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色々製作して色々指導して色々話をしたっす。

「小太刀は刃の部分を昆虫魔獣の甲殻に変更した。鞘も同じように昆虫魔獣の甲殻にしてある。こいつの特徴は・・・」


小太刀の刃の先端を指先で持ってビヨンビヨンと曲げる。


「昆虫魔獣の甲殻の特性だな。柔軟性は金属を遥かに凌駕してるんだ。」

「うおっ! これメチャメチャ柔らかいですよ。」

「これが特徴。更に・・・『バキッ』」

「「「ああ!」」」


小太刀の刃の先端を指先で摘まんだまま横に捻ると簡単に刃先が分離して割れた。


「鞘には再生の魔法が仕込まれているから鞘に納刀すれぱ一瞬で元通りになるよ。」


納刀してからまた出すと元通りの小太刀になっているのでトリーを含めた周囲の人達もビックリしてる。

しかも指に残っている破片の説明もする。


「敵に突き刺してから捻ると刃が簡単に割れるような作りにしてある。んでもって自分は鞘に納刀してまた攻撃ができる。けど、敵の体内には割れた刃先の破片が残っている・・・体内に残された破片が敵の動きを阻害することになるという・・・結構エグイ武器になってるんだ。しかも外骨格の昆虫魔獣には甲殻の隙間から突き刺して(えぐ)って破片を残しつつ納刀してまた攻撃をって繰り返す事ができる仕様にした。」

「へぇー」

「外骨格の昆虫魔獣に甲殻の隙間に金属の武器を突き刺した後に、魔獣が痛みから甲殻を捻られて武器を動かせないように固定されてしまい、敵の攻撃を避ける為に武器を手放さざるを得ない状況って意外と多いんだ。甲殻が硬い大型昆虫魔獣との戦闘あるあるなんだけど。」

「それは知りませんでした。」


トリーは知らなかったみたいだが、周囲の冒険者や警備隊の中でもベテランさん達がウンウン頷いてる。


「一撃で殺せて終われるんなら苦労はないけど、巨大な昆虫魔獣の場合なんかには更に甲殻が固すぎるヤツらもいてな・・・よほどの切れ味を持つ武器ならまだしも、通常の武器では隙間から攻撃せざるを得ない。そんな時に甲殻で武器を固定されると致命的な攻撃を食らいやすくなるし、何より連続攻撃を主とする小太刀の二刀流では次々と攻撃をすることができなくなってしまうからな。そんな時に即時再生可能な場合に限っていえば、壊れやすさってのは逆に利点になりうる・・・っていう考え方もあるんだよ。」

「うーん、初めて聞きましたが・・・なるほど。納得できる話ですね。」

「攻撃中に敵に破片を残し攻撃をし続けるってのがこの武器を作った1番の理由。二刀流だと一撃の重さは期待できないし、スピードと手数で勝負するにしても、ほんの少しでも高い攻撃力を持たせられないかな・・・なんてまぁ、悩んで作った武器だよ。これが最終形態とまで言えないのが悩みどころだ。まだまだこの武器には発展できる余地が残ってる。」

「難しいもんですね。でも、俺としては無茶苦茶軽くなったこの武器を早く振り回してみたいです。」


ここまで喜んでもらうと作った甲斐があるな。

嬉しくなってくる。

振り回してみたいと言いながらホントに振り回そうとしたので町中ではやめてくれと頼み、今から警備隊教育センターの訓練施設に向かう事となった。

なぜか俺も一緒に来てほしいと言われた。

実際に体の動きを見て武器や防具の微調整をしたいのでついていく。

寄り道しまくっていたワシントンもようやく俺のところに戻ってきて一緒に歩いていく。


再生の魔法を仕込んだ鞘はこのイーデスハリスの世界では、結構ポピュラーなモノなんだけど・・・魔石が1個とクズ魔結晶1個が必要になるため、そこそこの値段はするので中級品以上の値段はかかる。

