第六話 教室での一幕②
教室という狭い空間の中で、クラスメイトたちは皆俯き加減で、誰とも目を合わせようとせず、何も言おうとしない。皆この絶望の世界で生きることに必死だったから、近くにいる仲間の生存を喜ぶことで、残酷な現実から目を背けようとしていた。
しかしいざその現実を直視してしまえば、皆の不安が増大するのはいとも容易いことだった。教室では、暗くて重い空気が広がる。
ただそんななか、一人の少年はその空間にもどかしさを感じていた。それは、小牧だ。
「ええい、重いわ!」
やがてそんな空間に耐えきれなくなった小牧が、しびれを切らしてそう言った。そしてその空間にいる皆が、小牧に視線を集めた。
「たしかに銀次の言ったことはそうなのかもしれないけどさ、俺は皆に落ち込んでほしくてこれを見せたんじゃないっての」
小牧はさらに続ける。
「俺が言いたかったことは、現実を理解したうえで、こんな状況だからこそここにいる数少ない生存者の俺たちが一致団結しなきゃだめってこと。それから他の生存者たちとも何とか連絡をとって、お互いに協力することが大事だってこと。何とかなるかじゃなくて、何とかしてみせるんだよ!」
このときもやはり、小牧の目には希望が宿っているということに蓮は気づいた。そしてその希望を、不安になる皆に分け与えようとしているようにも感じられた。
──小牧、お前やっぱりすごいな。
事実、蓮は今、どす黒くて重苦しい教室の空気が晴れていく光景を目の当たりにしていた。下を向いていたクラスメイトたちも小牧の言葉に、何とか不安をやわらげようとしていた。
「だからさ、皆もあんま悲観的になりすぎんなよ」
「そ、そうだよ!皆もっと明るく、ね……?きっと何とかなるからさ」
皆に訴えかける小牧と同じく、雪乃もまた、皆を励まそうと懸命だった。
少々楽観的なきらいはあるものの、彼女もまた、希望を捨てないでいた人物の一人だった。雪乃は、ぐっと握りしめた両手の拳をその華奢な身体の前に出して笑ってみせた。
「銀次も銀次だぜ。今ヤバい状況だってことくらい皆わかるんだからさ、わざわざド直球に言って不安をあおるようなことしなくても」
そして今度は小牧が、銀次に向けてそう言った。すると銀次も、
「まあそうだな。悪かったよ」
と思いの外あっさりそれを聞き入れた。
これには蓮も少し驚いたが、ともあれ教室の空気は何とか絶望に支配されずに済んだ。クラスメイトたちは互いに励まし合い、笑い合いながらなんとかしようとしている。それぞれの表情にまだ無理はあるものの、しかし皆前を向き始めている。
そうしてくれたのは、またも小牧だ。蓮はそんな小牧に、感謝の念を抱かずにはいられなかった。
そして皆の不安がひとまずおさまった頃合いを見計らって小牧は、
「それでさ皆、不安がることなく落ち着いて聞いてほしいんだけどよ……」
という前置きのあと、本来話したかったと思われる本題について語り始めた。
「正直、今世界はかなり深刻な状況ではあるよな。二時間たった今もなお政府から何の発表もないあたり、政府機能も完全にやられてるんだろーな。でもだからって諦めるもんか。俺たちは俺たちにできること、他の生存者を集めて協力していかないといけない。だからそのためにまずは……」
小牧はすぅーっと息を吸い、一呼吸おいた。そしてずいぶんと勿体ぶったあげく、
「文化祭、だ!」
得意げに歯を見せ、ピースサインを見せびらかした。
次回からは当分、文化祭編なるものが続きます。
作者的にはようやくお話が始まったような感覚でして、構想段階から、一番書きたかった部分になります。
盛り上げていこうと思いますのでどうぞよろしくお願いします。