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ハルショカ  作者: たむら
season1
16/59

アイなんて(☆)

「ゆるり秋宵」内の「恋なんて」の二人の話です。

玉木(たまき)、結婚は人生の墓場よ?」

「……社長、私今そんな予定はまるでないんですけど。それと、結婚に夢を持てなくなるような発言はやめていただけません?」


 私のことを何とも思ってないのにやたらとちょっかい出してくる鈍感お下品男、と思っていた八雲(やくも)さんとすったもんだの末に結局交際を始めて、お互いをよーく知られているうちの社長に報告してからというもの、事務所へ顔を出すたびあいさつ代わりにこんなこと云われて辟易してる。

 社長は鏡を見ながら口髭を整えつつケッ、って顔した。

「甘いわ玉木、八雲君いくつだと思ってるの? そろそろ落ち着いて所帯持つ気になってもおかしくないのよ」

「だから、別にそんな話になったことないんですってば」

 ああもう、社長のトークが邪魔で領収書の計算が何回やっても合わない。困ったおネエさん(推定)だ。

「バカねぇ、正直にがっついたら、玉木は若いんだから逃げるかもしれないでしょうが。だから外堀から埋める作戦よ! きっと!」

「社長は何でそんなに人を結婚させたいんですか」

 やっと合った。念の為もう一度計算して、ちゃんと合ってることを確認してから溜めに溜め込んでいた領収書の束を経理担当に提出する。

「んー、玉木ようやく育ってくれたところだから僕的にはむしろまだしないでくれるとありがたいんだけどね。まあでもするならさっさとしちゃいなさい。産むなら早い方が楽よ」 

「はあ」

 社長社長、云ってることが色々と矛盾してますけど!? それに『楽よ』ってアナタ産んだ経験ないよね!? てかそもそも産めないよね!?

 そんなことより何より、――結婚、その前段階が全然なんですけど。


 音響会社に所属の八雲さんとイベント運営会社にお勤めの私は、同じ現場に入ればそこそこ会えるけどそうでない今はもうひと月は優に会っていない。向こうは確か今、ミュージシャンのホールツアーに帯同してるって云ってた。ようやく半分消化した、ってメールを寄越したってことはあとひと月かかるってことね。

 労働基準法を順守していたらお仕事にならない職種の私たちは、拘束時間が時に長く、連勤も地方での仕事も多く、せっかく借りてる部屋を年に半分以上留守にするなんて人もざらだ。

 そんななので、東京に帰ってきたら即恋人に会う、とはならず、まずはほったらかしにしていたお部屋のメンテや旅グッズのお片付けや、旅生活で疲れた体を癒すのが先。恋なんて、余裕がなきゃしようって気にもならない。


 どうしてすぐに会いに来てくれないのか、それほど自分を好きでもないってことか。


 そんな風に詰られて終った恋も、これまでにいくつかある。多分向こうも。

 そのせいもあるし、八雲さんも私も元々一人でいるのが好きなのもあって、お互いに『忙しそうな方が一息ついて、そっちから連絡があるまでは待機』というのが何となくのお約束になった。

 現場ではリハーサルや本番の時間に携帯は基本切っているし、やっぱりお互いの気質がマメではないので、連絡も来たり来なかったり。それで諍いになったことはとりあえず今のところないけど、あまりに私たちが無連絡なのを、例の二ヶ月ツアーに同じく関わっている八雲さんの会社の社長の清瀬さんが心配してくれて、八雲さんよりマメに『今終わりました』『明日は一日移動日です』なんてメールを入れてくれるので、うちの社長と二人して笑ってしまった。


 今はしばらく会えてないけど、会う時はたいがい八雲さんちにお邪魔する。まったりお酒を飲んで、いい雰囲気になればそんなこともするし、そうでない時は普通に寝るし。

 たとえば私がお料理上手で八雲さんの胃袋をガッチリつかんでたなら結婚話が出てもおかしくないかもだけど、残念ながら二人とも料理は今一つなのでお腹がすけばピザやラーメンをとったり、近所の定食屋さんに行ったりと、まるで男二人でつるんでいるみたいな状態だ。なのに周りは私が年上の男と付き合ってると知るとすぐに結婚という言葉を使おうとする。でも。


