ミーとの会話。家族って結婚ってという話っす。
7・3修正しました。
休憩が終わりキャンピングバスに戻って午前の休憩場所を出発する。
ミーが俺の横にシートを移動させる。
魔法で浮かせた状態で床とは接触してないから、シートの横に付けてあるレバーを引くと座ったままでも簡単に移動できるようにしてある。
はじめはみんな慣れなかったが、一度慣れるとすぐに使いこなしているな。
今まで休憩でホットのハーブティーを飲んでいたので凍ったイチゴを入れたジュースを飲む。
ミーにマグカップに入れて渡し、もちろん運転席にいるアイリとクラリーナにももっていく。
「さっきの休憩前の話を聞いてて思ったけど、しんちゃんは平和な国にいたって言ってたけど結構濃い少年時代だったんだね」
「確かに濃い少年時代だな。まぁ。俺の場合は助け出してくれたじぃちゃんとばぁちゃんがいたから。しかも俺を両親や父親の実家から全力で守ってくれたし。じぃちゃんばぁちゃんの2人が暗闇に沈む俺の心を光の中へ救い出してくれたよ」
「今、あの世界に未練はないか? って聞かれて心残りなのは、じぃちゃんとばぁちゃんの墓を守っていけなかったことだ。両親の記憶はほとんど消えてるし妹の顔もまったく記憶にないよ。じいちゃんばぁちゃんの家だけど、自分の母親の写真が一枚もないってぐらいに徹底的に排除されてたからな。俺の為に」
「近所のじぃちゃんばぁちゃんも良い人ばかりで、周りに子供がいなかった分遊んでくれるのもお年寄りばっかりだったなぁ。でも遊びって言っても、お年寄りの話を聞いてばかりだった。話は凄く新鮮で面白くて、楽しいからニコニコ聞いてるとまたたくさん話をしてくれて・・・俺が話すことも一生懸命聞いてくれて・・・凄くうれしかった」
「学校っていう世界に出て自分の世界が広くなって、家が異常な場所だって気付いても逃げ出せないし帰る場所がここっていうのが苦痛になって・・・結果、俺自身も含めて全部ぶっ壊れていたんだろう」
「私は両親に会えなくなったのが2歳だった。でもモルガン父さんもカタリナ母さんも、隣にはいつもアイリがいた。それを3歳の時に気付かせてくれたのが、あの山の朝日なんだ。それまで真っ暗で自分だけしかいないって思ってた世界に光が差し込んだ瞬間。あの瞬間から私の目の前の世界には色が戻った」
「色が戻ったってどういうこと?」
「自分が泣き叫んでも両親が帰ってこないって分かってからは、自分の目の前の色が全部消えた。白黒の世界。後でアイリが言ってたのが生きてる人間には見えなかったって。でも、あの朝日が昇って光が周りを照らして、眼下に広がる畑に光が差し黄金色に輝き出して・・・光って色って素晴らしいって思った。そして後ろでいつも微笑んでくれたモルガン父さんとカタリナ母さんがいて、隣にはいつもアイリがいて・・・その日から娘になれた。私の父さんと母さんは2人ずついる」
「それは俺と似てるな。俺もじぃちゃんばぁちゃんに育ててもらったしな」
「でもしんちゃんがお風呂に入る時に必ず『あ”~~』って言うのは周りにいたお年寄りの影響かな?」
「それは否定できないな。かなりの影響があるだろう。実際・・・じぃちゃんばぁちゃんの田舎って公衆浴場で温泉があって、しょっちゅう入りに行ってたからなぁ」
「もしかして、しんちゃんの温泉好きってそこからきてる?」
「ああ。間違いなくそこからきてるよ。温泉ってだけで心が躍る感覚があるし」
「うふふふ。しんちゃん、子供みたいな顔になってるよ」
「まぁ、20歳を超えてから温泉って年に1回の帰郷のときぐらいで、後は女と一緒に旅行に行ったぐらいだからなぁ」
「彼女と帰郷はしなかったの? これが俺の彼女って紹介しなかったの?」
「あそこは俺にとってはかけがえのない場所でも、他人からすれば何もない田舎だからな。店すらないんだぜ? 学校に行くのも山越えて毎日通ってたんだから。周りに何でもあった都会の人間は半日だって生活できないよ。だからじぃちゃんばぁちゃんには誰も紹介できなかったな。2年ほど前に流行り病で村のみんなが死んじゃったから、あそこの村落は閉鎖されてしまった。俺を育ててくれたみんなに『これが俺の嫁です』って言えなくなったのはショックだった」
「今なら3人も紹介できるのにね」
「あぁ、あっちの世界では結婚は1人しか出来なかったから、3人もの嫁を連れて帰ったら・・・笑われるな『お前、頭は大丈夫か?』『早乙女んとこの坊主が女ほしさにおかしくなった』って言われるのがオチだな」
「あははは、それじゃあ、しんちゃんにとって今は異常事態?」
「今の状況をあっちの世界でしていたら確実に異常だし、信じることすらしてもらえないな。逆に友人がこんな状況なんですって俺にどんなに説明してもウソにしか思わないよ」
「そんなに信じられないことなの?」
「法律上許されてる国じゃなかったから、厳密にいえば『信じられない』じゃなくて『法律上許されない』ということ。俺が始めにアイリとミーと同時に結婚できるのか、おやっさんに聞いたのもそれが理由」
「法律で結婚が定められてるの?」
「確か『重婚の禁止』って定められてたはず。俺も法律家じゃないから上手に説明できないけど。この法律で複数の人間との結婚が禁じられてた。前の世界では国ごとに法律が違っていて複数の異性と結婚が認められる国と、道義的には認められないけど法律では違反にはなりませんって国の3種類があったような気がする。元にいた世界では結婚観に宗教とかが絡んでくるから複雑な問題だった。俺がいた日本って国も150年位前には甲斐性のある男なら女は何人でもOKって国だったし」
「へぇ、いろいろあるのね。この世界にきてすぐに3人も嫁が出来た事について、しんちゃんはどう思ってるの?」
「俺でいいのか? ってのがホンネだな。この世界にきてからは簡単に大金が稼げちゃうようになったけど、元いた世界ではそこまで稼げるような男じゃなかったから結婚できなかったんだ。最低限の経済力がない事には結婚生活がジリ貧になっちゃうからね」
「でもそれなら夫婦で稼げばいいんじゃないの?」
「それがなかなか難しくてね。女性が稼ぐには仕事が限られるから、どうしても男が稼がないとって世界だった」
「そうよねぇ。私もアイリもしんちゃんの経済力を見て『今だ! チャンスだ!!』って思ってたから、否定できない話よね」
「アイリとミーも28歳だったんだよな? 前の世界でも女性は28から30までが一番結婚について焦る時期だって聞いたな」
「ううう、しんちゃん、耳が痛いよー」
「終わった話だから大丈夫だよ。2人とももう俺の嫁だし。今が幸せならいいんじゃないの?」
「うん、そうなんだけどね。焦ってたのは事実だからなぁ」
そんな話をしていたら運転席からアイリが降りてきてミーの時間は終了になっちゃった。