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剣士霧ヶ谷  作者: 竹崎 優
学内トーナメント編
3/45

ほんのちょっとの苛立ち

 まだ少し暗い早朝。蓮華は毎朝の日課のランニングをしていた。めんどくさがりな蓮華だがこういうことはちゃんとやっている。


 同じくマリもこの時間にランニングをしている。マリ曰く、何をするにしても体が資本である。よって、体を鍛えて損はない。

 

 マリが公園で休憩していると、その公園の前を蓮華が通りかかる。というか、走っていた。


「霧ヶ谷くーん」


 その声で蓮華は気づいたように振り返る。実際は気づいていたが声をかけようとはしなかった。


「おはようございます、篠原先輩」


 また、めんどくさくなりそうだ。

 そう蓮華が思っていると、


「んー。めんどくさいとか思ってるだろ? そんな顔をしているぞ」


 うそだろ。顔に出てた? やっべー。


「あれ、私、いつか自己紹介したか?」

「友達に聞きました。それより篠原先輩はこんな時間に何をしているんですか?」

「ランニングだよ。朝に筋トレとかをするのはは日課なんだ」

「へー。俺と同じですね」


 蓮華は少しにやついて、マリを見る。


「じゃあ、篠原先輩は服を脱いだら腹筋が六つに割れてるんですかー?」

「まったく。フィールくんのときもそうだが君はデリカシーがないな。女性に言う言葉ではないぞ」


 マリはそう言って、口をとがらせている。


 この人も女の人なんだな。あ、これはさすがに言っちゃまずいな。これこそデリカシーがない。

 蓮華も少しは女心というものが分かってきたようだ。

 

「そうだ。霧ヶ谷くん少し手合わせをしないか?」


 蓮華は少し考えるが、答えは意外とすぐに出た。


「いいですよ。ちょうど剣振りたかったし」

 篠原流がどれくらい強いのかも知りたいし。


 それを聞きマリは持っていた木刀を蓮華に投げる。蓮華はなんで木刀を二本も持っているのが気になったがめんどうくさいので聞きはしない。


「これは決闘ではないのでウィースの使用はなし。純粋な剣術で勝負だ。あと、誰にも言わないように」

「はい。寸止めでいいですか?」

「ああ。構わない」


 二人は構える。マリは木刀を両手で持ち中段に構える。剣道などの基本の構えだ。蓮華もそれにならう。


 最初に前に出るのはマリ。木刀のぶつかる鈍い音がしてつばぜり合いになる――と思ったが蓮華は木刀にかける力をぬく。そのせいでマリは前のめりに体勢を崩す。そのスキを突き蓮華がマリの腹に狙いをつけ木刀を振った。マリは木刀を地面について体勢を立て直してからギリギリでかわす。


 やっぱり霧ヶ谷くんやるね。

 そんなことをマリは思う――が、油断は禁物。


 蓮華はマリが着地する前に今度はこっちの番とでも言いたげに地面を蹴る。マリが着地するころには蓮華はもう間合いを詰めていた。


 何とか蓮華の木刀をさばいてはいるがマリのほうが押され気味で少しずつ後退していく。マリは何とかしようと地面を蹴り距離をとろうとする。


「しまったっ!」


 いつに間にかマリの後ろは滑り台の階段になっている。急な状況の変化に戸惑い蓮華の攻撃を上に飛んで回避してしまう。

 蓮華はチャンスとばかりにマリを見上げ木刀を左腰に添え居合の構えをとる。


 だが、蓮華はマリに向かってこうつぶやく。


「先輩ってよく見ると本当にきれいですよね」

「ほえっ!?」


 マリはその言葉に不意を突かれ着地に失敗してしまう。


「痛っ!」


 マリは足をくじいてしまったようで、足首をさすっている。

 蓮華はそんなマリに手を差し伸べる。


「大丈夫ですか? それにしても先輩もあんな声出すんですね。かわいかったですよ」


 マリの顔は一気に赤くなる。


「やめろ! 私は一応彼氏がいるんだぞ!」

「……初耳ですけど」


 少し沈黙があり、風の音が聞こえてくる。

 蓮華は少し気まずくなりマリに話しかける。


「えっと、とりあえずうちに来てください。その足の応急処置だけしましょう」





「ここが君の部屋か。意外ときれいにしているな」

「どういう部屋を想像してたんですか?」

「霧ヶ谷くんの部屋だからなんかこう……怠惰な感じ?」

「怠惰な感じって何ですか」


 足に包帯を巻かれながらマリが部屋の中を見回していると、妙な光景が目に入る。隣の部屋だ。その部屋のパソコンのディスプレイの近くだけは他とは違っていて、アクセプションのようなものが大量に散乱していた。


