DOLL契約のあれこれっす。
入り口での審査の魔水晶を誤魔化す為にはギルドカードの偽造では無理がある・・・というよりはすぐバレてしまう。
出入口の魔水晶も通行不可という意味で赤く光る。
誰かのステータスカードを奪い取り殺害して無断使用しないと難しい。
それも誰かに少しでも怪しいと警備隊を呼ばれたら一巻の終わり。
買い物とかは奪い取ったステータスカードから新たにどこかのギルドカードを作り、そのカードに金を入れないと使えない。
自分のステータスカードは指名手配された瞬間から使用にロックがかかるとアマテラスから聞いている。
シーパラ連合国に逃げ込むなら金を一切使わずに、どこかの町に入ることもしないような自給自足の生活をする・・・ジャングルで生き抜く事が可能なら生きていくだけならできる。
その場合・・・敵は人間や国家などではなくなり、ジャングルの魔獣や獣になるけど。
この世界には『時効』というものは存在してないので永久に人間生活には戻れなくなるが。
シーパラの場合、今はるびの臣下の魔獣は俺の通達によって魔獣側から人間は襲われなくなった。
なので敵はトロールやゴブリンやオークなどの魔獣、さらにシプラコーンなどの雑食系の魔獣などかな。
俺の部下達は肉食の魔獣しかいないし。
肉食で人間を襲い続けているのはワイバーンぐらい。
まぁ、ワイバーンは人を襲うってより人と一緒にいる馬を襲ってるんだけど。
コイツら皇太子の取り巻き連中にバラバラになって逃げられたりしても面倒なんで拘束しておく。
皇太子も含めて全員をショック魔法で失神させてから部屋に結界をかけて移動できないようにしておいた。
カジノで働いていた人々も同じようにショックの魔法で失神させておいた。
どうせ今日の記事が見出しになって明日の朝刊で売られたら、すぐここにプレッツェ・クルカ王国の関係者が事実確認で踏み込んで来る。
シーパラ連合国とプレッツェ・クルカ王国は親交があり、日本で言う大使館員のような人員も来ているだろう。
それから彼らは皇太子の旗と笏を確認しに俺のところにやって来る・・・早乙女工房の住所を書いた手紙を執務室のテーブルの上に転送魔法で送って乗せておいた。
分かりやすいように手書きの地図も添えておけば良いわな。
俺にどう対応してくるかでプレッツェ・クルカ王国への対応は変わる。
俺にケンカを売ってくるか、謝罪して俺との親交を深めようとしてくるかは・・・まだわからない。
あえて手紙で早乙女工房を指定した理由は・・・ユーロンドが増員されていて守りが硬い場所だし、おにぎり販売の人員や親衛隊、そして数多くのお客さんや絶えることなく存在していて、行政中央区北側にある立地条件から行き交う人の流れが多いなどの・・・目撃者の監視の目が多い場所だから。
職人が多い地区にある早乙女商会シーパラ支店とモフモフ天国や、周囲に道場しかないモフモフマッサージ天国にこられても迷惑だし。
両方ともおにぎり販売は既に軌道に乗っているどころか大繁盛している最中で、おにぎり販売中は行列があるけど、客のいない時間も僅かながらにある。
行き交う人の流れはそこまでない場所だし。
わざわざ手紙や手書きの地図を残したのは相手の行動をこちら側の有利な場所に誘い込むためだったりする。
後は監視の忍を隠れさせておいて皇太子の件は放置だな。
報告会はヘルプさんに任せて俺はそろそろ眠らさせてもらうことにした。
おやすみなさい。
転生してから47日目の5月17日の朝は物凄く天気が良い。
雲1つない晴天・・・今日は暑くなりそうな予感がする朝だな。
今日の予定は朝の列車でドルガーブからシーパラに帰り、その後は職人ギルドで話し合いしてから早乙女工房で待機。
