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第25話 山田と向井のエトセトラ1

一話で収まりませんでした。お話は次話に続きます。

※公開後に細かい部分の修正を行いました。ストーリーに影響はありません。

 そろそろジャケット一枚では寒さが染みるようになってきた11月。遥は、前嶋、木村、向井の三人と木村おすすめの居酒屋で女子会をしていた。


 銀座の大きい通りから、え?軒下?というような狭い通路を入ってぐにゃぐにゃ曲がった先にあるそこは、四人がけのテーブル席二つにカウンター3席でいっぱいになってしまう小さなお店だ。特に酒のラインナップがすごいわけでも、何か売りになるような食材があるわけでもないが、置いてある酒が例外なく美味く、料理もちょっとひねった、家庭では少し頑張らないと難しいものが置いてある。アットホームな雰囲気も相まって、独身時代には木村が通いつめていた店だ。


「課長もねー、あんないい方しなくても、って思ったんですよねー」


 先日の喬木たちが出張中のときの叱責について話題にする遥。


「まぁまぁ柳澤さん。てか、課長けっこう気にしいだから、私にも『…俺、言いすぎたかな?』って当日飲み会で言ってたし。」

「…意外。」

「オッサンは若手に弱味を見せちゃダメって思ってるのかもね。」

「室長はどう返したんですか?」

「あずもわかってると思いますけど、気になるならさりげなくフォローしたらどうですか?って。」

「ぶっ。それであの不器用な…」


 木村が苦笑する。言い方はキツいが、顔は面白がるの半分、微笑ましい半分というところだ。


「ぺーぺーの癖に上から目線という気もしますけど、やっぱり可愛いところがある上司ってやり易いですよね。」

「何よ、あず。アタシが可愛いと?」


 たしかに前嶋と木村は元々上司と部下だ。ついでに言えば、木村とは違って正統派出来る女な前嶋は、見た目も中身もキリッと系で、あまり可愛い感は見当たらない。


「面と向かって言うのはアレですが、前嶋さんのことは尊敬してますし可愛いとも思ってますよ。きゃー、なんか口説いてる。私ジゴロっぽい。」

「ったくアンタは…。」

「そうやって自爆して照れるとことかめっちゃ好きですよー」


 にやにや追い詰める木村。前嶋は居心地が悪そうだ。遥は、流れを変えるべく口を挟む。


「お二人、ほんと仲良しですよね。」

「…ええ、まぁ」

「あら、否定しませんね。」

「室長には可愛がっていただいております、ハイ。」


 微妙に神妙になった木村にちょっと満足する遥。一方、形勢の悪くなった木村は少しの間黙っていた向井に話を振る。


「そーいや向井ちゃん、山田とはどーなん?」


 と、目に見えて赤くなる向井。耳まで真っ赤だ。


「ど、どうした。」

「えっと、あの、えーっと。…あの、この前、旅行に…」

「はぁ、なるほど。…えーっと、そこまで真っ赤になられるというのは、要はお泊まりで?」


 あまりの初々しさに毒気を抜かれたような顔をしつつ、詰めるところは詰める木村。伊達に10年もキャリアを積んでいないようだが、そこで活用するのはどうなのか。


「…はい。」


 柄にもなく消え入るような声で答える向井に、残りの三人は生暖かい目を向ける。


「はぁ。…いや、だって31と29のいい歳だべ?」

「その歳ならお互いなんというか、こなれていてしかるべきというか…」

「私結婚してましたよ。」

「私も。あずもでしょ?」

「私は29の歳に結婚ですね。」


 容赦ない三人に、更に首を縮める向井。


「あの、私も裕明さんも、お付き合いそのものがはじめてで…」

「「「…裕明さん。」」」


 パワハラ一歩手前の怒濤の詰めに半泣きになる向井。それを見て我に返り、慌てて慰めに走る三人であった。


 ***

 30分後。


「結局、裕明さんがどう考えてるのかわからなくて。旅行に行くってなったときに、私もそれなりに覚悟を決めたんですよ。なのに、帰ってきたら普通にしてるんですよ、私もう29ですよ?なに考えてるんですか?木村さん同期ですよね?責任とってください!」


 宥めたりすかしたりしながら話を聞き出しつつ、アルコールも適度に進んだ結果、向井はすっかりくだ巻きモードになっていた。7割くらいが惚気なので、聞いている方は砂糖を吐きそうである。


