サラマンダーの希少魔獣と対決・・・チョロかったっす。
アゼット迷宮の地下10階はボス部屋。
アゼット迷宮は5階おきにボスの階層があり、ボスの階層はボスの部屋・控え部屋兼転送部屋・下へと続く階段の部屋しかない。
俺達は控え部屋で待っていた。
ボス部屋は使用中は違うチームは入れない。
前のチームの絶叫がここまで聞こえるのでアイリに質問してみた。
「なぁアイリ、サラマンダーって3~8匹出てくるボスなんだよな?」
「そうだよ。それがどうかした?」
「明らかに19匹の気配があって、デカイ魔力反応があるんだよ。サイラスの希少魔獣以上の魔力反応が1つ、サイラスの希少魔獣並みの魔力反応が3つ、通常のサラマンダーの魔力反応が15って所だ。これは今入ってるチームが10人以上いたんだけど・・・あ、もう全滅した」
「なにそれ、サラマンダーの希少魔獣が出てるって事なの?」
「ああミー、それしか考えられない。今、音がしたから部屋の鍵が空いたけど・・・ちょっと待ってくれ、鑑識で調べるよ」
ガチャリと音がして部屋の鍵が開いたが、座っていた腰を浮かせかけた嫁達を引き止める。
「完全に希少魔獣がいるな。サラマンダーが15匹。サラマンダーの上位種『サラマンディスト』が3匹。サラマンダーの希少魔獣『サラマンディストロード』は1匹だ。これは作戦会議と魔法の練習が必要だな」
「作戦会議はわかりますけど、私は何の魔法の練習をするのでしょうか?」
「クラリーナ、今教えるよ。防御は俺に考えがあるから、今回は3人とも攻撃重視でいい。クラリーナに使って欲しいのはこれだな」
『氷弾炸裂』
俺が打ち出した魔法の氷の弾が途中で破裂した。
「氷魔法の『氷弾』を敵に当たった時に、敵の体内で破裂させて傷口を広げる魔法だな。サラマンダーには氷魔法が効果が高いからこの魔法が劇的に効く。これを両手で撃ちまくれ。今から自分で納得いくまで練習しよう」
クラリーナが魔法を撃ちまくってバンバン炸裂させてる。俺がクラリーナにアドバイスをしているとアイリが話しかけてくる。
「ねぇしん君、防御がいらないってどういうことなの?」
「ああ、説明より呼んだ方が早い『召喚する。精霊ウンディーネ、来い!』」
「早乙女様、召喚ありがとうございます」
「水の精霊ウンディーネを防御専門に使うから防御がいらないっていう意味なんだ」
ウンディーネが隣のボス部屋のほうを見て俺の真意に気付き応えてくれる。
「了解いたしました。たかが火の精霊の眷属ごときに皆様の産毛1本たりとも傷付けさせませぬ」
『水精霊乱舞』『水聖の加護』
ウンディーネが精霊魔法を唱えると俺達全員の周りに直径1cmほどの水の精霊が何百もの数でフワフワと漂い始めた。
俺達の体も薄い水魔法の膜に覆われる。
「みんなサラマンダーは火魔法の攻撃がほとんどだから防御はウンディーネに任せよう。アイリはクラリーナへ繰り出されたサラマンダーの槍攻撃だけ防御するだけでいい。クラリーナはアイリの後ろにいて氷弾炸裂を撃ちまくってくれ。ウンディーネはクラリーナの後ろでチームの全体防御を。俺とミーは全力で突撃だな。クラリーナの練習も終わったし俺が今からクラリーナに魔力補充をしてから行くぞ!」
練習を終えたクラリーナの額に手を当て減った魔力をMAXまで補充して隣の部屋に入る。
先程まで戦っていたチームの残骸があちこちに散らばっている。
今回はクラリーナのような奇跡はもうない。
俺の魔力探査にも気配探査にも死体しか出ない。
