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白と黒とそのあいだ  作者: 銀蛍
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1-4 嘘はついてない

 運ばれてきた料理は、流石に豪華絢爛高級料理とまではいかないが、海や山に囲まれているだけあって、種類も量もかなりのものだった。


「おお、うまそう」

 真冬の表情は相変わらず険しいが、料理を見る目は心なしか嬉しそうに見えなくもない。

 焔も、ふむ、と興味深そうに料理一つ一つを眺めていた。


「ふふん、これが僕の自慢の宿ですよ。大通りから離れていて、そのうえ山が盾になって見えずらいから、人もあまりこないんです」

 陽幸は、自分の宿でもないのに自慢げに胸を張った。ふふん、と鼻息も愉快に鳴らしながら、どうだと言わんばかりに2人に視線を向ける。


「なるほど、これはワインで煮込んでるんですね。悪くない」

「俺、一回刺身食べてみたかったんだよ」


 全く、聞いてもらえていなかったが。

 

「ぼ、僕ってそんなに存在感ないですか?!」


 悲痛に叫ぶが、しかしどちらも聞いてはいなかった。

 目じりに光るものをぬぐいながら、陽幸はしょんぼりと肩をおとして料理に向き直った。捨てられた子犬のような目で焔と真冬を見ながら、箸を手に取った。

 ちらちらと2人を見ながら、魚をほぐし、ちらちらと2人を――見る前に、箸が弾丸のような速さで飛んできたので、陽幸はようやく諦めて今度こそ真面目に食事を始めた。

「んん!やっぱりここのはおいしいなあ」

 先ほどまでの落ち込みはどこへやら、陽幸は一瞬で機嫌を直した。口いっぱいに魚の煮つけをほおばり、うっとりと頬を緩める陽幸。次々と、机を埋めていた料理が陽幸の口のなかへと消えていく。


「あんた、参謀とかいうから、このお貴族様みたいに食べるんだとおもってた」

 真冬は、食べることをやめはしなかったが、少し意外そうに陽幸を見た。真冬が指さしたのは、陽幸の隣に座る焔。

 焔は、箸があるというのになぜかナイフとフォークを使っていた。魚の煮つけを丁寧に切り分け、一口大にしてフォークで口に運ぶ。どこからどう見ても‘貴族の食事’だった。


 陽幸は数秒焔を見て、いやいやいや、と片手を振りながら遠慮がちに笑った。

「だって、ここ普通の旅館ですよ。会席とか高級料理店ならまだしも、何の利益もないのにここまでしませんって」

 やだなあもう、と陽幸は締めくくって、再び料理に手を付ける。


 天然なのか、狙っているのか。

 悩むまでもない、天然だ。


 真冬は頭を抱えた。

「・・・、おまえ、よく今まで生きてこれたな」

「え?」

「・・・いや、今日が命日か」

「へ?」

 真冬がちらりと目くばせをして、陽幸に隣を見るよう促す。

 不思議そうにしながらも隣に目をむけた陽幸は、からから、箸を手から落とし、固まった。


 視線の先には

「なにか?」

 妖艶に微笑む、焔がいた。

 のだが、明らかに雰囲気が異常だった。背に花園が見えるほど綺麗に笑んでいるのに、そのさらに後ろに手招きしている死神が見える。


 陽幸は、何度か瞬きをして、焔を見て、何度か目をこすって、焔をみて、半泣きで真冬に必死の視線を送った。

 それこそ、うるうるとした、子犬のような視線を。女性ならば瞬殺で天に召されそうなほど、かわいらしい視線を。


「・・・んだよ」


 あまりにも切実な陽幸の視線に、真冬は渋々食事の手を止めた。心底面倒くさそうに顔を歪め、深いため息をつく。

 陽幸は、ぱあっと目を輝かせてじわじわと真冬と距離を詰め、顔を近づけた。

「僕、死神を怒らせるようなことしましたっけ?!」


「鼻息がうるさい」


 真冬は、小声であるのが奇跡なほど必死な陽幸の顔を少し手で押し返した。

「そ、そんなこといわないでくださいよ!じゃなくて、僕が怒らせたんですよね、死神!」

 負けじと距離を詰める陽幸に、真冬は諦めたように肩を落とし、小声で言った。

「自分が今までしゃべった言葉を思い返してみろ」

「今まで言った言葉ですか・・・?」

 きょとんとする陽幸。

 真冬は、頭を悩ます陽幸にもう一度顔を寄せた。

「もしそれでわからなかったら、あんたは今日が本当の命日だな」

 真冬は、一瞬ふっと笑って、また食事を再開した。


「そ、そんな・・・」


 絶望にくれながら、陽幸は必死に頭を回転させた。

 あれも違う、これも違う、それも違う・・・。

 陽幸は、真冬によって自分の料理が消えて行っていることにすら気付かない。

 そんな時だった。


「おやおや、どうされたんです?粗大ごみ」


 死神から、お声がかかってしまった。


 陽幸は、怯えながらも声の主のほうを向く。

 焔は、やはり微笑んでいた。思わず見とれてしまいそうになる陽幸だが、背後に死神を従えているのでもちろんそれどころではない。

「い、いえ・・・」

 冷や汗をだらだらと流す陽幸。

 そんな陽幸を見て、焔はニコッと笑った。

「?」

 陽幸も、焔につられて、引きつってはいたがにこっと笑った。


「無意識も、ここまでくると天才的ですね」


「ヒッ」


 お怒りでいらっしゃる。

 笑顔がすでに怖い。

 陽幸は真冬を見た。


「お、これもなかなか・・・」


 お刺身の次は、お寿司にご執心のようだった。陽幸と焔には見向きもせず、ただひたすら幸せそうにお寿司をほおばっていた。


 陽幸は焔をみた。

 死を悟った。


「それでは、そろそろ茶番も終わりにしましょうか」


「はい、終わるんですね、僕の命という名の茶番が・・・」


「そういうわけで、まずは制圧軍の増援の方をどう潰すかですね」


「はい・・・、今まで楽しかったです・・・・・・え?」


 陽幸は慌てて焔と真冬の2人を何度も交互に見た。驚きのあまり目が深海魚のように血走っていたが、今重要なのはそこではない。


「あれ、怒ってないんですか?」


 目をぱちくりと瞬かせて、陽幸は焔に尋ねた。

 焔は、にっこりと微笑んで、陽幸を赤い瞳に映し、言った。


「あの程度でいちいちゴミを処理していては、面倒でしょう?」


 数秒思案した陽幸は、怯えた表情から一転して、ぱあっ、と効果音が聞こえてきそうなほど嬉しそうに笑った。


「なんだー、鬼神さんがあんなこと言って脅すから、僕てっきり死神さん怒ってるんだと思ってびくびくしちゃったじゃないですかー!」


 もう、と真冬を小突いた陽幸に、真冬はため息を落とした。深い深いため息をつきおえた真冬は、のろのろと焔のほうを指さした。

 またまた首をかしげながら、陽幸は焔の方を見る。

 焔は変わらず笑顔のままだった。いや、正確には、先ほどの笑顔より数倍増しで輝いていた。


「だれも、怒っていないとはいっていませんよ、この駄ゴミ。貴様はこれからじっくりと躾て差し上げますと、そう申し上げているのですよ」


 陽幸は、もう一度だけ、涙をいっぱいいっぱいに溜めた瞳で真冬を見た。


「・・・だから、嘘はついてないだろ」


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