ゴッデスからの依頼で新たな展開スタートっすか?
寝室のソファーで酒盛りの続きが始まったようだ。
片付けを終えたクロがアイテムボックスにあるツマミをテーブルに広げてくれる。
俺は10年物のバーボンを取り出す。
円形の氷を魔法で作ってからロックグラスに落とし、ビンからバーボンをゆっくりと注ぐ。
トクトクトクとビンの鳴る音が堪らなく美味しそう。
ツマミはチョコレートを摘まむ。
チェーサーは良く冷やした麦茶。
バーボンを嘗めるように口に含み胃に落とし込む。
60度近いアルコール度数のために胃までゆっくりと落ちていくバーボンを、食道でも胃に落ちた後も味わって楽しめる。
ゆっくりと味わうにはバーボンは最適なチョイスだろう。
隣に座るカレンは程よく冷やした日本酒をチョイス。
ツマミは焼いたアジの開き。
横に添えてある大根おろしは大きめで、すりおろした生姜も横に添えてある。
グラスに注いだ日本酒をゆっくりと味わっている。
クラリーナはテーブルの上に小さな焼き台を置いて焼き鳥を焼いている。
カントが横で待機してるんだけど、焼いているのは鳥のササミなんで・・・良いのか?
お酒はワインボトルをアイテムボックスから取り出して、自分のワイングラスに注いでいる。
赤ワインみたい。
アイリはラム酒をグラスに注いでいる。
ドライフルーツをツマミにしてるみたいだ。
ミーはカレンと一緒に冷やした日本酒を味わっているようだ。
ツマミにはだし巻き玉子で山盛りの大根おろしを乗せて食べている。
それぞれが大好きなお酒とツマミの組み合わせで楽しんでいる。
まったりとした時間を楽しみながら、皆で会話して雑談している。
皆と雑談しながらゴッデスから緊急連絡がきた。
【一家団らん中を楽しんでいる早乙女君には済まないが、緊急に動いて欲しい事件が起きてしまった。】
「どうかしましたか?」
【ドルガーブの150キロメートル程の沖合いに変わった形の無人島があるんじゃ。】
マップで検索すると確かに3つの島がくっついたような無人島があるな。
「これがどうかしたんですか?」
【なぜがここに2体の中級天使が降臨しておるんじゃ。】
「・・・はい?」
【月読からの知らせで調べ始めたんじゃが、まだ事態は把握できていない。】
「誰かが召喚したんですかね?」
【何もかも今の時点では不明じゃ。大至急、早乙女君に調べてもらいたいんじゃ。】
「わかりました。」
【処分は早乙女君に任すから、可能な限り詳細レポートを報告してくれんか?】
「まぁ、やってみましょう。」
俺はまったりとしている嫁達に簡単に状況説明をすると、俺はステータスから襲撃用の装備、全身黒尽くめの闇属性甲殻鎧セットに着替えを済まし、転移魔法で現地に飛ぶ前に結界で自分の存在を極限まで薄くした。
闇属性の甲殻鎧なら天使からはほぼ見えない。
転移魔法で天使が降臨したという島に飛ぶ。
さすがに気付かれてない。
島全域に探査魔法を掛けると天使がこっちに転移魔法で飛んできた。
魔法の痕跡の汚れた魔素を消去。
結界を強化して大木の影に隠れる。
・・・敏感なヤツラやね。
「あれ? こっちから魔法が掛けられたと思ったが・・・誰もいないな。」
「確かに痕跡らしきものもない。気のせいみたいだな。」
「それならば良い。我らは神より密命を受けておる。今はゴッデス様に見つかる訳にはいかぬ。」
見つかるも何も・・・ゴッデスから依頼でお前達の動向調査に来たんだからバレバレなんだけどね。
「我らの仲間をたくさん戻して神の復活の儀式を急ぐ必要がある。」
「確かに。意味なくここに構っている暇は無いな。」
「「我らの使命、神の復活を急ごう。」」
転移魔法で元にいた場所に帰っていった。
えっと・・・まぁ、いいや。
ゴッデスに彼らの目的が判明したのでまずは連絡。
【もう判明したんじゃと? 相変わらず手が早いのぅ。】
「ただの偶然だよ。それに・・・何か語弊がある言い方は止めてくれよ。」
【冗談じゃ。】
「で、どうする? 締め上げて全部吐かせる?」
【ふーむ。君に任すよ。】
「つーか、神って復活できる儀式があるの?」
【無いな。熟睡してたりして寝ている神を起こす儀式はあるんじゃが、消滅した神を復活させる術はないから不可能じゃの。神に魂なんて無い。神の死は消滅じゃから。】
