もふもふ天国の初日の営業は上々でしたっす。
アゼット迷宮地下10階のボス部屋にやってきたチーム早乙女遊撃隊。
サラマンダーは3~8匹ランダムに出現する。
1回目はボス部屋の扉をあけると5匹の火蜥蜴がポップアップした。
俺達の前に入った冒険者がサラマンダーを退治していたのだろう。小さな火がうずまき集まってサラマンダーの体に変化していく。
チーム早乙女遊撃隊の遊撃2人ミー・るびのが飛び出してサラマンダーが形になった瞬間を狙って先制攻撃を加える。
俺は立ったまま動かずに弓矢による攻撃をする。
サラマンダーの鱗に矢が刺さるか、遠距離攻撃が可能かどうかの実験もしている。
遠距離といってもこのボス部屋は50m四方高さ10mほどの空間なので、この弓の性能を考えるとそこまでの遠距離ではない。
流石の弓力300kgだな。サラマンダーの頑丈な鱗も紙のように貫いていく。
このメンバーだと5匹のサラマンダーでは瞬殺だ。30秒も掛からずに戦闘が終了してしまった。
俺とクラリーナの魔法が遠距離を担当してミーとるびのが中距離。近距離はアイリが担当と完全に担当部署が決まってしまったな。そのおかげでいちいち声を掛けなくてもいいので非常に楽だ。
ドロップしたのはは魔石3個の魔結晶2個。ドロップアイテムはサラマンダーの雫1個、サラマンダーのかけら3個にサラマンダーの爪が1個だった。
自分が放った矢を回収し終えてからはじめて見たサラマンダーの爪に驚きの声をあげる。
「おー、これがカタリナさんをを困らせた噂のサラマンダーの爪か。初めて出たな」
「普通は5匹倒したらドロップするのがサラマンダーの爪1個。運がいいとサラマンダーのかけらが1個のどちらかが出るぐらいなんだけどね。しんちゃんとダンジョン来てると感覚がおかしくなるね」
「そうなんですか、ミーさんのおっしゃるとおり私が始めてダンジョンに来た時もオーガ3匹倒してオーガの爪1つとかそんな感じでしたね。しん様のチームでの成果が毎回何かドロップするので結構驚きました」
「クラリーナそれでも結構多いほうよ。しん君の異常さに比べたら大人しいレベルだけど」
「おいおい、異常って! 俺の責任じゃないのに。まぁ次に行こう次に」
その後はボス部屋の入り口を開けて・締めて・退治・アイテム回収を11回ほど繰り返したら1時間半ほど経過していた。これで合計12回はボス連戦が出来たな。
途中で他の冒険者チーム8人が来ていたのでボス部屋を出て待っている時間も込みなのでキリがいい70匹のサラマンダーを退治。時間も17時半と中々いい時間なので今日は終了する事にした。
今日のサラマンダー狩りの戦果は魔石45個・魔結晶(クズではない大きさと質)25個・サラマンダーの雫20個・サラマンダーのかけら45個・サラマンダーの爪が5個だった。
「おかしいって、何で雫が20個も出て爪が5個で一番少ないのよ」
「ミー、気持ちはわかるけどね。しん君に言ったって仕方ないわよ」
「ミーさん、そうですよ。アイリさんのおっしゃられたように、しん様が選んでいるわけでもないですし」
「まぁ、ミーもみんなも諦めてくれ。俺たちは全員こういう運命にさせられてしまったんだよ。この生活を楽しんだほうがいい。その代わりにトラブルを押し付けられてるんだからな。運が良いのか悪いのかの判断は実際に難しいところだろう」
「なるほどね、そういう考え方なら運が良いなんて言えないよね。私達もあちこちでトラブルに巻き込まれているのに、しんちゃんはそれ以上だもんね」
「私はそのトラブルが原因でしん様に出会えて、しん様と結ばれたのですから・・・今は良い事の方が多い気がします」
「クラリーナもそうだし、私とミーも同じね。私も今のほうが幸せだと思うわ」
「幸せってのはわかるの。自分でも実感してる最中だしね。・・・でもドロップアイテムで今まであれだけ苦労したのに・・・ってどうしても割り切れない部分があるってだけなのよ」
「まぁまぁ、ドロップアイテムのレアが多いって良い事なんだから。さぁそろそろ帰ろうぜ」
「そうだよ、かあさん達。オレ腹減っちゃったよ。そろそろ家に帰ろうよ」
るびのの声で全員で帰るために移動し始めた。
「そういえば・・・俺ってみんなにとんこつラーメンを自作できるようになったって言ってあったけ?」
「しん君、聞いてないよ。もう自分で作ったの?」
「自分で作って食べておやっさんとおかみさんには作ってあげたけど・・・みんなに食べさせてあげるのを忘れてたような・・・って事を今思い出したんだ。みんな食べたい?」
「食べたいです。しん様って本物の味を知っているのですよね?」
「俺が大好きで頻繁に食べてた日本のとんこつラーメンを完全再現! っていうのは『きくらげ』がない現状では不可能だけど、具が少し違うだけで味はほとんど一緒。紅生姜が手に入った今は具のきくらげ以外は完璧になったよ。今夜は俺の自作のとんこつラーメンとチャーハンのセットを作ってあげるね」
「それは楽しみね。しんちゃんの故郷の味と、私達が何度か味わった事のあるとんこつラーメンとの味の違いを比べられるなんて事を考えると・・・やっぱり私達は恵まれてるね」
