緊急事態発生! 早乙女は今すぐギルドに向かえ! 了解っす。
龍布か・・・なんに使うんだ?
欲しくて作った念願の物じゃないので、正直扱いに困ってしまうな。
おかみさんに渡すのも憚られる商品の存在に途方にくれそうになる。
早乙女邸の正門前に到着するとユーロンド5号が正門を開けてくれる。俺とセバスチャンが入れればいいのでユーロンド5号は正門を持ったまま1mほど動いただけだ。
中に入っていき堤防を越えて桟橋部分に行く。
早乙女邸と倉庫の桟橋は一度全部壊してからハウスボート専用桟橋と魔力パワーボート専用桟橋に作り変えた。
2艘の船を実際に桟橋に着けてみるが、乗り降りには問題がないな。
そのまま浮かべておいてセバスチャンに見張りを頼み早乙女邸を出て商業ギルド倉庫街出張所に歩いていく。
ストーカーも遠見魔法による監視もなくなって凄く居心地が良い。
そのうちにまた復活するだろうが、この居心地の良さはなくしたくないのでこれからもガツガツ反撃する事にする。
商業ギルド出張所に行くとヒマそうなお兄さんが受付で1人で座ってボケーっとしていた。
魂が抜けかかってるのか? って感じの無反応が俺が声をかけた瞬間にスイッチが入って動き出す。
「すみませーん。ゴーレム船の登録に来たんですけど」
「あ、はい! 失礼しました。今なんておっしゃいましたか?」
「ゴーレム船の登録に来たんですけど、今ってよろしいですか?」
「大丈夫です! 問題ないです! やった仕事が出来た!」
大声を出してテンションが上がりまくってるお兄さんだった。正直で微笑ましくて面白い人だな。
「早乙女ですけどちょっとうちの港の桟橋まで来てもらってもいいですか?」
「もちろんです。今からうかがいますので、一緒に行きましょう」
受付の奥にある部屋から代わりの人を呼んできて、お兄さんと一緒に歩いていく事になった。
「早乙女さん、自己紹介させてください。自分は『サンゾー・ミールハイト』って言います。サンゾーって呼んでください」
「ミールハイトってどこかで聞いた事のある家名だ」
「兄の名前は『ケンジ・ミールハイト』冒険者ギルドで職員をしています。年は離れてますが自分の兄で間違いないです」
「おー、ケンジさんの弟さんでしたか。では改めまして『早乙女真一』です。家名が早乙女で名は真一です。真一って発音がしにくいみたいなんで、早乙女って呼んでください」
「兄からお噂はかねがね聞いております」
急にキョロキョロし始めて周りをうかがうサンゾー。
「ごめんなさい。ホントは守秘義務ってヤツで話をしたらいけないんですけど、他言しないって事でこっそり教えてもらいました。細かい話は教えてもらえなかったんですけど。早乙女さんは倉庫街では・・・いえ、ヨークルの有名人ですからね」
「俺が有名人なんですか?」
「それはそうですよ。早乙女さんがこの都市ヨークルに来てから10日ほどの間に、今まで陰に隠れていたこの都市の問題点が幾つも浮き彫りになって悪人が罰せられてるんですから。それはいろんな噂が流れ飛びますよ」
「そうなんだよなぁ、散々巻き込まれてるんだよなぁ」
「でもこの倉庫街にとって早乙女さんは守護神ですよ。今まで闇にまぎれて情報収集していた『スパイギルド』の連中がゴッソリ逮捕されたんですから。倉庫番の皆さんも夜が静かになったって皆喜んでますよ。しかもボーナス付きでって笑ってましたね」
「ああ、あのストーカーって『スパイギルド』の人間だったんだ。道理で気配を隠すのが上手い連中なんですね」
「スパイギルドのスパイが気配を消して活動してるのをご存知だったんですか?」
「そりゃ気付きますよ。あれだけ堂々と人の家の中を覗いたり、人が移動すると付回してきたり」
「それを誰にも気付かれずに仕事してるのがスパイなんですけど・・・」
「俺は結構弱虫なんでビンカンなんですよ。後はアマテラス様にお願いするとロープでグルグル巻きになったりするんですよ。神のなせる技です」
どうせウソだとばれてると思うので、オチャラケで答える。真面目に答える意味がないしな。
「そうなんですね。祈ると救われる事もあるって聞きますし。アマテラス様って凄いんですね」
「あ、ではこちらから入ってください」
流石に自宅の敷地内に引き入れる気はないので倉庫の中を通って桟橋に降りて行く。
船の登録は時間がかかった。
サイズを測りながらゴーレムのネームプレートに魔水晶を使って封入していく。