「あっ、そうなんだ。でも何か嫌な予感がして復活の準備をあらかじめしていたとしたら?」
【無理じゃな。神の死というものは一切合切の消滅を意味してるんじゃ。イーデスハリスの世界を作り、好き勝手していた4人のワシの子供らは消滅している。例え何らかの復活するための準備していたとしても、何もかも全てが消滅してしまうのが神の死じゃ。】
「例外はないと?」
【一切無い。全て消滅するのが神の定めじゃ。】
「輪廻転生はない?」
【そもそも神は魂から卒業してるからの。輪廻も転生も無くなり、一切消滅するのが神の存在じゃしな。】
「では、天使達に何をさせたかったのか・・・」
【まさか神の我らが死ぬまでの罰を受けるとは考えてもいなかったんじゃろうな。好き勝手している自覚はあったのじゃろうから、責任を取らされて眠らさせると考えていたのかもしれん。】
「神の罰として眠らされる?」
【そういう罰を受けることもある。】
「なら、それを見越した儀式という可能性は?」
【充分あるじゃろうな。あの4人の子らが考え付きそうな事でもあるしの。】
「なるほどね。だからこその儀式か・・・」
【しかしながら・・・見通しが甘すぎるわ。ここまで好き勝手しておいて眠らされて終わりなんて結末はない。ワシが動いているのに無事で済むと考えていたとはのぅ。】
「主神が動く以上はってこと?」
【彼らの行動を見る限り・・・まさかワシが動くとは考えてもみなかったと思う。見通しが甘々な連中じゃしな。】
「うーーん、それだと天使の処遇に困るなぁ。」
【後は発見者と決めてくれ。全て早乙女君と彼女に任す。ではの・・・】
ゴッデスとの回線が切れたと思ったら、地面から黒いモヤモヤが出てきて子供の女の子の形になったと思ったら・・・神が出てきた。
【こんばんは。初めまして。月読です。アマテラスから早乙女さんの事は色々聞いてます。】
「あぁ、ビックリしたよ。早乙女真一です。俺も君の事はアマテラスから時折聞いていたよ。これから宜しくね。」
彼女が月読か。
アマテラスとの会話で何度か出てきている神。
アマテラスと真反対の闇と土と呪いを司る神で、地獄の管理人で冥界の守護者だったはず。
背格好はアマテラスと同じぐらいだな。
髪の毛は真っ黒で背中までの長さ。
前髪は眉毛より少し下のパッツン。
眉毛や瞳は黒。
前世で何かのイラストで見た『座敷童子』のような風貌をしている。
笑うと糸目になりニコチャンマークのような笑顔。
左の側頭部にキツネのお面をつけてるから座敷童子みたいに見えるんだろう。
真っ黒のドレスを纏い、緑色でシースルーのボレロを上から羽織っている。
・・・服装は洋服だけどね。
【私も真一お兄ちゃんと呼んでも良いですか?】
「良いよ。アマテラスと一緒で妹みたいなもんだしな。」
【えへへ、ありがとうございます。】
「で、月読が調べた事を教えてくれ。」
【はい。今日調べ始めたばかりで時間が無くてまだ触り程度しか調べられなかったのですが・・・】
月読が調べられたのは・・・
彼ら中級天使のクラスは『力天使』らしい。
消滅した4人の神が仕込んで封印していたようで、この島には天使が封印された巨大なクリスタルの結晶が幾つかあるらしいとのこと。
この近くにも1つあるという事だったので、月読と走って見に行くことにした。
転移魔法だと超敏感な彼らに見つかりそうだし。
月読の後を追いかける。
俺と月読だとお互い身体能力のみでも天使を消滅させるのに苦にならないレベルの為に20秒ほどで到着した。
【あれですね。】
月読が指差しているのは巨大な石碑。
石碑の中にクリスタルの結晶が隠してあるな。
天使がクリスタルの結晶の中に封印してあるようで、ここには2体の力天使が中に時を停められた状態で封印処理されている。
俺と月読の周囲に結界をはってから会話する。
「力天使2体か、どうする?」
【むー、なかなか難しい判断ですね。幾つか回ってから判断しますか?】
「だな。俺も同意見。では他の場所へ行こう。先行してくれ。」
【では、こちらですね。】
月読の後をついて島内を回る。
すでに覚醒してる力天使は1ヵ所で移動してないのは、魔法ではなくスキルの気配察知と魔力察知を使って確認済み。
その裏で俺と月読が暗躍してる形だな。
6ヵ所ほど回って見たが全て力天使が封印された石碑があった。
