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絶対防衛線

「では、どうしてもお二人で行かれると言うのですか?」


「ああ、私達でなければアレは止められない。」


「しかし!ベテランの冒険者でさえ……」


「師匠がこう言っているのですから大丈夫ですよ。ただ、不測の事態が無いとは言いませんので、皆さんには街の城壁で待機して頂けませんか?討ち漏らしがここに来ないとも限りませんから。」


 マスターとしては特級魔術士の僕らの力量は信用に値する。

 しかし、冒険者ギルドからの支援依頼という緊急事態では、何かあっては困るので、出来る限りの戦力は投入したいが、師匠が首を縦に振らない。

 という板挟みに苦しむマスター。

 気持ちは分かるのだが、僕らがある程度本気を出す必要があるならば、目撃者は極力減らしたい。

 その上での妥協点だ。


 不満はありつつも渋々僕らの要求を受け入れると、せめてと体力や魔力を回復させるポーションを持たせてくれた。

 なんだかんだで、心配してくれる気持ちは嬉しい。


 「では、行ってきます!朗報を待っていて下さい!」




「まったく気苦労が絶えないな」


「師匠が自己中だと弟子はそうなるんです」


 現在空を飛びながら移動中。


「獅子は愛しい我が子を……」


 と言って致死性の毒霧が充満し、獅子を一撃で葬る魔物の群生地に蹴り落とされた時に会得した魔法だ。


 獅子であっても、あの崖の高さから落ちたら死ぬし……


 ぐちゃぐちゃの泣き顔で落ちて行く僕を指差して大爆笑していたな……


「死ぬ気でやれば不可能は無い!」


 との有難い?お言葉を実践して会得した思い出深い魔法だが、今のご時世飛んでる人を見たことが無い。


 魔術協会から飛び立った時、みんなポカンとしていた……

 後で説明が面倒だ。


 大体、権力で黙らせて来たので今回もこの手だろうが隠密行動が基本!はどこに行ったのだろうか。



「聞いていた話と大分違いますね」


 見えて来た魔物が予想以上に育っている。

 当初の話ではせいぜい民家レベルだったが、ちょっとした屋敷ぐらいの大きさがある。


「ああ、全体が見える所から様子を見てみよう。迂闊に近づくなよ」


 五百メートルほど離れて浮遊する。


「こ、これは……」


 そこにいたのは巨大な向日葵だ。


「どうやら一段階成長している様だな。水分なのか、土の栄養分なのかは知らんが、随分と生きがいい。」


 全長五メートルはあろうかという巨大な向日葵の様な花はバランス的にはタネの部分が小さく花の部分が大きいが、鮮やかな禍々しい黄色だ。

 違うのは、そこから緑色の触手が何本も生えタコの様にうねりながら草原をゆっくりと進んでいるのだが、その周りにも眷属と思わしき同型の魔物が数十、うようよと付き従う。

 一見するとお花畑の大移動とメルヘンな例えも出来るが、魔物は魔物だった。


 草原を移動しているのだが過ぎた後には、砂漠を従えるかの如く、広範囲に枯れ果て砂漠に繋がる。


 そんな様子を見ていると、急に眷属達が横に広がった。


 進行方向にいたのは狼の群れだ。

 ワーウルフと呼ばれる狼型の魔物で瞬発力も攻撃力も動物の狼より遥かに優れている。

 数十体を一瞬で囲い込むとは、狼より速い!

 その速さに目を奪われていると、取り囲んだ向日葵達が一斉に襲いかかる。

 狼の魔物に触手が伸びると、やすやすと皮膚を突き破り捕獲される。

 悲痛な叫び声がこだまするが、その後が酷かった。

 あっという間に捕まえた触手がワーウルフを掲げ引き寄せる。


 すると花の中心が開いた。


「口か!」


 円形にビッシリと付いた無数の牙がワーウルフを頭から喰らう。

 向日葵に対し、獲物の数は少ない。

 捕食に漏れた向日葵達が群がり、引きちぎりあっという間に喰らい尽くす。


「どう猛な上に雑食ですかね、あれは」


「私も初めて見るよ。向日葵の化け物とは、明日から向日葵を見たら焼き尽くしそうだ。」


「街中では自重して下さい!」


 普通にやりそうだから。



「さて、そろそろ一撃加えてみるか」


 獲物を求め、向日葵達が少し散開するのを見て師匠が魔杖「深淵」を取り出す。

 一匹外れたヤツに狙いを定め、炎の矢が突き刺さるが、動きは止まらない。

 更に魔法が追加発動し燃え上がる。


「むっ、これではダメか」


 燃え尽きた後に残る巨大な種から、再生したかの様に向日葵が生まれ出る。

 しかも一気に増殖した。


「再生ではなく。高速で発芽し咲く様だな。」


「それも無数の種がいっぺんにですね。これ、国ぐらい滅びませんか?」


「自然の摂理としては一定まで増殖すれば、ある程度淘汰されるはずなのだが……」


「かと言って放置も出来ませんし、やってみます。」


 増殖した一団に狙いを定め杖を振るうと、魔法陣が地面に描かれ捉える。

 以前、師匠が黒ローブの魔術士を焼き尽くした炎の範囲魔法を更に数倍強化した業火が立ち昇る。

 後には焼け焦げた地表だけが残る。


「やったか。しかし数匹倒すのにあの火力が必要とはな。」


 現在絶賛増殖中の眷属達をみながらため息をつく。

 そんな思案している師匠も美しいのだが……


 ビシッ!


 常時展開している防御結界が反応する。


「ちっ!」


 師匠が更に重ねがけした途端、多量の礫が降り注ぐ。


「種を飛ばして来たか!」


 しかも地面に着くと途端に発芽し増殖する。


「ふぅ。これは少々厄介だな」


 種を一通り防ぐと進行方向の水源に回り込み距離を取る。

 まだ距離はあるが、速度は予想の遥か上。

 今日中には水源に辿り着く。


 この辺りが防衛線ギリギリか。


「半端な威力だと、あの再生力では止まらん。かといって余波を考えると」


 大規模な魔法では水源が蒸発する。

 ……絶対やるなよ、師匠!


 このままでは拉致があかない。

 師匠がキレる前になんとかせねば……


 意を決して杖に魔力を込める。

 「愚者の咆哮」に付いた宝玉が白く光を帯びるのを確認すると、水源に向かい水平に左から杖を振るう。

 水源の手前を半円が囲う様に地面が輝き、巨大な炎の壁が迫り上がる。


「ここを突破されたら終わりです。」


 絶対防衛線だ。


 ここを破られる前に全てを焼き払う!

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