るびのの成長観察と釣りの話っす。
12・10修正しました。
1・17修正しました。
お昼の休憩場所に到着する。
ここはかなりの広さがあるので荷馬車が30台以上停まっているのに、まだまだ余裕がある。
将来的にはここに建物を建てて、定期輸送の荷馬車用の休憩場所にしたいのだろう。
荷馬車駐車場で指示された場所に停車する。
指示してくれた人がそのまま俺達夫婦を休憩場所の屋根だけテントまで案内してくれた。
まぁ俺達のキャンピングバスが最後尾なんだから、彼もこのまま休憩になるんだろう。
昨日はハンバーグカレーだったから今日はカツカレーかな?
って思っていたら、今日はハンバーグ丼だった。
思わず『そっちかよ』ってツッコミを入れそうになったが何とか我慢できた。
どうしてここの国のメニューって変化球が多いんだろう。
ハンバーグの上に乗ってる大根おろしとソースが想像以上に美味しかったので余計に悔しく感じてしまう。
食後はハーブティーを飲んでマッタリして休憩。
今回の護衛任務中に毎回のようにハーブティーが出てくるが毎回味が違う。
ハーブティーが入っているポットごとに味が違っているようだった。
まぁ、毎回同じだったらいくら美味しくても飽きるし、ハーブの種類なんて数え切れないほど周りの草原に生えてる。
今飲んでるハーブティーの味はあまり美味しくなかった。俺には甘い系のハーブティーは合わないな。
アイリ・ミー・クラリーナと毎回、回し飲みをしているが・・・今回はミーのハーブティーが1番俺の好きな味だった。
護衛の人が慌しく交替している。
今まで休憩していた護衛が馬の世話を引継ぎに行って、今まで世話していた護衛は今から食事休憩だ。
午後の休憩場所へ先発隊が出発していく。
俺は近くに座っていた職人さんたちと話をしていた。
今回の職人さんたちは合計100人の職人さんたちだけど、そのうち90人が石材の職人さんたちだった。
前回の開拓村の失敗は銀大熊に木製の門と塀の建築中の部分を破壊されての失敗だったので、今回はまずはじめに石材の職人を集めて門と塀を高さ4m以上にして石材で作って強化する。
今までの塀の場所よりも外側に作って大幅に村の面積を広げる計画。
その後で村の住民の家屋と村の外に田んぼや畑を作っていくんだそうだ。
その石材が俺達夫婦でたったの2回で運んでしまうので、今回は皆が20日ほどの契約で一気に作り上げるつもりらしい。
門や塀は10日ほどで出来る予定だが、そのまま石材の職人さんたちは10日ほどかけて建築予定の住宅の基礎部分を石で作るから20日の契約になったって笑ってた。
ゾリオン村に避難中の職人さんたちや新たに雇われた大工さんたちが、明後日に俺達が護衛してまたバイド村の住宅建築で働くことになってるようだ。
住民は20日後をめどに続々集まってくるが収穫が出来るようになるまでは食事などは住民も職人もみんなが配給制になる。
そんなことを色々教えてもらっていた。
知らないことを知るってことは怖いことではあるけど物凄く面白い。
職人さんが続々出発していって、俺達も順番が来たのでキャンピングバスを発進させる。
食後のテントなどの全ての後片付けは先発隊の後片付け班が担当だ。
午後の休憩後はキャンピングバスの運転を嫁達に任せて昼寝をすることにした。
今朝はバイドの早朝訪問で変な中途半端な時間に起こされちゃったからな。
ファーストクラス仕様のシートを倒して、まどろみの中におちていく。
30分ほどの仮眠でかなりスッキリできた。
嫁達とキャンピングバスの運転を替わって、今度は俺が運転手の番だ。
嫁達は昼寝をしにキャビンスペースに降りていった。
ヒマだったのでマリアに念輪でるびのの状況を確認する。
「マリア、今は大丈夫か?」
「はい。ご主人様。今は・・・るびのはお昼寝中ですね。相変わらず寝言でムニャムニャ言ってます」
「フフフッ、その姿は想像できるな。それで狩りの成長具合とかはどうだ?」