双剣などの二刀流には必須な鞘だし。

ただ・・・昆虫魔獣の甲殻の有効利用先としてマイアートンでは弓でも作った方が良いのかもな。


トリーの後ろをついて歩きながらアイテムボックス内で実験してみた。

短弓と長弓。

昆虫魔獣の甲殻を薄くして何枚も張り付けて弓の形にする。

柔軟性は高い昆虫魔獣の甲殻だけど復元力を高める為に、金属の中では抜群の柔軟性と復元力をもつMS(ミスリル・シープ)鋼を1番外側に薄く貼り付けた。

麻糸を寄り合わせている弦を張ると一応完成した。

これなら素材的にもマイアートンでも作れるだろう。

技術的にはMS鋼を使っているので弓師上級者でないと無理があるが。

シプラコーンの角の安定供給だけがカギになる。

なんなら古代人と狐魔獣との契約のように、マイアートン住民と狐魔獣と契約出来るように山の神『ヤマガミ』との間を取り持ってもらえるように、アマテラスにお願いしてあげてもいいしな。

・・・アマテラスには貸しもあるからイヤとは言わせない。

ヤマガミがOKするかは別問題だけど。


などとアイテムボックス内で弓製作をしながらトリーについて歩いていくと、マイアートンの北側外壁の場所にある警備隊教育センターの訓練施設に到着。

そこまで広くないが1年程の教育実習が出来るように作られた施設で、座学や警備訓練等が出来るように作られているんだろう。

宿泊場所は外壁の反対側、南側にあって不便だけど移動時に住民と触れ合えるように設定されたんだとトリーから説明を受けた。


警備隊教育センターの入り口で警備隊員に冒険者ギルドSランクカードを見せて施設に入れる許可証をもらう。

後ろにいるワシントンも首から下げた従魔獣証明証を警備隊員が確認。

従魔獣証明証のチェーンにリボンを巻いた。

俺は許可証を首から下げて施設内に入るとトリーは真っ直ぐ訓練施設へ。

俺は歩きながら施設内を探査魔法で探りとり、MAPにデータを入れた。

お、施設は地下もあるんだな。

これは外から見た以上にかなり広い。

地下には緊急物資等が蓄えられていて一部の食料等が運び出されている最中だ。


大量の昆虫魔獣に襲われたマイアートンは今が緊急事態だし。


他の都市や国からの緊急応援物資が届くまでこの量があればなんとかなるな。

問題は大被害を受けた葉物野菜だけなので、こっちが他の都市から優先的に送られてくるだろう。

アイテムボックスのように時間停止機能が付いた保管庫なら生野菜も蓄えられていていただろうが、この保管庫は普通に仕切られただけの部屋なので穀物等が主に置いてあるみたい。


訓練施設に到着するといくつかの訓練生が模擬試合を行っていた。

空いている場所に行きトリーが小太刀二刀流を振り回し始めた。

5分ほど見てて防具の微調整をする。

小太刀の重量バランスもトリーの好みに合わせてあげた。

ついでに気になる点がいくつかあったのでトリーに指導もする。

俺は両手に黒扇子と白扇子を持って体重移動や手首や肘の返し方等を主に指導すると、トリーの動きが格段に良くなってきた。

サウロさんが小太刀二刀流に変更させたのは正解だわ。


確かにトリーはこのスキルの才能がある。


警備隊制式革鎧の腕の部分を早乙女特製の籠手に変更したので、拳の先にある刃も使った戦法と昆虫魔獣の甲殻の隙間に刺してから捻る技術、更に刃を折った後に納刀してからの居合い抜きの技も伝授した。

