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剣士霧ヶ谷  作者: 竹崎 優
学内トーナメント編
1/45

学園のシステム

「つまり、アンナ会長が合図したら壇上に上がればいいんですね?」

「そう。私が少しだけあなたの紹介をするから、その後があなたの出番よ」

「わかりました。なんか緊張してきました」


 二人の女生徒の話し声が聞こえる。口ぶりからしてこの学園の生徒会長と新入生代表挨拶をする人だろう。

 そんな会話がすぐそばの木陰で横になっている霧ヶ谷蓮華には聞こえていそうだが彼は気持ちよさそうに寝ていた。

 

「入学式が始まります。生徒のみなさんは講堂に集まってください」


 このアナウンスで蓮華は目を覚ます。硬直した体を伸ばし、大きくあくびをした。


「やっと始まるのか。あーあ、めんどくさ……」





 少しずつ新入生が集まり、先輩たちがいる二階の席からは「あの娘、かわいくね?」とか、「私、あの子好みかもー」なんていう声が耳に入る。

 そんな中、蓮華はE組の座席を見つけて入学式が始まるのを待っていると、彼に話しかける少年が一人……。


「となり、座ってもいいかな?」

「どうぞー」

「僕、佐久間秋久。よろしくねー」


 秋久と名乗った少年は、とても優し気な雰囲気でかっこいいというよりはかわいいという表現が合っている。蓮華は不思議と彼となら仲良くなれそうだと思った。


「ああ。俺は霧ヶ谷蓮華。よろしくなアキ」

「え……?」


 いやだっただろうかと思ったが違うようだ。


「アキ……か。いいね。僕も君のことを『レン』って呼んでいい?」

「どうそお好きに。呼びは方何とでも」


 二人の話は初対面とは思えないくらい盛り上がり、周りの生徒からにらまれるほどだ。終いには先生に注意され二人一緒にペコペコ頭を下げている。




「みなさん。神楽坂第三学園へのご入学おめでとうごいます。私は生徒会長のアンナ・マクスウェルです」


 生徒会長の話が始まる。蓮華にとってはこういったものはとてもつまらないので昔からよく寝ている。だが、今日の蓮華は珍しく起きている。


「なあ、なんで第三なんだ?」


 結局のところつまらないようで秋久に話しかける。


「そんなことも知らずにここにきたの?」

「まあ、ここに入学するのは世界的に義務になってるし」

 

 そう言って蓮華は少しにやついたように笑う。秋久は本気であきれているようだ。


「しょうがないなー。この学園の校舎は三回建て替えられているんだ」

「安易だな。それで、この学園はどういう学校なんだ?」

「本当に知らないの? いわゆる学園島って呼ばれている島で人工的に作られている。島というよりも船って感じで島ごと移動もできる。いわゆるメガフロートってやつだね。世界には似たような島がほかに六つあって、ここを含めたすべての島はジェンティーレを育成する学校なんだ」


 そこで秋久は何かに気づいたように顔をあげる。秋久はまたにらまれている。今度は秋久だけが。秋久は立ち上がり顔を赤くしながら「すいません」と言う。

 それを見た蓮華はひたすら笑いをこらえている。


「レン。はめたでしょ? なんで?」

「いや、別に。それにしてもいい反応する」


 蓮華は自信満々にそう言ってくるが秋久はどうも納得できない。


 次の瞬間大きな音が体育館に響き渡る。教壇がたたかれる音だ。二人はステージに目を向ける。

 いつの間にか新入生代表挨拶に変わっていたようで壇上に上がっているのは生徒会長ではなく赤髪の少女ににらまれている。よく見ると彼女だけではない。


 それにしても、あまりにもいきなりだったもので蓮華と秋久は驚いてしまいひたすら謝罪の言葉を口にする。


「「ごめんなさい。ごめんなさい! ごめんなさい!!」」


 それからの二人は一言も発さず、よくある平凡で普通の入学式が行われる。


 蓮華と秋久の二人は入学式の後、学園に残り反省文を書いていた。





 蓮華はじゃんけんで負けパンを買いに行っている秋久を待っていた。購買はいつも混んでいるらしくなかなか帰って来ないので、蓮華は芝生に寝転がりいつも首にかけているヘッドフォンで音楽を聴いている。