「さすがは聖獣って言ったところでしょうか。オークの10頭以上の群れも、もはや相手になりませんね。ワイバーンが相手でも狩ることは不可能ですが逃げることは容易です。ジャンプ力はご主人様がおっしゃられた炎虎ほどではありませんが10mぐらいは飛べるようになってますね」
「るびのの対集団戦はマリアから見て、もはや教えることはないってレベルになってるってことか?」
「はい。後は岩場での狩りの訓練と、ワイバーンなどの空を飛ぶ相手の訓練が終われば、もはやこの大陸では敵がいなくなりますね。魔獣が全部エサになりますので」
「そうだよなぁ、大きくなるペースが異常だもんな。毎食5kg以上は肉や骨を食ってるしな」
「今のるびのの体重は25kgぐらいになってますので、今後は早乙女邸内で過ごすことが困難になってくると思います」
「そうだなぁ、早乙女邸の裏庭にガレージみたいな、るびのの部屋を作った方がいいな。うん、るびのとも相談しておかないとな。検討しておくよ。ありがとう。そのほかは?」
「ご主人様が使われる『剣客』のマスタースキル『天駆』と似たような事がるびのにも出来るみたいですね。明らかに空中を足場にして飛び跳ねて狩りをおこなっています」
「マジでか!」
「はい。るびのに直接聞いた限りでは、今は2・3歩が限度みたいですけど・・・私の予想ではこれは将来は空を走りまわれるようになるのではないかと」
「うーん、マリアがそう予想するなら、そうなりそうだな。ちょっと白虎の情報が足りなさ過ぎるようだ。前回の白虎を討伐した転生者って俺の記憶の中にいない人なんだよな。もう少し情報があればるびのの将来設計も考えやすいのになぁ。まぁ引き続き観察しておいてくれ」
「了解しました。お任せください」
「じゃあ、何かあったら念輪で連絡を頼む」
「了解しました」
これで念輪を切った。
しかし、るびのは空を駆け回れるようになるのか・・・さすが聖獣。
さすが俺の息子(バカ親)。
るびのの外部屋も作らないとな。大きさはガレージぐらいあったほうがいいだろうと思う。
ガウリスクぐらいの大きさなら外部屋でも大丈夫だけど、キャンピングバスぐらいになったらどうしよう。流石に一緒には暮らせないなぁ。
今朝にはゴールデンレトリバーぐらいの大きさになってたし。
大きさも含めてるびのがどこまで成長するのか情報が全然ない状態での育児はキツイ。
お風呂も今はマリアが世話係としてるびのを毎日入れてるけど、外部屋になったらどうしようか。
ガレージサイズの外部屋に温泉でもひくか?
でもアイツ風呂で寝てしまいそうだしなぁ・・・。
それなら地下訓練場の師匠ゴーレム達に世話でもさせるか?
でもあいつら戦闘専門で世話は出来ないし。
いっそのことるびのの世話専門のメイドゴーレムでも作るか?
・・・いくらなんでも過保護にし過ぎって嫁達に説教されそうだ。
そんなことを考えていたら、アイリが運転交替をしにきた。
休憩が終わってたらしい。
キャビンスペースに降りて自分のファーストクラス仕様のシートに座る。
俺の場合・・・このシートって誰が決めた訳でもないのになぜか座る場所もシートも『自分の場所』『自分のシート』ってなぜか専用になってる。
どこでも自由なんだけどなぜか俺の場合決まった場所に座ってしまう。
そこに嫁が座っていると『あ、俺の場所・・・』なんて思ってしまうのが自分でも意味がわからない。
嫁も俺がいつも同じ場所の同じシートに座っているので、自然と嫁達も決まった場所に座るようになってしまった。
アイテムボックスからコーヒーポットを出してマグカップに注ぎコーヒーをすする。
コーヒーの匂いでミーとクラリーナも目を覚ました。
「しんちゃん、私にもコーヒーちょうだい・・・あ、アイリにも持って行ってあげるから2杯お願い」
「私にもください。ありがとうございます」
アイテムボックスからマグカップを3つ取り出してコーヒーをそれぞれ注いで渡す。
ミーは自分とアイリの分にミルクを少しだけ入れて2つもって運転席の方にあがっていった。
クラリーナはカップの半分ミルクを入れてる。
クラリーナを連れてアゼット迷宮アタックをしたときにミルクさんを狩りまくったおかげで、早乙女家のミルク事情は改善された。
