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新たな動きが出始めたみたいっす

大変遅くなりました。

絶賛放置中でしたが続きをアップしました。

とはいえ次は未定です。

新作をあげてますので、よろしかったらそちらもお楽しみください。

早乙女工房に帰ってきてから、早乙女工房3階の改装をする。

おやつにミニたい焼きを食べながら脳内で改装の構想をねる。

ミニたい焼きの中身は実験的に梅ジャムにしてみたのだが、あまり美味しくないなコレ・・・失敗したわ。

梅ジャムの味付けを間違えたみたいだな。

酸味を大幅に減らして梅の優しい甘さと酸味に変更してみる。


構想をねりながら、ミニたい焼きの梅ジャムも試行錯誤してる。

なかなか難しい・・・決まらないな。


早乙女工房3階はワンフロアー全部を使って多くの人間が作業できるような空間に作り替えた。


大きな作業台を幾つか設置して様々な素材を並べ、壁一面に作られた鍵付き棚に魔結晶や魔石や部品を並べて保管してあるように見せかけている。


3階はダミー。


何らかのモノを作っている研究所の作業場風に仕上げを行った。

研究所らしく、それっぽい設計図やいかにもありそうな言語パターンの解析説明文。

それらを乱雑に散りばめてあり研究室の雰囲気だけは一級品だろう。

専門用語がオンパレードでいかにも修復に役立つ情報満載な感じで、研究成果の集大成っぽい事を書いてあるのだか、よく読めば意味のないことを羅列してあるので、本当にDOLL修復ができる人が読んだら『はぁ? なんじゃこりゃ』ってなるだろう。


あくまでもダミーなんでこんなもんかな。


実際にDOLLの修復作業をするのは2階の使っていない応接室の奥をパーテーションで新たに仕切り、応接室の隠し扉しか繋がっていない新たな部屋をつくる。

この部屋では作業台ではなく診察台の上でDOLL修復作業をする。

こちらの壁に備え付けた棚には鍵はしてない。

よく使いそうな部品などを大量に保管してあり、外から見やすいように棚に並べてしてあるので、作業しやすくなっている。

修理してない時はリペアーゴーレムがDOLL部品や服を作製することになる。


作業部屋自体に俺の特別結界がかけられているので、俺と俺が作ったゴーレムしか入れない。

家族は俺が同伴してる時だけ入室できる。


パーテーションの上は開いているように見えるが、結界で俺とリペアーゴーレム以外は誰も出入りできないようにしてある。

家族はドアから入れば良いからな。


部屋にはるびのやフォクサ、カント達すらも入れないようにした。

その他の眷属魔獣も入れないようにしてある。

ここにきても意味ないし、作業の邪魔になってしまうので仕方がない処置だろう。


早速アイテムボックスからリペアーゴーレムを3体取り出して、皇太子から奪った14体のDOLLの修復を開始させる。

俺がもらったDOLLの修復技術や経験の全てをリペアーゴーレムは持っているので技術的な問題は何もない。

リペアーゴーレムの魔力の補充は俺から直接送られるのでこちらの心配もない。

リペアーゴーレムは転移魔法も使用可能。

素材集めが自らできるようにリペアーゴーレムを作製したので、ビルドゴーレムと連携してイーデスハリスの西方大陸を転移魔法であちこちと飛び回る事になるだろう。

ビルドゴーレムは鉱石系と木材の素材集めをメインにしている。

その他の植物関係や繊維関係とかをリペアーゴーレムが担当させて手分けをする形になり、大量の素材が俺のアイテムボックスへと送られてくる。


作業部屋を作り終えると早乙女工房に客がやって来た。

冒険者ギルド職員の『ニール・オスキャル』が相談がしたいと突如やって来たみたいだ。

早乙女工房1階受付にいる早乙女工房メイドゴーレムに俺がいる執務室にまで案内させた。


「早乙女さん、忙しいところすみません。冒険者ギルドシーパラ本部の方であまりにも問い合わせが多くて、業務に支障が出始めましたので早乙女さんと相談がしたくて冒険者ギルドから送り込まれました。」

「冒険者ギルドに問い合わせが殺到して業務に支障が出る・・・スパーリングの話ですか?」

「はい。前回見られた方々は『また見たい。次はいつ?』という問い合わせがきてまして、見られなかった方々は『是非とも見たいから、次の開催はいつですか?』っていう次の開催の問い合わせが窓口の方に両方が同時に殺到してまして・・・ついでに前回のスパーリングで見せた早乙女さんの強さに自分も指導をつけてほしいという、冒険者や道場関係者やフリーの格闘家からの問い合わせもいくつかありまして・・・」