入ってきた俺達の姿を見て大ボスの『サラマンディストロード』が大声で叫び声を上げ、それに他のサラマンダーが応えたのが戦闘開始の合図になった。
「ぐぎゃああああああ」
「くぎゅうううううう」
サラマンダーから次々放たれる火弾とファイヤージャベリン。
『聖水幕』
「ザコが、我にこの程度の攻撃が通じると思ってか」
ウンディーネが展開した水魔法の薄いカーテンに当たった火魔法が消滅していく。
精霊同士のいがみ合いって本当なんだな。
サラマンダー相手にウンディーネが精霊魔法を連発して本気で俺達の産毛1本も燃やさせないつもりなんだろう。
「よし! みんな行くぞ!」
俺は天乃村正を抜きそのまま駆け出す。
俺が右から行ったのでミーは手に持ったサイラスの槍に水の属性攻撃の祝福をまとわせて左から突撃していく。
俺の天乃村正は水の属性を持っているのでサラマンダーの攻撃は全て打ち消せる。
ミーも自身の持つ祝福『属性攻撃』で同じ効果を使用している。
サラマンダーの攻撃をかわすことなく打ち消しながら前進していく。
サラマンダーを殺すのもヒラリヒラリと天乃村正を一薙ぎするだけで消滅してしまうので楽勝だなこりゃ。
つーか・・・サラマンダーってどこか危険な病気にかかってるのかな。
さっきから『くぎゅうううううう』ってあっちこっちで叫び過ぎでうるさい。
・・・末期みたいだな。
サラマンダー全てを消滅させるのにかかった時間は1分かからなかった。
ウンディーネも精霊界に帰還させる時は満足そうな顔で帰って行った。・・・そこまで嫌いなんだな。
ドロップしたアイテム・魔石・魔結晶を拾っていく。
サラマンダーのかけらが10個。サラマンダーの雫が3個。
・・・相変わらずレアドロップ率がおかしい。
「サラマンダーの雫がこんな簡単に・・・」
と、ミーがボソッと呟いてアイリが絶句していてる。
2人ともサラマンダーの雫でトラブルに巻き込まれていたからこのアイテムには特別な感情が湧き上がってくるんだろうな。
けど、俺に言われてもな・・・文句はゴッデスに言ってくれ。天運パワーがハンパないって事しか言えない。
魔石は真っ赤な色した火の魔石が10個だ。魔道コンロやお風呂の湯沸しなどに使ってある。これは火の魔力しか蓄える事は出来ないが火力は他の魔石に比べて数倍になり魔力効率も高い。
魔結晶は5個。アイリたちが昨日持ってきたミノタウロス亜種の魔結晶とサイズも質も一緒ぐらいだな。
サラマンダーの上位種『サラマンディスト』の通常ドロップアイテムが『サラマンディストの血』だった。
よくわからないアイテムだったので鑑識で調べる。
サラマンダーの血は武器や防具の加工時に数滴混ぜると火の属性を持たせることが出来るみたいだな。
ただ昆虫系魔獣の甲殻の加工に使うと溶けてなくなるって注意書きがある。
これが数滴でいいのか?。
どう見ても500ccのペットボトルの大きさの瓶が2本あるんですけど。
サラマンディストのレアドロップアイテムが1つ。赤い鱗の帽子が1つ転がってる。
形がウエスタンハットなんだけど・・・鑑識で調べた。
鱗帽子『サラマンディストの帽子』
所有者 早乙女真一
サラマンダーの上位種『サラマンディスト』の鱗を使って作られた帽子。
レアドロップアイテムで加工不可品。防具ではあるが防御力はない、装飾品の1種。
装備しなくても所持するだけで金運を少し上げる効果がある。
サイズは自動調整されるので誰にでもかぶれます。
ツッコミ所が満載な帽子だった。防具なのに装飾品? ・・・意味がサッパリですね。
しかも効果が金運を少し上げるって・・・それだけかよ!
