。断る理由はありませんでした。
それから彼が転生してからの話を聞きつつ、食事をしていましたが。どうやらそれもここまでのようです。勇者が何故かここを嗅ぎつけ向かっています。しつこい男は嫌われるというのに。
「そろそろ私は帰ります。面倒事が近づいているようですので」
「面倒事ですか。会えてよかったです、ちゃんとあなたにお礼を言いたからったから」
「そうですか」
「最後にいいですか?」
「なんでしょう」
勇者が来るまでまだ少し時間がありますから、大丈夫でしょう。
「ちゃんと自己紹介をしていなかったと思って。アルエウス・エルフェンティアナです」
また随分と噛みそうな家名ですね。
「マーアリ。これでも上位天使なんですよ」
「マーアリさん、ありがとうございました」
「全てはあなた自身の努力の結果。私自身は少しのお手伝いを下まで。さようならアルエウス。あなたが誠実である限り私はあなたを見守っています。あなたに祝福あらんことを。では」
既に店がある通りまで勇者は来ています。少し話しすぎましたね。
「ありがとうございました。天使様」
仮想体との接続が途切れるその間際の言葉、聞こえてないと思ったのでしょうけど聞こえていますからね。まあ、プレゼントはもうあげましたから。これ以上何かをするつもりはありません。何せ彼には天使の祝福があるのですから。
「あのアーマリさん?」
「どうして……」
確かに仮想体との接続を切ったはずなのに。空間精査……完了。あの勇者っ!碌なことをしませんね。この店を囲うように結界が張られています。しかも魔王などを閉じ込めるようなものです。この結界から出ない限り、仮想体と接続は切れませんね。
「アルエウス、少し協力してもらえますか?」
「は、はいアーマリさん」
「やってもらうことは簡単なことです、私に妹として接してください」
「わかりました」
天使と人間の彼だからこそできることです。魂同調、変質。あのマップはおそらく対象の魂を検知するのでしょう。なので魂そのものを変質させます。ついでに見た目も似せてしまいましょう。ただここまですると後戻りはできません。
「ここにいるはずだ」
やって気ましたね勇者。あなたにかかわって何かあれば、始末書を書くのは私なんですからね。
「ではお願いしますね、お兄様」
「うん、アーマリ」
なかなかに肝が据わっているといいますか、動じずに演じられるというのは稀有な才能ですね。
それにしてもさっさと帰ってくれませんかね。迷惑です。
「勇者様本当にここにいるの?」
「そうよ、急に走り出して。ここに何がいるのよ」
勇者と一緒に女の子が二人が入ってきましたね。露出の多い服を着て恥ずかしくないのでしょうか。
急に入ってきた勇者一向に店の人たちはあまり驚いてはいません。精神操作をしていますねこれは。
「アーマリもしかして」
「そういうことなのでお願いしますね。お兄様あれが食べてみたいです」
「いいよ、すみません」
「はいよ。何だい」
「これを一つお願いします」
「一つだね、すぐ持ってくるよ」
気前のいいおばさまが注文を取ってくれました。楽しみですね、このような状況でなければ。さてと勇者のほうは店員と話しているようですね。私のことを聞いていますが、意味はないでしょう。私が天使だとわからないのが普通なんですから。
「ちっ!」
テーブルを一つ一つ見ていくつもりですか。さっさと帰ればいいのに。
「注文の鶏肉の野菜炒めだよ。銅貨五枚ね」
「美味しそうですね、お兄様」
「そうだね。今お皿に取ってあげるから待ってね」
そろそろ来ますね。
「ん、おいそこのお前」
「なんですか?」
「そこの子供はお前の妹か」
「そうですが」
さすがに気づかないようですね。見た目も似せたので妹だと認識しているようです。
「可愛いな、俺の小間使いにしてやる。悪い話じゃないだろう?」
は?
「は?」
さすがに開いた口がふさがりませんよ。兄さまに至っては「は?」って言っちゃってますし。だめですよロリコンで変態で犯罪者でも勇者なんですから。
「妹をあなたの小間使いにするつもりはありません。失礼します」
「お兄様っ」
私の手を引っ張って店から出ていきますが、結界で外に出ることはできません。
「この結界のせいですか、アーマリさん」
「そうです、お兄様。ですが勇者に逆らってしまいましたし、ここは力業で」
「僕が壊しますから、アーマリさんは見ててください」
「わかりました」
ちなみに勇者は断られると思っていなかったみたいで固まっています。
「術式展開……ホーリーレイ!」
光の魔術ホーリーレイ。いわゆるレーザーというやつです。周り柄の被害を考慮し空に放たれたレーザーは簡単に結界を破壊してしまいまいました。
「さあ逃げましょう」
「そうですね、お兄様。これから末永くよろしくお願いします」
「え?末永くって」
「魂を変質させてしまったので、帰れなくなってしましました。大丈夫です、本体の方は仕事していますから」
「本体?仕事?」
「とにかく逃げましょうお兄様。ロリコンで変態な勇者が来てます」
「わかった」
帰れなくなりましたが、これはこれで楽しそうなのでよしとしましょう。
「あっちは楽しそうでいいですね。ほんとうらやましい」
そこはテーブルと椅子だけがある真っ白な空間。今日もそこには一人の天使が仕事をしていました。
「さて始めましょう。ゲート……接続完了。ロック解除……オープン」
今回もまた日本人ですか。災難ですね。
「ここは……」
「突然ですがあなたはお亡くなりになりました」