ゴッデスとアマテラスとの会話。またまた騒動に巻き込まれてしまうっす。
【早乙女君、スマンかったのう。ワシもアマテラスも少し焦り過ぎてたみたいじゃな】
「俺が首都シーパラに行こうとした。ただそれだけで1晩で3件は行き過ぎってより殺意が沸くよ。前もって少しぐらいは情報が欲しい。正義のヒーローはまだいいんだよ。俺もそこまで嫌いって訳じゃない・・・でもな、人に何かして欲しいって時に神託で他人には情報を与えといて、俺には無言で押し付けてるってのが気に食わん」
【でも、アマテラスは教会じゃないとお前と話しも出来ないって・・・】
「それはわかってるよ。でもだからといって、他に手段がないって訳じゃないだろ? こうやってゴッデスとは話が出来るんだ。その問題はゴッデスとアマテラスへの宿題だな。それとも俺がそこまで面倒見なきゃならないのか?」
【わかった。何か考え・・・そうじゃな。これにしよう。これでアマテラスとは会話してくれ】
「なんじゃこりゃ」
俺は突然手に握られた昔よく使っていた懐かしい黒電話の受話器に驚く。
コードがぶら下がってるが・・・本体がない。受話器のみだ。
思わず鑑識のスキル魔法で調べてしまう。
神器・天界通話機『アマテラスほっとライン』
所有者 早乙女真一
主神ゴッデスによって製造された天界通話機。
所有者の早乙女真一と太陽神アマテラスしか所有していない通話機。
主神ゴッデスの持つ力の絆がある所有者2名のみが使用できる。
アイテムボックスに入れたままでも念話で会話が可能な仕様となってる。
「しん君、ねぇどうしたの? もしかして・・・」
「ああ、ゴッデス様と話をしてる。ちょっとみんな酒でも飲んでゆっくりしててくれ」
「わかった。じゃあ、終わったら教えて。マリア、氷をちょうだい」
「マリアさん私もミーさんと同じで氷をください。ウィスキーに替えます」
「あら、クラリーナもミーもそっちにするの? じゃあ、私も替えよう」
無言で受話器をアイテムボックスに入れる。
なんか・・・ストーカーにエサを与えた気分になってきたな。大丈夫かこれ?
「ゴッデス・・・もしかしてこれを俺に渡したいが為だけに、騒動を押し付けてきたんじゃ・・・」
【そ、それはない。そんな訳がないんじゃ。そういえばアマテラスが早乙女君と話があるって言ってたから、それじゃあの】
「ちょ、何で早口になるんだって・・・クッソ、ゴッデスめ回線切りやがったな」
【やっほー、真一お兄ちゃん】
「やっほーじゃねぇ!!」
【ひゃう。ごめんなさい】
「ったく。アマテラス、お前は俺と話がしたいがために、こんな回りくどい事したわけじゃないよな?」
【なななな、何をいきなり】
「そこまでわかりやすいリアクションをありがとう。・・・もーいいや。気が抜けた。それで俺へのお願いなんだろ? またヨークルの悪党を退治するのか?」
【ヨークルはあれでほぼ終わりかな。今度は明日真一お兄ちゃんが行く予定の『マヅゲーラの街』で騒動が起きそうなの】
「『ほぼ終わり』ってのが気に食わんし、かなり頭に引っかかる言葉だが・・・初めて行く街でいきなり騒動に巻き込まれるんかよ! ウザっ・・・はぁー、わかったよ。アマテラス話を続けてくれ」
【それでね。その騒動というのを初めから話すと・・・】
アマテラスの話をまとめると・・・騒動の発端は『帰還した転生者』が絡んでいた。
マヅゲーラの街は歓楽街。
川幅1km以上のシーパラ大河を挟んで南北に分かれている。
街を繋いでいるのは・・・古代の魔導師達が共同で作り上げた『ゲート』と呼ばれている空間魔法の門によって繋がれている。
ゲートは南北の町の中心にありどちらの街にも行き来自由になってる。
歓楽街として栄えた理由は都市ヨークルと首都シーパラを繋ぐ物流の中間点として、船で移動する時にここで宿泊する商人や船乗りが大半を占める。