1人100リットル以上持ってるのだ。
セバスチャンやマリアにいたっては200リットル以上は持ってる。
練乳の為に嫁が大興奮で狩りまくったからな。
アイリとミーは俺と一緒でブラックでコーヒーを飲んでいたが、ミルクが豊富に使えるようになった今は少しミルクを入れてコーヒーを飲むようになった。
クラリーナはコーヒーじゃなくてカフェオレになってる。
ミーはそのままアイリと2人で運転をするようだ。
日本にいたときはグアテマラのコーヒーを好んで飲んでいたが、イーデスハリスの世界に来てこだわらなくなった・・・表現が違うな。
こだわれなくなった。
全部がブレンドされていて『コーヒー』となっているので全部が混ざってる状態だ。
袋ごとに味が違うし、モノによっては使用したコーヒー豆の分量ごとに味が変わってくる。
これはこれで良いんだけど今までの環境との違いに中々ついていけてないな。
午前中に護衛隊の隊長から盗賊『草原の暴風』の生き残りの話を聞いたのでフラグが立ってるのかと警戒レベルは上げてあるが・・・なにもない。
平和でいいことなんだけどなぁ。
以前のゾリオン村からヨークルまでの荷馬車の旅のときと違って何もないって訳ではないしな。
ワイバーンには襲撃されてるし。
沈黙したマッタリ空間の終了はクラリーナの質問だった。
「しん様は海って見たことはありますか?」
「何種類もの海を見たよ。漁港・砂浜・岩場。俺は魚釣りが好きだったから、そのために色んな場所に行ったよ」
「へー、そうなんですか」
「季節・時期・潮の流れ・時間帯・天候・エサ・仕掛け。条件がかわると釣れる魚も変わってくるからね。でも俺は『この魚を釣るために』って狙った魚を釣るよりも、五目釣りのように『なんか釣れる』ってぐらいに曖昧な釣りの方が好きだったな」
「そうなんですね。でも何で狙って釣りをしないんですか?」
「狙った魚で満足できるサイズの魚を釣るためにしなきゃいけない情報収集が面倒くさかった。しかも自然が相手だから、偶然とか幸運だけで自分以上の成果を見せ付けられるって事が多々あるからね。だけど『狙っていた魚が釣れなくても楽しい』って事が分かってからは、釣りの楽しみ方がガラリと変わったのは今でも覚えてるよ」
「そんなにかわったのですか?」
「釣れなくても『何もしていない自分』っていうのを楽しむようになったんだ。仕事をしていると自分が機械の歯車になったと思うときがある。自分は誰か他の歯車をいくつか回している。自分も幾つかの歯車によって回らされてる。自分が回ってるのが楽しいときはいいけど、機械だから周りに迷惑をかけることになるから回りたくなくても回らなきゃいけない。そういった労働で溜め込んだ鬱憤を何も釣れない釣りで晴らしてたんだ」
「何も釣れなくても鬱憤が晴らせるのですか?」
「考え方を根本的に変えたら晴らせるようになった。無意味で無駄なことで貴重な時間の贅沢な使い方をしてるって思ったら劇的に変わったよ。1日は24時間。これは国王だろうが乞食だろうが全員一緒。寿命に個別の差はあるけど時間には変化はない・・・まぁ、俺達には寿命って言葉がなくなっちゃったけどね。金では時間を売り買い出来ないからね。このイーデスハリスの世界では魔法があるから多少は変わってくるけど、元いた世界では皆一緒だった。そんな貴重な時間を釣れない釣りの為に無駄に使ってるんだ、物凄く贅沢な遊びだよ。しかもワザワザ遠くまで出かけて移動時間も無駄。エサとか仕掛けとかを買ってるお金も無駄。この無駄遣いをする遊びを知ったら労働の鬱憤なんて吹っ飛ぶよ」
「考え方が変わると物事の捉え方が大幅に変化するってことですか?」
「そういうことになるな。それでも小さくてもいいから少しは釣りたいから五目釣りって逃げ道も用意してる。小さくても良ければ簡単に釣ることが可能な逃げ道だよ」
「ワザワザ逃げ道まで用意してることがしん様っぽいですね」