流石にニールの言葉を遮って文句を言う。


「ニールには悪いが・・・あれはあくまでもイワノスさんの快気祝いと、ビッタート卿への恩返しがあったからだよ。ついでにリュドミラさんともスパーリングしただけで、俺が毎回参加する理由はないよ。今回のスパーリングをイベントにしたのは冒険者ギルド側の判断なんだから、問い合わせが殺到したからと言って俺に話を持ってこないでほしい。イベントにした責任は冒険者ギルドがとってもらわないとな。今後のイベントは冒険者ギルドがまた開催すれば良いだけで俺には関係ない話。俺に今後の事まで相談されても困るよ。」

「申し訳ない。問い合わせが殺到したからとはいえ、少し業務に影響が出始めた位でいきなり冒険者ギルドの理事会からビッタート卿経由で、早乙女さんに協力要請しろって命令が下されてきて・・・よく分からない事になってきたんだ。だから早乙女さんに『相談してくる』って事で冒険者ギルドを飛び出してきた。」

「はぁ? ちょっとおかしい話だな。」

「今朝のかなり早い時間から冒険者ギルドの理事会の会議が急遽開催されていて、冒険者ギルドシーパラ本部ギルドマスターのビッタート卿が呼び出されて冒険者ギルド理事会会議に出席している。今でも会議は続いて・・・会議が長引いて身動きも取れず話すら出来ない半軟禁状態になってるんだ。だから本音を言うと・・・理事会からの要請を理由にして冒険者ギルド本部から逃げてきたんだ。とりあえず早乙女さんに相談する方が解決できるかもと思って。恥も外聞もなく正直に言わせてもらえれば・・・早乙女さんの知恵を借りたい。」

「うーん・・・受付業務云々(うんぬん)の前の早朝から理事会の会議が開かれていた?」

「夜勤の連中からの話では早朝6時に理事会の議員連中が冒険者ギルドシーパラ本部に押し掛けてきてビッタート卿を急遽呼び出している。何の前触れもなく緊急理事会が開催されたとも聞いている。理事会が全く終わりを見せずに長引いてきて時間経過と共に理事会の理事とやり取りしている副理事が、頻繁に冒険者ギルドシーパラ本部を出入りしている状況が続いているんだ。そこからなぜか受付に問い合わせが殺到し始めたんだよ。」

「冒険者ギルドの理事会の動きがなんかキナ臭いな。俺を何かに利用しようって悪巧みに引きずり込みたいという感じがする。・・・もしかしたらイベント関連で冒険者ギルドに問い合わせが殺到するようにサクラを仕向けて、冒険者ギルド側の業務に支障が出るのを目的に理事会が意図的に情報を流しているかもしれん。それに・・・今回のイベントで入場料金をとっていたって噂をきいてる。冒険者ギルドが儲かったとかじゃないのか?」

「うーん、俺は担当部署の人ではないからはっきりした数字はわからないけど・・・入場料金や入場を許可した屋台の売り上げの一部とか結構な売り上げが出たらしいって噂は俺も聞いてる。」

「金の絡みっぽいな。理事会が暴走してるのか理事達を暴走するように仕組んだヤツが裏にいるのか・・・まだ判断できる材料が少ない。俺と話をするようにニールを指名して命令したのは誰なんだ?」

「冒険者ギルドの理事会から新たに任命された副理事の1人『イーヴォ・デラガルサ』ですね。イーデスハリス中央大陸にある国の冒険者ギルドから、我が国の理事会に引き抜かれて来ている人でして・・・なにかとお金絡みで黒い噂の絶えない人物。噂の元を調べると必ず出てくるのが『冒険者ギルド理事会の金を私的流用している』とかですね。理事会の管轄するお金は冒険者ギルドの管轄下にないし、本格的に調査してないからそこまでしか調査できないけど・・・」

「冒険者ギルドの管轄下にない?」

「冒険者ギルド理事会は正確には冒険者ギルドの『外部組織』もしくは『外郭団体』になるんですよ。冒険者ギルドが暴走した時の権力行使を食い止めるための外部の監視団体と言った方が分かりやすいですかね。」