「霧ヶ谷くん、それはアクセプションだよね? もしかして君……」

「はい。アクセプションですよ。自作です」


 マリは言葉を失った。汎用型なら普通に店で売っているのに、蓮華は自分で作っている。マリにも少しくらいはメンテナンスできるが、一から作ることは困難だ。


「どうして、自分で作っているんだ? これくらいの物なら店で買えるのに……」

「理由は三つです。一つ目は店で売られているのはみんなと同じ形でつまんないから。二つ目は昔からこういう機械いじりとか好きだったんです」

「三つめは?」

「俺のじいちゃんが言ってたんですけど……武器っていうのは愛情を注げば注ぐほど持ち主を助けてくれるらしいんです。それが三つめの理由ですかね」


 マリは嬉しそうに自分の作った武器を眺める蓮華を見て穏やかな笑みを浮かべた。しかし、内心はマリが思っているようなものでもなく、


 なんか柄にもないことを言っちゃったぁぁぁ! はずかしー!


「いいおじいさんだな……」





 生徒会や委員会の委員長が会議室に集まっていた。いや、各クラスの学級委員も集まっているようだ。蓮華は不満そうな顔をして腰を掛けている。蓮華たちが先日食堂でもめた男も1Aのところに座っていて蓮華を睨んでいる。蓮華は視線には気づいているが全然見向きもしていない。


「全員そろったようだな。そろそろ会議を始めようか」


 筋肉質で背の高い男が言う。少し低めだが大きくそれでいて落ち着いた声だ。なんとも力強い雰囲気をかもし出している。

 次第に話し声はなくなり会議室が静まり返る。


「よし。では後は任せたぞ、アンナ」

「ええ。ありがとう桜庭くん」


 桜庭と呼ばれた男はこの神楽坂第三学園の評議員の委員長である。本名は桜庭銀。


「じゃあ、簡単に自己紹介をしましょうか」

「アンナ、なんでそうなる?」

「まずはお互いを知らないと。マリだって知らない人いるでしょ」


 そう言ってアンナは首をかしげる。

 結局、三年生から順番に自己紹介をしていくことになった。


「一年A組、浅野相馬です。先輩たちの仕事ぶりからいろいろと学ばせてもらいたいと思っています。これから一年間よろしくお願いします」


 流れ作業のように拍手が起こる。


 少しずつ進んでいき、とうとう蓮華の番になると、「終わりましたねー」、「会議を早く始めませんか?」というような声が聞こえる。もちろん蓮華にも。しかし、そんな扱いを受けたのは蓮華だけではなくスクルータと呼ばれている者たちのときにそう言った罵声が飛ぶ。


「じゃあ、俺は自己紹介しなくていいですね。よかったー。こういうの苦手なんです」


 蓮華は相手を小馬鹿にした態度をとる。だが、銀がそれを許さない。


「いや、やれ。この場の輪を乱すな」

「ふーん。桜庭先輩は俺をその輪の中に入れてくれてるんですか? ここにいる大半の人は違うみたいですけど」


 そう言って蓮華は部屋の中をぐるりと見渡す。蓮華のその行動が気に食わないものは多数いるようだ。


「桜庭さんがやれと言ってるんだ。さっさと自己紹介しろ。口答えするな!」

「口答えしちゃいけないんですか? おかしいですねー。今から会議をするんですよね? それなのに俺には反論を許さないと、そう言うんですか? スクルータの意見などに耳を貸す必要はないと、そういうことですか?」

 

 蓮華は問い詰める。なぜなら納得がいかないから。


「そうだ。落ちこぼれの声に耳を貸す必要はない」

「なら、俺がここで自己紹介をする意味も会議に参加する意味もありませんよね? だったらめんどうなんで帰ってもいいですか?」


「つまり、君は何を言いたいんだ?」


 生徒会副会長のマリが蓮華に聞く。フィルミネスは少し心配そうに状況を見守っているがそんな心配は蓮華には必要ない。


「だから、めんどくさいんで帰ろうかと……」

「言い方を変えよう。君は今何に不満を感じている?」

 

「こんな茶番はやめて、早く会議を進めませんか?」


 誰かがそんなことを言ったがアンナがそれを許さない。


「いえ、彼の話を聞きましょう。とても大事なことだと思います」


「……納得がいかないんです。インゲニオスとスクルータで才能の違いがあるのは仕方ありません。そのせいでバカにされたりするのは別にいいんです。けど、ここは会議の場ですよね?」


 そう言って蓮華はマリに顔を向けるとマリもそれに反応してうなずきを返す。確認が取れたところで蓮華は話を続ける。


「だったら、なぜこの話し合いの場においても差別されなきゃいけないんですか? スクルータの意見だからって一蹴するのは違うと思うんですけど。まあでも、話し合いの場ですからそういうこともあるでしょう。けど、反対意見すら出さず、全否定する。いや、全否定でもなく聞いてさえくれない。こんなの会議でも何でもない」


 会議室にいる皆が納得してしまう。いつの間にか蓮華の声に全員が無意識のうちに聞き入ってしまう。


「それに、桜庭先輩が自分と真逆のことをを言ったからって急に意見を変えたあなた!」


 蓮華はそう言ってその張本人に顔を向ける。それにつられるように全員の目がその人物を視界に収めようと動いた。


「先輩ですけどこの際だから言っちゃいますね。先輩こそこの会議にいる意味……ありますか?」


 沈黙する。

 蓮華は少し言いすぎかとも思ったがもう引き返すことはできないと悟った。

 こんな居心地の悪い場所に来てやってんだ。もういっそのこと言いたいことを全部言ってやる!