 愛なんてまだ怖い。アイ、って茶化してないと逃げ出したくなる。

 一〇年後? そんなの知らない。今だけしか分かんない。

 別に刹那的に生きてる訳じゃなくて、そんな五年後一〇年後のことをきちんと考えて生きてる人なんていないと思う。少なくとも私の周りでは。――大人である筈の社長と清瀬さんは、私なんかよりもよっぽど刹那的だ。二人が揃うと病気とかサプリとか健康法とかについて熱く語っておいて、それでもオチはいつも『それより今夜どこで何を飲むかが問題よ』だし。


 けっこん。そんなの、ちっともリアルじゃない。

 このままでいいの。ただたまに八雲さんと一緒に笑ったりご飯食べたりいちゃいちゃしたり出来れば、私はそれで満足なんだけどな。


『時間ある時に行って、空気の入れ替えしてもらえないか』と託された合い鍵。無造作に渡されたそれに深い意味なんてないさ、と思いつつ、休みの日に何度か主不在のその部屋を訪れて、ご要望通り窓を開けてあげた。

 八雲さんが旅に出たのは五月の頭で、ひと月たった今、そろそろ梅雨が始まろうとしている。今のところお休みの日に雨に降られてはないものの、これから先はちょっと分からない。でも出来れば、私のお休みの日くらい晴れて欲しい。雨が降ってても空気の入れ替えは出来ると思うけど、でもせっかくなら湿気てない時の方がいいだろうから。


 今日は晴れてて、でもしばらくぶりに来たここにはむわんとした空気が籠っていた。

 床やローテーブルがうっすら埃を纏っているのが分かる。これくらいならしてもいいかなと思いつつフローリングモップをざっとかけた。

 生ごみはさすがに行く前に片してあったけど、雑誌やらCDやらはローテーブルの上へ無造作に積まれたままで、それらにも埃は若干積もっていたのでハンディモップで表面を撫でる。『勝手に触るな』って人じゃないけどそれを元あったとこに戻すまでするのは気が引けて、雑誌とCDとに分けてきちんと積み直すに留めた。

 ――こうやってここへ足を運ぶようになって、面倒を見るの、嫌いじゃないなとか思ってしまった。でもきっと少しだから楽しめるんであって、これが毎日のことだったら話は別なんだろうな、とも思う。


 三〇分くらい経って、籠った空気が外の空気と入れ替わった頃合いで窓を閉める。

 振り向くと、妙にがらんとした風情の部屋。八雲さんがいなくて寂しげなそこに私の寂しさも毎回置きざりにして、鍵を閉めた。



「おかえりなさい」

「おう、ただいま」

 八雲さんから帰還を告げる実にシンプルなメールをもらい、二ヶ月ぶりに対面することとなった。

 待ち合わせは、八雲さんちの最寄駅。遠くからでも分かるその姿を早々に見つけると、向こうにもすぐに気づかれた。

「よう」

「どうも」

 ふた月振りの逢瀬なんて、何だか照れくさい。長期間会わずにいた時は毎回、出だしがちょっとぎくしゃくしてる、お互い。

 まだうまいこと弾まない会話の合間に、太ったり痩せたり色が黒くなってたりしていないかとじろじろ見ても、髪の毛が少し伸びたことくらいしか差が見つけられなかった。遠慮なく見ていたのですぐに気づかれ、「何だよ」とほっぺたを軽く抓まれてしまう。

「別に。――あ、これ、」

「いい、そのまま持っとけ」

 持っている理由の有効期限も過ぎたことだしとお返ししようと思っていたスペアキーは、掌に載せた瞬間に取り上げられ、またすぐに渡された。鍵に付けてた赤いレザーのタグを見た八雲さんは、なんだか少し嬉しそう。

