森の熊さん
窓から大通りが見える。まだ日は登ってなくて、街は柔らかい白い光に包まれてる。
白磁器製のカップをつまみ、中に入っている透き通った白い液体を口に含む。
ゴクッ。
優しいのどごしの飲み物が通っていくのがわかる。
白く染められたテーブルには特に装飾は無くて、凄くシンプル。
椅子もテーブルと似たデザイン。2つとも特注なんだって。
カップを置いて背をもたれながら、外を見上げる。
仕事に行く人達が行き交う大通りと澄み渡った空は、真白の窓に囲まれて、なんか絵画みたい。
ここは、近所にある行きつけの喫茶店。
白を基調とした落ち着いた雰囲気が気に入ってるの。
特にお気に入りなのは今飲んでる「コンフィナッツミルク」。
すっきりさっぱりした甘さで、のどごしもするするってしてて楽しいの。ココナッツミルクの甘い版ってとこ?
爽やかなミント感があって、朝飲んでるとホントに幸せ。
私はラルスィ。ラルスィ・リトルベアっていうの。どうせならテディベアの方が良かったなーって思ってる。
いつもは機械っぽい剣と盾を持ってるんだけど、今日はおやすみだから家に置いて来ちゃった。
「いつも来てくれてありがとうね~。」
彼女はこの店のオーナーのアルトールさんの奥さん、ヴェイカさん。とっても綺麗な人で、旦那さんにベタ惚れなの。
私もあんな旦那さんが欲しいなぁ…。
「こちらこそ美味しいものをありがとうございます。」
「ふふっ。今日も綺麗な髪ね。」
「ありがとうございます。」
ヴェイカさんはいつも私の髪を褒めてくれる。
私の髪は銀色…というか、白金色?に近い色。そしてヴェイカさんが林檎みたいに綺麗な赤。アルトールさんが言うには他のお客さんに「紅白美人」なーんて呼ばれてるんだって。ヴェイカさんと一緒にして貰えるなんて、凄く嬉しい!
「今日もアルトールさんイケメンだなぁ。」
「うふふっ。そうでしょ?そうでしょ?今日もアルリンかっこいいでしょ!」
アルトールさんはとってもイケメンで、いわゆる男前、って感じ?
彫りが深くて、あごひげがすっごいダンディ!
グリーンの眼に見つめられると、奥さんが居る!ってわかってるのにキュンキュンしちゃう…。
あっ!こっちに気づいてくれた!
「ア~ルリン♪」
ヴェイカさんがアルトールさんに手を振ってる。それに気づいたアルトールさんが微笑んでくれた。
『~~~っ!』
やばっ。キュンキュンし過ぎて沸騰しそう。
「んじゃ、私お仕事に戻るけど、ゆっくりしてってね♪」
「はい。お仕事頑張って下さい。」
ヴェイカさんは手を振ってテーブルを後にする。
はぁ~~~。私もあんなふうに優しい旦那さんが欲しいなぁ…。
店内を見回して、旦那さん候補を探してみる。
(まぁ、そんな簡単には見つからないよねー。)
いや、おっ!?めっちゃイケメン居るじゃん!!
アルトールさんとは違って、なんというか、貴族風のイケメン?
あまり人を寄せ付けなさそうな雰囲気の、孤高な感じのイケメンが私の隣の隣の窓際の席に座ってる。
(めちゃめちゃかっこいぃ~~~っ!)
でも、なんだろう。どこか絶望したような目をしてる。
(あんなイケメンにも何か悩みがあるのかなぁ…。)
ま、今日はあのイケメンとアルトールさんで目の保養をして帰ろーっと。
ふぅ。
もう太陽も昇ってきて、お昼どき。
今は家でお昼ご飯を作ってる。
お昼は白ご飯に鮭の塩焼き。どっちかっていうと朝ご飯みたいなメニューだけど、冷蔵機にこれくらいしか材料がなかったから仕方ないでしょっ!?
パパっと作ってダイニングテーブルにお皿を並べる。
私の家は2DKで水周り完備。結構住み心地も良くて気に入ってるの。
(頂きまーす。)
鮭の塩焼きで白ご飯が進む進む。
パパっと食べ終えてパパっと片付けてパパっと出かける準備をする。
私は狩猟者ってお仕事をやってるんだけど、今日はお休み。
だけど私、お休みの日もお外に出かけて竜狩りとかやってる。
玄関を開けて外に出る。ちゃーんと戸締りもして、街の外に向かって歩く。
私はそもそも竜狩りが大好き。どちらかと言えば技を磨くのが好き、って感じかな。
たまにはとっても強い子も居て、その子と闘ってる間はすっごい興奮する。
私の家は街の割と中心の方にあって、外壁まではちょっと遠い。
でもお店が充実してて、ショッピングも凄い楽しい!
ちょっと歩いて外壁に辿り着く。外壁には全部で4箇所に門があって、そこから街の外に出れる。
門にはいつも門番さんが四人いる。街のギルドの衛兵隊らしくて、なんでも危険な人物とかが入って来ないように交代制で見張ってるんだって。
今日はどうしようかなー。
んー。
そうだ、今日は街の南側にある森に行こう!
