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女神  作者: 南あきお
1/9

コンビニで働くカワイ子ちゃん

挿絵(By みてみん)



7:25



ジリリリリリリリリリ!!



目覚まし時計が部屋中に鳴り響く。

俺は、寝ぼけまなこで目覚まし時計を止める。

そして、二度寝をした。



ピピピピピピピピピピ!!



次は、スマートフォンのアラーム音が大音量で流れる。

俺は、それも止めて布団に潜り込んだ。



……朝は苦手だ。

低血圧かな?

まだ春の陽気が残っているせいか?

眠たくて眠たくて、寝足りない……。


しばらくすると、母さんが怒鳴りながら二階の俺の部屋まで上がって来て、俺を起こしに来た。



「純!! あんた、いつまで寝てんのよ!! 遅刻するわよッ!!」



……うるせーなぁ。

朝から、そんな大声出すなよ。

近所迷惑だろ。


俺は、のそのそとベッドから起き上がった。


こうして今日もまた、一日が始まる。

いつもと変わらない日常。


朝食を食べ、高校まで自転車で登校する。


通学途中、俺は毎朝、いつものコンビニに立ち寄る。


飲み物や菓子を購入するためだ……というのは建前で、本当は、そこでアルバイトをしているカワイ子ちゃんに会うためだ!


コンビニで働く彼女は、いつも頭にカチューシャを付けていて、サラサラとした綺麗な髪の女の子だ。

顔は、アイドルグループに居てもおかしくないくらい可愛い。

最近は、アイドルグループのヴィジュアルのレベルが全体的に低下しているから、このカワイ子ちゃんでもアイドルになれる気がする。


──いや、テレビに出てくるアイドル集団の一員よりも可愛いぞ!

テレビとかグラビアに出てくるアイドル集団の一人一人、誰が誰だか分かんねぇし、正直、ブスばっかりだもんな。

こんなのでもアイドルになれるのかって思うくらいだぜ。

そんなアイドルたちなんかよりは、はるかに可愛い!

マジで可愛いッ!

もしアイドルグループに入ったら、即センター間違いなしだな!


どうしてこんな立地条件の悪くて、流行ってないシケたコンビニでアルバイトなんかしているのだろうか?

年齢は、俺と同じくらいに見えるが、この朝の時間帯に働いてるって事は、フリーターなのだろうか?


カワイ子ちゃんのコンビニの制服には、『棚橋』(タナハシ)と書かれた名札のバッジが、胸元に付いている。

苗字は棚橋さんというらしい。

可愛い顔をしているが、どことなく幸の薄そうな女の子だ。



「168円になります」



清涼飲料水を買う俺に、彼女が小さな声で言う。


いつも声が小さい。

そこがまた可愛い!

なんだか儚げで、守ってあげたくなってしまうッ!


俺の顔、覚えてくれてるかな?

半年前、彼女がこのコンビニで働き出してから、学校がある時は毎日来てるもんな。


あぁ、声を掛けたい!

でも、勇気がない!

いつも「はい」とか「いいです」とか返事するだけだ!

あぁ、もどかしい!



「ありがとうございました。また、お越し下さい」



会計を済ませ、カワイ子ちゃんが言った。

俺は、何度か彼女のほうをチラ見しながらコンビニを後にし、学校に向かった。


あぁ……今日も可愛かったなぁ。

なんであんなに可愛いんだ?

あんな可愛い子、うちのクラスの女子には居ないぞ!

いや、学校全体の女子でも、あんなに可愛い子は居ない気がする。


高校に到着。

教室に入り、クラスメイトたちに挨拶する。



「おはよ!」

「おう、純、おはよ!」

「今日もまた一段と可愛かったぞ〜! あのコンビニのカワイ子ちゃん!」

「お前さ、マジで毎朝そのコンビニ通ってんのか?」

「当たり前だろ」

「そういうのってストーカーって言うんじゃね?」

「そんなんじゃねぇーよ」



友達と他愛もない会話をして、そして今日もまた、退屈な授業が始まる。


──俺は、毎日が退屈で仕方がない。


朝、起きて、母さんが作った朝食を食い、コンビニに行ってカワイ子ちゃんに会い、そして学校に行き、適当に授業を受け、学校が終われば友達とツルんで遊びに行く。

そして自宅に帰り、母さんが作った夕食を食って、テレビを見て、スマホでネットを見たり、オナニーして、そして、風呂に入って寝る。

毎日、同じ事、同じ事の繰り返し。


カワイ子ちゃんに声を掛けられない事以外は、特に不満はない。

かといって、満足な訳でもない。

可もなく、不可もなく、そんな毎日……。


普通に友達もいるし、クラスにも馴染んでいるし、過去には付き合った事のある彼女もいたし、部活には入っていないけれど、同じような帰宅部の連中とツルんで、毎日それなりに穏やかな日々を送っている。

流されるまま、流されるまま、ここまで来たって感じだろうか。


夢や目標も特に無いし、このまま適当に進学して、適当な会社入って、適当に結婚して子供作って、適当に死んでいくのだろう……。


──そんなの嫌だッ!!