 蓮華のすぐそばで昼食をとっている女子が三人。栗色の長くふわふわした髪をしたかわいらしい顔つきの女子。はたまた真逆の印象を感じさせ、黒く短い髪をした大人っぽい女性。そして、長く赤い髪をリボンで止め、顔にはまだ幼さを残す少女。


 彼女たちの名前は、アンナ・マクスウェル、篠原マリ、そしてフィルミネス・シオン。三人とも生徒会の役員である。


 一匹の猫が三人の前を通りかかる。


「おいでーおいでー」


 フィルミネスは手招きをするが、猫には別に目的があるようで見ようともしない。猫の目的は一人の少年である。

 そんなことは露知らずフィルミネスはその猫を追いかける。猫が少年のそばに座ったのを見計らいとびかかった。


 マリは「あぶないぞっ」と言ったがおそかった。

 フィルミネスは少年の上に覆いかぶさってしまう。そう、蓮華の上に。


 蓮華は何かを感じ取る。手のひらの柔らかな感触。

 

 なんだこれ?


「大丈夫?」


 アンナが二人に声をかける。マリは口を手で覆い震えている。

 蓮華は目を開ける。そこで初めて気づいた。自分はこ赤髪の少女の胸を触っていたことに。




 蓮華は考える。今この状況で言うべき言葉はなにか。


 とりあえずは相手を傷つけないように。そしてなるべく穏便に済ませなきゃなー。どんな言葉が適切か。うーん。どうしようかなー。なかなか思いつかないなー。女子のおっぱい揉んだのって初めてだからよくわかんないだよねー。って俺、今人生で一番頭回転してんじゃね?


 鼻をすすりながらそんなことを考えつつも蓮華はまだ胸を触っている。


「意外と大きいんですね。着やせするタイプ?」

「…………」


 うまくいったと思ったのか、蓮華は満面の笑みを浮かべている。だが、蓮華の目の前には顔を真っ赤に染めプルプル震えている少女がいた。


「……顔赤いですよ。リンゴ病というやつですか?」


 フィルミネスは無言で蓮華に平手を食らわせた。


「なにすんだよ」

「それはこっちのセリフよ! 人の胸さわっといてなんてこと言ってんの!」


 二人の醜い口ゲンカが始まりアンナもマリもあきれたように見ている。

 そんな中気まずそうにパンをかかえた秋久がやってくる。


「だから、不可抗力だっって言ってんだろー。人のせいにすんなよな」

「ち、違うわよ! あんたはそこのかわいい猫を利用して私の胸をさわろうと企んでいた。そうでしょう!」

「そんな器用な真似はできませーん……って猫? うわっ!」


 蓮華は猫に驚き、後ろに飛びのいた。

 蓮華の不思議な行動には何も言わずに話をなんとなく理解したらしい秋久が割って入ってくる。


「レン。欲求不満なのはわかるけど、こんな公衆の面前でする行為ではないと思うよ」

「お前は、なにナチュラルに話信じてんだ! 俺の味方しろよ」

「え? だってレン、彼女の胸さわったんでしょ」

「さわったよ! さわってしまいましたよ!!」

「そんなことよりお腹すいたよー」

「そうだな……でも! お前の誤解を解いてからな!」


 それを見ていたアンナとマリはもうどうしていいかわからない様子で立ちつくしている。というかおもしろがっている。


「あんたたち、入学式でバカ騒ぎしてたやつね?」

「「あの時は誠に申し訳ありませんでしたー」」


 もう条件反射のように頭を下げる。かなり、みっともない光景だ。

 アンナとマリは「そんなやつもいたなー」という風な視線を二人におくる。


「まあ、そんことはどうでもいいわ」


 この一言に蓮華と秋久の思考は同調する。

 どうでもいいなら話すなよ!