嫁達はシーパラに帰ってからシーパラ駅近くにある冒険者ギルドシーパラ支部で面白そうな依頼がないか探したり、冒険者ギルド職員と早乙女遊撃隊への指名依頼希望で面白そうな依頼がないか相談すると言ってたな。
フォクサが先見隊の交渉人としてシーパラ連合国南部にあるシーパラ平原に住んでいる『ペガサス』と『ユニコーン』に会いに行ってくるみたいで、るびのは家の温泉でのんびりしながら待機してるとの事。
今日は銀大熊のアキューブ16世と狐魔獣の博閃がやってきていて、温泉好きの2頭と自宅の温泉を満喫するそうだ。
俺が職人ギルドに行くのはDOLLの修理依頼について職人ギルド側との意見交換と契約をするため。
その後の早乙女工房待機は昨夜のプレッツェ・クルカ王国関係者がくるかもしれないので待機しながら、DOLLを修理できるリペアーゴーレムの作製と工房にDOLL修理フロアーを作らないとな。
リペアーゴーレムは今のうちに作っておいた方が、後で職人ギルドに登録しに行く手間が省けるな。
アイテムボックス内で作って準備しとく。
中身が違うが見た目はメイドゴーレムと同じで良いから簡単にできる。
起きたら俺の額に顔を乗せて寛いでいるワシントン。
カントは仲良しのクラリーナの抱き枕になってる。
バッキンガムは既に起きて女の子座りしてるカレンの前にお座りして頭を撫でられて気持ち良さげにしてる。
犬獣人のカレンは前世から犬は大好きだって言ってたしな。
俺がワシントンを抱き上げて起き上がると皆ものそのそと起き出した。
ミーは起きてから伸びをすると俺が抱き上げてるワシントンを奪い取りモフモフを堪能してる。
クラリーナもカントの羽根のモフモフを堪能してゴロゴロ。
俺は洗面台に行って顔を洗う。
アイリは起きてるのかまだ寝てるのか微妙なラインでフラフラユラユラしていて、目は半開きなのでまだ20%ぐらいしか目覚めていないだろう。
いつもの朝の風景に3頭のモフモフが加わった。
朝食をどうしようか相談したらカレンがドルガーブには昔から有名なお粥の店があって、無茶苦茶広い空間で大量の人々が多種多様なお粥を食ってる変な場所があるとの事。
絶品なのでおすすめらしい。
それは興味あるな。
全員で着替えてから早乙女商会ドルガーブ支店に転移。
カント達はお留守番。
列車内は退屈らしいので今日は自由行動にさせた。
クロが各自の朝食をアイテムボックスから出して、各自の皿にのせているので後の食事の世話はクロにまかせる。
3頭ともヨークルを探索したいと言っていたので、忍を護衛につかせて自由に遊ばせてあげる。
護衛と言っても3頭に危害を加えられる生物はいないと思うが、攻撃力が洒落にならない3頭なので・・・逆に監視の為に忍をつけた。
やり過ぎないようにさせないとな。
カレンの先導でお粥の専門店へ。
朝の清々しい気持ち良さはすぐにでも終わりそうだ・・・太陽が高くなるに連れて気温がぐんぐんあがっていってる。
既に日陰と日向の気温が違う。
店に到着するとカレンが『凄いところ』って言ってた意味がわかった。
お粥を売っている何十軒もの屋台がぐるりと周囲を取り囲んだ大量のテーブルと椅子が乱雑に並べてあり、屋根は全てを覆い尽くすかのような巨大な天幕が魔力で屋台の上を浮かんでいて、雨や日差しから椅子とテーブルを守っている。
全て種類が異なるお粥が売っていて、同じお粥を売っている屋台はないらしい。
屋台を巡り食べたくなったお粥を選んで購入。
好きな場所で好きなだけ食べて帰る。
朝は大量の人がごったがえすザワザワした空間。
これは・・・カレンの言う通り凄いところとしか表現の仕様がない場所だわな。
俺は無難に大根菜と梅干しが入ったお粥を選び購入。
うん、優しい味だな。
大根菜のシャキシャキ感と梅干しの酸味が食欲をそそり直ぐに完食してしまった。