そんな普通の人生なんてクソくらえだ!

俺は、何か大きい事をやる!


……とは思ってみても、特に何かの才能がある訳でもないし、ルックスが飛び抜けて良い訳でもないし、成績も運動神経も並だし、特別モテるタイプでもないし、家も金持ちな訳じゃない。

中の中の中流家庭ってところか。


本当に“普通”だ。


でも、何かをしたい!

燃えるような恋だっていい!


……恋。


そうだッ!

明日の学校帰り、カワイ子ちゃんに手紙を渡そう。

もちろん、ラブレターだ。


もう、退屈な毎日は嫌だ!

俺だって、燃えるような恋をしてみたいッ!


そんな事を授業中に考えていた。


放課後、友達たちと教室で喋る。

でも、恋文を書く事は、みんなには言わないでおいた。

今時ラブレターなんて、なんだか馬鹿にされそうだし、恥ずかしかったからだ。

今はアプリで連絡先の交換をしたり、SNSで繋がるのが主流だもんな。

アプリで連絡先を交換しようとしたり、SNSで繋がろうとしても、彼女は仕事中だからスマートフォンを使えない可能性もあるし……。


家に帰り、早速、俺はラブレターを書き始めた。

しかし、“普通”な俺に文才がある訳もなく、上手く書けない。

まず、漢字が上手く書けない。

いつもスマホに頼って文字を入力する事が多いせいか、手書きで書くと、なんだか変になる。

内容も何と書いて良いのか分からない。

コンビニで働くカワイ子ちゃんとはまともに話した事もないし、『君が可愛いから好きになった』とルックスだけを褒めても、『顔だけしか見てないのね』と思われそうでマイナスかもしれないし……

でも可愛いのは事実だし、それ以外で何と書いて良いのやら……。


結局、俺は、翌朝までラブレター制作に時間を費やしてしまった。

一睡もできなかった!

内容は支離滅裂だとも自分では分かっていたが、『好きだ』という情熱は伝わるだろう……

……と、思う。

たぶん。


一睡もせずに仕上げた拙いラブレター。

眠れなかったから、今朝は目覚まし時計もスマホのアラームもオフにしておいた。



「純!! 朝よ!! 起きなさいッ!!」



だが、いつものように母さんが俺を起こしに来る。

寝てねぇーんだから起きてるっつーの。



「起きてるよ!」

「何よ! 起きてるなら下りてきて、早く朝ご飯食べちゃいなさいよ!」



俺は支度をし、朝食を食べた。


今日は、いつもの毎日のようで、いつもと同じ毎日じゃない。

今日は“普通”な俺じゃないぞ!

だって、生まれて初めてラブレターを渡すんだからな。

今日は、いつもと違う行動パターンでいこう。


朝は、コンビニに立ち寄らずに登校した。

ほとんど毎朝、カワイ子ちゃんに会っていたからか、禁断症状のように彼女の姿を見ないとウズウズしたが、そこはなんとか我慢した。


いつも適当に受けている授業も真剣に受け、昼食もいつもと違う場所で食った。


学校が終わっても友達とは遊びに行かず、教室に残った。


やがて教室は、俺ひとりだけになった。


心の準備をする……。

一睡もできなかったせいか、少し眠いが、少しぐらい眠いほうがラブレターを渡す時に緊張が和らいで良いのかもしれない。



「よしッ、行くか!」



そう言って、自分に喝を入れた。

そして俺は、ドキドキしながら、あのカワイ子ちゃんの働いているコンビニに向かった。


胸の高鳴りを抑えながらコンビニに到着し、中に入る。

しかし、何故か彼女の姿はなかった……。



「すみません、アルバイトの女の子、今日は休みですか?」



俺はシケたコンビニの、シケた店長に尋ねた。



「へぇ? 女の子~?」

「ほら、あの、いつもカチューシャ付けてる! 棚橋ってネームプレート付けてる女の子です」

「あぁ~、まりあちゃん? あの子ねぇ~、今日は来てないんだよ~」



あのカワイ子ちゃんの下の名前、『まりあ』っていうのか。

チクショー、可愛い名前だな!



「今日はアルバイト、休みなんですか?」

「いや、それがねぇ〜朝から連絡取れなくってねぇ~。どうしちゃったんだろうねぇ~まったく。オジサン困っちゃうよぉ~、フハハハ」



こちとら意を決してラブレターを渡そうと意気込んで来たっつーのに、暢気なオッサンだ。


……無断欠勤か。

彼女に何かあったのだろうか?

とりあえず、今日は撤退だな。

また明日、来てみよう。


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