「冒険者ギルドの監視団体ですか。それならば人事権を持っているとか?」

「冒険者ギルドの人事権まではありませんがどの国においても国の中枢を動かす力・・・我が国では評議会を動かす力は持ってます。なので人事権や捜査権まではなくても評議会を動かして外部から圧力をかけてきますね。ちなみに我が国の冒険者ギルド理事会の人事権は評議会が持ってます。冒険者ギルドシーパラ本部のギルドマスターとサブマスターの人事の認証は評議会にて行われます。でも近年のシーパラ連合国の冒険者ギルドはトップの青木さんやビッタート卿の評議会の評価はかなり高く、評議会からの信任も物凄くブ厚かった・・・むしろ今では暴走しがちな冒険者ギルド理事会を評議会側は信用してなくて、冒険者ギルド理事会の人員や運営費用の予算は評議会によってガリガリと削られてるのが現状です。すでに相当数の資産を手放していてカツカツ状態と聞いてます。」

「存在意義を失くしかけている組織を潰さずに、金や人員を削られていた?」

「評議会は冒険者ギルド理事会の人事権を持っているので、余剰だと思われる人員を削る事があっても『暴走しがちな冒険者ギルドを監視する団体』としての存在そのものは否定してない。けど・・・近年では『冒険者ギルドの理事会理事の方が暴走』しておかしな行動が目立ち、理事会組織が制御できてない部分が多いと、評議会の議題で出てるほどですね。」

「冒険者ギルド理事会の資金の元ってどこなんですか?」

「それが・・・半分ぐらいは寄付金なんです。なので冒険者ギルド理事会は評議会の管轄下にもないようにしてある特殊な組織なんですよ。けど、逆に言えば・・・寄付をしてくれる人や組織の影響を受けやすい、おかしな組織と言えますね。」

「なんて中途半端な組織なんだよ。逆に言えば寄付をして理事会を操っている組織が裏にいて、自分達が儲ける為とか冒険者ギルドと俺との関係を利用しようとして今の騒動を起こしたんじゃね?」

「というと?」

「俺を利用しようとする理由はまだ分からないけど・・・今回のスパーリングは記者会見の流れから、突発的なイベントという形で今回は開いたんだけど、定期開催するつもりなら冒険者を使った格闘をトーナメントなんかを作り・・・闘技場を定期的に使うギャンブルなら儲けられる・・・かもな。表向きは冒険者のスキル向上として冒険者をタダで使い、自分達理事会は裏に回って寄付してくれた組織と共にギャンブルを開催とか?」

「それなら納得ですね。開催経費や責任は全額冒険者ギルドに押し付けて自分達はギャンブルの儲けのみを搾取できますからね。それに・・・ギャンブルを取り扱う組織のトップが理事会の理事に何名かいます。」

「優勝者は俺とスパーリングできるとかのエサで俺をおもいっきり利用するつもりとか・・・大金を寄付した道場関係者もトーナメントに参加できるとかで金も集められるし・・・急に冒険者ギルド理事会がでしゃばってきた説明もつくな。」

「確かに。推測の域は出ませんが色々な説明がついちゃいますね。」

「うーん、なんかよくわからんけど、この問題を放置すると良くないような予感がするんだよ。ニールはラザニードさんに相談して、ラザニードさんから青木さんを動かすようにしてくれ。ビッタート卿が理事会の会議に拘束されていて動けなくても青木さんとラザニードさんが組めば、冒険者ギルドの影の組織を動かせるはず。冒険者ギルド内で俺に関する情報を集めるかのような、変な動きをしてるヤツがいるかもしれん。・・・まだ想像だけの話だから『かもしれない』ばかりだけど・・・俺は理事会の理事の方を探ってみるよ。」

「わかりました。動いてみます。」


相談からだんだんと話がまとまってきた。


俺は冒険者ギルドシーパラ本部の内部調査は出来ないし内部調査のスペシャリストのニールにまかせる。

ニールが直接青木さんに話を持ち込むと冒険者ギルドシーパラ本部を複数でうろちょろしてる副理事にバレて理事会に動きを制限を受ける可能性が否定できないから、今はシーパラにいないラザニードさんから青木さんに迂回すれば動きが掴みにくくなるだろう。


ニールも迂回する理由が思い当たったようで、冒険者ギルドの幹部らしく素早い動きで足音もたてずに早乙女工房を飛び出して冒険者ギルドシーパラ本部には走って戻っていった。


