ほんのちょっとのやる気
「それは俺に学内トーナメントに出ろってことですか?」
蓮華はわけがわからない。そんな顔をしている。だが、そう思っているのはほかにもいるようで、
「会長これはどういうことですか? いや、それよりもいつの間にこんな落ちこぼれと親しくなったんですか?」
声をあげているのは生徒会副会長を務める二年生の男子。ほかの生徒会役員とは違い、明らかに差別意識を持っているといった印象だ。
「会長や篠原先輩がこの現状をどうにかしたいと感じているのはわかりますが、こんな奴と手を組むなんて俺は納得できません!」
たしかに、そう思う者は少なくはないだろう。
この問いに対しアンナはどう答えるのか。
「実はそこのところは私もあまり納得していないの」
その場の全員が疑問を顔に出す。それを察したようでマリが話を繰り出してくる。
「彼の実力は私が認めている。実は今朝負ったこの足のケガ。ランニング中に転んだと言ったが。霧ヶ谷くに負わせられたんだ!」
「どういうことですか?」
「そのままの意味だが」
「ちゃんと説明してくださいと言ってるんです!」
「君は相変わらず細かいな。だから彼女に振られるんだぞ」
「なんで知ってるんですか!」
そんなやり取りは思い切り無視してアンナが冷静に状況を把握しようとする。
「つまり、決闘をしたってこと?」
「いや、違うぞ。ウィースの使用はなしの対等な剣の勝負だ」
「それは本当なの? 霧ヶ谷くん」
アンナは蓮華にも聞く。突然話を振られたため蓮華はあくびして大きく開けられた口をあわてて閉じる。
「はい、本当です」
驚きを隠せないといった様子で蓮華を見た。マリと戦ったことではなくあのマリに剣術でけがを負わせたことに対してだ。
しかし、先ほどの男子はこれを聞いても納得できないのかいまだに鼻息が荒い。
「しかし学内トーナメントはジェンティーレとしての戦いです。剣士としてではありません」
この切り返しに対しマリも負けじと意見を言う。当の蓮華はどっちでもいいという顔をしている。
「そうかもな。だが彼は私に剣一本で勝利した。この事実は揺るぎはしない。それに、ウィース込みの戦いでも負けていたかもしれん。霧ヶ谷くんはまだ本気を出していないようだったしな」
そう言ってマリは自分のことのように誇らしげに胸を張り、蓮華に笑みをおくる。
蓮華は少し気まずそうに横を見る。すると、ちょうどフィルミネスと目が合う。フィルミネスもあまり信じてはいないような視線を向けていた。
「ほんとにマリ先輩に勝ったの?」
「うーん。勝ったって言えるのかもしれないけど、篠原先輩は大げさに言いすぎだ」
アンナが手を二回打ち鳴らしてこの場を収める。なんだか生徒会長らしい行動だ。
「どのみち学内トーナメントがあるのだし、そこで実力はわかるでしょう? だから、学内トーナメントでの彼の戦いぶりを見てからってことでいいじゃない」
この言葉に今まで何を言うこともなく黙って話を聞いていた銀も賛同する。
「アンナの言う通りだ。勝ち残ることができれば強いということだ。それでいいな、竜胆」
「……わかりました」
なんだか蓮華が学内トーナメントに参加する流れになってきている。蓮華もそれを理解したようだ。
参加するとは言ってないよな?
