バイド前村長の治療後の恐怖体験・・・勘違いで良かったっす。
7・12修正しました。
きったねー騎士は二人とも身包みはがされて連行されていった。
ウンコマンのせいで汚れた床はビッタート卿が連れてきた親衛隊の人が掃除をするってことで別の部屋に移動。
移動前に見たのは神父(50を過ぎた白髪のイケメンナイスミドル)が少し涙ぐみながら『浄化!』『浄化!』と何度も浄化魔法を唱えてる姿にちょっとクスっとした。
治療室にウンコマン登場は笑っちゃいけないな。哀れすぎる。
教会の談話室に来てビッタート卿が俺に頭を下げて謝罪する。
「早乙女君、申し訳ない」
「いえいえバカがうろたえる姿を見てすっきりしたから大丈夫ですよ」
と笑顔で答える俺。
ウンコマンも下腹部的にすっきりしただろうしな。
「治療室を汚しちゃったんで神父さんに謝っておいてくださいね」
お願いも忘れずしておく。
関係のない神父さんに怨まれたくないし。
そこにシスターに連れられて隻眼の二人が部屋に入ってきた。
一人は先ほどの厩務員のお年寄り。
もう一人が筋骨が隆々とした男・・・彼がバイドか?
バイドは俺の目の前にくると土下座してかすれた声で謝罪する。
まだ治療が終わってないからとバイドを談話室のソファーにすわらせる。謝罪やら金の話なんかは後でいい。まずは失明治療の準備から。ちょうど掃除の終わった神父も手伝いにかけつけてきた。
神父にお願いして談話室の窓を閉めて、明かりを消してもらう。シスターに少しだけ離れた場所で薄い布をかぶせたランプを持っててもらい、厩務員のおじいさんに魔法をかける。
『エクストラヒール』
おじいさんの体を光の膜が包み込んでから消える。
当たり前だが成功した。
ゆっくりと目を開けてもらい魔法の成功を確かめてもらう。
おじいさんの場合は何十年も隻眼ですごした為に10日ほどの時間をかけて少しずつゆっくりと光に慣れてもらうように指示しておく。
四の五の言わせずに早くけりをつけたかったから続けてバイドにも魔法をかける。バイドの場合はまだ期間が短かったのですぐに大丈夫。声もリハビリなんて必要ない。流石はエクストラヒール。流石はファンタジー。
「傷は消えても忌々しい思い出は消えないんだな」
バイドが左手や肩にあった古傷まで消えたのでつぶやいてた。
君を信用できなくて申し訳ない、俺が雇った親衛隊が迷惑をかけたなど何度も土下座するバイドの謝罪を受け入れた。
そんなことどうでもいいし。
後は金の問題。これが厄介だ。何しろ何も決めないまま治療は済ませてしまった。相場どおりで言いと俺は言うが、この相場の金額がなにしろ厄介だった。
ほぼ『言い値』が通る世界だった。
基準ってモノが世界に無い。それが2回分なんだからな。
俺は治療魔法で稼ごうなんて思ってなかった。相場が決まってると思ってたから2回分でOKした。
自分で苦労して魔法を覚えてきていない。
自分もただで貰った能力なのだ。
・・・回数制限の魔法でもないし10億を超えるMPを持つ俺には自然回復分も魔力を消費していないから・・・
なんてことを考えてた。
~~バイド目線~~~
バイド・シード・ガルディア本人も苦悩していた。
顔は涼しげに
「いやいや。困りましたね。さて、どうしましょう」
って、優しい顔をしているのだが、頭の中はパニック寸前だった。
幼い時からの教育の賜物で上に立つ人間として、顔に出ないように訓練の成果が出ているだけだった。
安い金額だと同業者に安く見られるし、かといって金に糸目をつけないって訳にもいかない。
資産は限度があるし自分の持ってる資産は開拓村のための資金が大半なのだ。
さらに追い討ちをかけるのが、この目の前の華奢な若者が自分の持ってた問題を全て解決してしまってるのだ。
