番外編3 欧州道中膝栗毛 後日談
ちょっと短いですが、後日談+小ネタです。
月曜日、遥が見たのは疲れた顔の喬木と鳥越だった。
「出張お疲れ様でした。」
「ありがとう…」
「うー、疲れがとれない…」
家についたのは昨日のお昼ごろだという。飛行機はうとうとできても、なかなかがっつり眠れるものではない。夜便は疲れると言われる所以である。ちなみにヨーロッパ線でビジネスクラスに乗れるのは人事院の決まりではシニアの課長補佐クラスからだが、予算上の問題もありここ某省では原則として審議官級以上。鳥越はもちろん、喬木でも全然足りない。
「とりあえず柳澤さん、これお土産です。室内の分。」
鳥越が大荷物の中からチョコレートの箱を取り出す。
「お気遣いありがとうございます。」
「おー、スイスの有名ブランド。わーい。」
ひょっこり後ろから顔をだした木村が茶々を入れる。
「…えっ?スキポールで買ったのに、スイス?」
「そうー。ちなみに銀座でも買…」
「木村さん、ストップ。」
疲れた鳥越にこれ以上ダメージを与えるのは忍びない。…実はここから地下鉄経由で一切外に出なくても買えるチョコレートであることは否定できないが。
「でも美味しいから嬉しい!鳥越さんナイスセンス。ありがとう!」
なんだかんだ言いつつ、満面の笑みで喜ぶ木村。最初からそれだけ言っておけば良いのに、何か突っつきたかったらしい。
「ちなみにカナダのお土産がドイツの板チョコだったり、イタリアのお土産のハンカチがメイドインチャイナだったりよくある話ー。グローバル化恐るべし。」
「夢のない話をしないでください…」
「もっと夢のない話をすれば、中国で生産した日本向けの製品を中国で買うと日本の三倍くらいしたりとか?」
「輸送費<ブランド料ですか。」
「恐ろしい世の中だわ…」
チョコレートからなんともコメントしにくい方向に行ったものである。
「まぁ、とりあえずお疲れ様でした。」
「うー。メールが700件…」
だいぶお疲れな二人に、木村が処理しきれなかったぶんの仕事が襲いかかる。休めば休んだだけ処理件数も増えるので仕方ないが、もう少し休ませてあげたらいいのに、と思う遥であった。
***
そのニュースを見たのはそのあとしばらくしてのことだった。
「昨日行われたX県知事選は、与野党の公認を得た某省出身の羽野氏が当選しました。」
アナウンサーの無機質な声に、えええー、とどよめく室内、もといフロア。総務課本課や企画室からも声が上がっている。喬木や木村はけろっとしているので、知っていたのだろう。
「す、すごいですね。」
「そうは言うけどあーた、本省の局長もたいがい重要人物よ?選挙を経て選ばれたという点において質が違うとは思うけども。」
「確かに…」
なんか不祥事でも起こしたら、顔写真つきでトップニュースになるくらいには重要人物ではある。
「てーか、一定の割合で知事選とか市長選とか出るひといますけど、楽しいんですかねー?国会議員見てると、とてもじゃないけど政治家なんかなるもんじゃないなーと思いますけど。」
「うーん、国会議員は俺もわからん。」
「結局、有権者に媚びてるようにしか見えないんですよねー。人付き合いが大事なのはわかりますけど、冠婚葬祭にバースデーカード、人事異動のお祝いに各種パーティーと。政策どこいった。」
「…まぁな。」
「会議に出ても発言は地元対策ばっかじゃないですか。本気で日本のことを考えてる人がどこにいます?本気で考えてる風の発言する人は、理屈優先の学生みたいなこと言い出すし。」
「まぁ、民主主義は完璧な政治体制でないのは確かだな。」
「役所がそれを担うだけの気概も資格もないのも分かってますけどー、国民の代表だと胸を張るなら国民の代表らしいこともやっていただかないとー」
「…知事や市長に関して言えば、トップダウンで相当なことができるから面白いんじゃないか?」
(室長、逃げた…)
木村のマジモードの攻勢に耐えられなくなったらしい。
「いろいろと裁量の範囲はあるし、組織が国ほど大きくないからすぐ変えられるし、変えたことがダイレクトに生活につながる。県庁に出向してたこともあるが、やはり面白かったな。知事や市長となると尚更だろう。」
「…私は誰でもいいので保育園を充実させてほしいですー。」
「そういう直接的なところを握ってるのが知事や市長だからな。」
「なるほどー。」
「それはさておき、羽野さんが知事ってことになると、いろいろウチのもの、使ってくだろうな。準備しないと。」
喬木が物騒なことを言い出す。
「えっ、それって違法とかにはならないんですか。」
遥は驚いて口を出す。
「いや、そういう意味じゃない。知事が羽野さんだからなにか優遇するとか、予算つけるってことじゃないからな。」
「…驚きました。」
「ただ、細かいところまで手の内を知られてるってことは、『こういう運用だったら問題ないだろう?』とか、『こういう理由だったらこの補助がつかえるはずだ』とか、そういうことを全部知られてるってことだ。」
「あぁ…」
確かにめんどくさそうだ。
「まぁ何にせよ頑張って欲しいですねー」
「まぁな。」
そんな会話を聞きながら、遥はまったりお弁当をつつくのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は火曜…にできたらいいな…という感じです。もしこういう話が聞きたいとかあれば、感想欄でリクエストくださいませ。