俺もヘルプさんに相談したら、すでにビッタート卿と冒険者ギルドシーパラ本部を影から偵察していた忍から報告を受けていて理事会の理事を探っている最中のようだ。


さすがのヘルプさんだな。


まだ忍を使って情報収集を指示した段階なので集まった情報からは理事会のメンバーの全員が結託してる訳ではないらしい。

てことは理事会そのものは評議会の評価と同じで潰さなくても良いようだな。


これは少し時間がかかりそう。


ヘルプさんの検証では冒険者ギルド理事会の理事のうちギャンブル関係の商会を経営している人物が3名いる。

そのうち1名は今回の理事会に参加していない。

ヘルプさんが忍を使って探らせたが、この人物はギャンブル関係の商会を親から受け継いだが、数多くの商会を経営していてギャンブルの商会はそこそこ儲けが出てるから絶賛放置中らしい。

グループ企業の一つの経営再建に悩まされていて、冒険者ギルド理事会には当分関われないと白紙委任状を出しているようだ。

しかし俺との関係はあり恨みも多少持っていそう。


経営が傾いた商会は俺が潰した悪徳企業の『昇竜商会』に多額の資金を貸し出し焦げ付かせていて、しかも資金だけの繋がりでなく昇竜商会の関係者が商会の経営陣に多数入り込んでいた。

理事が気づいて乗り込んだ時には・・・

『資金繰りはショート寸前』

『経営陣の半分は逮捕』

『関係資料は警備隊が運び出した後』

という悲惨な状況だったみたい。

更にグループ企業の一つが昇竜商会の資金源となっていたので、グループ企業の全てに警備隊から監査が入り・・・そのうちの何名かは昇竜商会のスパイとして逮捕されている。

昇竜商会の関係者が暗躍してたみたい。

こんな悲惨な状況を打開するために、寝る間を惜しんで走り回っているようだ。


まぁ、今回の騒動には関係がないようだけれども俺に多少なりとも恨みを持つ関係者という事で、今後はヘルプさんが忍を張り付かせて情報収集すると報告された。


他の2名の理事は今回の騒動の中心となって騒いでいる。

犯罪を犯した冒険者の奴隷を多数購入して闘技場を経営している商会から派遣されている2名なので、むちゃくちゃ分かりやすいような行動をしてる。

ヘルプさんも何か別の秘密を隠す為に動き回っているのは陽動なのかと疑ったけど、どう調べてもこの2名が中心になっているので裏で暗躍する組織はないと、この2名を中心に捜査してる。


とはいえ捜査を始めたばかりなのでヘルプさんから俺にまで上がってくる最新情報はまだない。


ヘルプさんと相談してると早乙女工房の方で動きがあった。


俺が今朝の朝刊に書かせた『プレッツェ・クルカ王国と係争中のDOLLは本来の持ち主に無料で修復してから返却する』という言葉に対する問い合わせで本来の持ち主が現れた。


クマ型のメイドゴーレムの(そら)が早乙女工房の応接室に案内させた。

彼女はお客様だからな。

まぁ、16件の問い合わせのうち15件は詐欺師だったので警備隊に付き出した。

今きた彼女を魔眼で確認後、間違いなく本当の持ち主だったので修復を終えたDOLLを返却して返却証明書にサインをもらった。


今朝の朝刊の記事は見てなかったが、友人から朝刊を渡されながら教えてもらって、仕事を早引きさせてもらい慌ててここに来ていたみたいで、ホントに返却されるとは夢にも思っても見なかったようで何の準備もしてないとのこと。

超高額商品のDOLL(通常の修復費用のみで12億G)を持ち歩くというのは危険が高く、見て見ぬふりなんて事は出来ないから、早乙女工房のユーロンドに自宅まで送らせる方が良いだろう。

無論DOLLはユーロンドがアイテムボックスで運ばせて家の中に入ってから返却される。


世界的規模の大きな商会で代々続くオーナー一族の正統後継者の孫である彼女は、家に帰れば自衛できる術を持ってるだろうから後は忍が影から見守るだけで大丈夫だろう。


それから・・・何故か今、ドルガーブのモフモフマッサージ天国に乗り込んできてDOLL返却を迫った1人の詐欺師は、自分自身が詐欺で手に入れようとしたDOLLなのに皇太子に横取りされて長期に渡り裁判している悪質なヤツだった。

