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番外編3 欧州道中膝栗毛4

リアルでは官庁訪問が始まりました。志望者の皆さんには是非いい出会いがあることをお祈りしております。


こちらは、やっと欧州出張を終えられました…(笑)

 アムステルダムは、運河の街だ。


 街のどこを切り取っても運河が写り込む明るい街は、パリのような重みはないものの、そこここにある原色と空の青さのコントラストが綺麗で、タリスがアムステルダム中央駅に入る頃には昌樹はこの街が好きになっていた。


「電車四時間、てのも疲れるなぁ。」

「飛行機はめんどくせぇ、と室長が言われたので。」

「…飛行機よりはいいな。乗り換えもねーしな。」


 現金な上司である。


「飽きたら食堂車に行ったりもできて、良かったですよね。」

「ワゴンのコーヒーも美味しかったですよ。」


 コンサル組も電車の中で昨日今日の成果をまとめたり、くつろいで飲み物を取ったり、電車の旅を満喫したらしい。昌樹は昌樹でタリスのWi-Fiを使ってSNSの更新をしたり、木村から来ていた仕事の問い合わせに返信したりとそれなりに忙しくしていた。それに、一度こなせば度胸がつくもので、少し飽きればコーヒーとスナックを食堂車に買いにいくことも苦にならなかったし、デッキから車窓を眺めたりも楽しいものである。飛行機で飛べば一時間半だが、空港まで地下鉄、一時間待って搭乗、また降りて電車と忙しないことこの上なく、更にトータルの時間は変わらないことから、プランを作るときに悩んだものの、喬木の鶴の一声でタリスになったのだった。結果的には正解を選んだと言っていいだろう。


「で、トラムはどっちだろうな?」

「…えーっと。出たところに乗り場があるはず…。」

「何番線だ?なんだ、こっちはバス乗り場か。」


 ああでもないこうでもないと言いあいながら、なんとかちゃんとトラムに乗って10分。停留所からは地図を広げ、徒歩7分でホテルについた。ここまでくれば、あとは二日間通訳が迎えに来てくれ、最終日はまた大使館から車が出て送ってもらえる。ここの移動が地味に一番不安だった昌樹は、部屋に落ち着いて一息ついた。


(6時か。)


 オランダ国立美術館は夕方5時までで、これはもう諦めている。ゴッホ美術館のほうは7時まで開いているが、金曜なら9時まで開館しているので、昌樹はこちらを狙うつもりだ。昨日飲んだついでにメンバーの了解は得ている。


 と、部屋の電話がなった。心臓が止まりそうになりながら、仕方ないので取る。


「…は、ハロー」

「おう、びっくりさせてすまんな。」

「室長でしたか…」


 フロントからだったらどうしようかと思った。対面で買い物くらいなら大分慣れたが、電話で何か言われても理解できる気がしない。


「何か用があったら松谷さんのとこにかけてくれと言ってあるそうだ。」

「正直助かります。」

「それはそうと、お前どっか行く予定あるか?」

「いえ、今日明日は大丈夫です。」

「『飾り窓』って分かるか?」

「…ガイド本にありましたけど。」

「もしかして通訳が女性だったら、その人いると行きにくいだろ。四人で行かんか?」

「せっかくですが、僕は妻一筋で…」

「バカ、俺だって変な病気とかクスリとか怖えよ。冷やかしだよ。」


 飾り窓地区は、売春とマリファナが合法化されているオランダでも有名な色街である。ヨーロッパの色街は女性が入れないところも多いが、ここは観光地化しており、特に昼間は女性の観光客も多い。夜になれば特徴的な赤いライトで扇情を誘う。


 そういう文化が世界のどこにでもあることは否定しないが、昌樹としては独身の頃から女性の思いなども考えてしまい利用する気にはなれない。最愛の妻と娘がいる今では考えるのも少し抵抗感があるくらいだ。喬木のほうは、若い頃風俗などに行ったこともあるような口振りをしていたこともあり、そこまでの拒否感はなさそうである。


