プロローグ
夫の転勤に伴い東京に引っ越してきて二月。
遥は結構暇をもて余していた。
そう間をおかずに地元に戻る可能性が高い以上、長期の勤務はできない。派遣の登録は済ませていたが、なかなかこれといったものはなく、さすがにそろそろ近所の探索も終わっていた。現時点で自分の稼ぎがないのに遊び回る気にもならず、暇潰しを兼ねてハローワークでめぼしい求人情報を見るのも日課になって2週間になる。
ハローワークに入り、顔見知りになった職員と目があった瞬間、彼女に目配せされた。
「どうかしたんですか?」
「今日来たんですよ、これ。そこにも掲示してあるんですが、ちょうど満期3年ってお仕事で、たまに来るんですけど採用されるのは30代くらいまでの女性がほとんどなんです。柳澤さんに条件合うんじゃないかな、って。」
示された求人票を覗いてみる。
「…えっ、これ会社じゃなくて…」
「ええ、省庁の事務補助のお仕事。職員さんの指示にしたがってやる仕事で、わたしもよくわからないけどコピーとかファイリングとかいろいろあるみたいですよ。」
省庁の職員、と言われてもピンとこないが、高級官僚がああしたこうした、とかの話も含め、建物はニュースでよく見かける。
そんなニュースになるような職場で、年度末まで地方都市の普通のOLをしていた自分が働くことがイメージできなくて、遥は目を泳がせた。
「私、自分が働くイメージがつかないんですが…」
「そうですか?基本的にはどこにでもある事務所のバイトとかとあまり変わらない業務内容だし、柳澤さんお話ししててしっかりしてらっしゃるし。私はすごくおすすめできますけどねぇ。採用するかどうかは向こうの考えることだし、履歴書出すだけ出してみたら?」
職員の強い薦めでなんとなく出した履歴書だったが、とんとんと書類選考を通過し面接をへて、職員からの
「では柳澤さん、来週から来ていただけますか?」
の電話で、遥は7月1日から某省の某局総務課政策推進室で勤務することになったのだった。