遠見魔法で観察していると好き勝手な持論を展開させている。

何度も説明してくれるが意味がわからない。

宇宙人と会話してるのかと錯覚しそうな超理論を上から目線で展開してる。


挙げ句の果てに上から目線で『俺のDOLLを修復させてやったんだから金払え』とほざいてきた。

皇太子と良い勝負が出来そうだわ。

おんなじ事をほざいてるし。

つーか裁判で長期間争っていたのは同類が反発しあっていたのかも。

典型的なカスなので門番のように立っていたユーロンドがガン無視して返事もしないで放置していたら、自分自身が無視されている事に気づいたカスが大騒ぎして暴れ始めた。


クイックマッサージを終えて出てきた警備隊隊員が犯罪を犯す前にやんわりと止めようと声をかけたとたん、問答無用とばかりに腰のショートソードを抜き、あろうことか警備隊隊員に斬りかかった。

ユーロンドは警備隊隊員とカスの間に体を入れてカスの剣を身体で受けて剣を掴んで最後通牒。


『貴方を敵と見なし拘束します。』


右手で剣の刃を握り潰し、左手でカスの右手を剣の柄ごと上から握り潰した。

ギャーってかなりの大声で騒いでうるさいので握り潰した手を離して顎にジャブ。

意識を失った事で糸が切れた操り人形の如くグシャっと崩れ落ちるカス。


失神させて(ようや)く静かになったわ。

と、いうより・・・遠見魔法で始めの方から観察していたんだけどずーっとやかましかったしな。

握り潰していたショートソードは警備隊隊員さんに証拠として手渡すユーロンド。


小汚ない格好のカスを警備隊のパトロール用のゴーレム馬車に乗せてから、縄で縛って拘束しておいた。


「いやぁ、ありがとな。マッサージで気を抜いたままになってたわ。咄嗟(とっさ)に対処出来てなくて防御が遅れたからマジでヤバいと思ったよ。ここに来ると楽にバカが釣れるから助かるわ」


ユーロンドの肩をポンポンと叩いてお礼を言って、警備隊隊員さんはゴーレム馬車に乗り込んで立ち去る。


やっぱり油断してたと自覚があったんだな。

全く防御姿勢をとってないからユーロンドも身体を張って庇っている。

ユーロンドの防御力の高さは地点防御ゴーレムとしてイーデスハリスの世界で抜き出てる。

モフモフマッサージ天国に訪れたお客様への防御は最優先だ。


ふー、今夜もゴタゴタが続くのかな?


そろそろ晩御飯の予定でもと念話で嫁達と会話していたら、早乙女工房に来客があったとメイドゴーレムから念話連絡。


「早乙女様、予定を取られてない方がいらっしゃったのですが、いかがされますか?」

「は? DOLL関係じゃないの? 誰?」

「首都シーパラの行政部の幹部の方をはじめとして10名ほどみえられてますが、皆様の仕事も年齢も様々で一概には説明できないのですが。」

「行政部? あそことは揉めてない・・・はずだけど。」

「仕事とは一切関係のないことらしく、プライベートでの相談事なので業務終了後にみえられてるとおっしゃっられてます。」

「まぁ、害もないようだし良しとしますか。入ってもらってくれ。」

「10名でみえられてますのでソファーの準備をお願いいたします。 それでは応接室に案内します。」


俺の横で待機していたメイドゴーレムがソファーセットを追加して応接室のレイアウトを変更した後に、ぞろぞろと応接室に入ってきたのはある一点を除いて何の共通点もなさそうな人達。


仕事もバラバラだ。

鑑識魔法でステータスを確認しているが・・・

医者もいれば大きな商会の秘書や幹部もいる。

職人もいるし漁師もいるし神父もいたりと年齢も職業もまったくと言っていいほど統一感かなかったりする。


唯一の共通点は・・・外観。


『頭頂部に年がら年中木枯らしが吹きまくっている』人達。


こりゃたぶん、『アレ』の相談だわな。


彼らが入ってきて儀礼的な挨拶が終わり、ソファーとお茶を勧めて少し一服。

(はや)る気持ちを抑えきれないかのように彼らが質問してきたのは想像通りだった。


「我々が今夜お伺いさせていただいたのは他でもありません。我々を見た早乙女さんのご想像通りの相談事だと思いますが・・・単刀直入に伺います。早乙女さんはハゲを治すという伝説の魔法『再生(リジェネ)』が実在するというのはご存知ですか?」