おかわりは丸テーブルの向かい側でカレンが食べていて旨そうに感じた『チーズリゾット』みたいなお粥を選んだ。
口に入れる前からチーズ臭が凄い・・・けど、コレが結構病みつきになる味だったりする。
カレンも初めてここに来たときに、最初は『うわっ! マジで?』って思ったが食べてみたら旨くてハマってしまったと言ってる。
うん。
これも分かりやすい表現だわ。
お粥を2杯食べて満腹になったがシーパラに帰る列車の出発時間までまだまだ余裕があるので、前の時と同じようにドルガーブ駅に隣接してる市場を見て回る。
さっきはお粥のお祭りってぐらいに様々なお粥が販売されていたが、こっちは『おにぎり祭り』になってるようだ。
ただ、フォレストグリーン商会の『海苔』の増産がまだできていないようで、海苔をまいたおにぎりの種類は少なくてフォレストグリーン商会の販売店でしか売られていない。
だけどチャーハンのおにぎりをチャーシューでサンドしたり高菜で巻いていたり、ドライカレーのおにぎりがナンに入っていたりとか色んな工夫がしてあって面白いし美味しい。
まさしく『おにぎりは万能』だ。
さすがに満腹で今は食べられないのでおにぎりは購入してもアイテムボックスに直行。
時間停止で容量無限のアイテムボックスがあり、お金に困らない生活をしてると買いまくってドンドンと貯まってしまう。
市場で買い物ツアーをしてると偶然に出会ったのは
『グレゴリオ・シーズ・フォレストグリーン』
フォレストグリーン商会のトップだった。
「あれっ、早乙女さんですか? おはようございます。」
「グレゴリオさん、おはようございます。今日はどうしてまた・・・視察ですか?」
「はい。面白くて美味しそうなおにぎりに出会えないかと、今朝はドルガーブの市場をおにぎりを食べながら回っていたんですよ。そういえば早乙女さん、今朝の朝刊に書いてあった『カジノを潰した』ってのは本当にあったんですか?」
「今朝の朝刊に書いてあるカジノの事ですか? それなら・・・」
昨夜の話を簡単に説明した。
周囲が騒がしかったので結構大きな声で話していたら途中から聞き耳を立てている人達が増えていて、知らないうちに周囲の全員が黙って俺の話を聞いていた。
グレゴリオに説明しながらチラッと横を見たら、俺の話し声の邪魔をしないように、指を指したり首を振ったりとゼスチャーのみで商売していたのを見て笑いそうになったけど。
「本当に旗を引き裂いて笏をへし折ったんですか?」
ってデカい声でグレゴリオが驚愕していたので、現物をアイテムボックスから取り出して見せてあげると周囲でどよめきがおこる。
予備の方はなにもしてないけどねって綺麗なままの予備の旗と笏もアイテムボックスから取り出して見せた。
旗も笏もプレッツェ・クルカ王国の皇太子を象徴とするモノで、王国の始まりから大切に保管されてきた代物。
プレッツェ・クルカ王国の歴史を象徴するものであり、代々大切に受け継がれてきたものだからな。
それを俺が持っているだけでヤバいヤツなので、引き裂いてある旗とへし折れてる笏を見た周囲のザワザワはガヤガヤになってる。
予備の方は新品で全く同じ旗と笏。
ただ、こちらの歴史はない。
皇太子を新たに指名された時に王様が毎回新調するしきたりで作られているモノであくまでも『予備』みたい。
この壊れた・・・違うな。
『壊した旗と笏』を俺が持っているってのがトラブルの象徴みたいなもんだし、ガヤガヤどころかワーワーってぐらいに騒がしくなる周囲。
「まぁ、プレッツェ・クルカ王国側が今後、どんな対応をしてくるのかまだ読めないかな。・・・過激な連中は力で奪い返しにやってくるし、慎重派は話し合いで解決を求めてくるだろうし。」
「プレッツェ・クルカ王にまで話がいっていれば、謝罪を含めた話し合いになってくると思います。現在のプレッツェ・クルカ王はそう簡単には動かない腰の重い慎重な人ですから。」