ついでに対人戦闘用にフェイントの効果的な使い方も教えているとトリーは更にレベルアップ。

俺との模擬戦闘でも格段に良くなった動きで攻撃を繰り返してくる。

俺の教師スキルの指導効果上昇の部分がかなりプラスになってるようだ。


トリーに疲れが見え始めたので訓練はひとまず終了。

よく冷えたミックスジュースを大きめのグラスに入れて渡すと、トリーは座り込みながらゴクゴクと喉をならして半分ほど一気に飲んだ。


俺は30mほど離れた場所に的を立てて、さっきアイテムボックスで作った短弓と長弓の実験の続き。


簡易的に作ったオーガ鋼の矢を使って的に射る。

威力はなかなかだ・・・早乙女剛弓にはさすがに及ばないが、一般的な弓の中では上位になるだろう。

中の上って弓だな。

この弓の利点は・・・昆虫魔獣の甲殻の特性で『かなり軽い』だろうな。

竹製の弓とそこまで変わらない重さなのに金属製の弓の威力があると言っても良いだろう。

この軽さは『女性用』とも言えるし、女性でもサブの武器として背中に背負って持ち歩けるほどの軽さ。

だけど矢がな・・・こっちの重さは普通なので、アイテムボックス持ちの予備武器? ってなるな。

軽量の弓なので長弓でも取り回しやすく、小人族などの小柄な人も使いやすい装備になるだろう。

癖のない放物線を描く弓なので初級者でも扱いやすい弓だな。


なんて事を考えながら弓を射続ける。


初めに射た場所が的の左の斜め上の端っこだったので、横に座っているトリーが『あれ?』って顔をしてた。

次に射た場所が右の斜め下。

その次が左の斜め下、右の斜め上。

5本目からは初めに射た場所からほんの少しずつずらして、射た矢で的にバッテンを描いていくと周囲人達も俺の意図を気付き『おおー!』と歓声があがる。


バランスや威力は中級としてはかなり良いな。

MS鋼を使用しているだけ価格は少し上がる。

技術料金が入ってきてしまうし、MS鋼そのものも高価な素材になってるからな。

昆虫魔獣の甲殻はマイアートンの特産品なので少しは抑えられるが、コストパフォーマンスはそこそこってぐらいになっちゃうだろう。


弦の材料となる麻はシグチスの特産品なので船で運べるからなんとかなる。

問題はオーガ鋼ぐらいか?


だけどヨークルはオーガ鋼の産地・・・鋼はシーパラ連合国の最北端の街『エクステンド』の鉱山から産出された鉄をエクステンドで鋼に精製して船で運んでいるが、オーガの角はヨークル近郊のダンジョン『アゼットダンジョン』からの特産品なので、オーガ鋼を加工する職人はヨークルに数多くいて、ヨークルで産出したオーガ鋼はイーデスハリスの世界中に輸出されている・・・シーパラ連合国の主要輸出品目の一つだ。

弓師上級職人の数をある程度揃えられるなら、弓の一大生産地になれるな。


試射を終えて的まで歩く。

矢が的に刺さった深さは思っていたよりも深いし、一定の深さで揃っているのはポイントが高いな。

ってことは貫通力が高く威力は意外と良いようだ。

上級の下ぐらいはいけるかも。

カマキリ魔獣やバッタ魔獣の頭部なら撃ち抜けそうだ。

アリ魔獣やハチ魔獣など、頭部がかなり硬い魔獣を撃ち抜くのは無理があるけど、比較的硬くない昆虫魔獣なら撃ち抜けるだろう。

硬い甲殻を持つ昆虫魔獣は口内など柔らかい内部を狙わないと敵にダメージは与えられないだろう。


引き抜いた矢を一本一本調べてみたが、矢が損傷するまでの威力はなかったようだ。


検証が終わると訓練を終えて休憩していた訓練生達が俺の弓を興味深そうにみていたので練習に使って良いよと、警備隊教育センターに短弓と長弓を5セットづつと矢を500本ほど寄付させてもらった。

アーチャーの講師には弓の作製レシピを渡す。

これがあれば弓の上級職人と材料さえあればいつでも作れるだろう。

別の講師が隣の倉庫から魔獣を催した的をいくつか運んできて弓の練習が始まった。

俺は休憩を終えたトリーにまた追加で指導をする。


俺は後から聞かされる話だか・・・

俺が寄付した弓はこれから『早乙女(さおとめ)甲殻弓(こうかくきゅう)』と銘うたれて、マイアートンの弓職人が製作出来るようになると一人立ちできると言われる・・・上級弓職人になるための試練の弓と言われるようになる。