街は丘陵地帯にあって、その南には森林地帯が広がってる。
丁度今はフリアの花が咲く季節だし、運が良ければあの綺麗な青い花が見れるかも?
予定が決まったし、門を出て丘陵地帯を南下していく。
よし、着いた。
街を出て暫くして、森の入り口に着いた。
この森には何度も来てるから、森の地図は全部頭に入ってる。
真ん中のちょっと開けてる切り株の所なら何か強い子いるかな?
ちょっと歩いて、目的の場所に着いた。
やっぱり。
思ってた通り、何かいる。
体長2~3mくらいの獣系種の子。青緑色のふかふかした毛並みが動いてる。あの辺ならミズタケノコを食べてるのかな?スイカみたいに水分が豊富なタケノコで、春の遅い時期に出始めるの。
(一生懸命食べてる。)
好物なのかな?後ろ姿だからよく見えないけど、むっしゃむっしゃ食べてるのが聞こえる。
な、ちょっと、ぬふふふっ。食べ終わったみたいで、おじさんみたいにふぅ、って一息ついてる。可愛いっ♪
あ、こっち向いた。
やっぱり、【ルカヴィスタ】だ。全身が青緑色の毛に覆われていて、全体的にずんぐりむっくりしてる。腕に篭手みたいな堅い甲殻があって、そこには殆ど攻撃が通じないのが特徴。その丈夫な爪で引っ掻いたり、腕でこちらの攻撃を防いだり、闘う時には技術や知識が必要な子。
今のとこあの篭手を貫通できる武器は開発されてないんだよねー。それだけ堅いの。
お腹のとこは背中と違って黄緑っぽい毛がもっふもふしている。
がっしりした腕ともこもこふわふわの体とのギャップがすっごいキュート♪
『グルルルルル…』
ルカたんが私に低く唸る。お腹いっぱいになって元気もいっぱい。闘う気満々みたい。
ガチャンッ、と私も抜剣して盾を構える。
『グルァァアッ!』
ルカたんが地を蹴って思いっきり飛びかかってきた。
顔を横にもたれ、方や首辺りでタックルをしてくる。
ここで回避するのは素人ね。ルカたんはこのタックル後に大振りの引っ掻きで回避狩りをしてくる。これが中々痛くて、この攻撃にやられる狩猟者も少なくないの。
構えた盾を横に持って、ルカたんの肩に盾の重心を合わせる。
ッゴン!と腕に衝撃が来る。脚に力を入れて踏み留まる。
盾のちょっとした仕掛けで私にはほとんど衝撃はなくて、そのエネルギーは盾にチャージされる。
「【フレア】。」
盾のトリガーを引いて、タックルで蓄積されたエネルギーの一部を衝撃波として放出する。
『グルグァ!?』
至近距離から衝撃波をもろに喰らったルカたんが大きく後ろに仰け反る。
さらけ出されたふかふかのお腹目掛けて右から切りつける。が、ルカたんはそうはさせてくれない。
凄まじい反射神経で左腕を構え、剣撃を完全に防御しちゃう。
(さっすが。やっぱ闘いはこうでなくっちゃ。)
未だ無傷のルカたんと目が合い、互いにニヤリ、と口角を上げる。
ルカたんが数歩後退り、両腕の爪を舐める。
これは、ルカたんの喧嘩の合図。ルカたん同士で喧嘩をするとき、相手が同等もしくは格上と判断すると、敬意を込めて自分の爪を舐めて万全の状態にする習性がある。
ルカたんが私との闘いを楽しんでいる証拠ね。
「行きます。」
『グルル…』
少しの間、時が止まる。
………。
バサバサバサッ
その瞬間。
「はぁぁぁあっ!」
『グルルァアッ!』
小鳥が飛び立つと同時に双方動き出す。
森の広場での戦闘はラルスィが疲れてルカヴィスタを撫でるまで続いた。
らぶどら-end-
らぶりーどらごんっ!-ルクドラ番外編-を読んで頂き、誠にありがとうございます。
こちらの作品はルッキングフォードラゴン!(ルクドラ)の世界で、とある女の子、ラルスィちゃんが主人公となるお話になっております。
この作品は、作者の気分により続編が出る可能性があるので、一応「連載」として投稿しております。
今作で熊さんのもふもふに興奮しながら闘っていたラルスィちゃんですが、実は作者の推しではないんですねー。
作者の推しの子は今後どこかで出てきます。(笑)
女の子が主人公ということで、本編とは少し違ったスタイルで執筆してみたのですが、いかがでしょうか?
ラルスィちゃんは本編にも登場予定です。
かっこいい剣撃をさせたいと思いますので、是非楽しみにお待ち下さい。
では、ここまで読んで頂きありがとうございました。
追記
ちなみに今のところ、番外編はもう1シリーズ作る予定になっています。
お楽しみに。