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楽園戦争  作者: 如月十五
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第一話 何の変哲もない日々

 ◆

 当たり前の日常はいつまでも続くと、そういうものだと思っていた。



 九月九日。その日の朝も、少年──六神蓮は小鳥のさえずりとともに目を覚ました。


「朝か……」


 いつもと同じ日々の繰り返し。そしてそれは今日も例外ではなく、ベッドから起き上がった蓮はまず、いつものように窓のカーテンを開け、朝の光を浴びた。

 日光に当てられ夢から現実へと呼び覚まされたその身体で、蓮は部屋を出てリビングへと向かった。


『時刻は七時三十分。今日のニュースをお伝えします』


 リビングには、いつもの光景が広がっていた。つけっぱなしのテレビの音と、母が朝食を仕度している音のみがきこえる。そんななか、食卓に座る父は黙々と新聞を読んでいた。


「おはよう」

「おお、おはよう」

「あら、おはよう」


 蓮の入室に気づいた父と母が返事を返した。そして朝の挨拶を済ませた家族は、それぞれが再び自分の作業へと戻る。母は料理を再開し、父はまた新聞に目を戻した。

 蓮が取る行動もまたいつもと同じく、父と向かいの席に座るなりあくびとともに大きく背筋を伸ばした。


「疲れているのか?」


 そんな様子の蓮に、あくまでも新聞からは目を離さずに父は尋ねた。これは毎日のようにかけられる言葉であり、最近ではもはや定型文のようになりつつある。


「昨日は遅くまで勉強してたからね」

「テストでもあるのか?」

「今日はないけど、明日小テストが三つもあるから」

「そうか、それは大変だな」


 そうこうしているうちに、母が朝食の準備を終えたらしい。母は、トーストと付け合わせのウインナー、ポテトサラダの乗った皿を二つ、蓮と父の前にそれぞれ置いた。


「勉強もいいけどあまり無理しないでよ?」

「大丈夫。もう高三なんだから体調管理くらい自分でできるさ」


 これもいつものことで、心配性の母は事あるごとに蓮の身を案じる。母は今日も不安な様子で、蓮の顔をじろじろと覗きこんだ。


「大丈夫だって」

「ほんとに?」

「死ぬわけじゃないんだからさ、心配しすぎだよ母さんは。それより、いただきます」

「え、ええ。召し上がれ」


 蓮はトーストを一口、また一口と口へ運んだ。朝食はだいたいいつも、トースト、ウインナー、ポテトサラダというお決まりのメニューだが、蓮はこれが好きだ。あっという間に食事を終えた蓮は、食器を台所へと持っていった。


「洗っておくから学校の準備しときなさい」

「あ、うん。ありがとう、母さん」


 後片付けを母に任せて、蓮は部屋へと戻り仕度を始めた。

 まずは前日の夜に準備しておいた教科書類の確認から。時間割りと照らし合わせながら、忘れ物はないか念入りに鞄の中を見た。


 ──よし、大丈夫だな。


 確認を終えた蓮は次に制服に着替え、今度は洗面所で顔洗いと歯磨き。いつもどおりの手順で身支度を整えた蓮は、鞄を片手にリビングに戻った。父はちょうど仕事へ出かけたあとらしく、リビングでは母が一人でテレビを見ていた。


『では、今日の占いです』


 自分もそろそろ出発しなければならないにも関わらずリビングに来たのは、ニュースの星占いを見るためだ。六神家がいつも視聴しているニュース番組では、七時五十五分──ちょうど蓮が身支度を終えるこのタイミングに占いが流れる。これを確認するのは蓮の日課だ。


「あんた、占い好きねえ。あんなろくに当たりもしないものを」

「もちろん当たるだなんて思ってないよ。けど一位だったりしたらちょっと嬉しいじゃん? 要は占いってのはその日一日を彩るものなんだよ、きっと」

「そういうものかしらねえ」


 母と会話しながらも、自分の星座はまだかまだかと、意識はほとんどテレビの画面へ向かっていた。しかし、結局最後の最後まで彼の星座──みずがめ座が呼ばれることはなく、


『残念、十二位はみずがめ座です。いつもとは違う一日に、ストレスがたまるかも?あまり気負いすぎないように……。ラッキーアイテムは眼鏡です。お出かけする際は、眼鏡をお忘れのないように』


 ──眼鏡なんて持ってないんだけどなー。


 占いを見終えると、時刻はちょうど七時五十七分になったところだった。始業が八時四十分で、登校に三十分ほどかかるため、十分前までに着こうと考えるとそろそろ出発の時間だ。


「いってきます」

「いってらっしゃーい」


 七時五十八分、蓮は自宅のドアを開け、学校へ向けて出発した。



 運命の時まで残り、十分。このときまだ、世界には何の異変もなかった。

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