mirror
淡々と鏡を磨いているうちに、その姿は驚くほど鮮明になった。
厄介なほど単純な人間が、そこには映っている。
興味がないことには見向きもしない、自閉的で突飛な、タロットカードの0番。
意味を持つことを極端に嫌った、その平坦な人間性はきっと困惑させることに特化しているに違いない。
磨くほどに露わになる、樹脂で固めた神経網の標本を思わせる構造物。
愛想よく笑うこともできない、かろうじて外郭の形だけで人混みの中に立っている。
これは果たして、生き物と言えるのだろうか。
ほかの鏡には、違う姿がいくつも映っている。
「誠実さ」と「正しさ」を盾に足りない頭を回し続ける聖職者気取り。
好奇心に突き動かされるように極彩色を吐き出す無骨な機械。
よく見ると精細な文字と数字で構成されている、いびつな人型の平面。
四角形にトリミングされ、アルファ値が変動するグレースケールの人物。
それらはただの一面であり、誰しもが持っている。
決して本質は、特別ではないのだ。
削ろうと突き抜けようと隠されようと、取り残されようとも、全てはただ1人の、悩める鏡磨きに集約されている。
いつしか、本当に欲しいものを拒絶しはじめることさえも同じだ。
そうして自らが欠けようと何だろうと、苦い自己顕示欲のこびりついた器を舐めながら群れの中に溶け込むように消えることを望んでいる。
もはやそれは執着である。
鏡を叩き割れ。
そこに姿ある限り、お前は磨くことをやめない。
そこに姿ある限り、お前は消えられない。
お前はお前でしかいられない。
その姿を叩き割ることでしか、逃れられないのだ。