第25話 山田と向井のエトセトラ3
遅くなってすみません。
なんかガチで書いたらものすごく長くなりそうだったので、軽くしたのですが、そのぶん説明ぽくなったり。難しいところですね。
今回は視点がころころ変わります。分かるように書いたつもりですが、ちょっと分かりづらいかも…
綾と裕明は、シアトル系カフェの一角で暖かいコーヒードリンクを片手に、頭を抱えていた。
「なんか、どこも一長一短だねぇ…」
「う~ん…。」
主に綾の移動時間の関係もあり、まずは同居を始めた二人だが、その前にお互いの両親への挨拶は済ませており、早い段階での挙式・入籍を前提として許可を得ている。従って、次は式場探しなのだが、これといって手頃なものが見つからないのだ。
何軒か事前にネット等で目星をつけ、見て回ったものの、どうもプランナーのテンションの高さについていけなかったり、会場のハリボテ感が気になったり。いっそのこと神社で、とも思ったのだが、それはそれでお値段か建物のクオリティが気になる。いいなと思ったところは親族などのアクセスが悪く、候補から落ちる。
「俺ら、それなりの回数、結婚式行っちゃってるからなぁ…」
「流行りが微妙に済みかけた頃だから、妙に目が肥えてるんだよね…ってか、みんなこんなにお金かけてたのね。」
「見積もり+100万は見といた方がいいとか言うけどな。」
「うん、遥さんが言ってた。あと、どれくらいプラスになるかは式場によるからその辺で誠意とかも見れるよ、って。」
「そうなの?」
「例えば、基本プランだと100均か?みたいな造花しかないところと、それなりにきちんと生花を基本プランに入れてるところ、とか、タキシードやドレスの点数がお色直しを前提としてるかどうか、あとどれくらいのドレスを選べるかとかで全然違うって。」
「詳しいな。」
「学生時代にバイトしてたらしいの。」
「さすがというべきか…」
柳澤、人生経験豊富すぎである。
「共済組合のホテル行ってみる?」
「あそこなぁ…」
けっこう良い場所にある共済組合のホテルは、一般人も利用できる普通のホテルであるが、組合員限定の割引などがあるらしい。行ったことはないが、微妙に気は進まない。
「なんか、「らし」すぎて微妙じゃね?」
「…まぁね。ただ、場所はいいんだよね。あと、評判は悪くないの。」
「そうなん?」
「何か、ガーデンチャペルがすごくいいって。」
「へぇー。ま、一回行くだけ行ってみるか?」
裕明が少しその気になったところで、タブレットを取り出し店内のWi-Fiに接続する綾。スマホより画面が大きく、見やすい・情報の共有がしやすいそれは、現代の花嫁に必須のアイテムである。是非、カバーあたりを「花嫁過ぎる☆タブレットケース」などと称して某情報誌などで取り上げてくれないものか。
「あ、来週、試食つき説明会だ。」
「じゃ、来週かな?」
「予約だけしちゃうねー」
「了解、ありがとう。今日はじゃ、買い物して帰る?」
「あ、それもいいけど、マリッジリング見たい。」
「それもあったね…」
「デパート寄っていこうか。」
お約束は基本的にこなす予定の二人。そのあとも家具の追加や今後の予定などについて話しながらドリンクを飲み干すと、手を繋いで店の外に出ていくのだった。
***
「くーっ、なんかもうむずむずしちゃうっ!」
朝から休日の話を聞かされた遥が、脳内の糖分を吐き出す相手に選んだのはやっぱり木村だった。
「でしょ?朝から給湯室でそんな話を聞かされた私の身にもなってくださいよー。」
「私も…というか、その片割れが同期だっていうのがまた、来るものがあるわ…」
「なんかむずむずしますよね…」
微笑ましい反面、特に見たいとも思わなかった同期の甘々な一面を聞かされて若干引く木村。話題に上がっている当人は、忙しいのか照れ臭いのか、最近あまり姿を見せていなかったりする。
「そーいえばさ、シアトル系に限らずだけど、私の結婚式の準備してた頃、カフェの一角で怪しげな勧誘が…」
「怪しげな、って…」