「グレゴリオさんは現プレッツェ・クルカ王に会ったことあるんですか?」
「私がシーズを引き継いだ時に食事しながら歓談した事がありますね。ちょうどうちの商会とプレッツェ・クルカ王国で合同事業を立ち上げた後だったんで、視察がてらにシーパラ連合国にやってきていたんです。」
「もしかしたら俺ってグレゴリオさんの商売の邪魔をしてますか?」
「それは問題ないので大丈夫です。事業は既に終わってますし・・・家庭の問題と国の関係、商売の関係など分けて考えられる人ですから。皇太子の我が儘に手を焼いているという噂は聞いたことありますが、それを外交問題に持ち込むとは考えられないですね。」
「とはいえ、皇太子を廃人にまで追い込んじゃったからなぁ。」
「そこまでしちゃったんですか?」
「今後の禍根を絶つつもりで・・・皇太子が人生をかけて収集していたDOLLを全部奪い取りました。」
「じゃあ、早乙女さんがDOLLを修復できるという噂は本当なんですか? 実は祖母が大切にしていたDOLLがあるんですけど私が小さい時に壊れてしまいまして・・・」
「はい。すぐにでも直せますよ。まぁ。それなりの金額はいただきますけどね。」
「本当ですか? もし良ければ今からお願いできますか?」
「グレゴリオさんなら良いですよ。」
まだ列車の出発時間まで1時間以上もあるし、フォレストグリーンとの関係は良好なので依頼を受ける事にする。
グレゴリオが小さい時に祖母が大切にしていたDOLLが停止してしまったようだ。
しかもまだ祖母は健在らしい。
祖母にはエルフの血が混じっていて、100をゆうに越えているが全然見えないほどらしい。
そんな雑談しながら皆でゾロゾロ歩いてグレゴリオの家に向かう。
祖母に話を通す為にグレゴリオの秘書が自宅に走って行った。
さすがにシーズの家の本宅・・・門からして巨大。
これでもシーズの中では1番小さいと聞いて流石に驚いた。
確かに檀ノ浦家、ユマキ家、メンドーサ家などの本宅と比べると小さいけど・・・
庭に植えられている植木は果物が多いな。
グレゴリオから説明を受けたが、フォレストグリーン商会の本業は『食品加工と販売』らしい。
なので様々な漬物とかも入るし海苔や昆布、梅干しやラッキョウなんかも含まれる。
フォレストグリーンの初代が食品加工のスペシャリストらしく、様々な手書きのレシピが残されているとの事だ。
試行錯誤した経緯も残っているようで、話を聞いているだけで面白いな。
その初代の趣味が果物の品種改良で、まだシーパラと線路が繋がる前のドルガーブに広大な土地を購入して果物の植木を植えまくったそうだ。
それにシーパラ連合国の最北の街『エクステンド』とドルガーブを結ぶ寝台列車の路線を作ったのは、エクステンドの鉱山を多数所有するガルディア商会とフォレストグリーン商会が中心となって、まだシーパラ連合国になる前の『シーパラ皇国』の時に敷設する皇族への根回しが成功して路線が作られた。
寝台列車の路線沿いが果物の一大産地となったのは、海沿いの温暖な気候に目をつけた初代が線路を通して人の流れを作り、駅と町を作って町周辺に苗木を植えまくったのがキッカケらしい。
趣味というか執念というか・・・凄いな。
母屋にたどり着くと玄関までグレゴリオの祖母『フランカ・フォレストグリーン』が出迎えてくれた。
俺がDOLLの修復にきたとの連絡を秘書から聞いて待ちきれなかったみたい。
クォーターエルフなので25%のエルフの血が入っている、そして100歳を越していると聞いていたが、エルフの血が強く出ているようで15歳の俺とそれほど変わらないようにしか見えない容姿。
パッと見ただけだと・・・グレゴリオの娘にしか見えないわ。
