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女神  作者: 南あきお
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壊れゆく日常

翌朝。

俺は、通学途中にカワイ子ちゃんの働くコンビニに行ってみた。


しかし、今日も彼女は居なかった。

シケた店長の話によると、彼女とは未だに連絡を取れずにいるらしい。



「まりあちゃん、どうしちゃったんだろうねぇ〜」

「今までに突然、アルバイトを休んだりする事とかあったんですか?」

「いやいや、ないよ〜。まりあちゃんは働き者でねぇ〜、週に6日フルタイムで働いてもらってて、遅刻もした事ないし、病気で休んだりもなかったよ〜」

「そうだったんですか……」



仕事が嫌になったからといって、突然、無断欠勤するような子には見えなかったけどなぁ。

毎朝、ひたむきに働いていたし、当たり前のようにあのコンビニに居た。

学校帰りや、時には学校が休みの日にもコンビニに行った事もあるけれど、ちゃんと真面目に仕事をこなしていた。

アルバイトをバックレたりとか、そんな事するタイプじゃない……と、思う。

やっぱり何かあったんだろうか?

事件に巻き込まれたとか……。

まさか、そんな事はないよな。

でも、心配だ……。



渡せないままのラブレターは、鞄の中にしまってある。

今日は学校で、ずっと彼女の事ばかり考えていた。

授業も全く頭に入らない。

今日は友達と遊びに行く気分にもなれず、俺は早々と家路についた。



「ただいまー!」



家の中はひっそりとしていた。

誰も居ない。


母さんは買い物にでも行っているのだろうか?

いつもなら、この時間には晩飯の準備をしてるっていうのに、珍しいなぁ……。


俺はリビングのテレビを点けて、スマホをいじりながらも、いなくなってしまった『棚橋まりあ』(タナハシ・マリア)の事を考えていた。


ラブレター、どうしよう?

このまま渡せないなんて嫌だな。

きちんと彼女に想いを伝えたい!

でも、今、棚橋まりあという女の子はアルバイトを無断欠勤したまま、連絡も取れないらしい……。

彼女は一体、今、何処でどうしているのか……?


しばらくして、父さんが会社から帰宅した。



「おかえりー」

「純か……。母さんは?」

「まだ帰って来てないよ。買い物にでも行ってるんじゃねぇーの?」

「なんだ、飯はまだか! まったく!」



父さんは、機嫌が悪い様子だった。

いつもなら、些細な事では怒らないっていうのに。

最近は、ずっと暗い表情をしている事が多いし、酒を飲む量が増えた。

会社で何か嫌な事でもあったのだろうか?


21:00


もう夜になってしまったというのに、まだ母さんは帰って来ない。


母さんは“超”が付くほどのアナログ人間で、このご時世だっていうのに携帯電話を持っていない。

なので、母さんと連絡の取りようがない。

今時、老人だってスマホくらい持っているっていうのに……。


父さんは、ふてくされて酒を飲んで寝てしまった。

父さんは妙にピリピリしていて、声を掛けにくかった。


俺はとりあえず、家にあるスナック菓子を食べて母さんの帰りを待っていた。



母さん、こんな夜まで何処ほっつき歩いてるんだ?

近所の主婦と女子会……女子って歳でもねーか。

主婦友達と、どっか行ってんのかな?

でも、いつも何処か行く時とか夜遅くなる時は、ちゃんと何処に誰と行くって言うし、晩飯も作って置いておくのになぁ。

こんなに夜遅くまで家を空ける事って、滅多にないのになぁ。

あぁー、腹減った……。

限界。

もう、コンビニで弁当でも買ってきて食べようかなぁ。



俺は空腹に耐え切れず、あのシケたコンビニに行こうと思った。

もしかしたら、また何か進展があって、棚橋まりあと連絡が取れたかもしれないし、ついでにコンビニ弁当も買えるし。



俺が玄関を出ようとしてスニーカーの靴紐を結び直しているその時だった。

母さんが帰って来た。

俺は、母さんの姿を見て驚き、叫んだ。



「か、母さん!? なんだよ、その格好ッ!?」



母さんは年甲斐もなく、頭に大きなリボンを付けていた。

胸元の開いたカラフルなピンク色のミニワンピースを着て、その上からシースルーの白いブラウスを羽織っていた。

それまで生やしっぱなしだった前髪はバッサリと切られ、カールしていて、薄く梳かれていて、オルチャン前髪とか何とかいうのみたいだ。

いつも化粧なんて全然しないのに、今日はバッチリ化粧をしている。

香水も付けているみたいだ。

薔薇の香りがする。

その母さんの格好や化粧は、まるで、母さんが最近ハマっている韓国ドラマのヒロインの格好そのものだった。


しかし、どう見ても似合っていない!

ドラマのヒロインが着ると似合う格好でも、今年54歳になる母さんが着るとホラーだ。

ちょっと、イカれちまったオバチャンっぽい。



「あら、純じゃないの」

「ど、何処に行ってたんだよ!? 晩飯も作らずに! それになんだよ、その格好!?」

「……お父さんは?」

「もう寝ちゃったよ」

「そう……」



母さんは、俺の質問を無視して、寝室で寝ている父さんのもとへと家の中に入って行った。

なんだか様子がおかしい母さんの後を追う俺。

母さんは、ベッドで眠っていた父さんを叩き起こす。



「あなた、起きて! 話があるの!」



父さんは、しぶしぶ起きた。



「……なんだっていうんだ、お前。こんな遅くまで、何処で何をしていたんだ?」

「話があるんです!」

「何だ? それに、その格好はなんなんだ?」

「あなた、離婚して下さい」



はぁ!?

離婚ッ!?



「な、なんだってーーーッ!?」



父さんと俺は、同時に声を上げた。

母さんは、花柄のトートバッグの中から離婚届を取り出し、それを父さんに突き出す。



「他に好きな人ができたんです。私は、その人と一緒になります」

「ふ、ふざけるなッ!! お前は、自分が何を言っているのか分かっているのかッ!?」

「もう、決めた事ですから。今までお世話になりました」



突然すぎて事態を全く呑み込めない。

離婚だって!?

他に好きな人ができたって……浮気か?

今までそんな素振りなんてなかったのに?



俺は、恐る恐る母さんに声を掛けた。



「ちょ……か、母さん……」

「純、ごめんね」



母さんの瞳には、決意のようなものが宿っていた。

呆然とする俺と父さんをよそに、母さんはそのままトートバッグひとつで家から出て行ってしまった。

考えたり、何か反論する猶予さえ与えずに、風のように颯爽と去って行ってしまった。



母さん……

どういう事だよ?

どうしたっていうんだよ?

どうして俺と父さんを置いて、他の男となんて……。



俺の平凡な毎日が、音を立てて壊れてゆこうとしていた。


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