「くくっ、確かに俺らしい遊びだし、俺らしい言い訳だよ。面倒くさいから逃げたって思う部分もあるしね。それにほとんどの女性は魚釣りを嫌う。釣れる様な場所はトイレがないからな。男同士だと関係なく野グソでも平気だけど、女性はそうはいかないからなぁ、デートで釣りに1度行くと次からは断られる」
「確かに女性の場合は困ってしまいますね。では釣りは男性の友人と?」
「そうだな。会社の同僚と何人かで年に何回かあちこち行ってたよ。でも1年に1回ぐらいは自分だけで行ってた」
「しん様だけでですか?」
「うん、俺だけで釣りに行っていた。自分だけだと誰にも気を使わないで、移動も好きな時に休憩して好きな時に寝て。誰にも気を使わないで行動する。釣りに行く場所だって好き勝手に変えてた。これも俺の鬱憤を晴らす方法だったからなぁ」
「じゃあ、私達はいつも一緒にくっついてるけど、邪魔になったりしないの?」
アイリが運転席から降りてきて俺に質問をぶつけてきた。
アイリが降りてきたので変わりにクラリーナが運転席にのぼっていった。
「邪魔に思ったことはまだないな。1人の時間が欲しいなら正直にそういってるよ」
「そう、それなら良かった」
「みんなも時間が欲しかったら言ってくれよ?」
俺が大きな声でみんなに言うと、運転席の方からもわかったと声が聞こえてきた。
「アイリが降りてきたってことは、そろそろ午後の休憩場所か?」
「うん・・・もうそろそろね。でも、キャンピングバスの運転席で今まで運転しながら考えていたことがあるんだけど・・・しん君の話だと銀大熊やグリーンウルフ、炎虎なんかの魔獣はこの街道の人族を襲わせないようにした。後、襲撃がありそうなのはワイバーンと盗賊・・・どちらも私達が警戒しなきゃいけない相手・・・ちょっと理不尽」
「まぁそういうなよアイリ。信頼できる人間で警戒しているって思えばいいよ」
「それは確かにそうよね。護衛隊も少しレベルが低そう」
「ああ、アイリたちの知り合いの元冒険者のチームがBランクで、護衛隊隊長のチームがCランク、それ以外は全部Dランクの人達だな。クラリーナと一緒で昇格試験絡みなら納得できるんだけど、彼らはこのままバイド村に護衛として雇われる。元冒険者チームの面々と隊長のチームのメンバーは苦労しそうだな」
「でしょうね・・・護衛隊隊長は荷馬車の護衛のベテランって感じがするわね」
「ああ、上手く荷馬車船団をコントロールしてると思う。国軍の軍隊での移動経験が豊富なんだろうな。午前の休憩から昼食までは荷馬車のスピードを上げて予定時間よりも早く到着してた。逆に昼食後の移動はスピードを落としていた。到着時間を変えることで盗賊襲撃をかわそうという意図だろう。俺達みたいに念輪で情報を集めてない限りは有効な手段だと思うよ」
「しん君は盗賊から襲撃されるならどこだと思う?」
「ここの休憩場所ではないだろう・・・移動中もない。バイド村の夜明け前に狙うよ・・・俺ならね。気も緩みそうな時間帯だからな。盗賊の幹部が3人と手下が30人ぐらいだろ? 夜明け前の薄明かりに炎とともに攻めないと反撃されて全滅がオチだな。失敗しても挽回出来る余裕は今のヤツラにはないから、一発逆転狙いで全力で攻めてくるだろう。今夜成功すれば大量の資材が手に入るだろうし」
「そういうことなら、今夜は早く寝るパターンでいくの?」
「いや、俺だけで今夜はバイド村周辺を探索してみるよ。夜なら飛翔魔法で盗賊を捜して皆殺しを狙っていける。アイリたちはマリアと組んでバイド村の防御にあたってくれ・・・睡眠は交替で頼む」
「了解。盗賊が増えてる可能性は?」
「それは充分に考えられる・・・今夜で全滅させておしまいにさせるけど。この村周辺に盗賊はいらないからな。ここは俺の縄張りだ。魔獣にも了承させた。盗賊は皆殺しでいく」
「盗賊を捕まえて情報を吐かせなくてもいいの?」
「それは俺が依頼された仕事じゃないし・・・それに情報はゾリオン村で捕らえたスパイの親玉と元護衛隊副隊長の方があるだろう。今更末端の情報が増えても何の意味もないから、盗賊の死体をビッタート卿に届けておしまいだ」
そこでキャンピングバスが停車。
案内についていき午後の休憩場所に向かう。