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第21話 昭和オトコたちの7月

 つい先日国会が終わり、異動の内示が発表された。


 遥の周りでは、局長が退職。審議官、課長、それに本多が異動となった。


 本課と企画室を合わせた総務課全体の送別会は昨日終わり、局長と本多の送別会は明日。局長は連日飲み会があるようで、明日も別の飲み会のあと来るという。ゆっくり話せるか分からなかったので、遥は局長の空き時間を狙って、局長室に挨拶に行った。ほぼ勤めあげての退職を控えた人にどう対峙(たいじ)したらよいか、少し戸惑う。


「局長、お疲れ様でした。」

「あー柳澤さん。どうかしたの?」


 とりあえず挨拶に来たと伝えると、応接ソファーに座るよう促される。峰岸が休みのときに代役を勤めてお茶を出したことはあるが、お茶を出される側に回ったのは初めてだ。


「改めまして、長らくお疲れ様でした。」

「わざわざ来てくれてありがとう。ほんと、長かったよ。四捨五入して40年だもんな。」

「ごゆっくりされるんですか?」

「まぁ、しばらくぶらぶらするよ、って言いたいところだけど、この前、娘のところに孫が産まれてね。」


 子(孫?)育ての戦力として期待されているらしい。


「僕らの時代は家事や子育ては奥さんに任せてバリバリ仕事するのが男の役目、みたいなところがあったから、赤ん坊なんて怖いって言ったんだけど。じゃあ勉強してね、頭だけはいいのがご自慢でしょって育児書渡されてさ。自慢なんかしてないけど、カミさんには頭が上がらないよ。」


 口ではそういうが、細めた目が柔和に笑っている。


「楽しみですね。」

「落とさないか心配だよ。抱いても暴れるんだろう?」

「私には子供いないので、何とも…」


 顔を見合せて苦笑する。出世という意味で最高峰まで行ったわけではないにせよ、局長といえばそれなりに勝ち組だ。やりきった感なのか、はたまた吹っ切れての結果なのか分からないが、晴れやかな顔である。遥は少し安心した。


 少し話してから部屋を出、さっきお茶をだしてくれた峰岸に礼を言う。


「さっきはありがとう。少し寂しくなるね。」

「そうですね。こちらのことも気遣っていただいて、お仕えしやすいボスでしたから。」

「…驚いた。」

「そうですか?」

「峰岸さんのことだから、『私にかかったらどんなボスでも一緒』って言うかと。」

「それはそうですけど、寂しくはありますよ、私だって。なんだと思ってるんですか。」


 ごめんごめん、と軽く謝罪して早々に離脱する。局長と話す前は少し重かった心が、軽くなったような気がした。


 ***

 異動日当日は、省全体がそわそわしている。


 次官や局長は官邸での辞令交付だ。会議室や局長室に部下たちを呼び、お別れの言葉を述べる。それに加え、事前に準備されたリストに従い、議員会館や党本部などの挨拶回りだ。人によっては、局内各課を回って部下たちに挨拶して回る者もいる。


 課長級はその課の所掌にもよるが、基本的に辞令を受け取って課内に挨拶をした後は、省内外の関係課に顔をだす。国会業務を担当する部署であれば国会関係、広報業務を担当する部署であれば記者クラブなども当然挨拶回り先に入る。


 それ以下は、基本的に前任者に連れられてカウンターパート巡りだ。そのほか、昨年の木村のように育休明けだったり、4月の早瀬のように地方からの復帰だったりすると、省内の知り合いのところに自分から顔を出しに行ったりもする。


 そんなこんなでばたばたと多数が出たり入ったり、あちらこちらで挨拶はもちろん「あら久しぶりー」だの「お、ここにいたのか!」だのといった声がしたり、「担当者が替わったら名簿を更新してください」というメールがぶんぶん来たりして、政策推進室内では本多しか異動がなかった割に、しっかり異動日の雰囲気を味わってしまう。


 ちなみに業務については、国外にギリギリまでいたとかの例外を除いて事前に引き継ぎが終わっており、一応対応は可能な体制である。とはいえ、業務に精通するまでにはしばらく時間がかかるもので、通常通り仕事が回るまでにはもう少しかかるだろう。


「はぁ~、今日はなんか、自分関係なくても肩凝るー」

「そうだな。」


 夕方、いい加減人が途切れたところで木村がこぼし、喬木が背伸びをしながら賛同する。挨拶は割と受ける側も緊張するらしい。


 なんかですねー、と呟いて立ちあがり、マグカップを片手に冷蔵庫に向かう木村。気分転換にコーヒーを()いで、チョコでもつまもうという魂胆のようだ。


「木村、今いいか。鳥越と柳澤も。資料とか要らないから。」


 喬木がそんな木村を少し改まった様子で呼び止め、打ち合わせ用のブースを指さす。はーい、と返事してマグカップを持ったままブースに入る木村に続いて、他の三人も席につく。


「実はな。」


 改まって切り出した喬木はどうも話しにくそうだ。何度か、あーとかうーとか詰まって、やっと覚悟が決まったらしく3人を見据えた。


「実は今朝、子供産まれた。」

(……へ?)