「それじゃあ、出てくれるな?」
マリが蓮華の心中を察したように聞き、期待の目を蓮華に向ける。
蓮華が決めあぐねていると、フィルミネスがこんなことを言ってくる。
「出なさいよ。どうせ暇でしょ?」
「それを言われちゃあ何とも言えない……あーもう! わかりました。参加します」
その言葉を聞きマリは安心したように息をはき、フィルミネスは喜んだ様子で顔をあげる。だが蓮華の話はまだ続く。
――せっかくだから、と。
「しかし、一つ条件があります」
誰も予想していなかった咄嗟の変化球に一瞬時間が止まったようなそんな感覚になった。まあ、この場の主導権は蓮華にあるのだから仕方がない。
「……そんな、身構えないでくださいよ」
「その条件とは何かしら。私たちでなんとかできること?」
「安心してください」
蓮華は咳ばらいをして、息を整える。まるで何か重大な発表があるかのようだ。
「俺が七高剣舞祭のメンバーに入れたら一人、生徒会推薦枠で入れてほしいやつがいるんです」
◆
今日この日は週に二日しかないスクルータの戦闘訓練の授業だ。ここでは単純に戦闘用のロボット、『シュールくん』と戦うことになっている。
「そんなことがあったんだ。っていうかそれ僕に言ってもいいの?」
蓮華は訓練の順番が回ってくるまで秋久に先日の会議後の話をしている。
「ああ、アキには知っててほしくてな」
蓮華はかなり意味深な感じで言う。本当は他言無用にしなければいけないのだが秋久には話しておきたかった。それは本当だ。
「それより、アキは学内トーナメントでないのか?」
「僕はいいよ。出ても勝てる気がしないし……」
「そうかなー。射撃に関しては才能あると思うけど」
蓮華は本心で言っている。確かに射撃の成績は秋久のほうが上である。
「僕は、蓮華とは違うから……」
秋久はそんなことを言ったが蓮華には聞こえないくらい小さな声だ。案の定、蓮華には聞こえていないようで、順番が回ってきたためシュールくんの前まで歩く。
周りの人間も秋久と同じようで、「どうせ俺たちはスクルータだ」というような顔をしている。蓮華そんな彼らを見ていると無性に腹が立ってくるためなるべく見ないようにしている。
「まったくもってめんどうだ。けど、この学園で三年も過ごす方がめんどくさそうだな……」
そうつぶやき、蓮華は八つ当たりでもするかのように剣を振る。いつの間にかシュールくんは右手と首がなくなっていて切り口から電気が走っている。
シュールくんに背を向けて戻ってくる蓮華に秋久はいつものように会話をする。
「さすがだね、レン」
「そうか?」
「霧ヶ谷、すげーなどうやったんだよ」
「霧ヶ谷くんって剣道とかやってたの?」
クラスメイトは急に蓮華に興味を持ち始めたが蓮華にはそれが少し鬱陶しいようだ。
しかし、周りの人間からしてみればそんなことは関係ない。もしかしたら蓮華ならインゲニオスにも勝てるんじゃないか、と思う者もいればその反対もいる。
次の瞬間、蓮華の倒したシュールくんが爆発した。髪が爆風で無造作に揺れ、辺りには金属片が散らばっていく。それらにまぎれて、蓮華の足元にシュールくんの首が転がってくる。
蓮華がそれを拾い上げると彼の周りに群がっていた者たちは蓮華から離れていく。所謂、他人のふりというやつである。
「……訓練用戦闘ロボットっていくらするんだろうね」
「…………え? ちょ、ちょっと待てよ。おかしくない? あれ俺が弁償すんの!」
◆
巴が学内トーナメントについての話をしている。この話は普通、先日の会議に参加していた蓮華がすべきなのだが、その会議中に寝てしまっていた蓮華の話はどうも要領を得なかったのである。よって巴が補足説明している最中だ。
しかし、ほとんどの生徒がどうでもいいように話を聞いている。先日、参加すると宣言したばかりなのだが蓮華もそのうちの一人と化している。
「つまり、学内トーナメントは各学年で行われていてその名の通りのトーナメント戦だ。開示されるのは参加メンバーのみでトーナメント表は教師陣だけが知っている。出場者は試合開始の三十分前に対戦相手を知ることができる。また、自分の前や後の試合の勝者が次の対戦相手というわけではない。試合のルールに関しては決闘のルールと同じだな」
巴は話し終えたようでプリントから目を離す。
「ちなみに参加する奴はいるのか?」
そう問われたが誰一人反応を示さない。巴は横目で蓮華を見たが、蓮華は外を見て気づかないふりをする。
「まあいい。締め切りは一週間後。もし参加するものがいるのなら生徒会室に行けよ。以上だ」
◆
生徒会室の前まで来た蓮華は入るべきかどうか迷い扉の前で左右を行ったり来たりしている。
改めて思い返すとなんでこんなことになったんだろう。正直言ってめんどくさいし、『神楽坂第三学園に現れた謎のスクルータ。もう落ちこぼれなんていわせない!!』――ってな感じで報道されて、後世にまで名を残したいわけでもない。さて、どうするか……
などと蓮華は今さら断る理由を考えている。しかし、残念ながらそんな悠長な時間はないようだ。
「あんた何してんの?」
蓮華の背後からフィルミネスがいきなり現れた。蓮華は驚き一瞬肩が跳ね上がる。
「えっと。あの、いやー」
返答に困る蓮華。フィルミネスは首をかしげている。蓮華にしてはどうも歯切れが悪い。
フィルミネスは少し考え納得のいく答えを思いつく。
「ああ、学内トーナメントの申し込みに来たのね。入って」
「あ、うん。失礼しまーす……」
やばいやばいやばい! 断るには今しかない。よし言うぞ。中に入ったら誠心誠意頭を下げて謝ろう。よしやるぞ。これが最後のチャンスだー。がんばれ俺!
五分後。生徒会室のドアがゆっくりと開けられて中から蓮華が出てくる。蓮華は廊下を歩き角を曲がったところで右手を壁に付け、左手を顔に当て、うなだれる。
「……結局……申し込んじまった…………」