封印されている個体数は場所によってまちまちだった。
5体の力天使が封印されている石碑もあったし。
月読が次に移動しないで立ち止まったままので、俺は新たに結界をはり月読に話し掛ける。
「どうした?」
【私が調べたをつけた石碑は以上です。】
「そういうことね。18体の力天使か。悩むね。」
【真一お兄ちゃんは何をお悩みで?】
「手っ取り早いのは全部消滅させて何もかも無かった事にする。ゴッデスも言ってたが、4人の神は消滅したんだからヤツラの手下も消滅させれば良いだけの話。」
【えっ? ・・・違うパターンがあるのですか?】
「違うっていうか・・・力天使が集まって何をするのか、ちょっと見てみたいという野次馬根性。それとせっかく儀式を行っても何も起きなかった時に力天使達がどう反応するのかまで見てから消滅させちゃう・・・というドSな気持ち。」
【ぷっ、確かに・・・かなりのドSですね。】
「ただ、儀式発動までかなり長引いた場合、俺の性格的に途中で飽きて力天使達を天界に強制送還しちゃいそうでなぁ・・・。」
【まぁ、それはそれで仕方ないように思えますけど。】
「彼らが何をしようというのか少し様子を見よう。」
【わかりました。】
俺と月読は力天使達がいる場所にダッシュで駆けつけた。
2人を包んでいる結界はつけたまま。
力天使達は石碑の石をようやく剥ぎ終わったところのようだ。
3体の力天使がクリスタルの巨大な結晶の中に封印されている。
力天使達が目を合わせて頷きあうと両手を合わせて合掌。
天使の言葉で特殊魔法を唱え始めた。
【天使の特殊魔法ですかね?】
「みたいだな。さすがに天使の言葉はよく分からんけど、構築されている魔方陣から見るに天界の封印解除らしいね。」
【それは私にも分かります。どうしましょうか・・・この状況ですと後2時間ぐらい掛かりますよ?】
「遅過ぎるって。逆に邪魔したくなるな。」
【確かに。意地悪したくなりますね。】
「ダメダメだな。月読、確保からの尋問コースにしよう。ダメダメならこの封印を俺が解除した方が早いわ。」
【ですね。了解です。では私は退路を塞ぎます。】
「任せた。」
【任されました。】
突如、俺は俺と月読に掛けられている結界を解除。
月読は瞬時に反対側に回る。
俺が左手を振るうと力天使達が展開していた魔方陣が消滅。
驚愕する力天使達に結界を掛けて移動できなくしてやった。
月読も同時に闇魔法を展開。
『冥界の漆黒の鎖』が地面から次々と伸びてきて力天使の全ての羽を拘束した。
見たこと無い珍しい魔法だな。
月読の独自の闇魔法かもな。
《何奴だ! クソ、動けない。》
【天使ごときが神の拘束を逃れられるはずもなかろう。】
《闇の神だと! バカな、転移魔法も使えない!》
「あ、そっちは俺な。結界はったから無理だろう。」
《貴様は・・・人間?》
「何で俺だけ疑問系なんだよ。」
《ぐはっ・・・》
あまりにムカついてツッコミの裏手に力が入ってしまい、鼻っ柱にメガヒットして白い鼻血を垂らす力天使。
「あっ、すまん。君らにはちょっと強すぎたね。」
《なぜ人? が天使を傷つけられるんだ!》
「テメェも何で疑問系なんだよ。わざとかこのやろう。」
《わぶっ!》
「あっ、すまん。ちょっと強すぎたな。全部お前のせいだから我慢しろ。」
【ブハッ! ぷーくすくす。】
またもや俺が気にしている『人間からかなり離れた存在』という事に疑問系で問われてムカついてツッコミの裏手に力が入りすぎた。
一連の動きで爆笑する月読。
「さあ、ちょっとムカついてるから辛口の尋問コースと逝きますか。」
【字が違ってますね。怒っても良いのですがもう少し冷静でお願いしますね。】
「俺は冷静ですよ。少し力が入り過ぎるだけです。」
俺と月読の会話を聞きながら、自分達では到底及ばない存在だという事に気付いた力天使達は震え始めた。
【ほら、彼らも怖がってますし。ぷーくすくす。】
「くそっ。一言余計なくせにテメェらビビり過ぎなんだよ。まぁ、良いや。」
力天使達が見てる目の前で右手をクリスタル結晶にかざすと『パキン!』と甲高いガラス音を響かせて一瞬でクリスタル結晶を破壊。
中に封印されていた力天使3人も結界で封じ込めた。
月読も瞬時に『冥界の漆黒の鎖』を展開させて3人にも闇魔法の鎖で羽を拘束する。