サイズも1人では測りにくいので俺も手伝う。
登録が終わってネームプレートをもらう頃に桟橋に商業ギルドの小型船が来た。
「物凄いナイスタイミングですね」
「いえ、私は呼んでません。何かあったのかな・・・おーい。サンゾーだけど何か緊急の用件でもあったのか?」
「早乙女さん実は今、冒険者ギルドヨークル支部の方から緊急連絡が入りまして、大至急冒険者ギルドの方にお越しくださいと。俺の連絡ついでにサンゾーを迎えにきたんですよ」
「わかりました。船を片付けてから冒険者ギルドに向かいますと言っておいて下さい。連絡ありがとうございます」
商業ギルドの小型船にサンゾーが飛び乗ると、小型船はすぐに戻っていった。
「セバスチャン、俺は船を片付けた後に冒険者ギルドに向かっていくから屋敷の方は頼む」
「了解しました」
アイテムボックスに2艘の船を入れて片付けて、桟橋を固定化魔法で補強だけしていく。
これから冒険者ギルドまで歩いていかないといけないからな。緊急って言ってたけど時間的に大丈夫なのか? しかし仕方がないので、ちょっと走る事にする。
スピード自慢の冒険者が装備をなしで全力疾走するぐらいのスピードで冒険者ギルドまで走る。
冒険者ギルドの中に入ると息も切らせずに受付に質問する。
「冒険者ギルド、ギルドランクBの早乙女です。大至急って緊急連絡があったと商業ギルドの出張所で聞いたんで走ってきました。何があったんですか?」
「今、大会議室の方でギルドマスターが会議中です。すぐにそちらに向かってください」
「了解。ありがとう」
お礼を言って大会議室に行く。
ここでは前のクソババァとやりあった場所なので、あまり入りたくない場所だけど仕方がない。
ドアを開けると知らない人間が複数いてちょっとビビル。
「冒険者ギルド、ギルドランクBの早乙女です。大至急って事で走ってきたのですが、どんなご用件でしょうか?」
「ああ、早乙女君、こんな時間に呼び出して申し訳ない」
「ラザニードさん、まだ21時で俺の寝る時間じゃないので気にしないでください」
「スマンな。今回は人の命の懸かった緊急の案件なんで、簡単に説明させてもらうと・・・早乙女君には今から大至急『サラマンダーの雫』をとってきてもらいたい。ここにいる人が依頼人の『グレゴリオ・シーズ・フォレストグリーン』さんだ」
俺がペコリと頭を下げると向こうも返してきた。中央に座っていたグレゴリオさんが立ち上がって俺に握手を求めてきたのでそのまま握り返す。
「流石だな、ラザニードさん。貴方とゾリオンさんが自慢するだけの人間だって一目でわかるな。初めまして『グレゴリオ・シーズ・フォレストグリーン』です。グレゴリオとお呼びください。名前の通りシーズの人間でフォレストグリーン商会の10代目の当主です」
「初めまして。早乙女真一です。早乙女が家名で真一が名前なんですけど、真一って呼びにくい名前のようなので早乙女と呼んでください」
「早乙女さん、時間がないのでさっそく依頼の話がしたい。依頼の品目『サラマンダーの雫』でわかるように『森林黄熱病』がこのヨークルで発生した。病名が発覚したのは昨日だ。教会に隔離した10人の患者に予備で保管されていたサラマンダーの雫を使って治療して既に完治した」
「え? それなら予備分を取りに行くって事ですか?」
「ヨークルでの感染は終了した。初めの感染者も特定できたし浄化作業も完了した。・・・はずだったが既に治療をした医師に3次感染が出てしまった。医者の名前は『ミーシア・シーズ・フォレストグリーン』私の妻でゾリオン・シーズ・ガルディアさんの長女。今は妊娠中で身重の体なんだ。子供の命があと1日ぐらいしか持たないだろう。早乙女さんならサラマンダーを乱獲する事が出来ると義父のゾリオンさんとラザニードさんに聞いてる。時間がないので今すぐにでもサラマンダーの雫がほしい。大至急でお願いしたい」
「冒険者ギルドの出す条件はできれば予備も含めてサラマンダーの雫が2つ欲しい。早乙女君への個人依頼で成功報酬はサラマンダーの雫1つで1億G。2つで2億5000万G。受けてみてくれんか?」
「受けるのは良いんですけど・・・俺、既にサラマンダーの雫を2個持ってるんですけど・・・こういう場合ってどうなるんですか?」
驚愕する全員に見えるようにサラマンダーの雫を会議室のテーブルの上に2個乗せる。