 

 フィルミネスは蓮華を指さして言う。


「あなた、名前は?」

「……霧ヶ谷蓮華」

「そう。私はフィルミネス・シオンよ」


 シオンという名前に聞き覚えがある気がしたが鼻水がとまらなくてそれどころではない。鼻水だけでなく蓮華の首は赤く腫れている。


「あ、そう」

 興味を示さないのが気に入らないのかフィルミネスは少し怪訝な顔つきになる。


「私と勝負しなさい。この学園のルールにのっとって決闘をしなさい!」


 蓮華はため息をつく。

 なんでこんな漫画っぽい展開になるかな。





 【決闘】とはその名の通り決闘である。なぜこんな校則があるのかというと、前にも秋久が話していたがこの学園はジェンティーレを育成する場であるからだ。


 ジェンティーレとはウィースという不思議なエネルギーを持つ者の総称。


 ジェンティーレが初めて現れたのは今からちょうど300年ほど前の2020年である。

 世界で同時に発生した大規模な地震が原因とされている。しかし、科学的な根拠はどこにもない。

 

 技術は進歩しジェンティーレのもつウィースを有効活用しようとした結果アクセプションと呼ばれる武器が発明された。


 つまり、ジェンティーレは常人よりもはるかに強い。だからこのような学園に通うことは義務となっている。そんな危ない奴らが暴れて建物などを破壊されたら困る。よって、ジェンティーレの育成学校では明確なルールのある決闘のシステムを作った。


【ルール1】デュエルは1対1で行うこと。

【ルール2】両者の了解を得ることができなければデュエルは行えない。

【ルール3】互いに最低10メートル以上の距離をとってから始める。

【ルール4】相手の校章を破壊するか戦闘不能にさせれば勝利となる。

【ルール5】相手を殺してはいけない。

【ルール6】以上の5つのルール、主に最後のルールを破ったものは重い処罰の対象となる。


 と、このようになっている。今ではジェンティーレ同士の戦いが一種のスポーツのような扱いになり密かに大会も開かれているほどである。ちなみに大会でもルールはだいたい同じである。





「さあ、どうするの?」


 フィルミネスは蓮華に問う。が、蓮華は流れてくる鼻水と体のかゆみと死闘を繰り広げている。


「……アキ、飯食おうぜー」

「え? いいの?」


 蓮華の思考回路はいたって単純。やる必要のないものは、やらない。


「まあ、めんどいし。腹減ったし。鼻水も止まんないし」


 そう言って蓮華はその場を去ろうとするが、フィルミネスがそれを許さない。


「へー。逃げるんだ? 入学式で騒げるんだから度胸くらいはあるかと思ったけど、とんだ臆病者ねー。男なのにー」

「うっせ。別にいいだろ」


 なかなか挑発に乗らないのでフィルミネスはありきたりな暴言を吐いてみる。


「ふん。あんたを産んだ親もあんたみたいに臆病なんでしょうねー」


 しかし、実際はフィルミネスの予想に反する。蓮華は歩く足を止める。回れ右をしてフィルミネスをにらみつける。


「……上等だ! やったろうじゃねーか!」


 すこし声が裏返ってしまっていたが誰も気にしない。


 学園から支給された蓮華の携帯端末に文字が浮かびあがる。


 

 フィルミネス・シオンからデュエルの申し込みがありました。受諾しますか?