「だって、いかにも胡散臭いおっちゃんが、若いおねーちゃんと茶ぁ飲みながら、妙にカラフルな資料拡げて『今なら絶対儲かる』とか『○○さんってスゲー人がいて、今度会わせてあげる』とか…」
「…あらら、それは確かにマルチ。」
「しかも、打ち合わせしてたら毎回どこかのテーブルでやってるんだよ。おっさんが毎回同じ人だったかまでは覚えてないけど、けっこうな頻度で複数テーブルでやってた。」
「ちなみにご主人は気づいてたんですか?」
「うん、二人で『…あれマルチ?』『一ヶ所じゃないね、あっちもだね』ってわくわく観察してた。」
毎度のことながら、幸せの絶頂期なはずの結婚式準備中に、何故この人はそういうことをよく見ているのか、たまたま目についたとしか言わないだろうから突っ込む気も失せるが感心はする。というか、やっぱりというべきか、夫も同類らしい。
「東京って怖いですねぇ…」
「地元じゃあんま見かけなかった気がするねぇ…」
「いやいやいや、やってるだろう田舎でも。」
無難な(?)方向で感想をまとめかけたところで、喬木が突っ込んだ。
「…やってますかね。」
木村が、てへっ、という顔で喬木に返事する。さすがに「東京は怖えだ」的にまとめるには無理があることには気づいていたようだ。
「やってるだろ。あんなもん津々浦々で。」
「カフェで?」
「…ハンバーガー屋かファミレスかもしれんな。」
「でしょ?」
「いや、その『どや!』の意味がわからんぞ…。」
呆れたような顔の喬木に苦笑して、遥と木村は仕事に戻る。政策推進室は今日もまったり時間が流れ始めるのであった。
***
会場が決まると、そのあとは細かいことを会場やお財布と相談しながら詰めていく作業をはじめ、二次会の手配、それぞれの招待範囲決め、招待状の封づめ、新婚旅行の手配など、毎日のように決めることが発生する。それに加えて週末の式場との打ち合わせでは、衣装からテーブルクロスの色まで全てをこちらで決めねばならない。裕明と綾は六月の結婚式を選択したため、けっこうキツキツなスケジュールと決めることの多さに辟易していた。
「裕明さん、引き出物なんだけど…」
「…昨日話さなかった?」
「昨日話したのは引菓子だよ。あと、二次会のプチギフトももう決めないと…」
「…最近人の顔を見れば結婚式の話だけどさぁ、他になんかないわけ?それに、そんなばらばら小出しに言われても分からないし。」
「だって明日までに返事してくれって言われてるのよ。それに、時間がないから少しずつ話してるんで、まとめて話そうとしても面倒がるじゃない。」
夜の11時を過ぎてからだんだん険悪になっていく二人。最近、こういった話題での喧嘩が増えている。
「じゃー、綾の好きにしていいよ。」
「好きにしていいって何?ただの丸投げじゃない。」
「…ちょっと出てくる。」
「今話してるでしょ?」
「ぜんぶ任せるよ。先に寝てていいから。」
ぱたん、とドアを閉め、裕明は頭を抱えた。
(仕事終えて帰ってきて、一息つく暇もなし、は、キツいよ綾…)
綾の懸念も分かるし、きっと帰ってきたらあれを相談しよう、これも決めようとカタログを見ながらいろいろ考えていたであろうことも想像はつく。しかし、こちとら夕食の時間もそこそこに仕事であり、正直そこに割くエネルギーは残っていない。
ドアの前で立ち止まっているのも座りが悪く、コンビニでビールと鳥のからあげを買い、公園のベンチに座る。夜の風が気持ちいい。
(あぁ、帰りたくねぇなあ…)
いたたまれずに飛び出してきてしまったが、綾はまだ怒っているだろうし、今帰ったらその怒った綾と結婚式の打ち合わせをせねばならないのは更に気が重い。明日も朝から仕事で打ち合わせが入っており、通常通り出ねばならないが、一、二時間、時間を潰して帰った方がいいのかもしれない。
うだうだと悩んで約30分。ブー、ブーと携帯が震え、綾からのメッセージの着信を知らせた。
『お仕事で疲れてるのにごめんなさい。今日までに決めなきゃいけないと焦りました。どうしても今日決めなきゃいけないのは引き出物だけで、候補には付箋をしているので見てくれたらと思います。おやすみなさい。』
