第十二話 文化祭実行計画①
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替えの制服に着替えてシャワールームを出ると、ドアのすぐ隣で藤咲が待っていた。そして蓮が出てきたことに気づくと表情ひとつ変えずに、
「さあ、行きますよ」
とだけ言って歩き出した。蓮はそんな藤咲の後をただついて歩き、そして3-Aの教室まで戻ってきたのだが……。
──どうしてこうなった……。
それから五分後。教室の中央では同じ高さの机が四つくっつけてあり、その上に大きな紙が一枚、広げられている。そこにはマジックで大きく書かれた『文化祭実行計画』の文字があり、そしてその前に藤咲が、さらにそれを小牧や雪乃をはじめとするクラスメイトたちが囲んでいる。
「──というわけで、この文化祭の具体的な中身について話し合う前に、まずは状況の確認からです」
紙の反りを手で伸ばしてなおしながら、藤崎が話し始めた。
しかし彼女は先程まで、あんなに文化祭を反対していた人物だ。蓮と同じく、クラスメイトたちは皆、口をぽかんと開けながらただその変化に困惑するばかりで、彼女の言葉が耳に入らない様子だ。
「お前、説得できたのか……? あの会長を……」
「いや……、よくわからない」
蓮の横腹を小突きながら耳元で小声で話す小牧に、蓮はそう答えるしかなかった。何やら仕方なく文化祭の開催を認めてくれたようだが、どういう風の吹き回しだ、という思いが消えないのだ。
「おい、ちょっと待てよ」
そんななか、不快感を顕わにしたのはやはり銀次だった。
「あんたさっきまであんなに反対してたじゃねえかよ。それを何いきなりやってきて、勝手に仕切り出してんだよ」
銀次はどうも藤崎とは馬が合わないらしく、二人が会話を交えればまた怒鳴り合いになるのではないかと蓮は気が気でならなかった。
「今のあなたたちではできないと判断したからです。しかし止めてもどうせやるのでしょう……? なかなか頑固な方もいるようですし」
しかし藤咲は、銀次とは目を合わせず、あくまでも静かな口調でそう言った。
そして藤咲のその発言の後半部分は明らかに蓮に向けて言ったもので、意図してちらりとこちらを見る藤咲に何となく居心地の悪さを感じ、蓮は思わず目をそらした。
「そもそもこの状況における文化祭の意義を思い出してみてくださいよ。この文化祭ですべきことは一人でも多くの他の生存者を集めることでしょう? その目的を忘れかけて中身で盛り上がっているあなたたちに、この文化祭を成功させることなどできるはずもありません。しかしながら……」
藤咲はさらに続ける。
「私がいれば、成功させることができます」
彼女は断言した。全く曇りのない様子でそう言った。そしてそんな彼女に、一同は思わず気圧された。不満を募らせている銀次でさえも、少し驚いた様子を見せるだけで何も言い返そうとはしない。
──藤咲のその自信は、どこから来てるんだろう……。
そんなふうに蓮が考えているうちに、小牧がゆっくりと藤咲の方へ近づいていく。
「たしかに会長の言うとおりだ。俺たちは何か勘違いをしていたのかもしれない。けど一つだけ。文化祭は一人でできることじゃない。皆で作り上げるもんだ。だからさ、皆でいっしょに協力し合ってよりよいものにしようぜ。よろしくな」
「ええ、もちろんそのとおりです。よろしくお願いします」
歓迎の言葉とともに笑顔で握手を求めた小牧に応じて藤咲は、彼の手を握る。
その一部始終を見た周りを囲むクラスメイトたちは、大半がその状況を理解できていなかった。
しかし何はともあれ、文化祭の実現が一歩前進したことは事実だ。それを感じとった者たちによって、教室という空間はまばらな拍手で包まれた。