30分ほど指導をするとトリーの息があがり、座り込んでしまった。

黒扇子と白扇子の二本をアイテムボックスに片付けて指導を終了した。

トリーはとりあえずの課題として・・・まだまだスタミナ不足だな。

毎朝のトレーニングにジョギングを加えるように言っておいた。

今度、時間を作ってまた指導をしてあげると言うと、バテたトリーは座り込んだまま次までにはスタミナを上げておくと約束してくれた。

小太刀二刀流は指導してくれる人がいなくて、サウロさんが方々(ほうぼう)に探していたが見つからなくて、今は双剣の講師が基本的な指導しかできなくて困っていたようだ。

バテて仰向けに寝っ転がったトリーに、訓練メニューを紙に書いて渡す。

礼を言うトリーを訓練施設に残して俺は対策本部に帰ることにした。

俺がトリーにつける指導を横で見ていた講師に、エミール校長と桂浜蔵人臨時町長とサウロさんに渡しておいてくれと昆虫魔獣の甲殻で作った護身用のナイフを3本渡す。


訓練施設の隅っこでゴロゴロしていたワシントンも後についてくるが、あっちこっちと寄り道してるので俺の後ろにはいない。


出入り口で俺は首から下げた許可証とワシントンの首のチェーンに巻かれたリボンを返却して警備隊教育センターを後にした。


対策本部に戻るとマイアートンダンジョンに案内した選抜メンバーは誰も戻ってなくて、聖騎士団応援部隊の隊長『フリッツ・ギャロフスカヤ』と部下1名しかいなかった。

フリッツにも早乙女甲殻弓の短弓と長弓を3セットづつと矢を200本ほどを寄付させてもらった。

さらに聖騎士団にはシプラコーンの角を10本ほど追加で寄付。

弓製作の上級職人を集めるためのエサとしてシプラコーンの角の現物は必要になるからな。


俺が作った弓にフリッツは子供みたいに目を輝かせていじってる。

ついでに護身用のナイフをフリッツにも1本渡して製作するためのレシピもついでに渡した。


フリッツに帰る挨拶をして部屋を後にした。


今度は建物の外でお座りをして待っていたワシントンを子供達が取り囲みモフモフしている。

3・4歳の子供達なのでワシントンも少し微妙な顔をしてる。

このぐらいの年の子供って遠慮とかまったくしないからな。

3人がかりでワシャワシャしてる。

これはイカンな。

俺が正しいモフモフの仕方を子供達に伝授しないとダメだ。

ワシントンの真っ正面に屈み・・・ワシントンの頭を毛並みにそって撫でる。

ワシントンが気持ち良さそうな顔をしはじめたので、子供達が俺を真似して丁寧に撫ではじめた。

よしよし。

ワシントンも今は気持ち良さそうに目を細めてる。

モフモフ伝授もできたな。

さぁ帰ろ。


マイアートンの教会の礼拝堂に入っていくと、俺だけが真っ白な世界に直行。


「アマテラスありがとうな。マイアートンに残していた憂いがこれで終わったよ。」

『いえいえ、どういたしまして。』


御礼を言った後にさっき考えていたシプラコーンの角の安定供給についてアマテラスに相談してみた。


「・・・という事でシプラコーンの角をマイアートンは特別にヤマガミ様と契約してもらいたいんだけど、アマテラスからお願いしてもらえるかな?」

『それならちょうど良かったよ。』

「ちょうど良かった?」

『ヤマガミさんから真一お兄ちゃんに直接会って御礼が言いたいって言われてるんだ。』

「何の御礼なのかよくわからないけど、直接会えるのなら会いたいよ。」


アマテラスが手を頭の上にしてパンパンと2回叩くと、パッと光ったと思ったら髭もじゃのゴツいオッサンが出てきた。

マンガでよく見る『張飛翼徳』そのまま・・・しかもボロい半ズボンと山賊みたいなタヌキ毛皮のベストまで着てる・・・もはやマンガに出てくる山賊でしか見たことないコーディネートやな。

