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第14話 上司と部下のいろんな形

やけくそで(?)時事ネタから入りました。一応お仕事回?

 

 昨今のニュースは、ある省の次官のセクハラの話題一色だ。次官の発言とされている音声データがテレビで何度も再生される。


「てーかさー、『不倫しよ?』とか、『触っていい?』とか、聞き方が品がない!」


 木村が変なところに対して気焔(きえん)を上げている。


(ねえ)さん、あの次官は「女の敵」?」


 ふらっとやってきていた山田が交ぜっかえすように言う。山田は向井との交際がうまくいっているようで、最近は二人ともいつ見てもご機嫌である。


「うーん、女の敵っていうかさー、セクハラするならするでお作法が?」

「ねーよ!」


 ノータイムで突っ込む喬木。最近天気がいいせいか、はたまた木村が部下となって以来常にツッコミの技を磨いているせいか、キレが素晴らしい。


「ありますよー。かの大作家は、銀座のお姉さま方に不快感を与えないでセクハラするための格言を残してらっしゃるわけで…」

「なんだそれ。」

「有名辞書サイトにも載ってる由緒正しい話です。」

「お前は妙なところに詳しいな…」

「結局、いかに相手に『ま、いっか』と思わせるかに男の腕がかかってるんで、そう思わせられなかった時点で負けってことですよ。セクハラ全般そうですけど。この人みたいに腕を磨こうともしないのは邪道ー」


 喬木は頭を抱え、山田は我関せずと逃走する。確かに、男性にはある意味ハードルの高い話だ。


「木村さん、語りますね。」

「まぁ、おっさん(えらい人)相手にしてると、それなりにあれこれはあるしねー。私は割に自由だから、嫌だったら次から行かなかったりするけど。品行方正だけがいいとも思わないし、ある程度は仲良くなるとバカな話もしたくなるし、度を越さなければ私は気にしないかな。R15くらいなら平気。」

「そういうものですか?」

「全くノー、匂わせるだけでも嫌悪感、って人も男女問わずいるけど、こっちもそういう人には気を使うし、誘われなくなるよね。女子力的な面でいい思いすることもあるわけで、多少はバーターかなぁ、という気もするー。」


 ♯MeToo的な意味ではアウトかもしれないが、現実的な回答に変に感心する遥。


「…お前ら、そろそろその話題は…」

「はるちゃん、もう室長のライフ「メタ的な意味でストップ!」


 遥が話題にオチをつけ、「お弁当買ってきまーす」と何事もなかったように木村が出ていく。


「あいつは…」

「木村さんですからね…」


 遥は喬木と顔を見合わせて苦笑した。


 ***

 今年の国会は、今週に入ってからは次官のセクハラ問題で一時的に話題がさらわれたが、もともとは文書の改竄(かいざん)問題や、不正疑惑で盛り上がって(?)いた。


「そのおかげで文書の整理関係が厳しくなった…」

「いや、これは僕でも完璧には無理です。」


 涙目の木村を、几帳面タイプの鳥越がフォローする。木村は典型的な片付けられない系だ。


「だいたい、仕事なんてダマで来たり、一見関係なさそうなのが連動したりで、そんな綺麗に整理できるものじゃありませんよ。現場を知らない机上の空論なら何とでも言えますし、もしくは、選任の文書管理者を置くとかなら分かりますが。人手も足りないですし、違反にならない程度に現実的な対応をするしかないですよ。」

「ていうかさー、問題になってるのは改竄でしょ?整理と関係なくない?整理したほうが改竄しやすいじゃないかー。」

「まぁ、お前の机はどっちにしろ酷いけどな。」

「ううう…」


 泣き真似をしながら資料を片付け始める木村。大半を「廃棄」に分類する大雑把ぶりに、遥は心配になった。


「…大丈夫ですか、それで。」

「うん、基本的には電子保存してる。…大半は鳥越さんが。」

「ああ、そういうこと…」


 木村の部下でいることは、上司とのコミュニケーション的な意味では苦労しないが、別の大変さがあるようである。


「まだ私は机が見えるだけマシだもん。前の上司なんか、コックピットって言われてたもん。」


 頬を膨らませながらそんなことをいう木村。確かに、たまにどう見ても書類に埋もれていたり、積み上げた書類の上にPCが置いてあったりする人を見かける。


「前嶋さんの前の加藤室長はすごかったですよね。しかも、変色した共済のお知らせとかまで残ってて。」

「あの人、地震が来たら書類の山に埋もれてヤバい感じだったよねー。」

「そうですね。役所はそうでなくても紙が多いと思いますが。」

「デジタルで保存してますと言ったら怒られたり、えらい人に渡すときはメールじゃなくて打ち出しを持っていったりだもんね。結局PDF化したりして、意味ないような。」

「検索にも時間がかかりますしね。不合理な気がします。」

「やっぱ私、正義?」

「普通は机の上に書類も置きませんけどね。」

「はるちゃん、それ上げて落としてる...」


 ぶつくさ言いながら書類を整理していくうちに面白くなったのか、木村はどこからかマスクを取りだして、これまで置物と化していた前任たちの残していった書類の整理まで始める。おー、とか、すげー、とか地味に歓声が上がっているのが哀愁をそそる。


「木村さん、年度変わるまで把握してなかったんですか...」

「こんな3つも4つもの本棚に一杯の資料なんか、必要ない限り見ないー。」


(それが「役所に説明に行くと人が変わっててまた1から説明し直し」って批判になるんだろうなぁ...)