クリスタルの容器に入って赤く瞬くサラマンダーの雫は見事としか言いようがないほど美しい液体だ。
ラザニードの隣にいたギルド職員が鑑定のスキルで調べる。
「こ、これは間違いなく本物です。この赤く瞬く液体の美しさはニセモノでは真似できません」
「ついでに俺がグレゴリオさんの奥さんの・・・ミーシアさんの治療をしますよ。教会内で森林黄熱病は普通の浄化では病原菌を死滅させられないんですよ。教会内で使う浄化ってアマテラス様の防御結界とかぶってしまうので、浄化の殺菌の作用が半減するんです。光魔法の上位魔法『聖浄化』でないと教会内では効きません」
「それは本当なんですか? それじゃあ。今教会内にいる人間の全員が危険って事ですね?」
「もう時間がもったいないです。今から教会に行って説明します」
俺がアイテムボックスに今取り出したサラマンダーの雫をアイテムボックスに仕舞って部屋を出る。
「では急ぎましょう。ギルドからゴーレム馬車を出します」
「いえ、ラザニードさん達はゴーレム馬車で来てください。俺は先に走って行って浄化作業を終わらせて待ってます」
そういって俺は走り出した。
教会に到着して最初に教会の巨大な土地全部に聖浄化の全体魔法『神聖浄化』をかける。
教会全体が白く光った瞬間に消える。鑑識で調べたが病原菌は死滅したみたいだな。
後は感染者の治療だけだ。
そこでラザニードとグレゴリオと親衛隊の面々が到着。そのまま全員を引き連れて治療室に。
看病をしていたシスターにも感染してるのがわかったのでサラマンダーの雫を聖水で薄めて2人に飲ませる。
サラマンダーの雫は聖水で薄めると10人分ぐらいは使えるが効果は数分で消える。
アイテムボックスでも効果が消える。
一度開けたビンも中身は数分で効果がなくなる。
この治療室全体にもう一度神聖浄化を使って鑑識で再確認、森林黄熱病は完全に死滅したのを確認した。ついでに妊娠中のミーシアと高熱で弱っていたお腹の子供に魔法で治療。
ダメージが深刻な部分があるようだ。
『エクストラヒール』
『エクストラヒール』
よし。これで子供にも森林黄熱病の被害は完全に消えた。
病原菌はサラマンダーの雫で治療できるが、森林黄熱病の高熱によって子供がダメージを受けてた。
病原菌はエクストラヒールでは殺せないがダメージを受けた子供の治療は出来る。
逆にサラマンダーの雫では子供のダメージの治療は出来なかった。
ん? ・・・って事は神聖浄化とエクストラヒールの混合で森林黄熱病って治療できるのか?
でも、最初に教会全体に神聖浄化をかけたけど、ミーシアと子供とシスターの3人の体内にはまだ森林黄熱病の病原菌は残っていたぞ?
俺のもらった知識や経験にもそれはわからないってなってるな。実験するわけにもいかんし。
まぁ、そんな事は後でもいいな。みんなに報告しないと。
「森林黄熱病の病原菌は完全に死滅させました。コレで完全に終了です」
「早乙女さん、ミーシャの体に何の治療魔法を2回も施したのですか?」
「ミーシャさんはサラマンダーの雫の効果で治療は終わりましたが、お腹のお子様共々森林黄熱病の高熱によってダメージが見受けられましたので、『エクストラヒール』を使って治療しました。シスターは森林黄熱病の病原菌が入っていましたが、まだ発病前だったのでサラマンダーの雫だけで完治です。これでお子様の体のダメージは完全に消えてます。完治しましたよ。ついでにミーシャさんの難聴も完治してますよ」
「本当ですか? 子供の、娘のダメージまで・・・妻の難聴も諦めていたのに、良かった、ありがとうございます。妻も喜びます」
「あ、娘さんだって知ってたんですね。森林黄熱病の高熱で盲目になりかかってましたが、もう大丈夫ですよ。コレで元気なお子様が産まれてきます。もう心配ありませんよ」
おおおお、って親衛隊の人まで大声で泣き始めちゃったのでカオスになってしまった。
あまりの大声にミーシャさんが目を覚ました。
「もー、うるっさいわね。人が寝てるのに・・・え? 声が、聞こえる! 私、聞こえる、貴方、聞こえるの。音が聞こえてるの!」
「そうだ、聞こえてるか? 俺の声がミーシャに届いてるか?」
「聞こえる。貴方の声が聞こえてるの!」
ミーシャのもとへグレゴリオが駆け寄ると抱き合ってキスし始めた。
・・・俺、置いてけぼり。
だって、ラザニードさんまで感動で泣いてるし。
帰りたくなってきたな。でもコソっと帰ったら怒られそうだし。