男の集団が夕方この街に到着して飲み食いと女遊びをして翌朝出発していくのだ。
こうしてこの街は夜の遊びの部分だけが他の都市以上に異常な発展をしてる。
街にあった多くの非合法の組織が30年ほど前に統一された。
統一したのは『転生者』の『ジロチョー・シミズ』・・・黒人らしい・・・任侠かぶれかよ。
統一させた組織の名称が『任侠ギルド』そのままだな。ちょっとは捻ろうよ。
ジロチョーが腕力にモノを言わせて牛耳っていたと。
が、しかし任侠にかぶれた大親分なので力ずくでの解決が多かったが、カリスマ性でそれなりに上手くまとまっていた。
それで10年前にゴッデスが今後どうするのか聴きにきたら、任侠にも飽きたから故郷のアメリカのテネシー州で牧場を開きたいって、地球に帰っちゃったらしい。
・・・自分勝手だなそいつ。
ちょっとムカつくって言ったらアマテラスが極秘情報をくれた。
ゴッデスにイーデスハリスの情報を他人に教えないかわりに大金を貰って、テネシー州で牧場作ろうとして詐欺に引っかかって半日で無一文。
今は毎日『やっぱりイーデスハリスに帰りたい』泣きながらお祈りしてるらしい。
・・・ざまぁ。
ジロチョーに跡継ぎに指名された人は上手く統治していたんだけど、去年病気で倒れてから群雄割拠の戦国時代に強制的に突入して、今現在は悲惨な状況になってるんだと。
この街の任侠ギルドのルールが『絶対強者』らしくて強いヤツこそが正義。
「はぁー、それで俺にこの任侠ギルドを潰せって事? ヤダよ。こういう歓楽街って非合法組織が育ちやすい環境だから、潰しても潰してもキリがないって。だからって俺は統治したくないし。アマテラス、俺にどうしろって言うんだよ」
【真一お兄ちゃんが騒動に強制介入して出来れば統一して・・・自分の代理としてゴーレムを置いていってほしいの】
「やっぱそう来るか。はぁー、面倒臭いけどやらなきゃダメか。それで任侠ギルドの中で絶対強者になるには何をすればいいんだ? ・・・このパターンのテンプレだと・・・トーナメントか?」
【さすが真一お兄ちゃん! 正解です】
「何で褒められてもまったく嬉しくないんだろうなぁ、アマテラスさんよ」
【・・・ううう。ごめんなさい】
「まぁ、いいや。それでそのトーナメントはいつ開催されるんだ? そのトーナメントってどんなルールなんだ? 殺人もOKなのか?」
【このトーナメントは明後日から開催。明日は夜通し予選なの。でも真一お兄ちゃんの場合はBランクの冒険者だから予選は免除される。・・・ルールは何でもありで生死問わず。これも街のイベントになってて賭け事が町中で行われてて、これも任侠ギルドの組織運営費になってるの】
「大金まで絡むのかよ・・・勘弁してくれよ。面倒だから街ごと消滅させていい? 今なら知り合いもいないしサクッと魔法で・・・」
【それだとさっき真一お兄ちゃんが言った『何度潰してもキリがない』ってことになっちゃうよ】
「それはなアマテラス、街にそのまま『ゲート』があるからこの街には発展する要素があるんだよ。ゲートごと消滅させたら、今度発展するのは小さい小さい村の規模にしかならないってことだ。しかも南北とも別の村になるだろう」
【ごめんなさい。許してください。できれば街消滅とは違う方向でお願いします】
「わかってるよ。ただの冗談だ。それで殺して欲しくない出場予定者と殺して欲しい出場予定者は?」
【1人だけどうしょうもない人間がいるから真一兄ちゃんにお願いしたかったの。『卯月・要市朗』転生者で元日本人にして元傭兵。だから、元々の身体能力があってこのイーデスハリスの世界に転生してきて、地球にいるときは自覚してなくて気付かなかった『快楽殺人者』という性癖の持ち主。10年前にゴッデス様からナイフ製造スキルを貰って、自分のレベルをより効率よく上げるために他の転生者を殺して回ってるの。卯月もAランクの冒険者だから予選は免除される。自分の楽しみのために殺人を続けるためにこの世界に残ってるの】