 そうは思うものの、確かに木村はなんだかんだでばたばたと動き回っており、必要に応じて過去の資料を見直すくらいしか時間が取れないのも確かである。過去の資料の大半が「終わったこと」であり、そこから復活してくる話題があったときに手が届けばいい、というのもむべなるかな、というところでもあった。


「木村...そういうのは年末か年度末にやっとけ...」


 しかし、整理を見守っていた喬木が呆れたように言い、遥は内心で心から同意してしまうのだった。


 ***

 木村の努力(?)が報われる機会は、けっこう早いタイミングでやってきた。


「あ、あのー。すみません、資料を見せていただいても…」

「いいよー。って、キミは誰?」


 おどおどした挙動不審の若者がおそるおそる木村に声をかけ、木村が何の気なしに返答する。


「す、すみません!」


 泣きそうな顔になる若者。


「怒ってないよー。どこの課の子?」

「あの、その、○○課で…えーっと、その…名前は川田です。」


 要領を得ない説明を要約すると、彼は上司であるぐっちー氏(原口補佐、木村の後輩)から命じられて、10~15年くらい前の資料をいくつか「たぶん政策推進室で持ってる」と言われて探しに来たそうな。


 政策推進室が事務局となっている有識者委員会は、夏を目処にとりまとめの予定で、現在そろそろ追い込みにかかっている。他課にも作業が発生しており、おそらくその関係だろう。


「ってか、そんなびくびくしなくても。ぐっちーってそんな怖いの?」

「いえ、怒るとかでは…でも、はい、怖いです…」

「ぐっちーも偉くなったねーって言っといてー。」

「いえ、そんな畏れ多い…」

「あらあら。あんまり怖かったらおねーさんとこに来なねー。」


 木村が苦労して話を聞き出し、かつ雑談しつつ苦笑するのに、大真面目に答える川田。話した感じでは、最初の緊張が取れてしまえば筋道だった話もでき、上司の指示も意図や背景まで含めて理解しており、そんなに頭が悪そうではない。しかし。


(…まぁ、この態度ならいらつく人もいるかも。)


 彼の上司の原口は、遥も面識があるが、仕事がものすごくできる一方で、相手が分からないのが理解できない、という、極端な言い方をすればオラオラ系だ。木村とは気が合っているし、本質的に悪い人ではないが、反応が鈍い部下に丁寧に対応するような親切心を持ち合わせているようには見えない。更に、話し方がぶっきらぼうなので、川田のようなタイプにしてみたら、ますます畏縮するだろう。相性が悪いというやつだ。


 木村が事前に(偶然)資料を把握していたために川田のお使いは短時間で済み、彼は何度も木村に礼を述べて帰っていった。

 

「あいつも、そろそろうまく部下を使うことを覚えないとなぁ…」


 川田を見送って、木村が呟く。原口のことだろう。


「補佐は対人関係のレンジ、広いですよね。上にも下にも。」

「そっちのほうがお互いやりやすいからねー。でも、お気楽に見られるからか、壊滅的に合わない人はあわないよー?」

「そんな人いるんですか。」

「それなりにー。それ以上は悪口になっちゃうからひみつー」


 鳥越の追求に、にやっと笑って話を無理矢理終わらせる木村。そして、何やら名簿で確認し。


「と、とりごえさん、はるちゃん、たいへんだ!」

「補佐、棒読み…」

「さっきの川田くん、雲に英語の英と書いて『きらら』くんだって!うしろの『ら』はどこから来た?」


 鳥越のいつものツッコミを華麗にスルーして、もしかしたらあえて黙っていたのかもしれない雲英(きらら)くんの下の名前を暴露するのだった。


 ***

 セクハラ問題の方はなかなか終息を見せない。

 美人局だ、一方の証言だけを参考にするのか、など、いろいろ言う人も増え、渦中の次官は職を辞してしまった。結局真実は闇の中、というようなことになりそうではある。


 そんな中「国家公務員の綱紀粛正について」という事務次官名でのお手紙が回って来た。


「これを次官名で出すとは、ブラックジョークがお好きな人がどこかに...」

「違うだろ。毎年、年末年始には似たようなペーパーくるし。」

「...やっぱりそうですか?」


 ピントがあっているかいないか、微妙な会話をする喬木と木村。更に、


「カラオケでデュエットの強要?お誘いなら日常茶飯事だけど。」

「そうですねぇ。普通に『どの曲歌える?』とか…」


 女子力要員で宴席に呼ばれることも多い木村と遥は、掲載されているセクハラの基準に首をかしげる。


「やっぱり、受ける側が強要と取るかお誘いと取るかなのかなー。」

「なんかよくわかりませんね。」

「うーん、これぞ、THE お役所仕事。」

「…木村さんが言いますか。」


 なんだか分からないけれどうまく誤魔化そうとして誤魔化しきれていない感じだけは現場にも伝わり、木村に言わせれば「まぁ他にどう書きようもないわねぇ」ということなのだろうが、釈然としないことがまたひとつ増える遥なのであった。

結局、玉虫色の「対応したふり」はなんだかんだ多い気がします。

民間の人に聞いてみたら、いろんなものがとんでもない弛さだと言われたり。プロの経営者を招致して、働き方から書類管理まで全部本気で改革してもらったらいいんじゃないかな、と思うこともしょっちゅうです。

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