「かわいいな、それ」

「失くすといけないと思って」 

 戻ってきたキーをバッグの内ポケットにしまう。私のアパートの鍵と触れて硬質な音を立てたのを聞きながら、持ってていいってどういう意味だろうって思った。


 八雲さんは長めの髪に端正なお顔立ち、なおかつ仕事で重たい機材を運ぶせいかそこそこ筋肉もあって、要するに女の人に好かれる外観をお持ちだ(しようとおもえば女の子をキャッチ&リリースし放題だと思うんだけど、と云ったら怒られた)。

 頼れる兄貴分で仕事にも定評がある人を好きになったけど、まさか思いを返してもらえるとは思わなかった。当然、何で好いてもらってるかも分からず『私のどこが好きなの?』って愚かにも聞いてみたことがある。そしたら、『云わない。云ったら減る』なんて乙女な珍回答を得てしまい、結局分からないまま。


 まだぎくしゃくしてて、心臓だけ別の生き物みたいに暴れ回ってて、そうこうしているうちに繋がれる手。

「あず、今日泊まれる?」と前を向いたまま聞かれて、こくりと頷く。

「ん」と漏らされた一言が酷く満足げで、せっかく平気なふりしてた心は、あっという間に平気じゃなくなった。

 会いたかったの、なんてかわいいこと云える女の子にはなれなさそうだけど、そう思う程度には寂しかったから、繋がれた手をこちらからも一度きゅっと握り返した。


 定食屋さんで軽く飲みつつご飯を食べて、それから八雲さんちへ行った。

 スペアじゃないキーで鍵を開けて中に入る。途端に、この間置き去りにした私の寂しさをフレッシュに思い出して、ぎゅうっと八雲さんにしがみ付いてしまった。

「あず?」

 別に、八雲さんがいなくったってきちんと仕事も行ってたし、一人で楽しく暮らしてたよ。

 なのにそれが嘘みたいに、ふた月振りのハグを離せない。

 八雲さんの胸元におでこを付けてたら、頭のてっぺんをごっちんてされた。

 なんだ? と思わず上を向くと、「やっとこっち向いた」と八雲さんが笑いながらもう一度、今度はおでこにおでこをごっちんてしてきた。

「石頭。痛いよ」

「あずがこっち向かないでいたから悪い」

 言いがかりを付けられて思わず尖らせた唇に、八雲さんが笑いながらキスをくれた。奇襲攻撃にんむ、ってかわいくない声を漏らしてしまうけど、それすらも次のキスに飲み込まれる。その次は、こっちからも首に手を回して応えた。狭い玄関でどんどん深くなるキス。

 ちらっと見えたお部屋の中は、私がこの間来た時とあまり変わらない。そしてそのど真ん中にべろーんと口を大きく開けっ放しのカートには、まだ着替えが詰まったままみたいだ。それなのに、連絡をくれたのが嬉しい。

 ふわふわの夢心地の頭で「靴、脱いで」と八雲さんの声を聞いて、ようやく靴を履いたままだったと気付く。それから当たり前のように手を引かれて行った先はリビングではなく寝室だったけど、何も云わずに始まったのは私も欲しかったものだったから、釦を外されたブラウスを腕から滑り落として、それから八雲さんのシャツも脱がせた。


 ――会いたかったと、もしかしたら睦みごとの最中に漏らしたかもしれない。


 諸々が落ち着いてから裸のままの八雲さんが話してくれたところによると、東京でいくつか仕事をしたあと、一〇日後にはもうまた地方でのお仕事なのだそうだ。

「売れっ子さんは大変ですね」

「そうですよ。でもカワイイ恋人がチャージさせてくれたから……」と八雲さんは人を抱き寄せつつ、一足お先に夢の人になってしまった。

 チャージって、と笑って、今しがたしてたコトを思い出して、赤面する。そう云う意味か! いやそれだけじゃないと思うけど! でも!