「わかったよアマテラス。その転生者を俺とトーナメントの1番最初にやらせてくれ。それぐらいは操作できるだろ? それに俺の『神殺しの力』使えばソイツの魂すら消滅させられる」
【真一お兄ちゃんありがとう。トーナメントの組み合わせは私が責任を持って操作する。それと魂の消滅は私がやってもいいよ】
「それは俺の中の悪党への殺害衝動を刺激されなければ任せるかもしれん。今はなんともいえんよ」
【それで死んで欲しくない出場予定者が1人いるの。偽名『サトシ・バーミリオン』を名乗って出場する予定の人】
「偽名? そんなことが出来るの?」
【予選からの出場ならできちゃうの。サトシは真一お兄ちゃんと卯月がいなければ優勝できるだけの実力を持ってるし。優勝すれば任侠ギルドが偽名のギルドマスターカードが発行されるからサトシも必死になってる】
「意味がわからん。どういうことなんだ?」
【サトシの本名は『サトシ・シーズ・ユマキ』・・・】
アマテラスが詳しく説明してくれた。
サトシは俺が今日合法的に殺害した『ユマキ家』の長男。
長男だがサトシが誕生してすぐに側室だった母親が急死。そしてサトシが3歳の時に本妻に弟が出来た。
側室の死亡原因にも本妻は絡んでる。そこからはよくあるパターンだな。
本妻・父親・弟によって虐げられた生活を送っていたサトシ。
唯一の理解者であった先代で現在は最高評議会委員の『マツオ・ユマキ』が出張中で留守の間にチンピラともめたサトシが勘当されていて、マツオが気づいた時にはサトシは行方知れずになってた。
テンプレ盛りだくさんだな。
もともとサトシの能力は総合的にも高くて、逃れてきたマヅゲーラでは偽名で稼ぐことが可能だったので食うに困らなかったのだが、ここに来て付き合っていた女に子供が出来た。
焦ったサトシは大金と名乗っていた偽名の身分証明書が欲しくてトーナメントに参加することに決めた。
結婚したら本名がすぐばれるってことに気づかないのがサトシのクオリティーなんだと。
生まれ持った戦闘能力も高く、洞察力や判断能力にも優れカリスマ性も持っているのに『え? 何で? そこで間違うの?』なところでしでかすのがサトシ。
今日俺がユマキの当代と次男を退治したのを好機に捉えた先代のマツオがサトシを本格的に捜し始めた。
アマテラスはサトシを任侠ギルドマスターではなく、ユマキの次期当主にしたい。
「でもさぁ、いきなりシーズの当主が素人がなっても平気なの? 問題多過ぎじゃない?」
【それは全く心配ない。今までのおバカさんでも当主が務まってたのがその証拠。今のユマキ商会を支えてるのは執事で先代マツオの弟『ジュンロー・ユマキ』なの。ジュンローはユマキ商会を影から支える事に生きがいを感じてる人間なんでユマキは継がないってマツオに言い切っちゃってる。当代不在に焦ったマツオは今、冒険者ギルド本部からギルドマスターの会話装置を使って仲のいいラザニードに相談している真っ最中なの】
「はぁ、それで俺に話が回ってくる訳か。依頼内容は・・・孫の捜索? でも明日の早朝に俺達は出かけるんだぜ。緊急って行っても人命も掛かってないし。そもそも当代とその跡継ぎを殺した本人に依頼するって無いだろ」
【真一お兄ちゃんとは逆の考えみたいだよ。誰がどう考えても危ない話に突っ込んでいって誰かに救われてるってことを何度も繰り返してた能無し親子ってことで、ユマキ商会の中でも実権を持たないお飾りにされてた】
「次男は勘当されそうになってるってヨークルで噂になってたけど」
【噂はちょっと違ってるね。『親子で勘当されそうになってる』が実際なの。だからマツオの中では真一お兄ちゃんは『ユマキ商会の救世主』にもうなってる】
「救世主ってまた・・・食料品市場では大量虐殺者なのに?」