「嫁にバレると口きいてくれなそうなので、やめておきます。飯ならお付き合いできますが。」


 少しおどけた口調を心掛けながら再度断る。おそらくこれ以上は押してこないはずだ。


「そうか。…一人で行くのもアレなんだよなぁ。」

「松谷さんと平野さんは…」

「メシならまだしも、これに誘うのはちょっとマズイだろ。」


 分かってるならこっちも誘わないでほしい。


「まぁ、無難に飯いくか。」

「ちょこっと、遠目からならいいですよ。」


 少し可哀想になって譲歩する。繁華街とのことなので、近くに食べるところくらいあるだろう。エリア内に入るのはアレだが遠目からみる分には心は痛まない。


「うーん。じゃ、せっかくだからアムステルダムの展望塔に行くか。」


 パリでもエッフェル塔に上ってスリに狙われたとか言っていたはずだが、高いところが好きな人である。頭はめちゃくちゃ良いが。


「それでいいんですか。」

「おう。レッドライトって言うから、それも見えるだろうしな。」

「じゃ、松谷さんと平野さんにも声かけますね。」

「平野さんは俺、電話かけるわ。」

「お願いします。」


 ***

 残念ながら、まだ明るいアムステルダムで展望塔から飾り窓地区をはっきりと識別することはできなかった。しかし、この水辺の近代都市を上から眺めるのは壮観で、展望塔のお洒落な佇まいとともに昌樹たちを魅了する。


「長崎のテーマパークとは違いますね…」

「あれはあれで力入ってるけどな。テーマパークはテーマパークってことだな。」


 そんな話をしながら30分ほどで降り、松谷の先導で適当な店に入る。サッカーの試合が放映されているそこはスポーツバーのようだ。


「たしかオランダの名物は…」


 そう言いながらポケットサイズのガイド本をごそごそと出して、グルメのページを見て固まる松谷と平野。


「どうしました?」

「…ポテトフライ。」


 敬語もすっ飛んでいるが、昌樹も唖然とした。


「ポテトフライ?えーっと、フライドポテト?」

「…鳥越、同じことだ。」


 部下(きむら)とのやり取りで磨かれた喬木のツッコミの技は、昌樹相手でも健在である。


「だって、フライドポテト?」


 昌樹も敬語がすっ飛ぶ。


「…まぁ、ジャガイモが取れる土地なんだろ。だいたい国土の大部分が海抜以下なんだろ?まともなモン期待できないよな。」

「なんというか、…フランスが異常なんですかね。」


日本ではオランダといえばチーズのイメージだが、木村によればチーズはヨーロッパ全域で食べられており、特にオランダがということはないそうだ。むしろスイスのほうがチーズの食べ方にはこだわりがあるらしい。


 べつにポテトしか食べるものがないという訳ではなく、肉団子的なものとかニシンの加工品とか、それなりに食べるものはあるのだが、フランスに比べるとどうも見劣りするのも確かである。それこそ、長崎の某テーマパークがテーマに選んだのが謎に思えてくるレベルだ。


「運河と風車は絵になるだろ。」

「あ、確かに。」

「それに、飯に特別なものを用意しなくていいのはいいぞ。そもそも長崎といえばオランダだろ。」


 確かにそうだが、たしか出島があったのは長崎市内であり、テーマパークとはだいぶ距離がある。


「チューリップも有名ですよね。」

「ガイド本に載ってるんですけど、こっちのチューリップの公園はチューリップの時期しか開園してないらしいですね。」


 コンサル組もフォローする。


「やっぱり、オランダしかなかったんですね。」

「鳥越さん、よく分かりませんよ。」


 …ツッコミが入れられるくらいには仲良くなったということにしておく。


 そうこうするうちに世界的に有名なビールとともにフライドポテトをはじめとしたツマミが運ばれてきて、男四人でわいわい言いながら飲み始める。酔いが回ってきたころに試合が佳境に入り、言葉は通じないながら周囲の男たちと意気投合して一緒に応援することになる昌樹たちであった。


 ***

 アムステルダムでのヒアリングやインタビューは二日間。フランス同様に国と市、更に事業者と利用者、とそれぞれ聞き取りを行い、合わせて視察や体験を行う。


 今回の通訳は若い男性だった。学生として自力で留学しており、これはバイトとのことだが、語学力は定評があるらしい。


「オランダ語は半分くらい英語と同じですからね。」


 気負いなくそういう彼、末吉は、危なげない案内と人懐っこい笑顔で安定感を感じさせるキャラクターだった。昌樹たちも出張に慣れてきており、予定を無難にこなす。残念ながらフランスとの違いは極端には感じられなかったが、お国柄の違い程度は見てとれた。