俺がブツブツ呟きだしたのでクラリーナが心配して声をかけてきた。
「しん様、どうかされたのですか?」
「これ、『サラマンディストの帽子』ってレアドロップ品なんだけど帽子で防具なんだけど、防具なのに防御力がないんだよ。装飾品の1種なんだって」
「なにそれ、しん君どういうことなの?」
「しんちゃん、何か特別な効果でもあるの?」
「ああ、装備しなくても持ってるだけで金運が少しだけあがるらしい」
「・・・は? たったそれだけ?」
「そう。たったそれだけの効果しかないから、流石に絶句してしまった。これはファッションだな」
流石に3人とも絶句してるな。俺と一緒の反応だ。
アイリがかろうじて俺に質問できただけだった。
「俺って金運も今更あがってもしょうがないから・・・誰かいる?」
「「・・・」」
「・・・誰も要らないなら私にください。もうすぐ弟の誕生日なのでコレをプレゼントします」
「おおぅ、あの弟君が15歳になるのか。じゃあコレがあればこの先お金に困らなくなるだろうね。他人に見せるとトラブルを引き寄せようなレアアイテムだから、誰にも見せない様にキツク言っておいたほうがいいよ」
そういいながら俺はクラリーナに渡す。あの大きな体の弟君なら似合いそうなんだけど持ってるだけで効果があるんだからな。見せびらかさない様にさせないと。
「はい。親にも見せないように言っておきます」
「それがいいな。ついでにコレもプレゼントであげよう」
そういって俺は先程地下8階で討伐して得たドロップアイテムのキラービーナイトの甲殻で刀身20cmほどのナイフを作ってあげた。
ナイフのグリップと鞘は銀大熊の骨で加工したので金属が一切使われていないナイフだ。
刀身が黒く刃の部分がちょうど蜂の黄色い縞模様が刃紋のように波打っていてそれが美しい。
グリップと鞘は対照的に真っ白だ。
鞘には俺の天乃村正と同じように再生の魔法を施す。
最後の加工で聖騎士にふさわしいバラをあしらったスジ彫りの装飾を鞘とグリップに施して、仕上げに刀身以外に魔糸溶解液でコーティングさせる。
「コレなら刃物の手入れが慣れない若いうちでも錆びる事が永久にないから護身用に最適だろう。聖騎士バスカトル家は弟君が引継ぎ、今後盛り立てていかないといけないからな。クラリーナの親父さんは弟に任せて早期に引退するだろう。代々続く聖騎士の家に相応しい装飾をさせてもらったよ。弟君が結婚するころには刃物の扱いには慣れてるだろう、その時には妻にそして子供へとバスカトル家の子孫代々受け継いでいけるナイフに仕上げたよ」
「わかりました。そういって弟に渡しますよ。こんなキレイなナイフは生まれで始めて見ました」
「確かにこれなら何百年も持つわね。しかも・・・聖騎士が持つのに相応しい装飾が美しくて護身用には最適ね。聖騎士のフルプレートアーマーに良く似合うと思う」
「アイリの言うとおりね。こっちは綺麗で人に見せても大丈夫だから・・・んー。見せびらかすのはやめたほうがいいかも。先輩とかに見せたら意地汚いやつが寄ってきそうなほど美術品としても価値が高そうだから」
「弟君がもうすぐ誕生日っていつなの?」
「明後日ですね。今日の夕方に弟に会いに行ってきます」
「今日の帰りにでもキャンピングバスで寄っていこう。さぁ、残ってるアイテム・魔石・魔結晶を拾って帰ろう」
俺の声でみんながまた動き出す。
サラマンディストの魔結晶が3つ。これはキラービーのロードクイーンと同じ大きさで質がちょっと落ちるぐらいだ。魔結晶の中の色が少し赤っぽいが普通属性の魔結晶だった。
サラマンディストロードの巨大な魔結晶が2つ。サイラスの希少魔獣と同じ大きさで質も同程度。
これも中が薄っすら赤いが火の属性の魔結晶ではない。
サラマンディストロードは魔水晶も2つ持っていた。
希少魔獣の力の源だろう。膨大な魔力はここから出てたみたいだな。
最後のドロップアイテムがサラマンディストロードのものだ。鑑識で見たほうが早い。
召喚本『火精霊の召喚本』
所有者 早乙女真一
装備して使用すると火の下級精霊を呼び出すことの出来る精霊魔法の召喚本。