 奥さんが妊娠中とは聞いておらず、本人も飲み会にがんがん行っていた。思わず固まって木村と鳥越を見る。二人ともまだ遥と同様、反応できてない。最初に自分を取り戻したのは、さすがというべきか、木村だった。


「いやいやいやいや!なにのんびり異動の挨拶受けてるんですか?!早く病院に!」


 せっかく打ち合わせブースに入ったのに、木村が驚いて音量調節を忘れたため、隠したかったらしい意図がほぼ台無しである。恐らく本課はおろか企画室まで聞こえただろう。


「いや、嫁は新潟の実家に子供連れで帰ってるから。今日夜新幹線で行くことにしてるんだ。すまんけど、明日は休むわ。明後日から出てくるから。」

「いや、明日はとか言わずに、しっかり育休をですね。」


 男の育休、というのを今霞が関では推進しており、全部で10日前後の育休を少なくとも半分程度取るのは、管理職の場合半ば義務のようなものだ。年代的に事例が少ないのと、バリバリ働いてきたバブル以上の世代では意識が追い付かないところではあるが。


「この歳だろ、そろそろ定年も見えはじめる頃ってのがどうも恥ずかしくてな。あんま大袈裟にしたくねーんだよ。長く休んだら、育休っていろんなところに言わなきゃいかんだろ。」

「そんなことより、上にお子さん二人抱えて産褥の奥さまを気遣ってあげてくださいよ!産後なんてだいたい朦朧(もうろう)としながらお乳あげてるんですから。」


 出産経験者は言うことが違う。あとから聞くと、産後一月くらい、まともに寝れないものらしい。


「嫁の実家だからさ、手は足りてんだよ。それよりさ、扶養手当とか保険とかいろいろ手続きあんだろ。本多の異動と重なって悪いけど、頼むわ。」

「それはもちろんやりますけど…」


 それ以上の抗弁はプライベートに踏み込みすぎると思ったのか、木村もしぶしぶ引き下がり、こちらをちらりと見る。


「とりあえず、出生届が必要になりますんで、それは手続きをお願いします。あとは調べないとわかりませんので、退庁までに間に合わなければメールします。」

「助かる。むしろ、間に合っても携帯の方にメールくれるか?」

「わかりました。」

「じゃ、よろしく。面倒かけるな。」


 こちらを気遣う口調でそう言うと、喬木はブースを出ていく。遥を含め、残された3人はまだ呆然として動けない。


「…今朝産まれたって、ねぇ。」

「僕は立ち会いましたね…。」

「我々の世代はそうだよね…」


 なんとなくため息をついて視線を交わし、誰からともなく立ち上がる。


(今日は疲れた…)


 ぐっったりしつつ、必要書類を調べにかかる遥であった。


 ***

 新潟土産は、三日月型のおかきとピーナッツが混ざった有名なお菓子の、いろいろフレーバー小袋25個セットであった。


「うまいだろ?これ。」


 喬木本人も小袋を味違いで3つほど確保し、ぽりぽり食べている。


「それより、赤ちゃんどうでした?」

「6年ぶりだけど、可愛いな。女の子でさ。まだ猿だ。写真見るか?」


 猿で可愛いというのがいまいち不明だが、そういうものなのだろう。


「これから大変ですね。」

「まぁ3人目だからな。上の子達も大きいし、そこまではないさ。夜泣きで寝られねーけどな。夜ミルク作んの俺だし。」


 あっさりそう言う喬木にパパの面影を感じて、知らず知らず笑顔になる遥であった。

次話を書いてるんですが、自分で読んでてどうも面白く書けないのです。

書きたいことはあるのですが、ちょっと遥さんから離れてみようかと思いますので、とりあえず、土日はお休みしてまた月曜から、ということにしたいと思います。

(とか言いながら全然別のシリーズの構想を考えてたりして)


では、よい週末を!

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新連載はじめました。更新は不定期になりますが、よろしければこちらもどうぞ。
「Miou~時を越えて、あなたにまた恋をする~」

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