なんだかんだ、綾は自分から謝ってくれる。それがいじらしいような申し訳ないような気持ちになり、知らずに顔が綻ぶ。
『僕もごめん。見ておくね。おやすみ。』
急いでそう返信して、裕明はビールを一口のんだ。少し時間を空けて、綾が寝入った頃に帰った方がいいだろう。
***
「あー、あるあるだよねー。」
翌日の昼休み。前嶋、木村と昼ごはんを食べながら愚痴っていた綾に、木村がうんうん頷く。なお、今日はスパゲッティ。全員が白い服でなかったからこその選択肢である。
「木村家…でもそうなんですか?」
なんだかんだ理知的にこなしてそうなイメージな木村の意外な同意に驚く綾。ちなみに、木村家、で口ごもったのは、「木村」が旧姓なのを知っていたからである。
「うん。やっぱり私がいろいろ先走って、旦那が面倒がって。」
「うちもそうだったな。」
「室長もですか。」
「男性はあんまり興味ないのかもね。」
「まぁ、あんな揉めることって、あとはそうはないですよね。」
「…子供産んですぐとか?」
「あー、明らかに体力とか知識とか諸々が足りない頃ですねー。」
「私やあずは復帰が分かってたからまだマシよ。綾ちゃんは専業で考えてるんでしょ?そのぶん、夫も『家事育児は妻の仕事』って考えちゃうのよね。」
「正直、ある程度手が離れるまでは仕事のほうがはるかに楽ですからね…」
割にがっつり、法令や国会で半分以上職場に住んでいるような感じだったこともある二人が顔を見合わせてしみじみ頷く。
「…そうなんですか?」
「いや、仕事もきっついんだけど、人に恵まれてたのもあって、達成感とか充足感とかはあったしね…」
「新生児抱えて、1日おむつがえと授乳して暮れていくあの絶望感ね…」
「もう少し大きくなっても、不毛なおままごとに付き合ってトイレも行けないとか…」
「あるね…」
何故か子育てあるあるに話がなだれ込む子持ち二人。綾は聞いているしかないが、とりあえず大変そうではある。
「まぁ、あれよ。授かり婚?とかじゃないだけマシだってー」
「妊娠しながら式の準備ってもう半端ないですよね。」
「それに、ちょうどいい向き合い方の練習だと思えばいいさ。仲直りはしたんでしょ?」
「はい、朝おきて『おはよ』って…あの、それで、出掛けるときにちゅっ、って…」
「そこまで赤裸々なのは要らないんだが…」
呆れ顔になる木村。
「すみませんっ」
「いや、謝るのも違うけどさ。」
苦笑してなだめると、ぽんぽんと肩をたたく。
「まぁ、時間と興味がある綾ちゃんが主にやってくしかないのはたしかみたいだし、恩に着せとけばいいんじゃない?ある程度は仕方ないよ。」
「そうね。ガス抜きはいくらでも聞くわよ?」
「ありがとうございますぅ~」
チャーハンまでがっつり食べた三人は席を立って職場に戻っていくのであった。
***
結婚式当日。
「向井ちゃん…よかったね…」
久しぶりに向井に会った遥は、花嫁オーラきらきらの向井を前に感極まっていた。
「ありがとう、遥さんと木村さんのおかげです…」
「よかったよかった。山田も幸せそうでなにより。」
「照れるな、これ。」
「やっぱあれだねぇ、紋付き袴ってのは横幅があるほうが似合うよねぇ。綾ちゃんは何着ても美人だけど。」
「お前は誉めてんだか貶してるんだか…」
木村と山田は例のごとく漫才を繰り広げている。ちなみに木村は親族から借りてきたらしい訪問着に夜会巻きで、元々の迫力も相まって完全に姐さん化しているのは突っ込んでいいのかどうなのか迷うところである。なお、前嶋は前嶋で着物を着ているのだが、クール系ではあれど普通に綺麗な御姉様なのが不思議なところだ。先程、上司として挨拶に立ったときはどよめきが起きていた。
「いろいろあったけど、ここまでこれてよかったです…」
「何言ってるのよ、これからでしょうが。」
「はい。引き続きよろしくお願いします。」
「こちらこそー」
お色直し前のご歓談タイムはそう時間が取れるわけではない。遥たちは早々に話を切り上げて写真撮影に挑むのであった。
お読みいただきありがとうございました。
次話はお仕事回予定。今週末か、来週前半です。