呼び出すことが可能な精霊の数は装備者の魔力に依存するが魔力そのものは必要としない。
召喚魔法・精霊魔法の素質がなくても魔力を持つ者は誰もが火精霊が召喚できる装備武器。
「これは火精霊の召喚本だな・・・先程ウンディーネが使った精霊魔法『水精霊乱舞』の火精霊バージョンが誰でも使える」
「私でも使えちゃうの?」
「ああ、そんなに興奮しなくてもミーでもアイリでも使えるよ。ただ魔力が少ないから2人とも10ぐらいしか召喚できないと思う」
「それでもいい! 一度だけでも使ってみたい!!」
「私も一緒。ミーも私も魔法って使った事がないんだから」
2人に渡すと2人とも何度か火精霊を呼び出して自分の思うように動きまわらせて満足して、俺に本を渡してきた。
「うーん。俺は必要ないんだよな。俺がいないときの予備でクラリーナが持っていて」
「え? 私が予備としてですか?」
「精霊魔法って攻撃には一切使えないんだよね。だけど魔力は精霊が持ってる魔力を使うから魔力が尽きそうな時でもこれは使えるんだ。しかも精霊魔法って呼び出されている間は術者に魔力を補給し続けるから、俺がいないときにクラリーナが魔力が尽きそうになったらコレを装備して、火精霊を呼び出してる限り通常の何倍かの速度で魔力が回復する。これはクラリーナの予備のエネルギー源って考えればいいよ」
「いいんでしょうか。今回は私ばっかり貰っている様な・・・」
「いいわよ。これはクラリーナに必要なもので私に必要なものではないし。私は1回だけ魔法が使いたかっただけだから」
「私もアイリと一緒ね。1度使って満足したから。またそのうちに魔法で遊びたくなったら貸してね?」
「それはもちろん! ありがとうございます」
「あ、その時は私も貸して欲しいわね。クラリーナお願いね」
「もちろんですよアイリさん」
「さぁ、話はまとまったしそろそろ帰るとしようぜ。・・・でもこれはどうする?」
俺が指差した先にあるのは俺達がボス部屋に入る前に全滅したチームの装備品の残骸と炭化した死体、それに残っているステータスカードが12枚だった。
「ギルド出張所に全部持って行って丸投げでいいんじゃない?」
「私は皆さんに従います」
「私も今回はしん君に任せるわ」
「それじゃあ、ギルドに届けるとしますか。細かいところまで捜す時間がもったいないから魔法で一気に集めるよ」
俺は鑑識魔法を展開させてボス部屋にあるもの全てをアイテムボックスにまとめて入れた。
砂とか石とかも入ってるけどもういいや。
それから奥の階段の部屋に入り、地下11階に下りてすぐの転送部屋の中に入り、アゼット迷宮入り口階段横の転送部屋に帰還する。
ダンジョンの外はまだ夕方4時前なので明るいし、アゼットダンジョン入り口から少し離れたところにある冒険者ギルド出張所の前にも人は誰もいなかった。
土手来る人はほとんどいなくて今からダンジョンに夜間の狩りにいく人の方が多いぐらいだ。
ギルド出張所にいた職員と警備員は以前、クラリーナを救助した時の職員と警備員だったので俺達とクラリーナの顔を見てビックリしていた。クラリーナが御礼の挨拶をする。
「こんにちわ。以前はお世話になりました。太陽神アマテラス様のお導きで命の恩人にお礼を言う事が出来ました。ついでに結婚もさせていただきました。お2人のおかげです、ありがとうございました」
「それは良かったですね、お嬢さん。それ本日の御用は・・・」
「今回はボス部屋だったので間に合わなくてステータスカードと遺品のみですね」
俺はそう言って12枚のステータスカードと装備品の残骸と、もはや黒炭でしかない炭化した死体を職員の前に並べる。俺のギルドカードも見せた。
「これはすごい残骸ですね。確認しました。ありがとうございます。後はこちらで処理いたしますので」
そういって確認し終えた俺の冒険者ギルドカードを返してくれた。
出張所のギルド職員もラザニードの教育が終わってるみたいだな。余計な事は一切言わずに何も言わないで終わらせてくれた。
皆で大森林の中に入って見えなくなる位置まで来たら、転送魔法でセバスチャンとマリアを迎えにいく。