これが山の神って冗談にしか思えないレベルだ。


《君が早乙女どのか。今回は狐魔獣達に肉をもたらしてくれてありがとうな。儂がどうしても許せないから狐魔獣達に我慢を強いていて、申し訳なく思ってたんだよ・・・だけど許せないものは許せないし。早乙女どののお陰で狐魔獣達にも笑顔が戻って儂も嬉しいわ。》

「まぁ、狐魔獣達に肉をもたらしたのはフォクサとるびのだから俺に御礼をするよりも・・・」

《るびの君とフォクサちゃんにはシーパラ中央山脈にいるときに直接御礼を言わせてもらったよ。早乙女どのとはすれ違いでなかなか会えなくてな。アマテラスに合わせてくれって前からお願いしてたんだ。》

「それはそれは・・・では、ついでに俺からもお願いさせてもらっても良いですか?」

《儂にできることなら何でも言ってくれ。》


シプラコーンの角の安定供給についてお願いさせてもらった。


《それぐらいなら、儂には容易いことだな。うーん・・・アマテラスの協力も必要になってくるな。》


ヤマガミの提案でまずはマイアートンで弓師をある程度揃えて生産体制が整えられてきたなら、アマテラスから神託を下してヤマガミ専用の(ほこら)を作らせる。

そこにヤマガミの大好きなお酒何種類かとオーク肉などの魔獣の骨付き肉を樽に積めてお供えすれば、ヤマガミの力でシプラコーンの角と毛皮を交換してくれるとの事だ。


これなら狐魔獣が出入りするわけではないから絶対に被害がでないし、狐魔獣ダンジョンの倉庫に余ってるシプラコーンの角と毛皮をヤマガミの転送魔法で交換するだけなのでなんの苦労もない。

