1-6 焔の約束
「どうしてそうなった」
衝撃の一言に、真冬がストップをかけた。
驚きを通り越して呆れも通り越して、真冬は思考停止に陥っていたのだ。
「僕まだ作戦言ってないですよ?」
「作戦以前に目標がおかしいんだよ!」
ツッコミは健在だった。
「滅ぼすったって、この流れだとあんたの国だろ」
真冬は早くも頭を抱えて、横目でじっとりと陽幸を見た。明らかに疲れ切った表情の真冬に、しかし、陽幸は笑顔だった。
「信用できませんか?」
「そりゃあな」
真冬は即答した。
「こっちとしては、制圧軍・・・じゃなくて、聖十字軍を撤退させればそれでいいんだ。なのにわざわざ国ごと滅ぼすのは、理にはかなっているが面倒すぎるし現実味がなさすぎる」
手元のお茶をグイッと煽って、大きなため息とともに湯呑を机に置いた。
「賛成できない、ということですか」
余裕の笑みで首をかしげる陽幸に、真冬は眉をひそめた。怒っているわけでもなく、呆れているわけでもなく、純粋に答えかねているようだった。
「今の段階ではな。お前の本当の目的まで話せとは言わないが、作戦が良くても賛同できるかわからない」
落ち着いた声音で言った真冬を見て、陽幸はふむ、と思案する。
宙を見ていた陽幸の目が、今までずっと黙っている焔に向けられた。
「死神さんは?」
ふっと、焔は口元に笑みを浮かべた。思わず見惚れてしまうほどに妖艶な笑みを。
「死神、それは下種が勝手に考えた呼び方でしょう。ついでに言うと、白夜真冬の鬼神、という呼び名も」
「へ、あ、はい」
陽幸は、質問を質問で返されて戸惑った。表情に先ほどまでの余裕はなく、目を瞬いて明らかに動揺していることが見て取れる。
それも仕方のないことだろう。なにせ、今までの話を聞いていなかったのかと疑いたくなるほど、今の内容からつながりの見えない質問をされたのだから。
一方、真冬は意外そうに焔をみていた。理由は単純。今の今まで、名前をお互い呼び合うこともなく、あまつさえゴミだなんだと言われてきたのだ。まさか、この話の流れで名を呼ばれるなどとは思いもしなかったのだろう。
だが、それを表情に出すことなく、真冬は静かに事の成り行きを見守る。
「私は、駄ゴミの作戦目的を全面的に支持します。作戦に口を出すことも、まあ基本的にはないでしょう」
さらっと、爆弾発言を落とした焔。
陽幸は、面食らったように焔を見つめた。
「作戦も聞かずに、承諾すると?」
「ええ、大変興味をそそられましたから。ですが、一つだけ」
焔は、自らの目の前に人差し指を立てて、にっこりと微笑んだ。
「決して、人前で鬼神、死神、という呼び方はしないでいただきたい。これが守れない、または守らなかった場合、私は問答無用で貴様を殺します」
ゆるりとした口調とあまりにもかけ離れた言葉。
だが、同時に真冬と陽幸は納得していた。
直接的な名前よりも、肩書や二つ名のような呼び方のほうが広まりやすい。これから少数で行動する彼らにとっては、個人の特定をされることが最も脅威となる。不便が多くなるのももちろんあるが、なにより問題なのは、敵の中核を担う人物と行動を共にしていること。真冬はもちろん、他2人も国家反逆罪で打ち首は免れない。いや、そもそもちゃんとした法律で裁かれるかすら危うい。
「分かりました」
即答した陽幸に、焔はいつもの自信に満ち溢れた笑みをむけた。
「そうでなくとも、背後に注意することをお勧めします」
「平穏な日常が・・・」
国の転覆を謀っている時点で平穏はないと思うぞ、というツッコミを、真冬は静かに飲み込んだ。
と、陽幸はぐりんと首を傾けて、真冬に改めて視線を合わせた。
「鬼神さんは、どうします?」
真冬は、数秒逡巡して、なにかを思い出したようにポンと手をうった。
「そういえば、俺が話止めたんだったな」
「忘れてたんですか?!」
「すっかり・・・」
真面目な顔をしていう真冬に、陽幸は開いた口が塞がらない。焔に関しては、ひーひーと肩で息をしながら大爆笑していた。
「え、っと、じゃあ、最初から説明した方がいい感じですか?」
「その必要はない。話の流れは覚えてる」
陽幸の戸惑い交じりの問いかけををすっぱりと切ると、真冬は今度こそ真剣に陽幸を見た。
「最初に言った通り、今の段階で賛同はしかねる。だから、俺が切っていていうのもなんだが、作戦を聞かせてもらっていいか?」
陽幸は、ぱあっと顔を輝かせた。まるで、欲しかったおもちゃを手に入れた子供のように。それだけ、待ちわびた言葉だったのだろう。
陽幸は言った。
「喜んで」
断られるなど微塵も思ってはいない、太陽のように朗らかな笑顔で。