「それに、俺たちが無能の烙印を押されたのはウィースが問題であり、それ以外はみんな同じ人間だから差別されるいわれはない。つまり何が言いたいのかというと、ここは会議室――皆が対等の立場になって行う話し合いの場。スクルータだろうが落ちこぼれだろうが後輩だろうが関係ない。もちろんいいと思った意見には賛成します。でも、対立もするし反発もきちんとしますよってことです」


生徒会や風紀委員、銀など一部の者は拍手で蓮華に賞賛を示した。





 蓮華の話が終わり会議が始まる。部屋のなかは緊張感が張り詰めている。


 会議の内容は【学内トーナメント】についてだ。学内トーナメントとは七高剣舞祭(セブンスコンテスト)というジェンティーレ育成学校の大会に向けた人選を行うトーナメントである。

 七高剣舞祭は各学校から24人選ばれる。このトーナメントで一学年7人ずつ、計21人選ばれ、残り3人は生徒会の推薦によって決まる。


 蓮華は暇なのか、静かに眠っている。

 周りから少しにらまれたりもしているが気づいていないようだ。


「それでは学内トーナメントについての説明を終わります。なにか質問はありますか?」


 アンナは誰も手を上げないことを確認する。


「では、以上で会議は終了します」


 会議室には生徒会と銀と蓮華が残っている。

 蓮華はまだ寝ているようでフィルミネスに無理やり起こされる。


「ほら、蓮華起きなさい」

「痛い痛い! 耳引っ張んな!」

「あ、起きた」

「あ、起きた……じゃ、ねーよ! 見ろ。ほら、耳赤いじゃん」


 蓮華はそう言って耳をフィルミネスに近づけるとフィルミネスは恥ずかしそうに顔を赤くした。


「ちょっと……近すぎ」


 そんなことをしていると、銀が蓮華に話しかける。


「霧ヶ谷、お前は今の現状にスクルータとしてどう思う?」


 蓮華は思わずめんどうくさいという表情が表に出る。しかし銀はそんなこと気にも止めずに蓮華が答えるのを待っている。


「どう思うってのは、差別とかのことですか? インゲニオスとスクルータの授業内容とか?」

「そうだ。ウィース関連の授業が少ないとか。訓練室の使用はインゲニオスが優先されるとかだ」

「考えたことないですねー。でも、スクルータの連中がそのせいで学内トーナメントや決闘で勝てないとか思ってんだったら、それはただの甘えですね」


 アンナも蓮華に質問をしてくる。


「つまり、差別されるのはスクルータ自身のせいってことかしら?」

「そこまで言うつもりはありませんけど。差別意識ってのは差別される側のほうが強いですから。ただ、努力もせずに文句ばかり言うのは違うし、そういうあきらめてる奴ら見てるとイライラしてくるんですよねー。っていうかそんなこと聞いてどうするんですか?」


 不思議そうな顔をして聞いてくる蓮華にマリが答える。


「ここにいる者たちはみな、差別で塗り固められたこの現状に君と同じでイライラしてるのだよ。ここで唐突だが、君はどうすればいいと思う?」

「そうですねー。まず、一番の問題はスクルータの一人一人が己を過小評価しすぎてることです。物事、挑戦してみなきゃできるかどうかはわからないですし。まずはその精神をどうにかするべきですね」

「どうにかする方法を知りたいのだが」

「それは……希望を持たせること、かな」


『希望?』

 

 蓮華以外の全員が口をそろえる。


「はい。スクルータでも能力の発現前のインゲニオスに勝つことは少しくらいはあるでしょう。でも、発現者に勝ったことがあるという前例が一つもない。スクルータの劇的な勝利っていうんでしょうか、とにかく印象に残る出来事が一つでもあれば意識は多少変化するのでは?」

「なるほど。私と同意見だ」

「そうですか」


 早く終わんねーかなー。

 なんて、いつも通りのことを考えている蓮華だが唐突な誘いが飛んでくる。


「そこでだ。霧ヶ谷くん、今年の学内トーナメント、君が勝ち残り七高剣舞祭に出場しろ!」


沈黙する。アンナ、銀もわかっているようでとくに驚きはしていないが蓮華はもちろんフィルミネスなどは知らないようだ。


「……は?」

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