いつものように転送部屋から一気に出入り口階段の脇の部屋へ。
そのまま外に出て大森林の中からヨークル外門近くまで一気に魔法で転移する。
街道でキャンピングバスを俺のアイテムボックスから取り出して全員で乗り込み移動を開始した。
運転はミーがしてくれたので俺は念輪でマリアに連絡を取る。
「マリア、早乙女だ。このマリアからアイテムボックスで送られてきた船舶用の小冊子って商業ギルドの出張所から誰かが持って来たのか?」
「はい。商業ギルドの『サンゾー・ミールハイト』さんが早乙女邸まで持ってこられました。ゴーレム船を初めてお持ちになった方全員にお配りしてるという小冊子だそうです。登録の時のドタバタでご主人様に渡すのを忘れていたそうで、今日のお昼ごろに小冊子を持ってみえられました」
「なるほどね。ありがとう」
「どういたしまして。ご主人様の今夜のお帰りはいつごろになりますか?」
「今日のダンジョンアタックはもう終わって今は帰宅の途中だよ。今夜は俺がとんこつラーメンとチャーハンを作るから、チャーシューと刻み紅生姜と必要な野菜の準備を頼む」
「了解いたしました。では準備してお待ちしております」
「頼む」
俺は家まで到着するまでにこの商業ギルド発行の10ページほどの小冊子に書かれてる『暗黙の了解』みたいなルールブック(?)的なものを読んで記憶していく。
『シーパラ連合国において船舶が河川を航行する場合はすべてにおいて左側航行が基本。だが例外も存在する』
『例外は都市ヨークル。都市ヨークルはシーパラ大河とヨークル川にはさまれる中州にあるためにこの中州周囲100m以内とシーパラ大河とヨークル川を結ぶ『ヨークル用水路』はヨークルを中心にして左回りにしか航行できない』
『河の中心付近は高速艇専用。30ノット以下は走行してはいけない。ただし都市などの港のある場所の周囲1km付近は10ノット以上出しての航行を禁ずる』
これは大変そうだな。
俺は気配探査と魔力探査で他の船の動きがわかるけど、他の船は視認とか長年の経験のみだろ。
これは事故が多そうな軽いルールだな。ヨークルなどでは10ノット規制か・・・10ノットで安定走行できるように特別な装置が必要になるかも。
・・・実際に乗って航行してみないとわかりにくそう。
探知バリバリに張って自分で気をつける以外はなさそうだな。
周囲1km圏内は10ノット以下だったんだな。
俺がホバーボードで時速100kmで飛び回ってしまったのは・・・ふ、船じゃないし(震え声)
今度からは気をつけるってことで。
左側通行って車と同じでわかりやすいけど、将来的には船舶の数が増えて交通量が激増、最後は事故急増で免許制に移行しそうだ。
自宅に到着するまでもう少し時間があったので到着前にホワイト達に確認の念輪を開く。
「早乙女だ。ホワイト聞こえるか?」
「聞こえますご主人様」
「店の客の入りはどうだ?」
「今現在のお客様は5人でそこまで混んではいません。今日の今までの入りは88名です」
「それなら何の宣伝もない店の開店で口コミだけの現状ではかなりの入りだな。お客の滞在時間等は?」
「平均すると1時間以上ですが、午前中は朝食ついでですね。30分のお客様のほうが多かったです。午後からは客層が変わりまして『主婦』を中心になりました。時間も1時間半から2時間滞在されるお客様が多かったです。ご主人様の奥様方のご友人関係の方が更にご友人を連れてきてくださってるみたいでした」
「口コミ作戦は成功と言えるな。何か不満を漏らされてるお客様はいたか?」
「概ねご好評をいただいております。特にご主人様が最後につけられた機能の愛玩ゴーレムたちが舐めて綺麗にするという行為を気に入ってくださってるみたいでした」
「思いつきで付けた機能の割には好評でよかったよ。それだけの入りだとサポートでの買出しは必要なかったな」
「はい、そうですね。品薄になるものも無かったです。軽食やドリンク類などの準備は午前中にメイドゴーレムだけで可能ですね。買出しも交替で行けそうです」
「そうか、それなら良かったよ。一気に客が来てビックリしたからな」
「はいご主人様が買いだしに行かれてから、お客様方の工房の仕事の時間が始まったみたいであれからすぐに落ち着く時間となりました。ですので今日一日だけの集計ではまだ確定できませんが『朝6~9時』『昼2時~5時』が、比較的店舗が混雑する時間だと思われます」
「まぁ、立地条件的にそんな時間ってのは想像内だな。それでこれからは仕事帰りのお客になるだろう」
「そうですね。お客様たちが愛玩ゴーレムにそう訴えてます」
「了解。ではこれからも店舗の営業を頼む。明日以降も朝の6時から夜8時までの営業体制になるのでよろしくお願いする。サポートが必要になりそうなら教えてくれ」
「了解しました。お任せください」
そこで念輪を終了した。ちょうど早乙女邸に到着してガレージにキャンピングバスを停車させたところだった。キャンピングバスを降りて玄関に歩いていく。キャンピングバスの清掃はセバスチャンに任せる。