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被害者と加害者

 朝目が覚めると、既に師匠はどこかに出かけていた。

 まぁいつもの事だ。


 日課の鍛錬を済ませ、宿の食堂で朝食を取っていると、魔術協会の受付シャナが近づいて来るのが見える。


「おはようございます!出発前の挨拶に来ました!」


「それはご丁寧に、ありがとう。まだ時間があるならお茶でも飲んでいきますか?」


「喜んで!」


 紅茶と軽いお菓子を頼むとシャナを見る。


「どうしました?」


 さて、ここから謎を解き明かすことにするか。

 特級魔術士の存在を知っているこの子の裏に一体何があるのか。

 師匠のいない今、これは僕の役割だ。

 いきなり切り込む。


「単刀直入に聞くけど、なんで特級魔術士の存在を知っていたのですか?」


「うーん、やっぱりそれを気にしていたのですね。私も初めて本物にお会いしました。マスターもご存知なかったみたいですし。」


 特級魔術士は魔術協会の役職一覧にも、魔術協会法の本文にも記載が無い。

 では、どこに特級魔術士などと言う異質な役職な規定されているかと言うと、制定以降何度となく追記された改定日を記載する別紙の補足にあるのだ。

 法的には条文全体の構成要素として、成り立つのだが、こんな所専門家でも無ければ誰も気にしない。

 あえて本文に追記しないあたり、意図的に施されたとしか思えず、何者かの作為を感じずにはいられないのだ。

 そんな、規定はするが認知はさせない様、巧妙に規定された特級魔術士の記載をこの若さで把握している、只者では無いはず。


「僕は今回の一件の裏に君の……」


「私、王都にいたのです。」


……


 何のことは無い、王都にあるこの国の魔術協会本部で先月まで法務部門にいたとのこと。

 法務部門はその名の通り、魔術協会全ての法を扱う専門部門、知らない訳がない。

 しかも彼女はバリバリのエリートで、昇進前の地方研修の一環として、エテルナに配属されていたらしい。

 昇進すると魔術協会全体の序列としては彼女の方がマスターより偉くなる。

 魔術協会が行っている幹部候補生の地方研修は、本来の役職や序列を隠し、入りたての新人として派遣されるので、マスターは彼女が本部のエリートとは知らないらしい。

 調子に乗っていたら、実は部下が上司だったと言うドッキリの様なオチが待っている。

 なので、僕らが動かなければ彼女が本部に今回のマスターの一件を報告していたらしい……


「マスターには内緒にしておいてくださいね」


 人差し指を口に当て、いたずらっ子の様に微笑む。


「あ、ああ、分かりました。バレると色々とやりにくいのは理解出来るから、公言しないと誓いますよ。」


 晴れ晴れとした笑顔でお礼が返って来ると、一転、真剣な口調で身を乗り出して来る。


「私も聞きたい事があったのですが。」


「ん?」


「昨日スラム街の方で火柱あげたのは、レオ様達ですか?」


「なっ!何故それを???」


 しまった!自白してしまった。

 ここはなんとかやり過ご……


「いやいや、気づかないと思ってるのがビックリです。あんな威力の炎見たことありません!それが何本も、街中で噂ですよ。大規模な魔法が行使され、しかも目的が不明とあっては魔術協会としても放置出来ませんので、目下調査中です。

 場合によっては軍やギルドと連携した厳戒態勢を敷かなければならないということで、朝から街の上層部は駆けずり回ってます。すっかり騒動になってますが、一体何があったのですか?」


「いや、黒ローブの魔術士がリーダーの得体の知れない集団に襲われたので返討ちに……」


「それ、商人ギルドの関係者じゃ……」


 被害者から加害者になりそうな予感。

 これはマズイ。

 昨日の態度から師匠は既に無かった事にしている。


 責任は僕だ……


「な、なんとかなりませんか……」


「……ひとつ貸しですよ」


 どう揉消すのかは、知らないし、知りたくも無い。

 ここは彼女に任せるしか手は無いのだから、僕も我関せずを決め込む事にした。


 こうして、壮大な陰謀説はここに幕を閉じた。


 頼もしきエリート、シャナを心から丁寧に見送ると、入れ違いに師匠が足早に戻って来る。


「出るぞ、用意しろ!」


 言い放つと出口に向けて踵を返す。


 用意しろとは、してあるだろうと同意語だ。


 旅に必要な物は常に持っているのだから、師匠の呼びかけにも迅速に対応できる。


 街の騒ぎ、と言っても僕らが原因だけれども、ほとぼりが冷めるまで少し街を離れられるのは好都合かも知れない。

 すぐに席を立ち師匠の後を追う。


 珍しく、語気が荒い。

 緊急事態なのは分かる、何かあったのだろうか。

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