挨拶を済ますと『さぁさぁ、どうぞどうぞ』と手を引っ張りかねない勢いで居間へと先導するフランカ。
居間には既に手押し台車に乗せられたDOLLが準備してある。
檀ノ浦家にあったDOLLとはかなりタイプが違うDOLL。
フランカの祖先から伝えられたDOLLでエルフの国で作られていたタイプだな。
服を脱がせて耳掻きで胸部を開くと、驚くことに内部も木製だった。
流石エルフ謹製だな。
幾つかの固定化魔法でかろうじて維持できていたが、ギリギリ限界を越えて・・・壊れる寸前となってる。
関節部分など、あちこちガタがきている。
鑑識魔法で停止した原因を探るとデータ維持の為に自ら停止させているな。
檀ノ浦家のモントレゾールと同じだ。
魔力が枯渇している魔結晶に魔力を補充してから、内部の補強と劣化箇所の修復。
魔力を自力で集められるように魔石と魔結晶を追加。
DOLL本体も劣化が激しかったので木材を使って修復してから更に補強。
ついでに機能もアップデートしたので会話機能は向上している。
木製なので表面にオリハルコンでコーティングするだけでなく、少し圧力をかけて内部にまで浸透させて補強したので何百年も持つだろう。
手足の関節部分は結構奥まで浸透させたので、子供が雑に扱っても壊れないようになった。
再起動させると会話し始めるDOLL。
「クリスセンシアE再起動いたしました。マスター、修復をありがとうございます。」
「クリスセンシア? あなたの名前はクリスセンシアっていうの?」
「そうですよ、フランカ。お久しぶりですね。私の名前はあってないようなもの。フランカは以前のようにクーちゃんと呼んでね。」
「クーちゃん!!!」
我慢出来なかったのだろう。
泣きながらクリスセンシアを抱き締めるフランカ。
抱き締めながら、うぇーんって声をあげて泣いてる様は子供に戻っているんだろうな。
泣いてるフランカを居間に残して俺とグレゴリオは、グレゴリオの書斎に移動した。
童心に戻って泣いているフランカには申し訳ないが金の話があるからね。
費用は檀ノ浦家のモントレゾールの修理費と同じ金額の12億Gと決まってる。
契約書を作製しながらグレゴリオと雑談する。
俺は今日の夕方にでも職人ギルドシーパラ本部に行って、DOLLの修復依頼を受ける手続きをしてくると説明。
「なるほど。では私とは職人ギルドと正式な契約を結ぶ前の個人契約って形になってるんですね。」
「はい、そうなんです。ホントはDOLLの修理はやりたくないってのが本音なんです。俺はDOLLマニアじゃないですし。知り合いに頼まれたってのは別にして。」
「早乙女さんと仲良くなってて良かったです。」
「ですね。檀ノ浦さんの場合もラシェルさんが俺の知り合いの親戚だったんで受けた事ですし。」
「噂で聞きましたよ。檀ノ浦さんの知り合い・・・フィアルカート防具店のガルパシア・ウルスさんですよね?」
「はい。ご存知なんですか? 俺は見た目だけで『おやっさん』なんて呼んでますけど。」
「あの方の場合は、防具職人ってのはほとんどオマケで・・・ドワーフの英雄『巌の守護神』としての方が名が通ってますからね。戦場の最前線で戦い続け勲章をもらった式典当日の深夜におきた、イーデスハリス中央大陸にあるドワーフ地下王国の皇太子妃誘拐事件で、エルフの誘拐犯グループから皇太子妃と王子ごと無傷で救いだした英雄ですし。」
「噂は俺も聞いてます。見た目はただの頑固親父っぽくて、おやっさんとしか言いようがない風貌ですけどね。」
「頑固親父・・・ププッ。わかります。確かにおやっさんってしか言いようがない風貌ですよね。」
などと雑談して笑っていたら感情爆発が収まったフランカが書斎にやってきて、修理費は自分のポケットマネーから出すと言ってて・・・契約書を書き直す事になった。