まぁ、そらそうだわな。


知ってるし・・・俺は再生魔法は使えるんだよな。

ただ、再生魔法は大きな問題を抱えているから・・・言わないといけないよな。


「再生魔法ですか・・・とりあえず知ってますし、ハゲの治療に再生魔法を使うこと『は』できます。」

「本当ですか? で、では金額はおいくらでしょうか?」

「ちょっと待ってください。再生魔法を使うことは使えますが・・・皆さんは伝説なんかで再生魔法の事を聞いていたとは思うんですが、再生魔法の持つ真実を確認させてください。」

「真実・・・と、言いますと?」

「皆さんのハゲになった原因は体質であったり、ストレス性の原因であったりと、それぞれ違うと思いますが・・・再生魔法で復活した髪の毛は、そもそもの原因が排除されてない限り、またハゲてしまうんですよ。悲しい事実なんですが。」

「・・・え?」

「しかも・・・再生魔法の後は駆け足でハゲる事になります。」

「・・・」

「再生魔法、エクストラヒール、更に最上級魔法『パーフェクトヒール』でもハゲは治せますが直に元に戻ります。しかもこれは呪いの類いではないので呪いの解除魔法も効果はありません。」

「・・・」

「例えば・・・盲目の原因は様々あるのは知ってるとは思いますが、産まれた時から『目玉を持たずに産まれた人』は治療できないのです。目玉がない状態そのものがその人の正常な状態なのですから。・・・これは例え話として間違ってるな・・・原因があってハゲてるんだから原因が完全に排除されてないと・・・」

「でも、それでも!」

「・・・皆さんにお聞きしますが、薄くなっていく頭髪を毎日見て悲しくなかったですか?」

「あっ!」

「そうなんです。既にお気づきの方もおられると思いますが、再生魔法をかけた瞬間に訪れるのは『マックスピーク』なんですよ。それから駆け足で元の姿に戻る事を毎日鏡で見せつけられる事となるんです。申し訳ないのですが、悲しい事にこればかりは変えられない事実なんですよ。」


皆が虚空を見つめてうちひしがれている。

喜びの縁から叩き落とされてしまう形となってしまった。


「騙して何度も魔法を使い金を稼ぐ事はできますけど・・・悲しい気持ちが延々と続く事実は変わりませんので。」

「・・・わかりました。ありがとうございました。」


皆が肩を落として帰っていく。

申し訳ないが俺に出来ることはない。


待ちわびていたプレッツェ・クルカ王国からの使者が訪れたのは、自宅に戻って晩御飯を皆で食べお風呂を済ませてから(しばら)く時が過ぎてからだった。


首都シーパラに常駐しているプレッツェ・クルカ王国の大使が屈強な親衛隊を5名引き連れてやってきた。

高圧的な態度はなく真摯な態度で俺との謁見を望んでいると早乙女工房の受付に待機してる。

受付の横にある椅子は休憩中の芸人さん達が座っているので反対側の通路で全員が立って待機している。


馬車で待機している御者も静かに馬の世話をしていて、今のところは不審なところは何もないようだ。


俺は皆におやすみを言って早乙女工房に戻り、指示を出してメイドゴーレムが応接室へと連れてくる。


部屋の外に待機していたユーロンドに手に持つ武器の槍やロングソードを預けていく親衛隊。

腰に差しているショートソードは案内したメイドゴーレムに渡した。


敵意や害意がない事を徹底的にアピールしている。

前もって大使からの指示があったようで誰もが当たり前のような動きで武器を預けた。


「この度は時間をいただき誠にありがとうございます。プレッツェ・クルカ王国全権大使をしています『ロベール・バルツビュンヘン男爵』にございます。」

「わかりました。知っているとは思いますが私は早乙女真一。まぁ、想像できますけども伺います・・・今日は何の用件で?」

「本国のプレッツェ・クルカ王国からの使者となります。今回はうちの王子が大変ご迷惑をかけたようで失礼しました。」


大使と同時に後ろに控えている親衛隊もきれいに頭を下げた。


・・・皇太子を切り捨てたようだ。

身内である王子の立場は変わらないようだが、公式の使者が王子と言った以上は王位継承権第一位から除外されているな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか久しぶりでーすッ! おかへりなさーいッ!
[一言] 3年ぶりの更新、嬉しいです。
[良い点] 再開されたこと自体が嬉しい。 [一言] 独特の文体、台詞回し。他の作家さまでは味わえません。 いつまでもブクマを外さずお待ちしています。
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