コレはヤマガミとマイアートンとの契約になるので、ヤマガミは自分の好みの酒とツマミを要求するとの事。

願ってもない提案で安心。

これならマイアートンだけで大丈夫だ。

俺からの御礼で15年物のブランデーを、樽でヤマガミにプレゼントした。

いくつかの酒を試飲してヤマガミが1番気に入ったのがこのブランデーだった。

俺もこれはお気に入りでいくつか樽で購入してある。

酒の趣味がヤマガミと同じだったのがお互いに嬉しくて、がっちり握手を交わして後の事はアマテラスにお願いしてヤマガミは帰っていった。


「アマテラスありがとうな。アマテラスにある貸しはこれでチャラでいいよ。」

『どういたしまして。お役に立てたようでなにより。真一お兄ちゃんに借りは一つしか返せてないよ。もう一つあるから何でも言ってね。』

「わかった。じゃあまたな。」

『うん。真一お兄ちゃんまたきてね。』


俺が光に包まれると教会シーパラ本部の大聖堂にある大礼拝堂に戻った。

すでに掃除の時間は終わっているし、祈りを捧げてる人も誰もいないガラーンとした大礼拝堂は、昨日の記念式典での喧騒が幻だったのかのように静まり返ってる。

さぁ、もう少ししたら昼飯の時間だな。

先ずは早乙女工房、それから自宅に帰る。

ワシントンもマイアートンでは楽しそうだったが、首都シーパラのような大都市は苦手みたい。

大人しく俺の後をついて歩いて寄り道もしない。


ヨークルの自宅周辺は田んぼと畑と倉庫しかなく、人も警備員と農家の人しかいないのんびりした空間なので大好きな場所らしい。

だから早くヨークルに帰りたいんだと。


俺もこののんびりした空間はお気に入りで、この家を買って良かったと思ってる。

自宅の周囲を散歩して歩きながら、時折会う農家の人達と挨拶を交わして一緒に歩いてるワシントンと、のんびりした空間を昼食までの時間を満喫する。



~~~フリッツ・ギャロフスカヤ視点~~~


私は聖騎士団でご自由にお使い下さいと早乙女さんから寄付して頂いたうちの短弓を1つ、職権を使って隊長預りとさせてもらった。

これが素晴らしい弓だというのは一目でわかった。

自分専用の長弓は持ってるので職権乱用して短弓を一時的にとはいえ、自分の武器にしたのは『一目惚れ』したからだ。

薄い板状の昆虫魔獣の甲殻を何十枚と張り合わせて、外側にはMS鋼が貼ってあり・・・白黒のコントラストも美しい。

早乙女さんがクセが全くないので、初級者でも扱いやすい弓ですよと説明してくれていたが、手に持って弦を引くとこの弓の素晴らしさが脳裏に焼き付いて離れなくなってしまったのだ。

弦をピンピンと指先で弾いてるだけでも嬉しくてニヤついてしまう。


隣にいた部下は聖騎士団のみんなに弓と矢を届けに行って、この部屋に今は誰もいないからニヤニヤできる。


そんな幸せな空間を邪魔する者がノックもしないで駆け込んできた。

エミール・アウレッタ校長だ。

私がテーブルに短弓を置くと凄い形相で問い詰められた。


「早乙女さんは?」

「教会に行ってシーパラに戻ると(おっしゃ)ってましたんで、もう帰られたと思いますが。」

「素晴らしい護身用のナイフを頂いてな、素材が昆虫魔獣の甲殻なんで・・・もし良かったらマイアートンの今後の特産品にとお願い出来ないかと相談したくてな・・・」

「それなら素材のレシピと製造法を書いた紙を頂きましたよ。」


早乙女さんに頂いたレシピをエミール校長に渡した。

エミール校長はざっと読んでから呟く。


「・・・そうか。ナイフそのものよりも鞘に仕込んだ再生魔法の方が重要なんだな。」

「そのようですね。私も先ほど見させていただいたんですが、鞘の方が重要という事は知りませんでしたよ。」

「この説明文を読む限り・・・再生魔法を仕込んだ魔石と、魔石の魔力を一瞬で補充するための魔結晶の確保が必要になってくるのか・・・」

「桂浜臨時町長にも動いてもらって、職人を早めに確保する必要がありますね。」

「だな。となると、町の拡張計画はかなり前倒しにしていかないと今のマイアートンの町の規模では身動きがとれなくなりそうだ。」

「そのレシピの裏面にマイアートンの拡張計画の順番も書いてありましたよ。」

「なんだと? ・・・うーん、やはり外壁製作がネックになるみたいだな。職人を大量に確保するためにはシーズの協力が必要不可欠か。外壁を1番初めに手をつけて先ずは土地の確保、港の整備は夏場の暑い時期にするわけか。」


などと今後のマイアートン拡張計画を二人で話し合ってると、もう一人サウロさんが飛び込んできた。


「早乙女さんは? 帰ってしまわれたか?」

「はい。先ほど教会に行ってシーパラに戻ると仰ってましたんで、もう帰られたと思いますよ。」

「そうかぁー、フリッツさんは早乙女さんが作って警備隊に寄付してくれたあの弓を見たか?」

「警備隊にも寄付して頂いたんですか? 我が聖騎士団にも弓矢を寄付して頂きましたよ。ここに短弓がありますよ。」


テーブルの上に置いた短弓を指差すとサウロさんが手に持っていじくり回してから、ガックリと肩を落とした。


「やはり、レシピ通り弓の外側にMS鋼を貼ってあるな。これではマイアートンで製作できない。」

「え? サウロ、どういう事なんだ?」

「エミール校長、MS鋼に必要な素材はミスリル鋼とシプラコーンの角なんです。」

「シプラコーンの角って去年のヤマガミ様を激怒させた大騒動以来品薄が続いているって噂の・・・」

「そうなんですよ・・・」


私は突っ立ってる二人が暗い顔をしてるので目の前にシプラコーンの角を2つ置いた。


「「フリッツさん、どうしてこれを?」」


二人がキレイにハモった。


「早乙女さんが何本か置いていってくれました。これを使ってMS鋼を加工できる職人を今のうちに集めてくださいって指示を受けました。」

「え?」

「シプラコーンの角の安定供給はアマテラス様にお願いしてみるから少し待ってて欲しいとの事です。先ほどアマテラス様にうちの神父が感謝のお祈りを捧げましたところ、ヤマガミ様に特別に頼んであげるから先ずは職人を集めなさいというご神託を受けたと連絡が入ったところです。」

「そいつは凄い。」

「早乙女さんも・・・言い方は悪いですが、このシプラコーンの角を餌にすればMS鋼加工が好きな職人をマイアートンに釣れると・・・今暫くはMS鋼を加工出来なくて困っている職人にとってはマイアートンが天国となるからって。」

「それなら拙者の知り合いがヨークルにおりまして・・・シプラコーンの角がなくて大変困ってる。どこかにないか? って問い合わせの手紙が何通かきてましてな。MS鋼の加工においてひとかどの人物なんで誘いやすい・・・」


マイアートンの町の歴史が劇的に変化しそうですね。

歴史の変化を目の当たりにして町の行政の首脳陣が興奮してます。

何しろ昨日の朝は昆虫魔獣の大氾濫でマイアートンが潰れかかっていたわけですから。

早乙女さん、マイアートンは貴方のおかげで凄い事になりそうです。

私も今夜はアマテラス様と今後のヤマガミ様と素晴らしい弓を作ってくれた早乙女さんに、感謝の祈りを捧げるとしましょう。