書き終えると契約書を3人それぞれが所有して保管。
別れの挨拶を済ませると、居間に待たせてる嫁達と共にドルガーブ駅に戻る。
そろそろ列車の出発時間だ。
蒸気機関車の旅は快適で気持ち良さは格別なんだが、事件も事故もなくすんなりシーパラに到着。
天気が良すぎて少しポカポカしていて全員でうとうととまどろんでいた。
なので昼食時以外は少しだけ雑談していたが、ほとんどは寝てた旅だったりする。
シーパラ駅に到着後は嫁達と別れる。
嫁達は近所にある冒険者ギルドシーパラ支部へ。
俺は早乙女工房にホップボードに乗り直行した。
昨日まで早乙女工房の周辺でウロウロしていた道場関係者のバカどもはいなくなっていた。
何度か早乙女工房に侵入してこようとしてユーロンドに見つかり叩きのめされるってのを繰り返していた。
おにぎり購入するために並んでいたお客さんの暇を潰す為のアクション演劇の定期公演みたいな形になってたみたいだが、流石にチンピラ役の道場関係者がいなくなって定期公演は終了してしまった。
しかし替わりって訳ではないが、路上パフォーマーが何人かきていてゴーレム馬車駐車場で大道芸をやってチップを稼いでいる。
ここなら深夜までお客さんが絶えずいるし、ユーロンドが警戒してるので酔っぱらいや暴漢は取り除いてくれる。
突然の雨などの被害もなく安心してパフォーマンスできるから許可してくれませんか? って今朝大道芸人ギルドから依頼があった。
もちろん喜んで許可。
俺が早乙女工房に戻ってきたので、待たせていた大道芸人ギルドの職員と正式な契約をかわした。
ついでにおにぎり販売員達や護衛の親衛隊の人達と同じ様に、早乙女工房一階受付横のソファーやテーブルが並んでる場所で休憩できるようにも許可した。
流石に大道芸人達は契約金をもらっている訳ではないのでドリンクは有料とさせてもらったが、有料の方が気兼ねなく休憩できるので好評みたい。
彼らとも軽く挨拶をかわした後、俺は早乙女工房の三階の改造に取りかかる。
・・・その前に職人ギルドに用があったのを忘れてたわ。
早乙女工房の三階にやってきたが、そのままUターンをしてホップボードに乗って職人ギルドに。
職人ギルドに到着して敷地入り口にある受付で職人ギルドカードを提示すると、警備員詰所に待機していた職員が走ってきて会議室にすぐに通される。
今朝の朝刊に『早乙女氏は知り合いは別として、職人ギルド経由のみでDOLL修復依頼を受け付けると表明している』と記載されてるからな。
職人ギルド側からすれば、今朝から多数の修復依頼の連絡を受けていて、俺がくるのを今か今かと待ち構えていたんだろう。
俺と契約をかわさないと依頼者と話し合いもできないし。
昨夜のうちに今日の昼過ぎにドルガーブから帰ってきた後、正式な契約をかわしに伺いますという手紙を早乙女工房専属メイドゴーレムに運ばせているのでこんな対応になったんだろう。
DOLLの新作販売ではなく修復受付のみなので、DOLLの設計図は提出する必要はない。
一口にDOLLと言っても様々なタイプが存在し、先程修復したクリスセンシアみたいに木製のDOLLもあるからな。
まぁ、人形を作るのは職人でなくても作れる。
会話する機能を持たせる事が今の技術ではできないというだけ。
ソフトの部分は蓄積されたデータを積み重ねる事で成り立つから、長い時間を掛ければ作れるはずなんだが・・・権力者が行ったDOLL職人連続暗殺事件が、イーデスハリスの世界中で多発して職人ごと消えた技術になってしまった。
しかも技術を持てば将来暗殺される危険があるとの言い伝えがあれば誰も目指さないのも当然だろう。
俺と職人ギルド側との契約で修復費用は12億Gと確定してる。
職人ギルド側の儲けは依頼手数料を依頼者から別個でもらうことにしてもらった。