            YES ・ NO



 周りにはいつの間にか騒ぎを嗅ぎつけてきた生徒で一つの闘技場のようになっていた。





 お互いが10メートル以上離れたところで、アクセプションにウィースをこめる。

 蓮華のアクセプションには青色の刀身が現れる。対してフィルミネスが展開した剣はオレンジ色の光を放っている。


「言っちゃ悪いけど私に勝てると思ってるの? 私が入学式の時壇上に立っていたのは入試の成績が首席だったからなんだけど」

「ジェンティーレにとって義務教育みたいな学校の入試で威張られてもなー」


「どう見る、アンナ?」

「そうね。彼はスクルータみたいだけれどシオンさんはもう能力も発現してるしシオンさんのほうが勝つんじゃないかしら」

「私も同意見だ。才能という部分で彼は劣っている」


 結果は見えている。アンナとマリはそう判断した。見る価値もないと思っていたのだが。考えていた一方的な戦いは繰り広げられてはいなかった。



 【デュエルスタート】の合図で二人は動き出す。

 まずは蓮華が一気につめる。剣がぶつかり合う音がする。その時フィルミネスの視線が一瞬下を向いていたのを蓮華は見逃さない。蓮華はすぐにその場から一歩身を引く。するとさっきまで彼のいた場所から火柱が上がる。


「なるほど。火、か。そういえばあの剣も熱を帯びてたような気がする」


 観衆たちは驚きを隠せない。なにせ、訓練も受けていないはずの一年生、しかもスクルータが攻撃をかわしたのだから。


「もしかして、今のは作戦ですかー? 首席って言っても大したことないなー」


 フィルミネスはこの挑発に乗ってしまう。この時点で彼女は霧ヶ谷蓮華の術中のはまってしまった。


 フィルミネスは炎を鋭く刃のような形状に変化させて飛ばしてくる。しかし、すべて読んでいるようにかわしてくる蓮華に焦りを感じていく。


「考えを改めなければいけないな。霧ヶ谷蓮華……私たちが思っているよりも逸材かもしれんな」

「へー。マリがそんなことを言うなんて珍しい。でも、このままじゃあ防戦一方よ」



「すごい……」


 だが、秋久の胸中は穏やかではない。同じ土俵でバカをやっていると思っていた友人があのフィルミネス・シオンと互角に渡り合っているのだから。秋久はこの瞬間、蓮華を賞賛すると同時に嫉妬してしまう。



 蓮華はアンナの言う通り防戦一方。だが、彼もただかわしているだけではない。まずは敵の力量をはかる。


 槍の形に。ふーん。思ってたより多彩だな。まあ、大体わかった。あいつも攻撃があたんなくて焦ってくるころだな。

 そう考えて蓮華は相手の分析を終える。


 同時に別の球状のアクセプションを取り出す。蓮華はそれにウィースを流し込み地面に放り投げると小さな爆発音がして煙が吹き出してくる。


「煙幕?」


 フィルミネスが気付いた時にはもう、周りが白く染まっていた。しかし、フィルミネスは煙幕の中で影を見つけ攻撃をしかけに走り出す。視界が悪い時は敵を先に見つけた方が勝つ。これは当たり前だ。だがここである疑問がフィルミネスの頭をよぎる。


――あの男は、霧ヶ谷蓮華はそれを知らなかったのだろうか、と。


 いや、知らないはずはない。ここまでの攻防で彼が戦いに慣れていることはフィルミネス自身がよく理解している。そして何より怖いのはこの状況を作り出したのは蓮華自身とういこと。

 

 案の定それは罠で、そこにいたのは蓮華ではなく誰かの制服の上着だった。


「引っかかったな。それは、アキの制服だよ! 古典的な策にひっかかかりやがって! このおっちょこちょい」


「あれ、僕の制服がない。ちょっとレン! なにすんのさー」


 上から声が聞こえ、フィルミネスが蓮華を視認しようと空を見上げる。しかし、太陽を味方につけた蓮華をまともに見ることができない。


 デュエルを見ている観衆に歓声を上げ騒いでいる人は一人もおらず、静かに見入ってしまっている。それは、アンナもマリも同じようでる。


「これで、決める! 霧ヶ谷一刀流……は…………」


『は?』

 観衆の全員が期待するように繰り返す。落ちこぼれが天才に勝つのではないかという期待を。


「は、は……はっくしょい!!!!!!」


 蓮華の校章に刃が届く。


 パリンッ。


「あれ?」


【WINNER Philmines・Sion】

と書かれた3D映像が空中に映し出される。


 唖然とし皆が声をそろえる。


『え?』


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