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楽園戦争  作者: 如月十五
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第九話 二人の距離①

 ◆

 藤咲葵が立ち去った後の教室は、何となく気まずい雰囲気だった。文化祭をしようと意気込んだはいいものの、数少ない他の生存者たちに反対されるようでは、そもそも開催が危うい。


「えっと、どうしよっか……」


 そんな空気のなか、雪乃はなぜか蓮に目をやり、意見を求めてきた。


「そ、そうだな……。やっぱり、まずは藤咲……会長を説得しなきゃな。ちなみに小牧は、会長をどうやって説得するつもりだったんだ?」


 蓮は雪乃から自分へとふられた話の流れを、バトンを渡すように小牧へと流した。しかし小牧はというと、


「えーっとー……」


 などと困った顔をしている。


「あの会長が文化祭なんて当然賛成するはずないし、何か説得する方法でもあるのか思ってたけど……」

「いやーそれはそのー……」

「ないんだな」


 答えに窮する小牧を見て蓮がそう言うと、小牧は伏し目がちに、


「はい」


 とだけ答えた。


 その様子を見ていたクラスメイトたちは、少し残念がっていた。これまで小牧に頼りきっていた状況で、その小牧さえ頼れないとなると、そう感じてしまうのも無理はない。


 しかしその場でたった一人、蓮だけはそんな小牧になぜか安心感のようなものを感じていた。

 それはおそらく、そこにいつもの小牧を垣間見た気がしたからだ。今回のことが起こってからの小牧はずいぶん頼もしかったが、その前まで――ふだんの小牧にはどこか抜けている面があり、むしろその一面の方が強かったと蓮は思う。そしてそんな一面を垣間見ることは、一瞬でも、まるで平穏だったあの頃に戻ったかのように蓮を錯覚させたのだ。


 ただ、それだけで割りきることができない者もいた。藤咲の言う通りになることには納得がいかない銀次は、腕を組んで壁にもたれかかりながら、トントンと床を足で鳴らしていた。そして案を出せないクラスメイトたちは、その音をききながらただ黙るしかない。


 ──だめなんだ、このままじゃ。


 そのとき蓮が思い出したのは、屋上で決めた決意だった。いつまでも小牧に頼ってばかりではいられない、今度は自分の番だ。その決意が、蓮の身体を突き動かした。


「俺、説得してくる……!」


 皆にそう言い残して、蓮は教室を飛び出し、藤咲の元へと向かう。正直に言うと蓮に彼女を説得する自信はないし、何より蓮は藤咲葵という女が苦手だ。しかしそれでも、あのとき蓮は決意した。そしてした以上、それは貫き通さなければならないのだ。


 ──ふぅーっ。


 深呼吸をして、蓮は3-Bの教室へ入った。しかしそこに藤咲の姿はなく、ただ四、五人の男女がこちらを見ていた。彼らによると、藤咲はつい今しがたどこかへ行ってしまったらしい。藤咲の居場所について彼らは、こっちが知りたいと言わんばかりだったが、しかし蓮の方には心当たりがあった。蓮は3-Bの教室をあとにし、早速その場所へと向かって走った。


『図書室』


 そう書かれた教室札の下までたどり着いたところで、蓮はもう一度呼吸を整えた。蓮の心当たりが正しければ、おそらく藤咲はこの部屋のなかにいる。そして蓮はその藤咲を、今から説得しなければならない。


 ──よし……。


 息を整え終えた蓮は思いきって、ドアを開けた。ドアはガラガラという音とともにスライドし、蓮の視界には室内の光景が入ってきた。


 ──やっぱり、ここか……。


 図書室の中には、藤咲がいた。彼女は入り口から最も離れた長机の一角に、こちらに背を向けた状態で座っていた。そんな彼女は何か調べものをしている様子で、机の上には何冊もの本が積んであった。

 蓮は彼女の醸し出す雰囲気に話しかけづらいと感じつつも、とりあえず彼女の元へと、おそるおそる近づいていく。そして勇気を振り絞り、


「あ、あのさ……、藤咲」


 何とか一言、そう言った。しかしそれに対して藤咲は身体を向けることもないまま、


「誰かと思えばあなたですか、六神くん」


 ぶっきらぼうに、そう言った。

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