 食事は末吉の案内で取る。あまり高いところは知らないんです、と苦笑する彼が最初の昼食に連れていってくれたのはケバブ屋だった。


 日本でも最近よく見かけるが、オランダのケバブ屋は更に簡素で、飲み物の冷蔵庫があるのとショーケースの中にサラダや豆類がおいてある他は、簡易なテーブルと椅子がおいてある程度だ。しかし、おすすめのケバブ屋ですよという彼の言い分に間違いはなく、彼が頼んでくれたサラダとケバブの下に大量のフライドポテトが敷いてあるプレートの、日本のものと比べて圧倒的な肉感と量に30~40代の男子(?)四人は歓声をあげる。


「こりゃ、うまい。」

「シンプルですがいいですね。」

「カロリーは高そうですが…」

「肉、フライドポテト、コーラだもんな…」

「室長、ここでは気にしちゃダメです。」


 喬木は確かに中性脂肪とコレステロールが気になるお年頃であるが、ここでそれをいうのは野暮以前にフランスを鑑みると今更ではなかろうか。


 ***

 翌日の夕飯は予定通り断り、昌樹はゴッホ美術館にいた。


(しかし、すごい並んだな…)


 週末の金曜、土曜にしか夜間開館がないためか、はたまた健全な外出先が少ないからなのか、ゴッホ美術館に入るまでにかなりの時間を要した。オランダの夜は、クラブ、「飾り窓」、マリファナパーティーと、日本人からすればどこかダーティなイメージがつきまとう。若い頃ならまだしも、家庭をもって落ち着いた今は関わりたくはない。


 ゴッホ美術館はその名の通り、ゴッホの作品のみを集めた美術館である。名作「ひまわり」をはじめとした作品たちは、特徴的な筆遣いとともに圧倒的な生命感をもって見る者に迫ってくる。少し飛ばしぎみに二時間弱をかけて見終わった頃には、けっこうぐったりしていた。


 今回は食事について末吉のアドバイスを仰いでおり、帰路にあるカフェに立ち寄る。「もしあれば是非クロケットを!」と言われてメモまで渡してもらったので、ウェイターに紙を見せてビールとクロケットのプレートを出してもらう。


 コロッケの原型だというそれはやっぱり芋系で、コロンブスが持ち帰った芋がいかにこの国に根付いているのかよくわかる。ちなみに付け合わせはこれまたポテトフライであり、周囲の西洋人がでかくなる理由がわかるように思う昌樹であった。


 ***

 翌日の午前中はフリータイムではあったが、ホテルが10時チェックアウトで、集合時間が昼食とお土産調達の時間を折り込んだ10時半であったことから、昌樹は朝をゆっくり過ごし、レクレーションは近所を散歩する程度にした。


(こんなゆっくりした朝は久しぶりだな…)


 娘が産まれてからは、どうしても娘中心の生活になる。夜も朝も早い子供に合わせると、好きな時間に起きて、誰にも邪魔されずにコーヒーを飲みながら好きなペースで朝食を食べるというのがいかに贅沢かよくわかる。


 ホテルをチェックアウトし、大きな荷物を預かってもらって少し散歩に出る。近くに運河があり、その付近は芝生が整備してあってベンチもあり、少しぼーっとするにはちょうどいい。眺めるともなく街並みを眺め、ふーっと息をつく。


(とりあえず、おわった~。)


 帰ったら帰ったでしばらくは後始末が必要だが、メインイベントはこなした。ツアー以外での海外ははじめてで、不安もたくさんあったが、とにかく大きなトラブルもなく終えられそうなことに安堵する。


 ピピピピ、とセットしておいたアラームが鳴り、我に帰る。集合時間まで10分。そろそろ戻る時間だ。


(あとは、空港でお土産買って、飯食って乗るだけか。)


 日本につくのは日曜の朝。妻と娘の顔を思い浮かべながら、運河を背に昌樹はホテルまでの道を歩き始めた。

意外にもかかってしまった欧州編。オランダは軽めにしましたが、本当はお土産をスーパーに買いに行ってもらったり、水路巡りしてもらったりしたかったような気もします(笑)

次回は金曜か土曜夜の更新です。出張の後日談にするか、全く別のにするかは悩んでます。

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新連載はじめました。更新は不定期になりますが、よろしければこちらもどうぞ。
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