その約束を、星だけが見ていた。
「相変わらずここは、星がすげーたくさん見えるな!!」
「……そうだね」
「お前も、昔と変わらず声ちっせーな!」
「……うるさい。あんたのニヤついた顔も、変わらないくせに」
「この顔をかわいいって言ってくれる人もいるんだよな~。俺ってばモテモテ!」
僕の名前は東雲。
鳥の国の賢者だ。
今、とある男と寝転がりながら星を見ている。
僕より年下なのに身長も態度も大きいこの男の名前は、淡藤と言う。
一つの場所には留まらず各地を転々としながらなんでも屋をやっているこいつと出逢ったのは、五年ほど前のことだ。
まだ、戦争が起こっていなかったあの時代。
国境を越えることが今に比べて何十倍も簡単だった頃の話だ。
第一印象は、嫌な奴だった。
「お前、声小さくて何言ってんのか全然聞こえないんだけど」
初対面の僕に、こいつはこう言った。
自分の声が小さく、相手に言いたいことがなかなか伝わらないというのは幼い頃から繰り返し起こってきたことだった。
他人に言われなくても、わかっている。
だが、会ったばかりの奴に言われたのは少なからずショックだったのだ。
「まっ、俺は鳥の国の奴らと違って耳がいいから、ちゃーんと聞こえるけどな!」
そう言って笑ったこいつに、今度はカルチャーショックを受けた。
……今まで、こんなことを言ってくれる奴は一人もいなかった。
大きいのは、身長と態度だけではないらしい。
僕たちと比べてとても大きなその耳は、僕の小さな声すらも聞こえるというのだ。
これを機に、僕たちは友人という間柄になった。
といっても僕は基本的に自分の国から出ないので、こいつが鳥の国で仕事がある時に時間があればうちに寄るという程度の関係なのだが。
……だけど、ここ一年ほどは交流がなくなっていた。
国同士で、戦争が始まったからだ。
国境を越えることだって、昔に比べれば遥かに難しくなっているはずだ。
……それなのに、どうしてこいつはここに来たんだろう?
「なあなあ! あの星ってなんだっけ?」
「……あれはカシオペヤ。この間も教えたし……」
「そうだったか? じゃああっちは?」
「アルタイル……。これも、もう何度も教えたんだけど……」
こいつはさっきから、星の話しかしない。
本当に、何をしに来たんだか……。
「……お前って、星読みが得意だったよな?」
「え、うん」
「それならさ、占えねーの? この戦争がどうなるか……」
「あ……」
急に声のトーンが真面目になったことで、僕は気付いてしまった。
こいつは今日、僕にお別れを言いに来たんだ――――――――――。
「そんなに大きいこと、占えるわけないだろ……」
「……そっか、そうだよな。お前、いつもはこっちから頼まなくても勝手に占ってくるからさ、今回もなんかわかるかなって思ったんだけど」
「……それを聞きたくて、今日は来たの?」
「それだけじゃねーけど、まあそんなとこ」
「ふーん……」
……僕は、嘘をついた。
占おうと思えば、きっと占える。
でも、僕たち二人にとってよい結果が出る確率は低いだろう。
それは、どちらかが死ぬ未来かもしれないし、両方の国が滅ぶ未来かもしれない。
……そんな未来なら、今知る必要はないと思ったんだ。
こんなに、星が綺麗な夜なのに――――――――――。
「……俺はさ、別に国そのものに興味はねーんだ。各地を転々としてたから、土地に思い入れとかないし。でも、同じ狐の民たちがひどい目に遭うのはやだなって思う」
「……うん」
「みんなを守るためには、戦わないといけないんだよな。……たとえ相手が友達でも、別の国の奴ならさ」
「……そうだね」
「だからしばらくの間、ここには来れない。その代わり、約束しようぜ」
「何を……?」
「この戦争が終わったら、またここで星を見るって!」
「……いいよ」
僕たちはこの日、初めて”約束”をした。
過去には要らなかったそれは、今の僕たちには必要になってしまったから。
「……じゃあ俺、もう行くわ」
「……うん」
これを言うためだけに、こいつは危険を冒してまでここに来たのか。
……本当に、バカな奴だよなぁ。
僕は、走り去る背中を見ながらそう思った。
「おい! これ、やるよ!」
遠ざかっていた背中は急に振り返ると、何かを投げつけてきた。
慌てて、それをキャッチする。
袋に入った、ザラザラとした感触、これは――――――――――。
「淡藤様特製の金平糖! しばらく一緒に星は見れないから、俺が恋しくなったらそれでも舐めて気を紛らわせろよ! 東雲ちゃん!」
それだけ言うと、僕の答えなんて聞かずに闇に紛れて消えてしまう。
「……誰がお前のことなんて恋しくなるか! ……でも僕、油揚げ用意して待ってるよ、淡藤! だからまた、絶対に一緒に星を見よう…!!」
僕は、自分が出せる最大音量で叫ぶ。
その声は、既に見えなくなってしまったあいつの耳に届いたかどうかはわからない。
でも、きっと聞こえたはずだ。
なぜか、そう思えるんだ。
僕はその日、二人で一緒に星を見る夢を見た。
それは過去の思い出なのか。
それとも、今後来るであろう未来の出来事なのか。
その光景を正夢にするために、あいつとの約束を果たすために。
僕は今日も、刀を振るうのだ――――――――――。