「…ど、同期ですが。」


 木村も歩が悪い。


「てか、綾ちゃんはどうしたいの?」


 見かねてか、前嶋が口を挟んだ。


「えっ…」

「綾ちゃんは山田くんと結婚したいの?」

「けっ、けっ…」


 なかなかに刺激が強かったようで、アルコールで赤くなっていた顔を更に赤くする。


「男は相手の年齢とかあまり気が回ってないことが多いのよね。綾ちゃんから何らかアクション起こしてみたら?」

「アクション!」


 思いもよらなかった、という顔の向井。


「私は、友達の結婚式に行ったときにいいなー憧れるなーとか大袈裟に騒いだよ。そのころラッシュだったし。」

「羨ましくなるよねー。あとは、親に会わせるとか、都市伝説的なやり方としては結婚式情報誌を買って目につくところに置くとか?」


 わいわい追い込み方を挙げていく遥と木村。


「ってか、もうTHE!プロポーズはいどうぞ!みたいなお店連続で予約したりしましたよ。」

「私、プロポーズされる前に式場見学の予定入れてた。ごはんタダだってー、とか言って。」

「…なかなかえげつないですね。」


 それで結婚できるとは、よほど木村の夫はおおらかなのか。人によってはドン引きされそうである。


「…まぁ、この二人は例外的に攻めすぎだとしても、ちょっと匂わせるとか、どういう風に考えてるの?って聞いてみたりとか、綾ちゃんの好きなやり方でやってみたら?」

「はい!少し考えます。ううう、私からって考えると恥ずかしい…」

「…例外的にってなんのことやら…ま、その恥ずかしいことを山田にさせようとしてたわけだから。」

「…なんか木村さんに言われると胡散臭い。」

「ひどいー!」


 なんとなく遥と木村の話を聞いている間に覚悟がきまったらしい向井を中心に、その夜は更けていくのであった。


 ***

 数日後の給湯室。


「昨日、裕明さんがうちに来て…」


 向井の家は霞が関から電車とバスを乗り継いで二時間。なかなかに毎日が旅行である。山田もがんばったようだ。


「おおー。」

「お嬢さんとは、結婚を前提にお付き合いをさせていただいております、って…」

「前提、ね。」

「でもあの、私すごく嬉しくて…」

「…はいはい、良かったね。」


 朝から砂糖を吐きそうになる遥。お付き合いをはじめて半年以上。お互いいい歳でもあり、とっとと決めてしまえばいいのに、と思うのは他人事だからだろうか。


「で、どんな手を使ったの?」

「手って…単に、『どう考えてるの?』って。」


 割に直球である。


「そしたら、『将来的には結婚したいと思ってる。親御さんも心配だよね』って言ってくれて。」


 本人は嬉しそうだが、詰めが甘い。


「その将来がいつなのかは?」

「それは、まだ…」

「向井ちゃん、今日婚約したとしても、結婚するころには30過ぎるの分かってる?」

「あっ…」


 別に30どころか40を過ぎても運命のパートナーと出会い、結婚する可能性があることは否定しないが、一般論的にいえば30あたりがボリュームゾーンではある。ここを逃すと母集団がガクッと減る。


「もー、なんか見てられないからお昼に前嶋さんと木村さんも招集!今日が無理そうなら出来るだけ近いうちに!」

「ええー、そんなダメダメですか?」

「ダメダメ!」


 本音のところでは、ダメダメ半分、話題の甘さに耐えられなくなった半分という感じだが。


 ***

「おおー、はるちゃん攻めるねぇ。」


 それが、話を聞いた木村の第一声だった。ちなみに女子会メンバーで銀座でランチ中。今日のお店は某有名焼肉店である。こんなところでも丼派の木村はビビンパ、その他の面々は焼肉ランチだ。


「ダメでした?」

「あんま畳み込まれると逆に逃げたくなるかもだし。でもはるちゃんの気持ちもわかるー。」

「でしょ?」


 我が意を得たり、という顔の遥に、前嶋が容赦なく切り込む。


「まぁでも、山田くんからしたら怖いよね。」

「でも前嶋さん。いつになるか…」

「とりあえず、今の状態で少し様子を見なさいな。一歩進んだんだもん、焦っても仕方ないよ。」

「ですよね?」


 すがり付くような顔をする向井に、前嶋は釘を指す。


「でも、ずるずる数か月はダメだと思うよ?」

「そうそう、そういうタイプはまだいいやと思えば何年でも延ばす。そういうの何人も知ってるー」


 やいやい言いながら、四人はわしわしとごはんを食べるのであった。


 ***

 休日、デートから戻った山田裕明は、自室でごろごろしながらも内心ちょっと焦っていた。


(綾、いきなり結婚て言い出したな…アイツら、何か入れ知恵したろ。)


 先日、先輩の前嶋や同期の木村を含めた面々と女子会に行って以降、これまでゆっくり進めてきた関係を急に進めたがるようになった感がある。どう考えても、何か余計なことを吹き込まれたように思う。


 別に裕明が綾との結婚を考えていないわけではない。しかし、特にどうしても子供が欲しい訳ではないし、実家暮らしで衣食住に不満があるわけでもない。どうも、結婚しなければならないモチベーションもなければ、きっかけもないままにここまで来てしまい、結婚とはすぐにはこない遠い将来のような気がしてならないのだ。


 とりあえず、真剣に綾のことを好きだと思ってはいるし、いつか結婚するなら綾とだろうとは思っている。それだけに、どう考えてるの?と聞かれてすぐに親御さんにも挨拶に行ったし、それでいったん納得したように見えたのだが、どうも最近それだけでは満足していない様子である。


(木村に聞いたって、結婚しちゃいなよーとか言うだけだろうしな。だいたい、みんなどうやって結婚しようとか決意すんだろな?)


 ごろごろとベッドで転がりながら、もんもんとする裕明。いろいろ考えてみてもやっぱり結婚生活が具体的にイメージできず、なんともふわふわした思考になってしまうのであった。

お読みいただきありがとうございました。


次回は、水曜くらいかと思います。リアル多忙につき、来週はもしかすると更新一回かな…

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新連載はじめました。更新は不定期になりますが、よろしければこちらもどうぞ。
「Miou~時を越えて、あなたにまた恋をする~」

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