 ――八雲さんの『チャージ』が出来るのが私だけなのは、ちょっと嬉しい。

「荷物、明日一緒にお片付けしましょうね」とそっと頬を撫でたら、八雲さんが小さく笑ったような気がした。



 それからもう一回会ったあと、私は八雲さんの出発の数日前に日本を飛び出し、友人と二人で台湾を旅行してきた。

 三泊四日の台湾は、毎食とってもおいしくて『帰りたくなーい!』って思う程だった。八雲さんにも食べさせたかったなあ、揚げたてのパンとか、小龍包とか。小龍包をお腹いっぱいになるまで独り占めなんて、日本じゃなかなかできないからね。いつかお休みが一緒のタイミングでとれたら私が台湾をナビするのもいいかも、なんて思い付いては、フライトの疲れも忘れてニヤニヤしてしまう。

 今日は、帰ってきた私と入れ代わるようにして今度は八雲さんが地方へ飛ぶ日。飛行機で行くか新幹線で行くか聞いてないけど行ってらっしゃい、気を付けて、とテレパシーを送る。


 浜松町でモノレールから山手線へと乗り換えた。反対周りに乗る友人とはここで解散して品川・渋谷方面のホームに降り、さほど待たずにやってきた電車が停まるのを停車位置の斜め横で待つ。ドアが開いてわらわらと出てきた人を何とはなしに見て、

 ――目が、点になった。

「八雲さん……」と呟くとさすが耳のいい音響さんだけあって、私の声を逃さずにすぐ気付いて振り向く人。ホームは平日のお昼時なのにたくさんの人でざわざわしていて、音響さんじゃない私では八雲さんの呟きは聞き取れないけど、その口は『マジか』って動いてたのが分かった。

「ちょっとごめん」と八雲さんが一緒にいたスタッフさんに一声かけてから、二人で人の流れの邪魔にならない所へ移動する。

「すごい偶然! これから出発?」と会えたことにやたらとテンションの高い私と、「ああ」と云う返事がややテンション低めの八雲さん。そりゃあ、旅行で楽しんで帰ってきた人とこれからお仕事の人じゃそうなるよねと反省。しかも皆で移動中なのにスタッフさんを待たせちゃいけなかったとさらに反省。

「お仕事なのに、呼びとめてごめんなさい」

「いや、お前の顔見られてちょっとだけ元気出たよ」

「ちょっとだけなの!」

 憤慨すると、ようやく見慣れた笑顔になる。

「そりゃそうよ。フルチャージするにはこれくらいしてくれないと」というが早く、唇を掠める、唇。ひ、人がいるのに人がいるのに。スタッフさんも見知らぬ人もいるのに!

 そう抗議したいのにキスで頭が煮えてしまって、あわあわするのが精いっぱいだった。その隙に八雲さんはさらに私を存分にハグして、それから笑顔で手放した。

「ああ、やっとやる気出たわ。行ってくる」

「行って、らっしゃい」

 文句を云う余裕もなく赤い顔のまま反射でそう口にして胸のところで小さく手を振ると、八雲さんも「おう」って手を一振り。

 その後ろ姿が寂しい。会えて嬉しいのに。

 そう思ったのが伝わったかのように、八雲さんはスタッフさんたちに何か告げるとぐるっと振り返り、そして再びのしのしこちらへ歩いてきた。スタッフさんたちは、じゃあってして、みんなエスカレーターを昇って行ってしまう。

「――どうしたの?」

 またハグか、と警戒していたけど、そうはならずに八雲さんは私の目の前に立った。そして。

「帰ったら、あずに大事な話、したいから」

 それは何とも思わせぶりな物言いだ。

「今してよ。モヤモヤしたまま二週間放置されたくない」

「あー……」

 八雲さんは私の言葉に天を仰いで、それから俯いて、ちらりとこちらを見て、そのあと一回深呼吸して、それでようやくきちんと向き直った。何だか少し緊張している? 電車が入ってきて、それから渋谷方面へと去っていく。ホームが多少静かになってから、ようやく八雲さんは口を開いた。