~~~フリッツ・ギャロフスカヤ視点 終了~~~



散歩の途中で北の草原から帰って来たカントとバッキンガムがやってきた。

2頭の頭を撫でてあげる。

モフモフが最高だな。

嫁達はクロと一緒に昼食を作ると言ってたとカントが伝言を伝えにきたようだ。

バッキンガムはただたんに俺に会いたくて走ってきた。

カントもバッキンガムもワシントンも通常よりも小さいサイズ・・・バッキンガムとワシントンは中型犬サイズで、カントはトンビぐらいのサイズになって、俺と一緒に散歩を楽しんでる。

散歩といってもカントは俺の頭の上にとまってるが。


完全に変な人だな俺。

農家の人もびっくりして声をあげようとするが、俺だと途中で気づいて手を振ってくる。

手を振り返す俺。

散歩を終えると自宅の隣にある倉庫に庭から歩いていく。

庭の野菜をセバスチャンが世話している。

マリアはるびのの世話に行っているようだ。

無茶苦茶デカい野菜がいくつかあって『うおっ!』っとちょっと引くレベルだわ。

水神の涙のアイテム効果はかなり高くて、1万倍に薄めても倍ぐらいの大きさにまで成長するらしい。

セバスチャンから手渡されたプリっプリに完熟したトマトを生で齧る。

酸味が強い品種だな。

結構酸っぱいわコレ。

セバスチャンによく聞いたらコレはプチトマトらしい。

マジか!!

通りで酸味が少し強いと思ったわ。

普通でも少し大きめと言えるサイズのトマトなのに・・・

カントとワシントンは匂いを少し嗅いだだけで興味を示さなかったが、バッキンガムが匂いを嗅いでから少し嘗めて齧って・・・猛烈な勢いで残りのトマトを完食した。

お気に召したらしい。

トマトはあまり犬には良くないと思ってバッキンガムを精密検査したが・・・別になんともなかった。

まぁ、1日1個だけとバッキンガムに教える。

それでも嬉しそうだ。


自分の大好物を見つけた感動は人も魔獣も同じだわな。

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― 新着の感想 ―
[一言]  虫に痛覚ってあったっけ? 足がもげようが体の半分が潰れようが、動く部位が残っているならうごめき続けそうなもんだけど。
[一言] ワンコあるあるだな(-.-)y-~ 家のワンコもキュウリは見向きもしないが、 トマトは臭いを嗅いでムシャブリつくな(-.-)y-~ こっちが引く勢いで( ノД`)…
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