銀色の亡霊の退治・盗賊『草原の暴風』の討伐・自分の目と喉の治療・取引相手の貴族の次男と三男を押し付けられて苦労していた問題。全部が解決してしまった。取引相手にもこれで有利になれる。
零細貴族とはいえ他国で鉱山開発の現場責任者の家族なのだ。
相手の貴族側も問題児を押し付けてた負い目がある。
さらに加えて今回の一番の問題は『他国の教会内で神父の目の前での刃傷沙汰』だからもはやかばうことすらできない。
ウンコマンと土下座貴族の実家は最低でも取り潰されるだろう。
教会の建物の中での凶行だから国としても見せしめにされる。
国としても迷惑をかけたからと、今後はガルディア商会を優遇するしかない。ガルディア商会との結びつきが今まで以上に深くなるのだ。
これほどの問題をあっさり片付けてるのに誇ることもしないで、俺に『いくらでもいいから早く金額決めてよ。それ貰ったら帰るから』と目で訴えてるのだ。
お金を渡してサヨウナラ。これが一番最悪のパターンだ。
これほどの人間とはもう少し結びつきを強くしたい。父も会いたいと思ってるだろうし父が帰ってくるまでに機嫌をそこねたらおしまい。
地雷がどこに埋まっているのかまったくわからない状況に相手の若者をじっと見つめる。これは熱い戦い(商取引)になりそうだ。
思わずニヤリとしてしまう。どこかに彼を攻略するヒントがあるはずだ。
~~バイド目線・終了~~
早乙女真一は少し引いていた。バイドが熱い目線を送ってくるんですけど・・・。
俺って狙われてるの? 超絶に怖いんですけど。
バイドの見た目は『超・アニキ』って感じだし・・・バイド、お前、もしかしてそっちか?
・・・あ、今ニヤってした。
俺はノーマルなんですけど。女の子が好きだ。
あ、あのシスター可愛いな。結構タイプでスタイルいいし。・・・現実逃避してみた。
しかし現実に回り込まれてしまった『にげられない』
バイドの目線が怖すぎる。
アッーー! な展開は絶対に避けたい。
無理矢理させられるなら村ごと滅ぼす自信ある。
ビビった俺は少し話題を変えてみよう欲しいものが思いついたし謝らなきゃいけないこともあるし。
「金額って決められないならモノではいかがですか?」
「何か欲しいモノはありますか? ガルディア商会で取り扱ってる商品であればすぐに手配できるのですが」
「ミスリル銀と森林モンキーの尻尾はどうです? 取り扱ってますか?」
「2つとも取り扱ってますよ。ヨークル支部の倉庫に在庫があります。どれだけ在庫があるのかはっきりしたことはわかりませんが、どれぐらい必要ですか?」
「うーーん。森林モンキーの尻尾が100本とミスリルは10キロぐらい欲しいですね」
「それだと今回の報酬として金額的に少なすぎます。屋敷に帰ればそれぐらいすぐに用意できますし、他に必要なものは無いですか?」
「うーーん」
おれが今回の報酬としてもらおうとしたミスリルと森林モンキーの尻尾はゴーレムの強化アイテムだ。
森林モンキーの尻尾は内骨格をつなぐ筋肉代わりにつかうと、体を動かすときの魔力消費が半減できてスピードを何倍かに上げても負担が減る素材だ。
森林モンキーは比較的簡単に狩ることができる大森林に多く存在する魔獣だ。
森林モンキーの尻尾はゴムのように伸び縮みする。
しかもゴムのように時間劣化がほとんどない。
ただゴムのように加工しようとすると魔力が必要で『ちょっと値がはる高級なゴム』として取り扱われている。
できるなら『大海蛇』の皮が一番いいのだが、レアすぎてなかなか市場に出回らないブツすぎる。大海蛇そのものはたまに出回るがほとんどが粗悪品だ。