俺から職人ギルド側に手数料支払いはしない。
職人ギルド側の依頼手数料は自由に金額設定してもらう。
依頼者と俺は一切接触しないと契約書に明記させた。
依頼者との金額折衝は職人ギルド側で行う。
修復の順番は職人ギルドが決定する権利を持つので
特別料金などを設定すれば儲けは多くなるが・・・職人ギルド職員の命の危険性は高まると忠告しておいた。
権力者は自分が優先されて当たり前。
優先しない相手には力で言うことをきかせる・・・そういう類いの考えを持つ人達が多い。
なので明確な割り込みルールを初めに作っておかないと、後に苦労することになるとも忠告した。
などと契約をかわす前に決めるルールは多い。
それに契約をかわした後で問題がおきた時は職人ギルドと協議するということも契約書に明記。
会議室に途中でコーヒーやクッキーを運んでもらうぐらい長い時間をかけて協議する。
まぁ、正直に言うと・・・DOLL修復なんて材料さえあればものの数分で終わる作業。
それなのに俺は自分で修復しないでリペアーゴーレムに全てをまかせる予定だし。
ゴーレムなので修復が俺より時間がかかることになるが俺の手間は省ける。
つーか、DOLLばかりイジってたら頭がおかしくなりそうだからしょうがない。
世界規模の職人ギルドを間に入れた最大の理由は職人ギルドが持つ全世界共有のアイテムボックスの存在だな。
これでDOLLを職人ギルドアイテムボックスに入れれば、どこの国の職人ギルド支部からでも取り出せる。
つまり、アイテムボックスに入れられるモノであればいちいち運ばないで済むので職人ギルドを利用する事に決めた。
他国の王族とか、会いたいとも思わないし。
わざわざ待ってる理由もないし。
自分のアイテムボックス内で作っておいたリペアーゴーレムを職人ギルドで登録。
3体のリペアーゴーレム。
名前はそのまま早乙女工房リペアーゴーレム1号から3号。
もちろんリペアーっていう部分は名前に入れてない。
ゴーレムがDOLLを修理するなんて説明するのも面倒だし。
だいたい話はまとまったので契約書をかわして、リペアーゴーレムたちをアイテムボックスに戻して職人ギルドを後にする。
契約書を書いてる途中の雑談で、家の家族が乗り回しているホップボードについて販売しないのかと問われたが、あれは俺と家族の遊び道具なんで売る気は全くないと言っておいた。
これも材料さえあればすぐに作れるけど・・・これを販売したらユマキ商会から売り出される早乙女式ゴーレム馬車の売り上げが少しは落ちるかもな。
ただ単に面倒くさいだけなんだけど。
こっちの職人ギルドへの問い合わせも凄いことになってるようだ。
帰りは裏口からこっそり帰ることになった。
俺が職人ギルドに入っていったとのことで、DOLL修復依頼の依頼者の代理人が職人ギルドの受付に殺到していて、正面玄関から出ていくのは危険と職人ギルド側が判断した。
大変申し訳ないのですがと物凄く恐縮して言われたのだが、俺は職人ギルドシーパラ本部内の普段通行しない秘密の場所を移動できるのでむしろ楽しめた。
移動中に職人ギルドに出入りするのを秘匿しているVIPはこの通路を使って移動していると説明された。
地下通路を使って離れた雑居ビル一階の喫茶店に出てきたので流石に驚いた。
職人ギルドに用があるけど表から入れない場合はこちらの喫茶店の店員にメモ書きを渡してくれれば通行できるようになりますのでと説明された。
なるほどね。
新製品登録とかライバル企業を出し抜く時とか、結構こういう裏口は重宝されているみたい。
この喫茶店は衝立がかなり大きくて音を吸収する魔法が込められているタイプなので、秘密の会議などで使えるので元々と有名らしいとヘルプさんが教えてくれた。