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楽園戦争  作者: 如月十五
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第十六話 始まる文化祭準備

 ◆

 教室での話し合いが終わったあと、生き残った生徒たちは体育館へと集められた。あの場にいたのは3-Aのクラスメイトたち十二人と藤咲だけであり、事情を知らない他の生徒たちにも文化祭開催の旨を伝えるためのものだった。


 ──にしても、あんなにあっさりいくとは。


 時刻がちょうど十二時になった頃、残りの生徒たちは藤咲の校内放送をきいて体育館へとやってきたわけだが、その多くが文化祭について、小耳に挟んでいたようだ。否定的な意見が多く寄せられるのではないか、というのが蓮の推測だったが、小牧の巧みな演説の効果もあってか、その心配は杞憂に終わった。


 そしてそのあと早速、文化祭の準備が開始することとなった。藤咲の提案により生徒たちは三つのグループに分かれることとなり、それぞれがそれぞれの作業に従事する。


 一つめは蓮がリーダーを努める、展示グループだ。何を、そしてどこに展示するかから話し合い、その制作と展示を行う。また、本番当日は手が空くため、他のグループのサポートおよび巡回も任されている。

 二つめは小牧がリーダーを努める、ステージイベントグループだ。歌唱力が高いという理由から雪乃もこのグループに抜擢され、どうやら音楽を中心とするパフォーマンスを行う方針で話が進んでいるらしい。

 そして三つめは藤咲がリーダーを努める、炊き出しグループだ。主に料理のできる女子たちで構成されており、調理の全てを行う。また、来場者に振る舞うメニューの考案や、冷蔵倉庫内の死体の隔離場所の確保も彼女たちの仕事だ。準備期間中に至っては、他のグループのサポートも行うこととなっているようだ。


 これらのグループはそれぞれが八人単位で構成されており、計二十四人がこの文化祭の準備に携わる。ここに含まれていない、二十六人の生存者のうちの残りの二人は、一人が銀次。そしてもう一人は、3-Hの生徒だそうだ。

 銀次に関しては、学校の敷地内にある死体の捜索および冷蔵室への運搬を任されているからであるが、残る一人は体育館にも姿を現さなかったらしく、銀次が並行して探しているとのことだ。


 ──皆、自分の仕事を果たそうとしてる。俺も頑張らなきゃな……。


 こうしてそれぞれの役割が割り振られ、それに呼応して蓮の決意が刺激されたその頃、時刻はちょうど、十二時三十分を回ったところだった。

 蓮たち展示グループは、体育館の出入口付近にて話し合っている。


「まずは、場所だな。ステージイベントがある以上、体育館は使えないからな」


 そう発言したのは、展示グループに所属し、3-Aのクラスメイトの一人でもある皆瀬純だ。


「けどさ、何を展示してどのくらいのスペースをとるかがわからないことには場所も決定できないんじゃないかな……?」

「まあ、それもそうだな……。何がいいだろうか」

「んー、展示できるものは限られてるからなー。この状況で不要なものは何か……」


 悩むばかりでアイデアは一向に出てこない。世界がこんなことにでもなっていなければ文化祭もごくふつうに行えただろうし、もっと活発に意見が飛び交ったのだろうが、状況がまるで違う。不要なものだけを使用することを考えると、展示物の幅が大きく狭まるのも当然のことだ。


「六神くん、まだこんなところにいたんですか。ずいぶんと意気込んでいたように記憶していますが」


 そんななか、話し合いをする一同に割り込んできたのは藤咲だった。


「いや、これはその……。というか、藤咲こそこんなところに何しに来たのさ。自分の仕事があるんじゃ」

「ええ、ですからこれもその一つです。お昼の時間なので差し入れをと思いまして」


 見ると藤咲は左手に袋を持っており、その中には棒状の形をした、非常食と思われるものがいくつか入っている。


 藤咲によれば、この学校では緊急時のために非常食が一人二日分、保管されているそうだ。そして全校生徒は約千人で、その大量の非常食を二十六人で分ければいいので、当分のあいだ食事面での心配はないようだ。

 しかしもちろん、食事がそればかりでは体をこわすおそれもある。そこで藤咲は近所のコンビニエンスストアから食品を拝借してこようと考えているらしいが……。


「いいのかな、そんなの」

「まあ、罪悪感はありますね。しかし状況が状況だけに、誰も文句は言わないでしょうし、そもそも文句を言う人がいません。私たち以外にもたくさんの人がいるなら別ですが、どうもこの周辺地域には私たちしかいないみたいですし」

「それもそうか……。じゃあもしかして、それは早速拝借してきたの?」

「はい?」


 首を傾げる藤咲に、蓮は彼女の右手を指差す。彼女の左手には非常食の入った袋があるが、一方で彼女が右手で持っているものは──。


「ああ、これですか」


 藤咲は、右手に持つ缶コーヒーに視線を落として、言う。


「これは自販機で買ってきたものです。文明が滅んでしまったのであれば通貨の価値は無いも同然だと判断しまして。ああもちろん、自販機を開けることができれば通貨を使う必要もないわけですが……」


 しかしそのとき、蓮の耳に藤咲の言葉はほとんど入ってこなかった。そのとき蓮が感じていたのは、行き詰まった思考に一閃の光が差し込む感覚だけであり、それ以外のことには全く意識が向いていなかった。

 やがて頭のなかでその閃きは明確なものとなり、


「その缶コーヒー、くれないか?」


 気づいたらそう言っていた。

ちょっとだけ出てきた新キャラ。実は第四話における小牧のセリフで、名前だけ出てきてます。

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