捕獲したときの処理を上手くしないとゴーレム素材では使えなくなってしまう。きっちり処理したものでないと消費魔力は逆に上昇してしまうのだ。
神の創り手スキルでも粗悪品を極上のものにはできない。
セバスチャンとマリアを簡単に作ったつもりだったが、かなり有能なので2人をもっと強化しようと考えたからだ。やはりセバスチャンとマリアという名前に命名して正解だった。
「うーーん、じゃあ残りはオリハルコンとかの希少鉱石でください。量は任せます」
面倒なので丸投げしてやった。
「では、オリハルコンとかは後日受け渡しするとして、ミスリル10キロと森林モンキーの尻尾100本はすぐ受け取りますか?」
「そうですね」
「では、ちょうどお昼ですし今から村長邸に行きましょう。契約書の作成もしないといけないですし父に報告などすることがありますので」
「うぇ?」
・・・流石にドン引きした。自宅に連れ込まれそうだ。やばい、やばすぎるって・・・少しパニックしてきた。
少しパニってる俺の『助けて!』目線に気付いたビッタート卿が俺の後ろから小さな声で囁いてくる。
「もしかして何か勘違いしてるようだが、バイド様には”女性”の婚約者がいて結婚秒読みだぞ。開拓村の関係で結婚は少し遅れてるが恋愛結婚だぞ。男色の人ではないぞ?」
ホッとした。・・・つーかどっと疲れた。
イーデスハリスの世界に転生してきて一番緊迫した時間だったかも。貞操の危機ってのは凄く恐ろしい体験だった。二度と味わいたくないが。
まぁ、貞操の危機は去ったので安心して村長邸に向かう。ご飯を食べさせてくれるってさ。
村長邸で俺を出迎えたのは5歳の子供だった。
「い、いらっしゃいまちぇ」
あ、かんだ。
今のゾリオン村の村長『ヨシュア・シード・ガルディア』だ。
見た目は女の子みたいだな。クリクリの巻き毛で人形みたいだ。
バイドの子供でも通じるな。
見た目はまったく違って『ママに似て良かったね!』って言いたくなるが。
ちなみにバイドは25歳。ここにはいないが長男のギルは28歳。
バイドの下にはミーシアという19歳の長女がいるらしい。他のシーズの名がつく家に嫁ぎ今は妊娠中だとさ。
そんなガルディア家の兄弟情報を教えてくれるのがヨシュア村長の執事『ボーリック』さんだ。ゾリオンの部下だったが有能さでヨシュア付きとなり、今はゾリオン村のほとんどが彼が仕切っている。
俺にもセバスチャンという優秀な執事がいるからな。
森林モンキーの尻尾とミスリルでの改造が終われば、ワイバーンぐらいなら片手で狩れる様になるぞ?
戦闘力なら絶対に負けない。
そんな失礼なことを考えてた。
ボーリックさんの説明をききながら、ぞろぞろと皆と一緒に村長の執務室にむかう。
バイドが屋敷の使用人に森林モンキーの尻尾100本とミスリル10キロ、ダマスカス鋼10キロをすぐ持ってくるように指示する。
「早乙女様、今この屋敷ですぐに渡せる量はダマスカス鋼10キロまでですね。後はオリハルコン20キロと日緋色金10キロに追加でミスリルがあと50キロでいかがですか?」
そんなにいらないが早く決定したかったのでビッタート卿の用意した契約書を交わす。
冒険者ギルドの個人指名依頼の後追い契約なので正式契約書がこれになる。
契約書をじっくり全部漏れなく読んで3枚にサインする。1枚を貰いアイテムボックスにしまう。
使用人が運んできたものも、数を確認して品物も鑑定する。
俺は鑑定よりも上位のスキルで『鑑識』を使っているので森林モンキーの尻尾の状態やインゴットの成分表まで表示される。
ミスリルやダマスカス鋼は高品質と表示されてるし、森林モンキーの尻尾も全て高品質以上のもので、何本か最高品質と表示されるのもある。
良い物ばかりだったので安心した。