「こんなとこで云うのも何なんだけど、俺はお前と結婚したいの」

「――八雲さんが、私と?」

 いつぞやの八雲さんのようなリアクション。ムッとしないあたり、八雲さんの方がさすがに大人かも。伊達に年食ってない。それにしても。

「なんて云うか、すごい急だね……全然分かんなかった」

「だってお前、若いからそういうのあんまり意識してないだろうし、結婚したいしたい云ってたら逃げるかもしれないだろ」

 おっと、まさかの社長の推理大当たりの巻だ! ――そんな風に茶化してないと、心臓がやばい。

 平気なふりも多分出来ずに、八雲さんを見る。八雲さんも、なんかやっぱりまだ緊張、しているみたいな顔してた。

「ごめん、なんか会えると思ってなかったのにここで会えて舞い上がったわ。返事、今すぐじゃなくて全然いいから」

「でも、」と発した声がやけに頼りなくてびっくりした。私も、深呼吸、一回。

「――料理とか全然だし。知ってるでしょ」

「俺もそうだって知ってるよな。とりあえず暇見て料理教室に通っとくわ」

「え、そこ自分でクリアしちゃう?」

 てっきり私に何らかのプレッシャーが掛けられると思ってた。そうでないことに若干驚いて、それから私的にとても大事な、譲れない点を伝える。

「私、結婚してからも仕事したいよ」

「あずのいいようにすればいいよ」

「えっと、でもどうして?」

 さっきから聞いてると八雲さんの方が私に合わせてくれるような感じで、ちっとも八雲さんの側にメリットがないじゃない。

「一生あずを俺のもんにしておきたいからだよ」

「!」

「俺で手を打ってくれるように必死なんだよこっちは」というが早く、八雲さんは踵を返して行ってしまう。

「まあでも俺の云ったことは置いといて、よく考えとけよ、大事なことなんだからな」という言葉を残して。

 なにそれ。 

 答えなんてね、答えなんて、――とっくに出てるんだから。


 出てても、周りにやいのやいのせっつかれたらいやじゃない。だからすごい意固地になってた。だって、『八雲さんたらこんな若い子騙してどうするの』とか、『男は得だよね、自分よりうんと若い子と結婚出来るんだもんね』とか、まるで私に若さしかいいとこがないみたいな云われ方されたら、『別に結婚とか考えてないですし』って返すしかないじゃん。


 いつか好きな人と自然に、結婚へ気持ちが向かえばいいなと思ってた。

 ただし、この仕事に理解のある人じゃないと難しいってことも、そんな人がそうそういるわけがないってことも、独身率&離婚率の高い周りを見て分かってた。

 それでも仕事は今とても楽しいから辞めたくなかったし、もし結婚か仕事かの二択を迫られたら仕事を選んでしまうかもしれなかった。両取りが出来るだなんて、思いもよらなかった……。


 気持ちは万全。向こうの理解もある。私の好きに――つまり、仕事も続けられる。

 そしたら、躊躇う気持ちもむきになってた気持ちもぜーんぶ、愛になった。アイなんて茶化したものじゃなく。

 二週間後? そんな遠い未来は待てないよ。だから、ホームの片隅からすぐに『ふつつか者ですが、よろしくお願いします』と送信した。そしたら八雲さんからもいつもののんびりなやり取りが嘘みたいなレスポンスの良さで『お前ね、今すぐ引き返してハグしたくなるようなことをこのタイミングで伝えてくるとかほんと鬼だな』と喜んでるんだか困ってるんだか分かんないメールが、来た。


 二週間後、きっと八雲さんはもう一度顔を合わせた時に改めて私に聞いてくるだろう。そしたら、『結婚ね。うん、まあいいですよ。して差し上げますよ』なんて云ってしまいそう。なるべく神妙にお返事しなくちゃだわ。

 その時私のどこが好きなのかを今度こそ教えてもらおう。結婚するんだから、気持ちが減るなんてことないでしょう?


 そう思うだけで、何だか一足お先に幸せな気分になってしまった。単純。

続きはこちら→ https://ncode.syosetu.com/n7313bz/39/

15/08/20 一部訂正しました。

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