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師匠の下着は

「たくっ、毎度毎度……」


「いつまでも終わったことをグズグズ言うとは情けなく無いかな?私はそんな君を見ていたくは無いのだが」


 翌朝目覚めるとベッドに彼女はいなかった。

 着替えを済ませ、髪を整え身支度を済ませ部屋を出る。

 三階の角部屋だったのは階段を降りて見て分かった。

 一階に降りるとそこは食堂が併設されていて、奥の席で貢物を食す彼女を見つけ近づく。

 愚痴の一つもとは思ったが、朝食の前では無粋だ。


 無言で対面に座ると、陽気な女給が朝食を並べる側から黙々と食を進める。

 うん、美味い!

 一通り食べ終わるのを眺めた彼女に促され裏通りに向かった。


 そして、今だ。


 師匠のツンデレ理不尽が炸裂すると毎度このやり取りになる。

 ダメ男を調教する良い女みたいな構図ではあるのだが、ダ女神っぷりも凄まじい、残念師匠だ。

 そこも可愛いと思えてしまうのは既に調教が完了しているからなのか……


「ところで、どこに向かっているのですか?」


 アホな思考は捨てて話しかける。

 常に師匠の半歩斜め右後ろ。

 ここが今の僕の定位置だ。

 杖を右手に持つ僕が咄嗟に前に出れる位置であり師匠の行動を決して阻害しない場所。

 弟子になりたての頃は左斜め後ろが弟子の定位置と言われた。

 師弟制度には厳格なルールがいくつもあり、立ち位置もその一つ。

 師匠に遠く及ばない弟子は、一人前になるまでこの位置で師匠に守られるのだ。


「今日から右側を歩こうか」


 朝の身支度を手伝って貰いながら伝えられた時は思わず抱きしめた。


 ようやく認められた。


 守られる存在から横に立つ権利を得た。


 あの時誓った想いは弟子の矜持として今の僕を作り上げている。


「今朝、不穏な話を宿で聞いたので、ちょっと調べてみようと思って来たのだが、当たりだったみたいだな」


 敵意が僕の飛ばした意識に引っかかる。


「師匠、この先に開けた所があります。そこで動いて来るかと」


「事前に探知出来るのは便利なものだな。人数は?」


 疲れるし、よく出来た弟子がいるのに師匠が出しゃばるものではないと言って、出来るのにやらない。

 そんな訳で索敵、警戒、探知、鑑定が全部僕の役割となっている。

 間違えるとお仕置きと言う名の修行が待っていたので、物凄いスピードで精度が上がった。

 今では発動を意識する事も無く常時展開され、周囲の状況が分かる程なので、歩く速度は変えずに答える


「十六ですね。

 正面から十人、左右の物陰に三人づつ。

 魔術士は正面に六。

 物陰にいるのは全て弓です。

 全員剣か短刀を所持。」


「十六?」


「ずっと付けていたヤツは、先ほど無力化してます。全員殺りますか?」


「特級魔術士たるもの背後にいる、マスター。おっと!黒幕を聞き出すべきだと思うんだよね。」


 言っちゃったよ……

 既に魔術協会のマスターが僕らを亡き者にしようとしてるとこまで調べ上げているとは、人の意識を刈っておいて仕事熱心な事だ。

 ただ、解決までが早すぎて、何が何やら。



 道が開けると、十人が纏まって近づいて来る。

 ぱっと見浮浪者だが、歩き方と体の使い方が、素人では無い。

 その中から少し身なりの良い黒いローブを纏った男が前に出る。


 ちっ、色が被る……


 僕のマントも黒。

 物は雲泥の差、デザインも違うのだが師匠が僕にくれた主色が漆黒だ。


 昔からの名残で師は弟子に主色を与える慣習がある。

 それ以後は武器や防具、ローブにマントなど、身につける物であれば、あらゆる物に主色を基調とした配色を心掛ける。

 必然的にオリジナルが多くなって出費は増える。

 慣習なので強制では無いが、こうして常に主色と共にある事で色の持つ力を取り入れる事が出来るようになるらしい。


 師匠の主色は当然赤。

 本人曰く緋色らしい。


……気になりますよね?


……分かります!


……仕方ありませんね。


お答えしましょう!


下着は全て赤です!


「今余計なこと考えなかったか?」


「せっかく師匠がくれた主色が被ってるのが気に入らないので、殺って良いですか?」


「か、可愛い事を言うじゃ無いか。」


 うん、ちょろい。


「まぁ、出方を見てからにしよう。」


 男が前に出ると、他の九人がそれぞれの武器を握りしめ半円を描く様に取り囲む。

 それに呼応する様、物陰からは弓を引き絞る気配。

 躊躇の無いその動きが、単なる浮浪者や、ならず者では無い。

 間違い無く、相応の訓練を受けた者の動きだ。

 しかも、連携も相当仕込まれている。

 少人数を対象とした包囲戦としてはこの布陣が正解だ。

 その上、不測の事態にも対応できる格上相手として、この布陣を選んでいるのだろう。

 かなりできる奴が指揮を取っている。

 十中八九、目の前の男だろう。

 今一度、男を見る。


 「えっ!?」

 

 唐突過ぎて思わず声を出してしまった。


 男が口を開こうとしたその瞬間。



 彼は業火に包まれた。

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